精神科Q&A

【1689】薬も電気けいれん療法も効かない私は擬態うつ病でしょうか


Q: 38歳で無職、両親のいる実家住まいの男性です。結婚はしていません。現在、某大学病院の精神神経科に通院しています。32歳のとき私は中小企業のSE・プログラマーとして勤務していました。その年の1月から新規プロジェクトに配属されたのですが、その仕事が人手不足のため激務で、毎日終電で帰宅するか夜通し徹夜作業の日々、土日出勤は当然といった状況で休日などほとんどなく、一人暮らしだった事もあり急激にストレスを感じ始め、その年の10月頃から徐々に朝起きられなくなり、遅刻が増え、週に2,3日は休むようになりだしました。当然上司からは叱責を受け、仕事の方も睡眠不足や疲労感などから集中できずミスを頻発し、仕事に対する自分への自信を失っていき、肉体的にも精神的にも限界を感じ、33の年の3月、上司に退職を申し出ました。 話が前後しますが、その前の年の12月、明らかに体調不良を感じるようになり、何気なく見ていたテレビのCMがきっかけで「うつ」という病気を知って、もしかしたらそうなのかもと思い、近くの心療内科に通い始めていました。朝起き上がれないこと、不眠、無気力感、倦怠感、加えて仕事の激化で疎遠になってしまっていた彼女と別れたことによると思われる喪失感や虚無感などを訴えたところ、特に病名は告げられませんでしたが、デプロメール25mgx3、アモキサン25mgx3、ワイパックス0.5mgx3を処方されました。 会社に辞表を提出したところ、思いとどまるように言われましたが「この先仕事を続けていく自信がない」旨を告げ、心療内科に通っている事を話すと、ならば診断書を提出して半年間休職してはどうか、という事になり、休職させてもらうことにしました。ただ、その時の診断書を記載する際、心療内科の先生に「病名はうつ病でいいかな?」と尋ねられたのが気にかかりましたが(なぜ私に病名を問うのか?)、その場はそれでお願いしました。その後も通院し続けたのですが、具体的な病名を先生の口から聞く事はありませんでした。何度か「私の病名は何なのでしょう?」という質問はしたのですが、「それは判断が難しいねぇ、うつ病だとは思うんだけど」程度の答えでした。 そして休職中はほぼ寝て暮らし、家事などはほとんどろくにできず、心療内科には2週間に一度通院しました。処方もデプロメールがトフラニール、アナフラニール、PZC、アンプリット、ノリトレン、トリプタノールなどと約1ヶ月おき程度の間隔で変わりはしたものの、いずれも副作用があるだけで全く効果は感じられず、体調も一向に改善せず、結局休職期間の半年があっという間に経ち「一身上の都合により」退職し、アパートを引き払って実家へと戻り、親に養ってもらっての生活となりました。それから現在まで仕事は一切していません。

通院を始めてから10ヶ月ほどたったころ、心療内科の先生から「リタリンというのがあるんだけど、試してみる?」と聞かれました。当時はリタリンが何なのかは知らず、ただもう治りたい一心で「はい」と返事をしました。しかし、それが私にとっては症状を悪化させ、長引かせるような結果になってしまったような気がします。リタリンの効果がてきめんだったのです。ベッドから起き上がる事も出来ず、ただ毎日寝て暮らしていたのが、とたんにやる気がわいてきたので、すっかり嬉しくなり、改善されたと思い込んでしまったのです。 今思えば、当時の自分はどの薬も効果がないので心療内科の先生にさじをなげられたのではないかと思っています。なぜかというとリタリン10mg錠を一日6錠処方されるのは、ナルコレプシーの患者に対してであって、通常、うつに対してはせいぜい3錠までだそうですね。それを知って「ああ、リタリンでごまかされていたのか」と後になって思ったのです。その後もリタリン+何らかの抗うつ薬(三環系、四環系、SSRI、SNRI等)を処方されてはいましたが、結果的にリタリン以外の薬の効き目は感じられませんでした。というよりも、リタリンの効果が強すぎて、他の薬の効果が判らなかっただけなのかも知れません。しかし、リタリンは継続して使い続けるうちに耐性がついてしまうため、何日かは抜かなければなりませんでした。その反動で一層うつ症状が重く感じられるようにもなっていましたが、その時には既に完全に依存しており、リタリンのない生活は恐怖にまでなっていました。 それでも何とかだましだましの生活をしていましたが、次第に行動や言動がおかしくなっていき、覚えのない電話をかけ続けたり、気が付くと見覚えのない場所にいたり、1人で車を運転しているにも関わらず後部座席に友人たちが座っている幻覚を見たり、「飼っていた猫が逃げ出してあの家に入っていった」と思い込んで見ず知らずの家に押し入り警察を呼ばれたりと、完全にリタリンに振り回される日々を送るようになっていました。 そんな生活を約3年間も続けていました。が、そんな様子を見かね、たまりかねた親が某大学病院へ入院させると言い出し、自分もその奇行に歯止めがかけられない上に、全く改善していないという自覚もあり、本心は入院というものに抵抗があったのですが、しぶしぶ承諾し、早速入院の手続きを取り、翌週から入院することが決まりました。 その時の心境は、どんな薬を飲んでも全く治らないことで親には迷惑のかけ通し、リタリンで現実逃避している間以外はもう、自己嫌悪を通り越して消えてなくなりたい気持ちでいっぱいで、さらには何よりも胸に大きな穴があいたような途方もない虚無感に押しつぶされそうでたまらず、それが結局はリタリンに頼らざるを得なかった理由でもありました。が、入院すればもう「リタリンは断薬させる」という治療方針を告げられ、かなりショックでした。 そして精神科の開放病棟に入院し、3日後、入院したばかりであるにも関わらず、少々無理な「外出願い」を届け出て一時帰宅しました。その時はまだ任意入院でしたので融通は利いたのだと思います。 そしてその夜、家族が寝静まった頃を見計らい、手首をサバイバルナイフで骨に達するまでリストカットし、自殺を図りました。自己嫌悪と虚無感などが一挙に押し寄せて、入院した初日の夜にそうする事を決めていたのです。もうこの世から消えてなくなろうと思った訳です。手首を骨に達するまで切っていたので、動脈から溢れるように血が噴き出していましたが、凝固しないようにバケツいっぱいのお湯に手首を浸けていました。が、出血多量で貧血のためフローリングに倒れ込んでしまい、その音を聞きつけた親に見つかり、結局は未遂に終わりました。 翌日、再度大学病院に戻されると、今度は任意入院ではなく、医療保護入院(強制入院?)の承諾書にサインさせられ、病院側の完全監視の元、手足も拘束されての再入院となってしまいました。手首はそれから整形外科にて縫合手術を受けましたが、神経まで切断していたため、今でも左手の感覚は麻痺したままです。約1ヶ月間拘束されましたが、その後は病院側も自殺念慮はないと判断したらしく自由になりました。

