精神科Q&A

【1753】父から引き離され、統合失調症の妻に引き取られた子供の激しい精神症状(【1647】のその後)


Q【1647】突然離婚すると言い出した妻・・・話を聞くと妄想があるようなのですが で妻の統合失調症について相談した者です。その節は、林先生の丁寧なご説明ありがとうございました。
その後、離婚裁判が進んでしまい、妻の統合失調症の治療どころか、弁護士の意見で妻・妻の実家に話す機会も与えられず時間だけが過ぎていっています。今から二年前の突然の別居に際し、妻は実家に二人の子ども(当時9歳と7歳)を連れ去り、父である私と引き離しました。
引き離されてから、別居後2年弱の間で子供たちと私の交流も回数で6〜7回、時間で合計6時間30分〜7時間程度と、子供たちが別居前まで私と築いてきた親子関係、絆を破壊するには十分な時間でした。私と子供たちが引き離されてからの数時間の面会交流において、4ヶ月目(引き離されてから4ヶ月目)に長男の「てめえの顔など見たくない」と言って錯乱状態で床に泣き崩れたこと、子供たちが見せる不安な様子,長男が私に対してみせる敵意,面会した時の長男の貧乏ゆすり、5ヶ月目に当時の私の弁護士を通して伝えられた次男のおねしょが始まったこと、1年4ヶ月目の面会交流時に次男から聞いたことですが長男が妻の実家で大切にしていたゲーム機器を床に叩きつけて壊したこと、さらに1年9ヶ月目の面会交流時には妻から、子供たち二人が精神科にカウンセリングに通院していること、さらには精神高揚剤などの抗精神薬を就寝前に服用している状況であることを知らされ、子どもたちの精神状況が正常ではないことを知りました。
引き離しの意思が強い妻に対し、子どもたちの主治医の診断書の提出を求め、何度も断られましたが、今日、に弁護士を通じて届きました。以下は、その文面です。
【長男(現在11歳)】病名 情緒不安激しい興奮状態となり壁に穴を開け、血だらけとなる。夜に突然泣き出し、手足をバタバタさせる。腹痛、易怒性等を生じ、X年Y月Z日初診、以降、カウンセリング治療を継続している。父親との面接を契機に誘発されているように思われる。【次男(現在9歳)】病名 情緒不安激しいイライラ感、不眠、易怒性、食欲不振、腹痛、熱発等 心身症〜情緒不安と思われる症状が生じ、X年Y月Z日初診、以降、カウンセリング治療を継続している。父親との面接が誘因と考えられる。
以上が、主治医が記入したと思われる症状です。診断書の病院名、主治医名は消されており、服用している薬名も記載されていませんでした。この文面だけでは十分ではないと思いますが、引き離されてから私が持っている情報はこれしかないです。林先生、子どもたちの症状は、どのような精神症状でしょうか。深刻な片親疎外に子どもたちが陥ったことが直接の原因と思いますが、妻の統合失調症と思われる病気と子どもの精神状態への影響があるのでしょうか。私は自由に子どもに会えない状況となってしまいましたが、親権はまだあり、父親として子どもの安全を確保する義務があります。林先生、子どもたちの症状は単なるうつ病でしょうか。私は子どもたちのために、今何を緊急にしなくてはいけないでしょうか。


林: この【1753】、及び前回の【1647】の内容が事実だとすれば、奥様は【1647】でお答えした通り、統合失調症だと思います。(「事実だとすれば」は、重要な仮定です。もし事実でない部分が含まれているとすれば、それが質問者の勘違いや記憶違いにせよ、あるいは、質問者自身に妄想があるにせよ、全く別の話になります。しかしここではあくまで「事実だとすれば」という仮定が正しいものとしてお答えします)

そして、奥様は相当な期間に渡って治療を中断しておられるようですので、病状はかなり悪化していると推定されます。そのような状態で、母と子ども二人で生活することは、二人のお子様の成長に大きな影響があることは間違いないといえます。その影響の具体的な内容はいろいろ考えられますが、十歳に満たない年齢でこのような環境におかれますと、母親の妄想を共有してしまう(すなわち、子どもも同じ妄想を持ってしまう)ことも考えられます。そのような場合は共有精神病性障害と診断名がつき、将来、統合失調症の本人(この場合は母親)から引き離されれば妄想自体はきれいに治ることが期待できますが、この年齢ですと、たとえ妄想は治っても、成長への影響はぬぐい難いものになるおそれがあります。
また、たとえ共有性精神病性障害にならなかったとしても、今のような状態の奥様のもとで育てられれば、相当な悪影響があると考えるのが自然です。
実際に今、どの程度の症状があるかは、このままでは質問者は知る方法がありません。提出された診断書の内容が書かれていますが、すでに夫婦間の法的な争いとなっている現状で、相手方の弁護士を介して開示された診断書ですから、医学的にどこまで正確に書かれているかは不明です。むしろ、これからの裁判を意識して、奥様や弁護士の意向が強く反映されていると見るべきでしょう。具体的には、

