精神科Q&A
【1773】幼少時のアスペルガー障害であるとの診断と現在抱える問題
Q: 20代半ばの女性です。現在、会社員です。幼少の頃、アスペルガー障害であるとの診断を受けていたそうなのですが、私自身は一年ほど前までその事実をはっきりと知らされずに生活を送って来ました。しかし母はわたしに「あなたは他の子と違うから」とよく言っていました。また、私の父親は驚異的な記憶力を持っており、母はそんな父を「サヴァン症候群」(注1)だとよく言っていました。小学校3年生ころ、学校を休んで養護学校らしきものが付属した病院に通っていました。私はそこでは、小さな個室でインクの染みのテストや、パズルなど、簡単なテストをくりかえし受けたように記憶しています。其所に通う間に、いくつかの季節の移り変わりがあったのである程度の期間通っていた事が推測されます。あるときは、体重、身長の測定から始まり大きなかまぼこ型の機械に入れられたりしました。今となれば、MRIかCTだったのだと思います。しかしこれだけいろいろな検査をしたにもかかわらず、母親からは説明を受けませんでしたし、あまり話題にしないほうが良いと思い聞きませんでした。私はその後も普通学級で過ごし、そのかわり母親が付きっきりで勉強を教えました。その内容はとても厳しく生活上の指導も他の兄弟とは違うやり方で育てられました。特に言葉遣いや喋り方のニュアンスに関しては母は大変敏感に反応し、手が出る事も珍しくありませんでした。技能的にも精神的にも鍛えられましたが、常に緊張していて辛かったです。
そのまま成人し、さまざまな「生きにくさ」や生活をする上での「問題」を感じつつも、理由や対処方法が分らず、人間関係や、職場でのトラブルが絶えませんでした。その場しのぎの対処法で過ごし、人間関係が崩れれば放棄し、職場で技能面で上手く行かなければ排除されるまま次に流れるといった具合でした。自分に問題があると自覚しつつも、その一方「相手に問題がある」とも思っていました。
ところが、状況は一変しました。職場環境が変わり、新しい上司が放棄&排除だけではことを収めないタイプの人だったからです。私は、その上司の下、職場環境が安定し、今までより調子よく働いているつもりでしたがミスの多さや、極度の物忘れ、独り言、上の空、過度の緊張等を指摘され、精神科の受診を薦められました。上司は、目立った症状を見て、精神疾患ではないかと捉えたようです。わたしには精神的な問題であるとは思えませんでしたが、その提案を拒否する事は、相手との関係を放棄し、職場から排除されてしまう結果を招く事であり、現在はやっと手に入れた安定をもう手放したくないという考えから精神科を受診しました。医師には、上司に指摘される内容と、今までの経緯、気になる症状(注2)また、幼少の頃病院で検査を受けた事があり結果は知らないが、発達障害の疑いを自身で持っているとの内容も伝えました。最初の診察では、「受け答えも的確だし話も整理され、一見それらしさは感じないけど、幼少の頃に検査をしているのであればその段階で何らかの疑いがあったのでしょうから今後のためにもとりあえず検査をしてみましょう。」とのことで、MRI、脳波の検査、さらに、名前が分らないのですが口答質問の問題と、パズルを使ったテストをしました。
検査結果が出るまでの間に帰省する機会があり、意を決し、幼少の頃の検査の結果を母に尋ねたところ当時の医師に「軽度の自閉症あるいはアスペルガー障害だと思われるが、上手に育ててあげてください。」といわれたとのことでした。MRIや脳波の検査等では異常は無いが、もっとたくさんの検査をしたので、それで得られた結果だとのことです。
後日、今回の検査結果が出て、MRIと脳波の検査は異常なし。テストのほうは、分野別の偏りが激しいが、数値から見ても、本人を見ても得意な分野が、不得意な分野をとても良くカバーしていて、素晴らしい。不得意分野を補おうとする努力と訓練の成果かもしれない。と言われました。しかし、どんなに得意分野が人より優れていても、そこに偏りがある事自体が問題なので、今本人が感じている困難は解消されず、努力するほど、出来ない分野が目立ってあなたは気になるかもしれない。とのことでした。問題の分析をして、改善策を考えることで、いつかすべての問題は解決されると思って頑張って来たので、意気消沈でした。