精神科Q&A

【1721】認知症とせん妄と薬の使用について‏ 


Q: 現在、母と二人で暮らしている、85才の父のことで質問させて下さい。私は他県に住んでいます。 父は5年ほど前に腹部大動脈瘤の手術をしました。手術結果と経過は順調でしたが、その手術後に、典型的な「術後せん妄」と思われる症状を起こしました。点滴などを引き抜こうとする、ベッドから降りようとする、病院を昔の職場と認識する、いるはずのない人が来たと言う、天井に虫がいると言う・・等々です。(父はまったく飲酒はしません。) ですが、担当の医師からも「せん妄」との説明を受けた通り、これらの症状は、退院して帰宅してからは、問題なくなったと母から聞いています。 退院後は近所のかかりつけ医と手術を受けた病院に定期的に通院し血圧コントロールの薬を続けていました。

数年経過して、母が、父の物忘れがひどくなり、認知症らしい・・と、言うようになりました。最近は記憶が弱って話が通じなくなってきたとかご近所の人がわからなくなってきたとのことでしたが、日常生活はなんとかそれまで通りにやっていました。 しかし二カ月ほど前、父は大動脈解離を起こして倒れて救急車で運ばれ自宅近くの病院のICUに入りました。当初は、回復退院の可能性はほとんど望めない…とのことでしたが、二週間の絶対安静を経て、回復し、入院から一ヶ月で退院することができました。 今回の入院では、前回の手術後以上に「絶対安静」が必要でしたので、薬は不明ですが、「落ち着かせるお薬」「眠れるお薬」などを量を調節してコントロールしているとの説明があり、また、退院まで、ベルトで身体をベッドに固定されていました。ベッドから降りることは許されておらず、歩行や自分で立つことはできない状態でした。 ICUにいる間は、意識はほとんど朦朧としていて言葉も不明瞭、それでも時折、点滴やマスクを外そうとしたり、起きあがろうとするなどの行動があり、その後一般病棟に移ったあたりから徐々に意識も言葉もハッキリして来たが、病院にいるということがわかっておらず、また、昼夜逆転しているようで、面会に行くと眠っていることがほとんどで、夜中に目を覚まし大声で家族を呼ぶ等していたそうです。 同室の入院患者さんへの迷惑などもあり個室に移ってから数日後、(退院まではあとひと月ほど…と言われた数日後に)急遽退院が許可されました。

退院時には、歩くことや立つことはできないとされ、おむつをしている状態でしたが退院当日の夜、就寝後に母が気づくと、父は1人で歩いて手洗いに立っていたとのことで、その後身体の方は急速に回復し、日中の生活は入院前と同じようにできるようになりました。トイレの問題も日中はほとんど問題ないそうです。 入院中、退院できたとしても歩行などはできないだろう等の話があったため、退院後に備えて介護保険申請をし、退院直後はヘルパーさんにも来てもらっていましたが、今は、ヘルパーさんにやってもらうようなことは無くなったとのことで、週二日、デイサービスで老人ホームを利用しています。

先日、様子を見に行き、退院後に処方されて服用している薬のリストを見て、少し疑問に感じることがありました。 退院以来続いているのは、ミカルディス、アテレック、セロケン、という血圧に関する薬と胃腸に対する、タケブロン、の他に、マイスリー5mg、1日一錠、リスパダール1mg、1日一錠、です。 退院6週間後の診察のあとに、上記に加えて、アリセプトD(3mg、1日一錠、7日分、その後の分として5mgを21日分)そして、リスパダール1mgが、1日1.5錠に増量され、28日分、処方されていました。 じつは、その日以前の精神科の受診では、父は認知症と診断されておらず、母が、父と同席の場では言いにくい症状などをあらかじめ手紙に書いて郵送してから、診察を受けに行ったところ、アリセプトが出され、リスパダールが増量しました。 指示通りの服用を続けています。 母から「認知症が進んだようだ」と、色々な報告があります。デイサービスに行って、そこにいるはずのない知人に会ってきたと言う、家にいても、ずいぶん前になくなった親戚が、今ここにいたと言う、毎日、父が倒れるひと月前に死んでしまったペットの世話をしようとする、最近、そのペットの他にあと二匹いたはずだ、どこへ行ったんだろう?と、私に電話をかけて聞いてきましたが、有り得ない話を憂鬱そうに訴えていました。

