精神科Q&A

【1760】意識が飛び、右半身を揺するような姉の発作について‏


Q: 私の姉(28歳)は、約8年前から、3日に1回程度の間隔で、原因不明の発作を起こすようになりました。発作の時間は30秒〜1分程です。 姉は以前、IT系の企業で仕事をしており、残業時間も月70時間を越える過酷な生活を送っておりました。発作も疲れやストレスのせいではないか?と家族も心配し、本人の希望もあって、(2年ほど前から)現在はパート社員として別の企業で働いております。
姉の発作の症状(状況)について、毎回共通していることを列挙しますと、
・食事や会話中、自宅や外出先を問わず、急に発作が起こる。
・その発作(症状)が起こる前に、姉の顔色が土気色になる。
・苦しそうなしかめっ面をしながら、飴玉を舐めているように、舌をぺちゃぺちゃ鳴らす。
・(主に)右の腕と脚を大きく揺らす。→PC操作をしている途中で起こるときは、マウスが壊れてしまうのではないかと思うほどガタガタと大きく動かします。
・上記の腕や脚の動きが収まった後、掌を強く硬く握り締め、呼吸も浅く、肩や腕なども硬直してしまう。
・発作が起きている間のことについて、本人は記憶が全くない。
 発作の症状も毎回同じではなく、 あるときは何もないところで、ぼーっと立ったままニヤニヤと笑っていたので、『どうしたの?』と私が問いかけると、『ジャンプしたから、ズレちゃった。』と、意味の解らない事を言ったりした事もありました。 一緒にネイルサロンに行った際も、施術中に、せっかく塗って貰ったジェルを指でこすり落とす動作をした後、担当者さんに『○○(姉が家族の前だけで使う、自分の愛称)は何をすればいいんだっけ?』と問いかけていました。 発作中に声をかけると、こちらに視線を送りますし、上の空の状態で、『ん?』と答えたりします。 病院にて脳波を調べたり、心療内科等にも通いましたが、全て『異常なし』という診断結果でした。
 今まで姉が受診した内容を書かせていただきます。 (X年)A病院⇒神経内科・脳神経外科にてMRI、CT (X+1年)B病院⇒神経内科にてMRI (X+1年)Cメンタルクリニック⇒心療内科にて受診 
 家族も当初、てんかんを疑いまして、脳波や一晩医療器具を付けて心臓の状態を調べたりしたのですが・・・。 お医者様の前でその症状が出るわけでもなく、依然として、治っておりません。 『自分の知らないところで、原因の解らない発作が起きている』と不安で悩んでいる姉を見ると、本当に辛いです。 先生の専門とされている症状ではないかもしれませんが。。。 あらゆる情報を頂きたいので、似たような症状、またはどの科で診察を受けたほうが良い等をご存知でしたら、お力添えをお願いいたします。 
 なお、添付させていただきました動画は、実際に発作が起こって手足を揺すっている状態のものです。携帯で撮ったため、画質が粗く申し訳ありません。


林: これはてんかんです。てんかんの治療を始めることを強くお勧めします。

 添付していただいた動画は、若干画質が粗く細かい部分までは観察できませんが、それでも診断のためには十分な情報が記録されています。これはてんかん発作です。
  さらに、メールに整理して記されている症状についての具体的な情報は、どれもてんかん発作の典型的な描写です。それは、急に始まり、その間の記憶がないことに加え、

・苦しそうなしかめっ面をしながら、飴玉を舐めているように、舌をぺちゃぺちゃ鳴らす。

これは【0373】でも説明した症状で、これだけでもてんかん以外はほとんど考えられないと言える典型的なものです。
そして

・(主に)右の腕と脚を大きく揺らす。→PC操作をしている途中で起こるときは、マウスが壊れてしまうのではないかと思うほどガタガタと大きく動かします。

このときの様子が動画に記録されていますが、これは典型的なてんかん発作です。

【1757】でも解説した通り、てんかん発作とは、脳細胞の一部の電気的活動が発作的に高まることによって起きるものですから、脳の中のどの部分の細胞がそのような状態になるかによって、様々な症状が起こりえます。この【1760】の方の発作が「(主に)右の腕と脚を大きく揺らす」ということから、この方の発作の時に活動が高まっている脳細胞(これをてんかの焦点といいます)は、右の腕と脚の運動に対応する部分、すなわち左の前頭葉であることがわかります。但しそれぞれの発作ごとに、活動が高まる脳細胞の範囲は微妙に異なってきますので、症状も微妙に異なってきます。これが「(主に)右の腕と脚」の「主に」(「常に」ではなく「主に」)の理由です。
また、

あるときは何もないところで、ぼーっと立ったままニヤニヤと笑っていたので、『どうしたの?』と私が問いかけると、『ジャンプしたから、ズレちゃった。』と、意味の解らない事を言ったりした事もありました。

このような言動も、てんかん発作に伴いよく見られるものです。

これだけ典型的な発作が繰り返し起きているのにもかかわらず、てんかんと診断されていない理由は、

病院にて脳波を調べたり、心療内科等にも通いましたが、全て『異常なし』という診断結果でした。

このことだと思われます。すなわち、てんかんであれば、脳波に異常が出るのが当然で、その異常を確認してはじめててんかんと診断がなされるのが普通だからです。
 けれども、てんかんであっても一回だけの脳波検査では異常が認められないことも十分にあることで、そして何より、検査所見以前に、この症状はてんかんに間違いありません。繰り返し脳波検査をすれば、左の前頭葉から側頭葉にかけて、てんかん性の発作波が必ず認められるはずです。それはこの【1760】のケースに実際に見られる発作から、確実だと言う事ができます。

ですから、まずすべきことは、脳波の再検査です。それによって発作波を確認し、てんかんの薬物治療を始めるというのが最も推奨できる手順です。
 けれども、たとえ脳波で異常が見つからなくても、このケースではてんかの薬物治療を始めるべきだと私は考えます。この方針には反対する立場も考えられますが、おそらく多くの医師がこの方針を正しいと見ると思います。臨床的にてんかんの診断は間違いなく、また、この発作をそのままにしておくことは危険だからです。(駅のホームや、その他、危険な場所で発作が起きれば、命にかかわります)。また、てんかんの薬物治療によって発作が消えれば、そのこと自体がてんかんの診断を裏付けることにもなります。

先生の専門とされている症状ではないかもしれませんが。。。 

これだけ典型的なてんかん発作があれば、てんかんを専門とする医師でなくても、標準的な医師であればてんかんと診断できます。

あらゆる情報を頂きたいので、似たような症状、またはどの科で診察を受けたほうが良い等をご存知でしたら、お力添えをお願いいたします。

神経内科、精神科、心療内科、どの科でもこのてんかんの診断は可能です。いや、可能でなければおかしいと言うべきかもしれません。しかし、【1758】【1759】のメール内容がそこに書かれている通りだとすれば、これらの科であっても、典型的なてんかん発作の診断ができないことがあり得るということになります。だとすれば、てんかんの診療を専門とする医師にかかる必要があるという回答をせざるを得ないのですが(しかし、繰り返しますが、これだけ典型的な発作であれば、あえててんかんの専門家にかかる必要はありません。標準的な医師であれば診断も治療も可能です)、医師や病院の具体的なご紹介は本サイトの方針に反しますので、以上の情報をもとに、ご自分でお探しください。



精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る