父親との面接を契機に誘発されているように思われる。

父親との面接が誘因と考えられる。


これらの記載がそれにあたります。これを読めば、父親(質問者)が子どもの病状悪化の原因であるように解釈できます。但し医師がこれをどのような趣旨で書いたかはわかりません。可能性としては、
(1)医師は、奥様の言葉を鵜呑みにして言われるままに書いた
(2)医師は、奥様の言葉には疑いを持っていたが、診断書を求める患者の意志に沿うのが医師の仕事だと信じて書いた
(3) 医師は、奥様の言葉には疑いを持っており、「父親との面接の因果関係」は不明と考えたが、奥様が患者(子ども)の家族として情報を医師に提供している以上、それを信頼して診療せざるを得ず、診断書もこれに従って書いた

などが考えられます。(1)は医師として論外、(2)は意見が分かれると思われますが、私は全く賛同できません。(3)はこの状況ではやむを得ないという見方もあり得ますが、診断書が法的争いの資料となることが強く見込まれるこの状況においては、因果関係にまで踏み込んで書くのは医師として不適切であると私は考えます。もし私がその医師であれば、「病状の悪化と父親の面会には時間的前後関係がある」というような記載にとどめたでしょう。

しかし診断書のことよりはるかに大きな問題は、いま質問者がどうすべきかということです。
カギとなるのは、すでに離婚裁判になっている現段階では、双方の弁護士です。

端的には、「離婚裁判をどう進めるかということ以前に、奥様の病状の改善を最優先すべき」ということを、双方の弁護士に理解していただくことが最重要な出発点です。というより、それが出来なければ、お子様を救うことは(そして、奥様を救うことも)できないと考えるべきです。

そのために推奨できる具体的手順は以下の通りです。

(1) かつて奥様を診療された精神科医に、当時の病状・診断名、及び、治療を中断した場合どのような状態になるかが予想されるかを書面にしていただく。

すなわち、奥様の医学的な診断名が双方の弁護士に共有されなければ話は始まりません。そのためには私のようなネット上の医師の意見は信頼性に欠け、ほとんど役に立たないでしょう。奥様を直接診察した精神科医の意見が必要です。
  
(2) 奥様の具体的な症状をできるだけ詳細に質問者が書面にする。

現在の状態を双方の弁護士に共有していただくためです。仮に(1)の医師による書面が得られなくても、(2)には大いに意義があります。

(3) 奥様のご両親に奥様の最近の症状をお伝えする。

【1647】でもお答えした通り、ご両親に現状を理解していただくことはきわめて重要です。

弁護士の意見で妻・妻の実家に話す機会も与えられず

とのこと、これは裁判の戦術上の判断と思われますが、今の奥様とお子様の状態に直面すれば、裁判を有利に運ぶことよりも、奥様の治療を最優先すべきです。

以上の(1)(2)(3)の後、

(4) 質問者の弁護士から、相手方の弁護士に(1)(2)(3)を伝え、裁判より医療を優先すべき状態であることを認識していただく

もちろんその前に、質問者の弁護士に、裁判より医療を優先すべき状態であることを認識していただくことが前提です。
おそらく双方の弁護士とも、奥様の病状がよく理解されていないのだと思われます。
この状況において、質問者の側の弁護士に病状を理解していただくのは質問者の責務といえます。しかし相手方の弁護士に対しては、質問者から直接の連絡は不可能と思われますので、弁護士間の連絡を実施していただく以外にないでしょう。
相手方の弁護士は、奥様が精神疾患であることに気づいていないか、または、仮に精神疾患であることに気づいていても、それほど深刻とは認識しておらず、奥様やお子様の不安定な精神状態は、離婚裁判とそれに至る経緯(つまり、奥様の妄想の中にある質問者の側の悪行)に原因があると誤解しているのかもしれません。
なお、こんな可能性はほとんどないとは思いますが、相手方の弁護士が、奥様の病状を承知のうえで、そんなことは自分の知ったことではない、とにかく裁判が有利になればいい、という姿勢だとすれば、残念ながらほとんど望みはありません。
  
父親として子どもの安全を確保する義務があります。

その通りです。行動してください。

林先生、子どもたちの症状は単なるうつ病でしょうか。

違います。質問者はうつ病という病気を完全に誤解しています。が、ここではその説明は控えます。それどころではないからです。

私は子どもたちのために、今何を緊急にしなくてはいけないでしょうか。

上記の通りです。



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