そして母が特に困るのは、昼夜逆転と、夜中の「異常な行動」とのことです。 退院当日から、父は、夜一旦眠ったあと数時間して起き出し、意味不明とも言える行動をするようになりました。 深夜に部屋中の明かりをつけ、台所で鍋を火にかけて、焦げ付かせて煙を立てているのに知らん顔でいるとか、急に大声で色々な人の名前を呼び続けるとか、家中をウロウロと歩き回ったり、タンスを開けて引き出しの中身をすべて出してしまうとか、そしてそれらのことを、もう一度眠ったあと目が覚めるとまったく覚えていないそうです。(「そんなひどいことをオレがするはずないだろう……」と。) 昼間は、記憶がおかしく辻褄の合わないことを言う程度なのが、夜は妙に行動的になったり興奮状態になって目が離せない状態になり、昼は自分でトイレに行くのに、夜は起きていても(紙おむつ着用しているのに)服を濡らしてしまうそうです。 デイサービスに出掛けるようになり、昼と夜のメリハリがつけば、よくなるのでは…と期待していましたが、ごくたまに、グッスリ眠る夜もあるそうですがほとんどは相変わらず昼間の眠気が強く、日中はウトウトしてしまい、夜中に目覚めて異常行動……というパターンが、ほぼ毎日のように続いているようです。 母は、これが認知症というものらしい……と言うのですが、私が疑問に思うのは、このような症状の高齢の父に、リスパダールは、何故必要なのか、危険ではないのか、ということです。 また、素人判断ですが、日中の状態は、確かに認知症の進行と思えますが、夜中に起きての行動は、それとは別の「せん妄」ではないのでしょうか? その原因が薬(リスパダール、マイスリー)にあるという可能性は考えられないでしょうか? リスパダールの作用で日中に眠気があり眠ってしまい、そのため夜の睡眠が短くなり、短時間で目覚めたときに、マイスリーの作用で、意味不明の行動をとる…ということは考えられないでしょうか? 私は、父が入院時に、以前の手術後と同じ原因から「せん妄」を起こしているはずだと思うのですが、入院による環境変化や身体拘束などによる「せん妄」であれば、以前と同じく、環境が戻れば回復する可能性もあるのではないかと、その可能性を考えて、こういった薬を、やめるか減量することを考慮してみて欲しい気がするのですが、それは、身内としての(認知症に対する)甘い考えなのでしょうか? そうだとしても、リスパダールを飲み続ける必要があるものなのでしょうか? そういった点について、夜の状態を話して主治医に相談してみるように母に、伝えたのですが、どういうワケか、その結果、むしろ増量されてしまう結果になりました。 私が直接診察に同行でもして話を聞けばよいのだと思うのですが、少し遠方のため、簡単には行かれないので今は母に任せている状態でこちらで質問させて頂くことを思い立ちました。 もちろんここで質問するだけで、薬をやめたり減らしたりさせるつもりではなく、実際には主治医に相談して指示を受けるのが前提ですが、腎臓の機能もだいぶ落ちているという父に、余分な薬の負担をかけさせたり、不必要な副作用の危険に遭わせたくないと思っています。これが私の考えすぎならば、あまりうるさく言わずに、必要な手伝いだけを心がけようと思いますが、そうでないなら、もっと、病院と話をするように進めて行きたいので、どうかよろしくお願いいたします。


林: 質問者はお父様の症状をよく観察しておられ、しかも深い洞察力を持っておられることがわかります。ここに書かれている質問者の見解はおおむね的を射ています。ただし、質問のポイントである薬のことについては、そうとはいえません。

