精神科Q&A

【1731】「PTSDなんか無いよ、マスコミが作った病名だ」と医師から言われました


Q: 30代男性です。2年前、交通事故にて、頭部外傷と足を骨折。高次機能障害とPTSDを発症しました。
事故後、記憶障害に悩み、脳外科受診、異常なしと言われ、同病院、心療内科受診。
胸のあたりの空間に、丸い強い、シコリとザラザラする感じが残り、フラシュバック、自殺願望とひどくなりました。
自分も不安でいろいろ調べ、後日、自分の症状は、PTSDですか?と聞いたら・・・
先生の機嫌を損ねたか「PTSDなんか無いよ!マスコミが作ったんだ!あんたなんか、精神病院にいけ!」と怒鳴られました。

現在は、病院も変え「PTSD」と認められました。現在はパキシル、コンスタン、不安時にデパスを内服しています
以前のように、強い症状がかなり減りましたが、ひとつ解せないことがあります。
実は私には幼少期に虐待体験があるのですが、それが、交通災害(車に対する、フラシュバック、トラウマ、夢)等のほかに、同時に蘇るようになったのです。
もう30年前の事なのに、意外にも鮮明に蘇るのです。自分の過去の体験を先生に話し難く、現在に至ります。
これも、PTSDでしょうか?
PTSDが無いと否定される先生がいまだ多いと聞きますが、それは、まだ、認知されてないのですか?

なお、事故までは普通に生活しており、精神科、心療内科受診履歴はありません。家族も同様です。



林:
自分の症状は、PTSDですか?と聞いたら・・・
先生の機嫌を損ねたか「PTSDなんか無いよ!マスコミが作ったんだ!あんたなんか、精神病院にいけ!」と怒鳴られました。


PTSDは正式な病名ですので、この医師の言葉は不合理です。
マスコミが、PTSDではないものまでPTSDないしはPTSD的などと報道している事実があることは否めませんが、PTSDという病気は医学界で正式に認められているものです。

PTSDが無いと否定される先生がいまだ多いと聞きますが、

そのような事実はありません。
しかし上記のように、PTSDでないものがPTSDと誤解されている状況がありますので、自分がPTSDだと思っている人が、医師から、それはPTSDではないと否定される例は非常に多くあります。

なお、

ひとつ解せないことがあります。
実は私には幼少期に虐待体験があるのですが、それが、交通災害(車に対する、フラシュバック、トラウマ、夢)等のほかに、同時に蘇るようになったのです。


これは精神医学的に非常に興味深い事実です。(「興味深い」などというと、深く悩んでおられる質問者に対して失礼ではありますが)
それは、PTSDという病態で生じている脳内の変化に関係するものです。
すなわち、PTSDでは、トラウマのフラッシュバックや、逆にトラウマについての記憶がないなどの症状が認められます。これらは、「とても恐ろしい体験」に対する、心理的な反応としても理解できるものです。
しかし、PTSDについての多くの脳研究によれば、PTSDの人を精密に検査すると、トラウマとは直接関係のない点でも記憶障害が認められることがしばしばあります。
つまり、トラウマという体験によって、脳内の記憶にかかわる部分が何らかの変化をきたしているといえるのです。そして、PTSDの人の脳には海馬の萎縮が認められるという所見は、このことに関係していると推定するのが妥当です。
この【1731】のケースで体験されている、PTSDの直接の原因であるトラウマとは関係のない出来事の記憶のよみがえりは、このような事情との関連で非常に興味深く、PTSDという障害の本質にかかわっている可能性があります。そのような本質の解明は、PTSDのより良い治療法の開発にもつながるものです。

もう30年前の事なのに、意外にも鮮明に蘇るのです。自分の過去の体験を先生に話し難く、現在に至ります。
これも、PTSDでしょうか?


現代の診断基準では、PTSDの原因となったトラウマとは別の出来事の記憶のよみがえりは、PTSDの症状とはみなされていません。けれども、上記の説明の通り、PTSDという脳の状態には深く関連する可能性があります。主治医の先生には是非お伝えしたほうがいいと思います。

なお、この【1731】では、「高次脳機能障害」「記憶障害」も発症したと記載されていますので、実際にはこの方の記憶のよみがえりのメカニズムの解明はかなり複雑なものになります。PTSDでは、このように、脳の器質的障害を伴っていることが、症状を複雑にしていることは少なくありません。




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