その医師は、幼少期にアスペルガー障害であるとの診断を受けていたとの母親の証言と前述のテストの特徴的な結果を見て、「もともと発達障害があるが、努力と教育により比較的社会生活に馴染んでいるほうである」と考えているようでした。比較的社会生活に馴染んでいると判断した理由はわたしの言語能力や診察室においてのコミュニュケーション能力の高さだと考えているようでした。文章を読む事、書く事は私の趣味です。レポートや論文が好きで、他愛もない会話は苦手ですが、討論も好きです。筆記テストではいつも落第点の私が、レポート評価だとたいていS評価をもらえ、悪くてもAでした。医師が言う得意分野がカバーしているというのはこの様な点でしょうか?確かに成績や就職には役立ちました。しかし後で必ずボロが出ます。人と日常的に接するとチックも隠しきれませんし、余りに簡単な事を出来ない事に、困惑されたり、呆れられたり、最終的に周りが私の存在を持て余します。恵まれ、寛容な環境を得られた場合でも周りは私をフォローする事に疲れ果て、不満も湧いて来ます。そのような状況が最も辛いです。
《補足》(注1)父は変わり者で、自己中心的ですが、努力家での働き者です。コミュニュケーション能力は子供から見ても欠如しており、何を質問しようと会話が成り立たず滔々とうんちくを並べるだけです。子供騙しの変な造語でごまかされます奇異な行動が多く何年でもボロぞうきんのようになっても同じ物だけを着たがります。「勉強なんて教科書を丸暗記すれば良いじゃないか!」が口癖で、記憶力は良いです。現在父親は離婚、トラブルで親戚中との仲もこじらせ失踪中。
今の私は、家族とはぎこちなく、友人と過ごすのは楽しいですが年月が経つほどにどう関係を築いたら良いのか分らなくなります。異性とも普通の関係は築けません。外国人と辞書を間にはさんで会話するくらいの意思の疎通に安堵します。今のままでは幸福は得られないと思い、焦燥感があります。苦痛を避けて孤独になって行く事が、また大きな苦痛です。
(注2)上記の医師に伝えた気になる症状....不眠。物忘れ。ぼうっして他人には一点を見つめていて怖いと言われる。人間関係(目上の人に対しての態度)がおかしいと注意される。独り言。気分の落差。いらいらしやすい。モノにぶつかったり壊しやすい。
《今までの経緯》
<就学以前>・乳児期、常に泣いていて、泣き止む事が無い。・鼻を鳴らす等のチック症状が出始める。過度の緊張。車の音が怒っている声に聞こえる。
<小学校入学から卒業まで>・運動能力が低く、ボールを投げる動作もいくら練習してもぎこちない。・一年生、文章が真っすぐ読めず。一桁の足し算が何時間かけても出来ない。・三年生、髪や睫毛を抜く、手足や眼球の不自然な動き、短く連続した発声などのチック症状。・四年生、家での勉強の猛特訓。なんとか周囲に追いつく。・五年生、六年生、いじめに遭う。
<中学校入学から卒業まで>・新しい環境を恐れ中学生のうちに車にひかれて死ぬんだと思い込んでいた。・二年生、三年生、教師から問題児視され攻撃→ストレスから家で暴れる、家族関係悪化。・意欲低下、日々の習慣さえおっくうになり、衛生状況悪化。眠れなくなる。
<高校入学から卒業まで>・意欲低下がやや改善され衛生状況も改善。金縛り(幻覚、幻触)肩こり、頭痛、吐き気、
<予備校時代>・日中、突如眠気に襲われ、真夏でも急に体が冷え動かなくなる。気分の落ち込み、
<短大時代〜一社目への就職>・バイト先で仲間と馴染めず態度がどんどん硬化し関係悪化。複数のバイトを次々クビに。・不眠(夜眠るのが怖く、日が昇ってから寝る睡眠時間2時間から4時間.....数年続く。)・食料を手当たり次第食べては吐く。凍ったままの食材や、家庭薬等口に入るものはなんでも。・学校の寮に入っていたが、器物破損、問題行動が多い等により追い出される。・学生支援局によばれ、学校外の医者に行かないと退学と脅されたため総合病院の心療内科へ。・隙間や穴が怖く水の中にいるようでぞっとした。次第に恐怖の対象が広がり逃げ場が無い。・気味の悪さは土地のせいだと考え、引っ越しを望む。家が怖く夜明けまで外を歩く。・医師(a)に怖くて眠れない告げたところ睡眠導入剤、抗うつ剤を処方された。睡眠導入剤は、そもそも眠る事に恐怖を感じており、真面目に飲まなかった。抗うつ剤も効果無し。・些細な事で怒りが押さえられない。・入眠時話声が聞こえ、他の住人が私の悪口を言っていると思い相手の部屋のドアに聞き耳を立てると話し声は消え、部屋に戻るとこそこそ話が再開される
