精神科Q&A

【1738】母は脳腫瘍の手術後に亡くなりました(【1724】のその後)‏


Q【1724】脳手術後のせん妄が長引く母・・・それともせん妄じゃないのでしょうか? で母の術後について相談をしたものです。このたび林先生からご回答いただけたことにまずは深く感謝致します。母は亡くなりました。脳の治療の間の約二ヶ月間、原発の肺がんの方は無治療だったため、最期は肺が真っ白になり呼吸不全で亡くなりました。せん妄のような状態が続いていましたが、ストレスの多い入院生活から解放すべく自宅療養の準備を整えていた矢先のことだけに残念です。手術から丁度一ヶ月後に他院へ転院し、サイバーナイフで後頭部の大きな二つの腫瘍を治療しました。本人がじっとできないため少量の眠り薬を使いましたが、本人も治療したことを認識しないぐらい痛みや吐き気もなく快適な治療でしたので、しかも入院4日間で完了したことを考えると、最初の前頭葉も始めからサイバーナイフ治療にすればよかった、とどうしても思ってしまいます。

林先生の【1724】の回答の「脳内に大きな腫瘍が4個もあり、しかも転移性脳腫瘍ならば手術適応はない」という御指摘、私も今では納得致します。母の腫瘍の大きさに間違いはなく、実際にそれでも手術は行われました。今も手元に主治医の紹介状がありますが(その病院で治療の余地がないので転院を勧められていましたので)そこには「両側前頭葉、右後頭頭頂葉に径4cm大の嚢胞性腫瘍とそれ以外粟粒大の多発腫瘍を認めました。」と書かれています。私は手術の前にガンマナイフの選択肢を主治医に問いましたが「3cmを超えるものには適用がない(スタンダードではない)」の一点張りで手術を勧められました。実はサイバーナイフは3cmを超えるものも施術が行えるのですが(現に母は治療してもらいましたし、放射線の場合すぐには結果は出ないものの施術後約一ヶ月後のMRIでも腫瘍の成長は止まっているようだと言われました)主治医はサイバーナイフの存在自体をご存知なかったようです。

脳治療を早く済ませて肺の治療を再スタートする気でおりましたのに、予想外に時間がかかってしまい、予定より早い最期を迎えてしまいました。私があちこちセカンドオピニオンに伺って最終的に手術という治療法を母に勧めてしまったので、最近はどうしても自分自身を責める毎日です。私は父を学生時代に脊索種で亡くし、母一人子一人で長年やってきたため30半ばにして母を失いとてもショックを受けています。また彼女は絵の講師を生きがいとしておりこの5月に大規模な個展を開くことに意欲を燃やし、手術にも勇敢に立ち向かった結果がこのようなことになり大変残念な気持ちです。

母が術後おかしな状態になっても、主治医は多忙のため話のできる時間は限られていました。看護婦さんに主治医の所在を尋ねると冗談まじりに「先生は今日も張り切って手術に向かいましたよ」という答えが返ってくることも多々ありました。また脳手術をした後軽いせん妄状態になり、毎日看護婦さんに「今日は何日?」と聞かれている何人かのご高齢の患者さんも母の入院中に見かけました。今頃何を言っても後の祭りですが、第二の母のような出来事が起こらないように、少なくともこの主治医には手術ありき?の認識をもう少し改めていただきたい、と思うのは私の考えが過ぎるでしょうか?このような母の末期がん的状態において手術で病を完全に治せと言うのは望むべくもありませんが、少なくとも手術前の状態が維持できる見込みがあってこそ最良の選択となるのではないでしょうか。私自身がこの二ヶ月余りの母の病状を心配することで精神を病んでしまったような気がしています。こちらのサイトの主旨に沿った内容ではなくなってしまったようで、お詫び致します。一人で考えては悶々とする日々でしたので林先生に相談に乗っていただけただけでもとても有難かったです。


林: 経過のご連絡をいただきありがとうございました。お母様が亡くなられてまだ日の浅いこの時期に、このようなメールをお書きになることはつらいことであったとお察しいたします。ありがとうございました。

