精神科Q&A

【1799】幻聴によるリストカットで血まみれになった娘


Q: 私は60代の女性です。幻聴とリストカットのヒドイ娘のことで相談があります。娘は現在27歳です。 元々大人しく、たくさんの友達を作るタイプではなかったのですが、中学1年の時に仲良くしていたグループからシカト等の嫌がらせを受け、それ以来、部活動の仲の良かった友人といる時もどう会話したらいいのか分からなくなったようで急に逃げ出してしまったりしていた様です。本人は「私はみんなに嫌われているから居ない方がいい。居なくなったら笑ってるんだ」と言っていましたが、私自身小学生から知っている子たちなのでそんな事をするとは思えません。ショックから被害妄想的になったんだと思います。登校拒否はなく無事高校には行ったのですが、食事を拒否したり3〜4人分食べて吐き戻したり、リストカットを繰り返したりするようになってしまいました。それは今に至るまでずっと続いています。当時から病院に行こうと誘ってみたりはしたのですが、本人が平気だと言うし普通に学校には通っていたのでそのままにしてしまいました。大学入学後1年程で「他の人と考え方が違い過ぎて馬鹿にされてる」と言い、家にこもるようになってしまい、2年目にやめてしまいました。その後1年程は家でネットゲームをしたりパソコンにかじりついて過ごしていましたが、そこで知りあった人の紹介でバイトを始め、外に出るようになったので安心していました。でも、1年程でその仕事がなくなりまた家にこもった状態に戻ってしまいました。働くように何度も言ったところ、またバイトを始めましたがリストカットがどんどん深くなるので、心配になりムリヤリ病院に連れていったところ「うつ病」と診断されました。週2〜3日程度のバイトだったので、無理はさせてないと思います。寝付けないとのことで、病院では睡眠薬と安定剤と抗うつ剤を処方されていたみたいです。抗うつ剤はすぐ自己判断でやめてしまいましたが、最近までそのバイトを続けられていました。眠れないのは変わらなかったようで、病院側から別の病院に行くよう勧められ(院内処方の病院だったので)別の病院に通い始めました。部屋を覗いたところ、その病院では「ハルシオン・ロヒプノール・ヒルナミン」が処方されているようです。最近またバイトをやめてしまい、ずっと家にいるので眠くなった時に寝れるのだからいい機会だと薬を飲むのを辞めさせてみました。そうしたら2〜3日で3時間くらいしか眠れないようで常時ボンヤリ空中を見ているようになりました。そして夜中に血まみれになってるのを見つけ、両手で30針ほど縫いました。痛みはないようでボーっとしている娘に「なんでこんなことするのか」と聞いたところ「お前は要らない、切れ」と言われるからだというような事を言っていました。あわてて最近まで行っていた病院に連れていき、あとで先生に聞いたところ「解離性障害」だと言われました。病院では、「寄生虫がいて、超音波を出して話しかけてくる」「体から虫が出てきて皮膚がピリピリする」「頭の中で勝手に文章が打たれて考えごとが出来ない」「脳と一緒に記憶や考えが溶け出して人の中に入っていく」等言っていました。話し方に抑揚がなく、焦点もあっていない状態だし、考えも明らかにおかしいので出来れば入院させたいのですが本人は必要ないと言います。薬の飲み過ぎて頭がおかしくなっているのかも知れない、でも何も治療しないのも不安だし…と悩んでいます。今後、どのように対処していったらいいのでしょうか? 長文乱文申し訳ありませんが、お答えいただけると嬉しいです。


林: 娘さんは統合失調症の可能性が高いと思います。
幻聴は、確かに解離性障害でも生じ得る症状です。けれども、

「脳と一緒に記憶や考えが溶け出して人の中に入っていく」

これは統合失調症にかなり特徴的な自我障害と解釈でき、

「頭の中で勝手に文章が打たれて考えごとが出来ない」

これも自我障害としての自生思考の表現と見られ、

「寄生虫がいて、超音波を出して話しかけてくる」

このような奇異な形の幻聴は解離性障害よりも統合失調症の色彩が強く、

「体から虫が出てきて皮膚がピリピリする」

これは統合失調症の体感幻覚と考えられます。

以上、統合失調症らしい点はたくさんありますが、解離性障害らしい点は見られません。
統合失調症発症の時期は、

本人は「私はみんなに嫌われているから居ない方がいい。居なくなったら笑ってるんだ」と言っていましたが、私自身小学生から知っている子たちなのでそんな事をするとは思えません。ショックから被害妄想的になったんだと思います。

このころと思われます。ショックから被害妄想的になった、という解釈は、ご家族がよくされる典型的なものですが、逆に被害妄想が先にあった、つまり「シカト等の嫌がらせを受け」ということ自体が被害妄想であった可能性も高いです。
そして、

その後1年程は家でネットゲームをしたりパソコンにかじりついて過ごしていましたが、

この期間に、統合失調症がどんどん悪化していったのでしょう。
そして受診した病院での、

リストカットがどんどん深くなるので、心配になりムリヤリ病院に連れていったところ「うつ病」と診断されました。

この「うつ病」という診断は誤診です。統合失調症が始まっているのを見逃したと思われます。

ただ不可解なのは、いま受診している病院で解離性障害と診断されていることです。メールに記載されている内容からは、解離性障害らしくなく、統合失調症が最も考えられることは上記の通りですが、あるいはメールに書かれていない重要な情報があって、そのため医師が解離性障害と診断しているのかもしれません。
そうでなければ解離性障害は誤診です。または、医師は本当は統合失調症と診断していて、あえて解離性障害という病名を告げているのかもしれません。しかしいずれにせよ今の娘さんの精神状態は、外来治療の限界を超えています。入院させるべきです。

考えも明らかにおかしいので出来れば入院させたいのですが本人は必要ないと言います。

本人がそうおっしゃるのはあたり前です。あなたが親として心から娘さんのことをお考えになっているのであれば、毅然とした姿勢を取らなければなりません。繰り返しますが、娘さんの現在の精神状態は、入院によって治療する必要があります。自殺の危険性が切迫しています。

薬の飲み過ぎで頭がおかしくなっているのかも知れない、

馬鹿げた考え方です。

でも何も治療しないのも不安だし…と悩んでいます。

悩んでいるうちに統合失調症は悪化していき、その先は破滅です。

なお、「別の病院」と「最近まで行っていた病院」が同じ病院か違う病院か、メールの文章からは不明ですが、「別の病院」で処方されていたと記されているヒルナミンは抗精神病薬ですから、その病院では統合失調症の治療がされていたのかもしれません。だとすると、

薬を飲むのをやめさせてみました。

これはあなたの決定的な誤りで、薬の中断により統合失調症がひどく悪化したと解釈できます。その後の出来事、

そうしたら2〜3日で3時間くらいしか眠れないようで常時ボンヤリ空中を見ているようになりました。そして夜中に血まみれになってるのを見つけ、両手で30針ほど縫いました。

この時に命を失わなかったのは非常にラッキーだったと認識しなければなりません。




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