精神科Q&A

【1704】幻聴や被害妄想があり、前頭葉型認知症と診断された父


Q: 私は30代前半の男性です。義父(60代前半)について相談いたします。 妻(30代前半)とは3年ほど前に結婚しました。それまで妻は、義父と妻との二人で暮らしていました。妻の母親は15年ほど前に亡くなっています。原因は自殺でした。義父はそれからもごく普通に働き、60歳で仕事を退職しました。それまで入院するほどの病気はなく、症状の軽い糖尿病で薬を処方してもらっていました。60を過ぎたころ、私と妻が結婚したのを期に義父は妻と離れて暮らすようになりました。 一人暮らしになった義父ですが、3ヶ月ほどたった頃から夜眠れないということで、開業医の心療内科に行くようになり、初めは入眠剤を処方してもらっていました。退職してからは仕事はしていなく、日中は何もやる気がなくなり、家の外から出なくなりました。そのことからか、自分は駄目な人間だと思うようになり、被害妄想や幻聴のような症状が現れました。例えば、・自分はいつも誰かに見られている。・ヘリコプターのような音が聞こえる。・盗聴されている。というようなものです。 心療内科からはうつ病と診断されました。(心配になった妻も一緒に通院し、主治医から聞いています。)薬も、睡眠薬のほかにも、デプロメール、リスペリドンなどの薬が処方され、1〜3週間ほどたっても効果が見られないと服薬の量を増やしたり、新しい薬を処方してもらったりしました。心療内科には約2年ほど通院しました。通院を始めて約1年ほどたった頃に、一度外出もできるようになり、車の運転もできるほど回復した時期がありました。しかし、以後義父の調子が悪くなり、家事ができない、外出ができない、電話に出られない・かけられない、幻聴、誰かに見られている、という症状がひどくなりました。何とか外に連れ出し、義母の墓参りに行った時は、供えていた花束をゴミ箱に捨てられなく、家まで持って帰ることもありました。また、「自分は性病で逮捕されるから娘を頼む」という電話が来たこともありました。表情も暗く、視線が合わなくなりました。心配した妻が義父の元へ行き、1ヶ月ほどいましたが、症状は変わらなく、逆に妻が精神的にまいってしまいました。 定期的に通っていた心療内科ですが、あまり症状が変わらなくむしろ悪くなっているように感じたことから、義父を半ば無理に連れ出し、総合病院の精神科に連れて行きました。それが今から約9カ月前です。精神科では、義父が一人暮らしであることや、診断の時に「死を少なからず考えたことがある」と伝えたこともあり、すぐに入院となりました。主治医にこれまでの心療内科で処方された薬を見せますと、「うつ病の治療として一般的な処方がされている」とのことでした。 入院してMRIやウェクスラー型の心理検査などの検査が行われました。服薬のほうも何種類か処方されました。入院して約2ヶ月ほどたってから出された診断名は「前頭葉型認知症」だろうということでした。MRIの結果は、前頭葉の血流が少し良くないということでした。心理検査によると、知能は、学歴が大卒にしては若干低いが、それほど心配するほどでもない。むしろ生活をするための能力が落ちている。ということでした。主治医からは「うつ病」と「統合失調症」「前頭葉型認知症」の3つが考えられ、おそらく「前頭葉型認知症」だろうとのことでした。(前頭葉型認知症の症状に人目を気にするなどの症状があるかは分かりませんが)また、義父は薬の効果が得られにくい体質とのことで、主効果が現れる前に副作用のほうが強く出てしまい薬の量を増やせないそうです。パキシルなどの薬が処方されました。主治医からは入院による治療はやりようがないということで、介護認定を受け、退院し、現在はヘルパーに来てもらい食事などを作ってもらっています。ただ、入院中の義父は、入院前よりは表情が明るくなり、病院内の売店や理髪店などには行けるようにはなりました。 退院してからの義父は次第に入院前の状態に戻り、食事はヘルパーさんが作ってくれるのですが、外出はできなく、お風呂さえ入らないという状況です。妻が2週間に1回ほど行き、お風呂に入れてきています。妻が行かなければ1ヶ月も入らない時があり、ケアマネージャーと相談し、週に1回デイサービスに行くことになりました。義父としては本位ではないようです。 現在の義父は、介護認定を受けたことに落ち込んでいます。と言っても、認定前も常に何かのことを気にして落ち込んでいる状況でした。人の目を気にすることは依然としてあり、「日本中どこにいても見られている」と言っています。興奮することは一切ありません。入院した病院には現在も1ヶ月に1回ほど通院しており、服薬もしてもらっていますが、主治医からはやはりやりようがないと言われています。
 長文になってしまい申し訳ありません。「前頭葉型認知症」と診断された義父に何か治療方法はあるのでしょうか?それとも他の病名も考えられるのでしょうか? 妻が義父と離れて暮らすようになってから間もなくに調子が悪くなったことから、私としても責任を感じています。どうかよろしくお願いします。


林: お義父様がなぜ前頭葉型認知症と診断されたのか、根拠が不明です。また、そもそも、「前頭葉型認知症」という病名は、一応あることはありますが、一般的には使いません。前頭側頭型認知症の「前頭葉型」と言われたのを聞き違えておられるのではないでしょうか。また、

MRIの結果は、前頭葉の血流が少し良くないということでした。

これもあり得ません。MRIは血流を調べる検査ではないからです。
したがって、診断名とあわせ、この質問者が医師から説明されたこととしてメールに書かれている内容は、信用性が低いと言わざるを得ません。もう一度すべて確認し直すことが必要です。

話を診断に戻しますと、たとえ何らかの検査で前頭葉の血流が低下していることがわかったとしても、それだけで前頭側頭型認知症であるとか、前頭葉型認知症であるとか診断することはできません。臨床症状がそうした認知症に一致していてはじめて、それらの診断の可能性が出てくるというのが正しい手順です。
 そこでお義父様の症状を見てみますと、「見られている」「盗聴されている」などの被害妄想が主であり、したがってまず考えられるのは統合失調症です。この年齢での初発は珍しいとはいえますが、年齢が高いというだけで統合失調症の診断を否定することはできません。
統合失調症が最も考えられるということになると、これまでの薬物療法がどうであったかが問題になりますが、メールには処方された薬物名が散発的に記されているだけで、そしてこの質問者の医学的な記載の信用性が低いこともあわせますと、これまで適切な治療が行われていたかどうか不明と言わざるを得ません。ただはっきり言えるのは、お義父様には抗精神病薬による治療が必要だということです。

主治医からはやはりやりようがないと言われています。

そんなはずはありません。質問者の記載に重大な誤りがあるか、この医師の技量に問題があるかのどちらかだと思います。


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