経過・症状とも具体的に詳しく書かれていますので、あえて整理し直す必要はないかもしれませんが、質問文はやや長文ですのでごく簡潔に整理しますと、

・現在、お父様にせん妄の症状が出ていることは間違いありません。
・お父様が認知症であることもおそらく間違いないでしょう。「おそらく」というのは、せん妄がないと思われる時期の症状が、お母様からの情報に限られ、その情報は現在の症状についての情報に比べて乏しいからです。けれども一応お父様は認知症であるとして話を進めることにします。
・すると現在のお父様の状態は、「認知症を基礎として、そこにせん妄が重なっている」とまとめることができます。このような場合、夜に精神症状が強くなるのも典型的なパターンです。

以上を前提にご質問を検討しますと、

私が疑問に思うのは、このような症状の高齢の父に、リスパダールは、何故必要なのか、危険ではないのか、ということです。 

これは一般論としては答えられません。高齢者ではリスパダールをはじめとする抗精神病薬の副作用が出やすく、転倒などの危険性が相対的に高いことは事実です。しかし薬とはどんな場合でもプラスとマイナスのバランスを考えて使うものであって、今の例でいえば、「副作用で転倒の危険は相対的に高い。しかし、幻覚妄想を抑えるというプラスが副作用の危険性というマイナスを上回っている」という判断があれば、リスパダールを使ったほうがいいということになります。

また、素人判断ですが、日中の状態は、確かに認知症の進行と思えますが、夜中に起きての行動は、それとは別の「せん妄」ではないのでしょうか? 

素人判断とはいえない、正確な洞察です。

その原因が薬(リスパダール、マイスリー)にあるという可能性は考えられないでしょうか?

考えられます。しかし、その可能性を過大に評価するのは、素人判断です。

リスパダールの作用で日中に眠気があり眠ってしまい、そのため夜の睡眠が短くなり、短時間で目覚めたときに、マイスリーの作用で、意味不明の行動をとる…ということは考えられないでしょうか? 

考えられます。しかしこの程度のことは、薬を処方する前に医師は一瞬で考えているのが普通です。すなわち、このような可能性があってもなお、リスパダールとマイスリーを処方することのプラスの方が大きいという判断のもとに、これらの薬が出されているのだと思います。直接診察している医師がそのように判断している以上、私がこのケースにコメントするのは筋違いでしょう。

ですので、このケースへのコメントとしてではなく、ここからは一般論としてお答えいたします。
 認知症にせん妄(特に夜間せん妄)が重なった場合の薬物療法としては(薬物療法が必要なら、という条件つきです。必要ない場合もあります)、私ならマイスリーは処方しません。マイスリーが中途半端に効いて、かえって夜間せん妄を悪化させるおそれがあるからです。リスパダールを夜に処方することは十分に考えられる適切な方法で、それによって良眠が得られ、せん妄が改善することが期待できます。朝や昼にリスパダールを処方することはしません。それによって日中の眠気が発生し、夜の睡眠を妨げるおそれがあるからです。夜のリスパダールの量については個人差があるので一概にはいえませんが、1錠や1.5錠で、もし十分な睡眠が得られず、しかもせん妄が出るようでしたら、リスパダールの量を増やすか、他の抗精神病薬に変更します。

この回答の冒頭で、質問者は症状を良く観察しておられ、深い洞察力を持っておられるとお書きしました。しかしいくら洞察力に優れていても、このようなケースの処方が適切かどうかを素人が判断するのは無理です。それは表面的な知識に基づいた一知半解にすぎません。その意味からすると、

 もちろんここで質問するだけで、薬をやめたり減らしたりさせるつもりではなく、実際には主治医に相談して指示を受けるのが前提ですが、腎臓の機能もだいぶ落ちているという父に、余分な薬の負担をかけさせたり、不必要な副作用の危険に遭わせたくないと思っています。これが私の考えすぎならば、あまりうるさく言わずに、必要な手伝いだけを心がけようと思いますが、そうでないなら、もっと、病院と話をするように進めて行きたい

これは非常に適切なお考えです。

したがって、総合的には、この質問者の方の洞察力は非常に優れているといえると思います。

その後の経過(2010.5.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る