精神科Q&A

【1803】娘が統合失調症と診断されていますが、そのようには思えません


Q: 20代の会社員の娘のことについてお尋ねします。
現在の会社に就職してすぐから上司にいわれのない差別的な待遇を受け、やめたい、やめたいを繰り返してきましたが、就職氷河期にせっかく大企業に勤めることが出来たのだから勿体ないという気があり、我慢したらきっとよいこともあるよ、とか言って励ましながらやってきました。昨年の秋ついに堪忍袋の緒が切れて、職場で自殺騒ぎを起こしてしまいました。それから休職に入り今年の三月に、いわゆる窓際の部署に転属となり復職しました。
仕事は一日中判子を押したり、余分な書類をシュレッダーに掛けたり、そんな簡単なことばかりで、時には全くすることがないという環境です。本人にはプライドがあり、また同期の人たちがどんどん立派になっていくのに、自分だけ取り残されたような気がして逆に落ち込み、会社に行くのが嫌で嫌でたまらないということです。今でも気分が悪くなっては休憩室で寝たりさせてもらっています。
主治医は、娘が暴れたことと、ほんの少しの期間(もっとも苦しかった昨年の秋ごろ)幻聴があったというだけで「統合失調症」と判断したようで、月一回のフルデカシン注射とジプレキサ5ミリの処方でやってこられました。私は「うつ病」だと会社に提出した診断書に書いてあったので、それを信じて何も疑わず「うつ病」の治療をしてもらっているのだとばかり思っていました。ところが約2ヶ月前フルデカシン注射を半月の間隔で間違えて打たれたのです。先生はミスを認めませんでしたが、明らかに先生のミスです。
それをきっかけに、目が上転する急性ジストニアにかかってしまい、最近は遅発性ジスキネジアも発症していることも解りました。これはおかしいと色々調べていくうちに、娘が「うつ病」の治療ではなく「統合失調症」の治療を受けているのだと気づきました。
先週、娘を連れずに主治医のところを尋ね、先生の口からはっきりと「統合失調症」だと聞かされました。フルデカシンは中止してくれていますが、ジプレキサは今も処方されて飲んでいます。急性ジストニアは大分収まってきましたが、遅発性ジスキネジアの症状は変らずあります。
私が思っているのは、本当に娘は「統合失調症」かということです。あれから一度も幻聴などはありませんし、音に敏感とかもありません。毎日会社に行っていますので引きこもりではないし、友人とも普通に遊んでいます。家で暴れたり訳の判らないことを言ったりすることもありません。
今ある症状としては午前が非常に調子悪い(ジプレキサのせいではないかと思われます)、早朝に目覚めるということがあるだけです。金曜日と土曜日の夜は処方されている眠剤すら飲まないで普通に寝ますし、お昼近くまで眠れています。
性格は明るいほうではありませんが、友人もたくさんおりますし、学生時代は卒業するまでひとつのバイトを3年間きっちりとやり遂げ大変信頼を頂いておりまして、お店のひとつのコーナーを任されたりしておりました。ただ幼い時には、私が上の子に比べ大人しかったので、「貴方は大人しい、大人しい」といって育てた為、その殻に収まらなくてはと無理をしたのかもしれません。我慢をして育ったからなのでしょう、家ではよくキレル子どもでした。中学生の頃は学校の先生に反抗して、良いテストの点をとっても通知表は悪かったりしていました。高校生以降は外ではそういうことはしませんでした。しかし家ではよく怒ったりキレたりしていましたので、私はそのつど謝ったり、物でつったりしていました。最近知った事なのですが、私の今までの対応のせいだと思いますが、「ふくれたりすると、周りの人は、自分のほうを向いてくれる」と思っていたようです。この病気を得てそのことは間違いで返って人は離れていくということに気が付いたようです。私に対してもそういう事はなくなりました。薬の作用だといわれたらどうしようもありませんが。
近いうちに会社を辞める事を決め、転職活動をやっておりますが、今のところまだ合格には至りません。合格しようがしまいが、今の会社に居ることが一番のストレスの原因だということははっきりしましたので、退職は近いうちにいたします。
林先生はこのような娘は、「統合失調症」だとお思いでしょうか?
もともとの性格を知っている母親である私には、どう考えても「統合失調症」などという病気には思えません。
是非ともアドバイスいただけたらと思います。宜しくお願いします。


林: この質問からわかることは、質問者が娘さんを統合失調症でないと信じたいという強い願望があることです。したがって質問文には強いバイアスがかかっています。ですから、

林先生はこのような娘は、「統合失調症」だとお思いでしょうか?

この質問には意味がありません。統合失調症であってほしくないという願望から書かれたメールには、統合失調症でないという結論に向かわせる内容になっていますので、このような質問の仕方をすれば、誰でも「娘さんは統合失調症らしくない」と答えるでしょう。つまり、これは質問とは言えません。自分の意見に賛同を求めているだけの文章です。
そしてその「自分の意見」は、「自分の子どもが統合失調症であってほしくない」という願望によるものであることは明らかです。統合失調症をめぐる事実と願望を混同することは、最悪の結果を招くことが多いものです。もう一度、偏りのない目で娘さんの経過と今の状態を直視してください。

質問者の判断の不合理さをいくつか指摘します。

主治医は、娘が暴れたことと、ほんの少しの期間(もっとも苦しかった昨年の秋ごろ)幻聴があったというだけで「統合失調症」と判断したようで

なぜそんなことがあなたにわかるのでしょうか。
娘が統合失調症であってほしくない → 娘を統合失調症とした医師の診断はいい加減に違いない
という思考経路があなたにあるのではないでしょうか。これは、統合失調症という診断を認めない家族の典型的な思考経路です。

今ある症状としては午前が非常に調子悪い(ジプレキサのせいではないかと思われます)

なぜそれがジプレキサのせいだとあなたに判断できるのでしょうか。
娘には統合失調症の症状があってほしくない → 症状に見えるのは薬の副作用に違いない
という思考経路があなたにあるのではないでしょうか。これも、統合失調症という診断を認めない家族の典型的な思考経路です。

もともとの性格を知っている母親である私には、どう考えても「統合失調症」などという病気には思えません。

もともとの性格がいかなるものであれ、統合失調症に罹患するときは罹患します。
娘は統合失調症であってほしくない → 今の娘の状態は、性格からくるものに違いない
という思考経路があなたにあるのではないでしょうか。これも、統合失調症という診断を認めない家族の典型的な思考経路です。

先週、娘を連れずに主治医のところを尋ね、先生の口からはっきりと「統合失調症」だと聞かされました。

その診断根拠は何か、もう一度主治医の先生にお聞きすることをお勧めします。そしてその際には、願望と事実を混同しないようくれぐれもご留意ください。




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