精神科Q&A

【1787】擬態統合失調症というものはありますか‏


Q: 私は37歳の統合失調症と診断されているものです。先生の著作、サイコバブル社会を読みました。安易に病気と診断する事で、特権を得ている人達がいる事を知りました。ただ、サイコバブル社会では統合失調症のことに触れられておらず、統合失調症にも、診断される事で特権を得るケースがあるのか疑問に感じました。一説によると統合失調症の診断を得ていると、障害年金が受給しやすいという話があります。後、能力的に劣っていても統合失調症による症状だと自分を守る事が出来ます。私自身、統合失調症と診断され、マイペースな生活を送り、穏やかな気持ちで過ごしていますが、もしかすると、そもそも誤診で、副作用の強い薬を無駄に飲んでいるだけではないのかと不安になる事があります。 
そこでお聞きしたいのですが、擬態統合失調症というような、本来の統合失調症と違うものはありえますか?ここ10年くらい、ネットの流れを見ていますと、統合失調症と自ら名乗っている人が増えている気がします。本来、統合失調症は100人に1人程度の発症率ですから、時間の流れと共に増える事はないはずです。これは私の気のせいなのでしょうか。それとも精神分裂病から、統合失調症へ名称変更した事による影響なのでしょうか。


林: どんな病気にも、「診断される事で特権を得るケース」はあり得ることで、昔から「疾病利得」と呼ばれています。ですから、病気の擬態は、いかなる病気にもあり得ます。
 本当に病気で苦しんでいる人にとっては、「疾病利得」「擬態」という言葉自体が不愉快なものであると思われますが、もし疾病利得のために病気を演じていたり、病気にかかっていること自体は事実でも疾病利得の中に安住している人が一定以上に増えてしまうと、大きな問題とみなさざるを得ません。その問題の中には、本当に病気で苦しんでいる人までもが、疾病利得に安住していると、いわれのない非難を受けることも含まれます。

以下、ご質問にお答えしますと、

そこでお聞きしたいのですが、擬態統合失調症というような、本来の統合失調症と違うものはありえますか?

あるか、ないか。そう問われれば答えは「ある」です。
けれども、あえて「擬態統合失調症」と名づけて取り上げる必要はありません。(その理由はこの回答を最後までお読みください)

ここ10年くらい、ネットの流れを見ていますと、統合失調症と自ら名乗っている人が増えている気がします。

おそらくその通りだと思います。もっとも、「ここ10年くらい」というのは、そのままネットが急速に普及した期間でもありますので、「自ら名乗っている人が増えた」のは、単にネットの普及だけが理由という見方もあります。が、おそらくそれだけではないでしょう。

本来、統合失調症は100人に1人程度の発症率ですから、時間の流れと共に増える事はないはずです。

その通りです。

精神分裂病から、統合失調症へ名称変更した事による影響なのでしょうか。

その影響は、少なくとも一部は、あると思います。
このあたりの事情については、それは、「うつ病」ではありません! に、次のようにお書きしました。

かつて統合失調症は、精神分裂病と呼ばれていました。しかし、精神分裂病という病名に対しては偏見が根強いため、病名変更がなされたのです。
もちろんこれは姑息な対応策です。偏見が強いのは精神分裂病という「病名」ではなくて、この「病気」そのものに対してなのですから・・・。
うつ病も、かつては精神分裂病と同様、偏見が強い病気でした。
が。
偏見を払拭するために病名そのものが消えざるを得なかった精神分裂病とは対照的に、うつ病という病名は広く知られ、ごく普通に使われるようになりました。
はっきり明暗が分かれた、といったら語弊があるかもしれませんが、そんな印象も禁じ得ません。
精神分裂病という病名は、口にすることがはばかられるようになってしまった。一方、うつ病という病名は、多くの人が口にするようになった。うつ病の疑いが少しでもあれば、わりと気楽に「うつ病ではないか?」と口にする。うつ病に少しでも似ている病気があれば、わりと安易に「うつ病ではないか?」と口にする。そしてさらには、本当は別の病気だということが明らかになっても、抵抗の少ない「うつ病」という病名で通してしまう。

(それは、「うつ病」ではありません! 92ページ)

つまり、精神分裂病という病名には偏見がべったりと染みついてしまい、もはや名称を変更しなければ偏見からは逃れられないと判断されたということです。
名称を変更すること自体は、偏見の除去という観点からはある意味欺瞞ですが、結果として統合失調症であることを名乗りやすくなった、隠す必要が少なくなったとすれば、名称変更は成功だったといえるでしょう。
しかし「名乗りやすくなった」のが事実だとしてもそれは、「名乗るなんて到底考えられない」という時代、つまり偏見がきわめて強かった時代に比べれば偏見が相対的に軽くなったということにすぎず、うつ病などに比べればまだまだ偏見は強いといえるでしょう。したがって、サイコバブル社会にお書きした通り、「光の中に出て、明るい病気になった」うつ病はバブル化するのに対し、「影にある、暗い病気」は、バブルにはなりにくいのです。サイコバブル社会ではその例としてアルコール依存症を挙げましたが、統合失調症も同様な位置づけであると考えることができます。

したがいまして、この【1787】の質問者のご指摘のような「擬態統合失調症」は、「あるか、ないか」と問われれば「ある」というのが答えですが、現実には問題としてとりあげるほどの数は存在しません。



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