精神科Q&A

【1802】統合失調症患者の身体拘束をしたのは病院の不手際ではないのか


Q: いつも興味深く読ませていただいております。今回は30代の統合失調症の姉のことでご相談させていただきます。私は数歳下の弟です。長くなってしまうかもしれませんが、ご容赦下さい。  
姉の症状としては、数年前から妄想、幻聴が始まり、最近では「大蛇が身体に入ってくる」「まわりの男性がみな自分にセクハラをする」など、妄想が特にひどくなっています。1年ほど前に何とか病院につれていったところ統合失調症との診断を受けました。その後入院を繰り返し、先日、かなり無理矢理に、身体拘束を伴う3度目の入院をさせたところです。
林先生に伺いたいのは、今回の入院の際の主治医、病院の対応次第では、身体拘束を避けられたのではないかという点です。 
3度目の入院に際して、私は病院(A病院)に対して「姉はいろいろ妄想を言ってくるだろうが、それを肯定はしないまでも、はっきりと否定もせずに適当に話を合わせて、本人を安心させて入院を告げてほしい」と求めました。具体的には、姉は「今まで周囲のいろんな人から虐待(*注 完全に妄想の中の話)を受けてきて、PTSDになった。だから周りの人は私を保護する義務があるという証明書を医師として出してほしい。PTSDを扱ってくれるのならこの病院にかかる」と話していたので、PTSDうんぬんの話がでたら「じゃあそこらへんも含めて入院をして、話を聞きましょうか」とでも話を合わせてほしいと要望したのです。しかし主治医の方は「それは難しい。入院後の治療と矛盾が生じる。PTSDなどの話には触れず正面から行くので、ある程度手荒な手法になることも覚悟はしておいてほしい」と言われました。私としては、結果的にある程度無理矢理になってしまうことはしょうがないとしても、そうした事態をできるだけ避けるよう、本人の妄想にある程度話をあわせて納得させるようトライをして欲しいということを何度も伝えました。
しかし結果として、主治医の方が姉と面談した際には「あなたは統合失調症です。入院させます」の一点張りで本人に話を合わせようというそぶりはほとんどなく、姉は診察室を脱走、病院の外まで走りでてしまい、結局私と医師、複数のスタッフの方で百メートルほど走ったあとに無理矢理取り押さえ、泣き叫ぶ彼女を大勢でひきずって隔離室に移動、手足を拘束して入院という結果になりました。その後、主治医から「私の見通しが甘かった」と謝罪を受けました。 
このA病院の対応は、正しかったのでしょうか。私が上に書いたような要求をしたのは、2度目の入院(A病院とは別の病院、B病院)の際、B病院はこうした対応 (姉に適当に話を合わせて安心させる) を取ってくれ、その手法が大分スムーズにいったということがあるからです。姉は非常に頑固で自己中心的で病識もまったくないのですが、一方で自分の中に大きなこだわりがあり、それが満たされるかもしれないと分かると素直に家族の言うことを聞くこともあります。B病院の入院時にはお金へのこだわりが非常に強くなっていたので「薬を飲んでしっかり治療しているという記録がつくれれば、生活保護や障害年金の申請ができる。そのために病院に行こう」と説得し、主治医も話を合わせてくれてすんなり入院、内服にこぎつけることができました。こうした経過は、A病院の主治医にも繰り返し話しました。 嘘をつけとは言っていませんが、ある程度話を適当に合わせてもらえれば、A病院でももう少し穏便にことが進んだのではないか。とにかく強制入院ありきで、家族のいうことに耳を傾ける気がないのではないか。そして何より、姉にとって非常に恐ろしい体験を、不必要にさせてしまったのではないか。そうした思いが強くあります。
脱走させてしまったことについても、不信感を持ってしまっています。事前の相談では「たとえ強制的な手法をとっても、それは病院側で何とかするのでご家族が恨みを持たれることはない」ということだったのですが、姉が出て行く際に主治医は追うかどうかをなかなか決断できず、「先生どうするんですか!」のスタッフの方の大声でようやく追い始めたものの、すでにかなり距離を離されており女性の足では追いつけなかったため、結局私が追いついて無理矢理取り押さえることになりました。「手荒な事態」を想定しているわりには、診察室へのスタッフの配備も不十分に見えました。 
一方、長期的にみれば、こうした対応はいつか必要だったのかもしれないとの思いもあります。家族が姉にとってきた対応は、いわば統合失調症だ、あなたはおかしいということは正面から言わず、薬を飲む、入院するモチベーションとして統合失調症治療とは別のこと(年金など)を使ってきたので、病識が生まれにくかったということは言えるのかもしれません。もちろん、ソフトランディングでだんだんと病識をつけさせるということは考えていましたが・・。 
林先生からご覧になって、A病院の対応は適切と思われるでしょうか。B病院は姉の住居から距離があり、通院が難しかったのでA病院に替えたのですが、B病院に戻すことも考えています。かなり長くなり、申し訳ございませんがご意見いただければ幸いです。


林:
林先生からご覧になって、A病院の対応は適切と思われるでしょうか。

もちろん適切とは思いません。
いま「もちろん」と言ったのは、この【1802】の質問者が、A病院の対応を不適切と考えていることが明らかだからです。したがってこの【1802】の質問文には、A病院の対応が不適切だという結論に向かわせるバイアスがかかっていることは明らかです。そのような質問文に記されている内容から判断すれば、「もちろん」適切とは思わない、という答えになるのは当然です。
すなわち、この【1802】の質問文からは、A病院の対応の適切・不適切の判断を公平にすることは不可能だということです。そうしますと、

林先生からご覧になって、A病院の対応は適切と思われるでしょうか。

この質問は意味がないということになります。

それを別にすれば、この【1802】の質問者の書かれている、お姉さまの病状に対する洞察は適切だと思います。ただそうしますと、2度目の入院の後、なぜ今回3度目の入院に至ってしまったのかという疑問が生まれます。A病院の対応を問題にする前に、それを問題にする必要があるのではないでしょうか。また、4度目の入院を未然に防ぐためにも、そのほうがはるかに生産的な検討だと思います。



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