<一社目への就職〜退職まで3年間>・病院が無くなるとの事で病院を転院。新たな医師(b)の処方薬は医師(a)と同様。・毎日無気力で、日々をやり過ごす感覚。薬を中断。通院中断。・夜眠れず、家に居るのが苦痛の為、夜もバイトをする。→数ヶ月でバイトクビになる。・本社業務。作業が遅いと、頻繁に副社長が仕事を見に来る。私が作業する机の向こうに座り飽きる事無く眺めては、一挙手一投足まで指示。意志に沿えないと激昂する。過度のストレス。・副社長の怒りを買い物流センターへ異動。予備校時代同様の、発作的な眠気に襲われところかまわず床や商品棚に転がり、眠気をしのいだ。カッターで足を切り眠気と戦った。・再度本社に戻って来たが、その頃には精魂尽き果てたという感じで、ぼうっとする事が増えた。退職を決意すると、やや、気分は上向き、次の就職活動に向けてパワーが出た。・移動になった頃から、近所のメンタルクリニック医師(c)にかかる。不安でしょうがないと訴えたところ、「不安を取り除く薬」と説明された薬が効いた。なんの薬だったかは不明。
<二社目への就職〜現在まで3年弱>・二社目の入社。引っ越すと恐怖心や、気味の悪さが消えた。やはり土地のせいだと考えた。・勤務地aで仕事ができない、人間関係の悪化、上の空の、などから異動。勤務地bで、最初は良かったが徐々に問題が露呈し肩身が狭くなる。→上司にカウンセラー、病院を薦められる。・疲労感の為、意識を保てず降りるべき駅で降りられず家へもすんなり辿り着けない。疲れると情報を取り込むフィルターが壊れたような感覚。常に緊張、横隔膜がせり上がり胃が痛い。・メンタルクリニックの医師(d)から、仕事のミスを減らす目的で集中力を高めるというベタナミン朝10mgが処方されたが、緊張感が増長されるように感じ辛い。・セレニカR20mg夜に変更。家へすんなり辿り着ける。情報量の軽減、緊張感の軽減。総じて、緊張間が和らぎリラックスでき、大事な事に気を配る余裕が出て来たため。ミスが減った。・医師(d)が、退職。担当は医師(e)に。近頃は、仕事上のミスよりも未だ調子の波が気になる。悪化時は体調不良、気分の落ち込みが目立ち、調子のいいときもテンションの高さを周囲から煙たがられる。医師(e)からは、薬をしっかり飲み、調子のいい時こそ失敗するから気をつけよ、との指示。2ヶ月前より、内科医より痛み止めロキペイン朝昼晩60mg、メチコバール朝500mgアレギザール朝5mg処方。
<医師には伝えていない不安>・鏡の中の自分の顔が見るたび違い、怖いです。他人のように見えます。気にするあまり化粧が濃くなり、一日中鏡を見てしまいます。酷いと写真に撮って確認したり、こだわってしまいます。・通りすがりの人が悪口を言っているように聞こえることがあり(もともと空耳、聞き間違いが多いので気のせいかもしれない。)何故見ず知らずの人に罵られなくてはならないのかと悲しみますが、私も罵る内容の独り言が止まらないので、私と同じような人とすれ違ったのかもしれないとか、人をじっと見る癖を不快に思われたのかもしれないとも考えます。・独り言が止まりません。時々、気がついたら喋ってます。(特に罵り)いつかもっと変な事を無意識で喋ってしまうのではと不安にかられます。妄想があって喋っている訳ではありません。貧乏揺すりをする人がそれを止められないように、独り言を止められないのです。それが攻撃的だったり、人に向けられているような内容なので始末が悪いです。職場からも注意を受けます。※最初の二点は、時が過ぎると、あり得ない、とか馬鹿馬鹿しいとか思うのですが、調子の悪い時はリアルに思えます。通常ならばかさず、「そんなわけあるはずないじゃないか。気のせいだ。空耳だ。」などと別の意識が助けてくれます。調子が悪いとその意識が及ばず様々な悪い想像に悩まされます。
以上の事をふまえて質問致します。
(1) MRIや、脳波の検査で異常が無くても、自閉症やアスペルガー障害という事はあり得ますか?
(2) 気分の波を始め様々な症状はアスペルガー障害以外に何か他に原因があるのでしょうか?また、それらに振り回される事がいつか無くなる時が来ますか?
(3) 過度の緊張状態が子供の頃からあり苦痛です。原因はアスペルガー障害と関係しますか?