ここからの回答は、あるいは悲しみに追い討ちをかけるようなことになるかもしれません。けれども、事実をお答えするのがこのサイトの方針である以上、たとえ回答の内容が質問者にとって耳をふさぎたいものであっても、事実を記します。

(1) 【1724】は、やはり手術の適応はないケースだったと思います。

今も手元に主治医の紹介状がありますが(その病院で治療の余地がないので転院を勧められていましたので)そこには「両側前頭葉、右後頭頭頂葉に径4cm大の嚢胞性腫瘍とそれ以外粟粒大の多発腫瘍を認めました。」と書かれています。

上記の通りということは、脳内に多発性の巨大な転移性脳腫瘍があったということですので、手術しても治療をしていることにはなりません。【1724】の回答の通り、手術の適応はありません。むしろ手術によって命を縮めたとみるべきでしょう。
  
(2) 【1724】では、サイバーナイフによる治療も疑問です。

本人も治療したことを認識しないぐらい痛みや吐き気もなく快適な治療でしたので、しかも入院4日間で完了したことを考えると、最初の前頭葉も始めからサイバーナイフ治療にすればよかった、とどうしても思ってしまいます。

このケースでは、手術と比べれば、サイバーナイフの治療のほうが望ましかったとはいえます。その意味では質問者のおっしゃるとおりです。しかし、そもそもこのケースは、脳内の腫瘍を治療するという発想自体が誤りだったと思います。その理由は、繰り返しになりますが、脳内に巨大な多発性の転移性腫瘍があるからです。この腫瘍を取り除いたところで、もはや患者本人にとってほとんど何のプラスにもなりません。残念ながらこれら転移性脳腫瘍が発見された時点で、癌としては末期であることを認めなければなりません。だとすれば、残された人生をいかに納得できる形で過ごすようにするのが、医療であり、周囲の人々の考えることであり、また、ご本人の目指すことになります。
現にこのケースでは、

脳の治療の間の約二ヶ月間、原発の肺がんの方は無治療だったため、最期は肺が真っ白になり呼吸不全で亡くなりました。

であったわけですから、余計な治療行為(余計であったと、はっきり言えると思います)をすることによって、人生の貴重な残り時間を浪費してしまったと言わざるを得ません。
 もちろんこの二ヶ月間に、原発の肺がんの治療をしたとしても、延命はできなかったかもしれません。けれども、少なくとも、脳の治療をするのではなく、他のことに時間を使うことが出来たことは間違いないでしょう。
(但し、脳内の腫瘍によって、何らかのつらい自覚症状が出ていれば話は別になります。その場合は、サイバーナイフ治療によって、症状を取り除くという選択はあり得ます)

今頃何を言っても後の祭りですが、第二の母のような出来事が起こらないように、少なくともこの主治医には手術ありき?の認識をもう少し改めていただきたい、と思うのは私の考えが過ぎるでしょうか?

いいえ、ごくごく自然な考え方です。

このような母の末期がん的状態において手術で病を完全に治せと言うのは望むべくもありませんが、少なくとも手術前の状態が維持できる見込みがあってこそ最良の選択となるのではないでしょうか。

当然です。このような手術は、技術ではあっても、治療ではありません。

私自身がこの二ヶ月余りの母の病状を心配することで精神を病んでしまったような気がしています。

大変なご苦悩であったと思います。お察し申し上げます。本来は、このようなご家族の苦悩もまた、医療者が対応すべきところですが、残念ながら【1724】にかかわった病院にはそこまでのシステム存在しなかったようです。(しばしば死に至る病である癌の医療としては、このようなご家族のケアを含めたトータルのサポートが進んでいることを付記いたします)

こちらのサイトの主旨に沿った内容ではなくなってしまったようで、お詫び致します。

いいえ、十分以上に主旨に沿った内容です。経過のご連絡にあらためて感謝申し上げます。
また、今回の回答によって、質問者の苦悩は増したかもしれません。が、それでも顧みずに事実を回答するのがサイトの主旨であるとご理解ください。

なお、

(脳外科の) 主治医はサイバーナイフの存在自体をご存知なかったようです。

そんな脳外科医が存在するとはいくらなんでも考えられませんが・・・。



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