(4) 独り言は、チックのひとつでしょうか?放置するとどうなりますか?
(5) 物忘れが酷く、短期間の記憶も長期間の記憶も曖昧、不正確です。家族や友人と記憶が食い違ったり、特に最近は実在しないエピソードを話していると家族から指摘される事もあります。(←医師(d)曰く記憶が乏しい人が記憶のつじつまを合わせたりする為に話を頭で作ってしまう作話というものかもしれないとのこと。)祖母がよく(前述の伯父の母親)、実在しない嘘のエピソードを人に話し、そのため、親戚同士の仲がこじれたりしていたそうです。何か関連性があるのでしょうか?今後が不安です。
本当は主治医に聞く事でしょうが、診療時間が限られる中で上手く喋れない、どうしても自分自身を繕ってしまい、気になっている事でも話すのを躊躇ってしまう等の問題がありなかなか実現できないため、この度メールを送らせて頂きました。長文をお読み頂きありがとうございます。質問にお答え頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。
林: とても詳しいメールをありがとうございました。あなたがアスペルガー障害である可能性は高いと思います。また、アスペルガー障害ではなかったとしても、何らかの広汎性発達障害であるとは言えると思います。おそらくはお母様が発達障害について非常によく勉強されていて、その知識に基づいてあなたを一生懸命に養育され、その結果、
テストのほうは、分野別の偏りが激しいが、数値から見ても、本人を見ても得意な分野が、不得意な分野をとても良くカバーしていて、素晴らしい。不得意分野を補おうとする努力と訓練の成果かもしれない。「もともと発達障害があるが、努力と教育により比較的社会生活に馴染んでいるほうである」
という状態が得られているのだと思います。
とはいえ、あなたを診た医師の言葉、
しかし、どんなに得意分野が人より優れていても、そこに偏りがある事自体が問題なので、今本人が感じている困難は解消されず、努力するほど、出来ない分野が目立ってあなたは気になるかもしれない。とのことでした。
これはおそらくその通りだと思います。
問題の分析をして、改善策を考えることで、いつかすべての問題は解決されると思って頑張って来たので、意気消沈でした。
文字通り「すべて」の問題が解決されるのは、いかなる場合でも(つまり、病気にかかわることであれ、何にかかわることであれ)、なかなか難しいものです。この【1773】のケースにもそれは言えると思いますが、現在に至るまで、発達障害というものが抱える問題にかなり適切に対処してきておられますし、これからさらなる改善が期待できると思います。(逆に、お母様から適切な養育を受けなければ、【1786】のような経過をたどった可能性もあります)
以下、ご質問の項目にお答えします:
(1) MRIや、脳波の検査で異常が無くても、自閉症やアスペルガー障害という事はあり得ますか?
もちろんです。発達障害 (自閉症、アスペルガー障害を含みます) は、MRIや脳波で診断するものではありません。
(2) 気分の波を始め様々な症状はアスペルガー障害以外に何か他に原因があるのでしょうか?また、それらに振り回される事がいつか無くなる時が来ますか?
おそらくはアスペルガー障害に伴うものとして理解可能だと思います。
但し、
鏡の中の自分の顔が見るたび違い、怖いです。他人のように見えます。気にするあまり化粧が濃くなり、一日中鏡を見てしまいます。酷いと写真に撮って確認したり、こだわってしまいます。・通りすがりの人が悪口を言っているように聞こえることがあり
などは、統合失調症の色彩のある症状であり (しかし、【1773】の全体像からみて、統合失調症そのものではないと思われますが)、診断と治療を慎重に再検討する必要はあるかもしれません。
(3) 過度の緊張状態が子供の頃からあり苦痛です。原因はアスペルガー障害と関係しますか?
関係するでしょう。
(4) 独り言は、チックのひとつでしょうか?放置するとどうなりますか?
チックのひとつとしての独り言ということもあり得ます。しかしこの【1773】のメールの情報からは、あなたの独り言がチックかどうかはわかりません。
(5) 物忘れが酷く、短期間の記憶も長期間の記憶も曖昧、不正確です。家族や友人と記憶が食い違ったり、特に最近は実在しないエピソードを話していると家族から指摘される事もあります。(←医師(d)曰く記憶が乏しい人が記憶のつじつまを合わせたりする為に話を頭で作ってしまう作話というものかもしれないとのこと。)祖母がよく(前述の伯父の母親)、実在しない嘘のエピソードを人に話し、そのため、親戚同士の仲がこじれたりしていたそうです。何か関連性があるのでしょうか?
記憶検査をしてみないとわかりません。