しかし、それから約3ヶ月間入院したのですが、手首を切ったショックのせいなのかどうか理由はよく判りませんが、今までの無気力感や倦怠感、それに押しつぶされそうなほどの苦しい虚無感などは霧が晴れたかのようになくなっており、入院中は今まで無気力で全く読めなかった本を大量に読んだり、元気を取り戻していました。薬もデパケンとロヒプノールのみで、入院生活中は精神的には穏やかでしたし、早く退院して何かをしたいという気持ちでいっぱいでした。入院中の治療は、左手のリハビリ以外は毎朝の研修医による問診のみで、薬の変更もないまま、特に何もありませんでした。

そしてまもなく退院したのですが、その元気は徐々に薄れていき、翌年の春ごろにはまた無気力、倦怠感、虚無感などが戻ってきてしまっていました。 そして退院後は大学病院の外来診察に通院するようになり、抗うつ薬を色々と処方されていたのですが、やはりまったく効果は感じられないままでした。三環系、四環系、SSRI、SNRI、メジャートランキライザーまで試せる限りの薬を1年間試したのですが、どれも全く効果を感じず、中でもリスパダールは2mgx2を飲んだ時は一日中拘束されたように体が重くだるく、何も出来ず2週間ほど寝たきり状態になってしまいました。 入院時、退院時の病名は「抑うつ状態にある」との説明でした。が、大学病院の外来に通院し始めて10ヶ月すぎたころに担当医の先生に再度質問してみたところ、「ここまで薬が効かないと抑うつ神経症かも知れないね」との答えでした。 

そしてそんな時に先生から「電気けいれん療法」を提示されました。 薬が効かない人には効果がある、との事でしたので、再度入院して電気けいれん療法を受けました。週2回、合計12回受けたのですが、いずれも記憶喪失や頭痛、吐き気、ふらつき、筋肉痛などの副作用らしきものは全くなく、そして肝心の効果の方も結局は全く感じられませんでした。最終手段と言われていただけに期待をしていたのですが、結局は何も変わりはありませんでした。ちなみに今回の入院中は眠剤以外は処方されていませんでした。

そして退院後も以前と同様、通院し、現在も薬物療法で色々な薬を再度試しています。退院後は、デプロメール50mgx1、レキソタン5mgx3、ロヒプノール2mgを処方されたのですが、ちょっと変わった事と言えば、以前デプロメールを処方された時は副作用などなかったのですが、この時は吐き気、頭痛などがひどく、すぐに処方を変えてもらった事でしょうか。それ以降は、アモキサン100mgに変更してもらい、現在はトレドミン100mg、アモキサン100mg、レキソタン5mgx3、ロヒプノール2mgを処方されて約1ヶ月ちょっと経ちますが、軽い副作用がある程度でやはり効果は感じられません。

ここまで全く薬が効かず、電気けいれん療法も効果がなかった私はうつではなく、擬態うつ病なのでしょうか? もう5年以上も休養しています。眠い時や疲れている時などは好きなだけ眠り、充分過ぎるほど静養していると思います。(昼夜逆転などのおかしな生活はせず、なるべく生活のリズムは保つよう心がけてはいるつもりですが)最初に通っていた心療内科の先生からもはっきりとは「うつ病」だとは診断されていませんし、現在も「抑うつ神経症、ないしは神経症かも」といった曖昧な感じです。 現在の症状としては、無気力、倦怠感、以前はあった興味・好奇心の喪失、虚無感、性欲の減退あるいは喪失(これについては過去はかなり性欲欲求は強かったのですが)などです。 今後の治療について、どうしたらいいのかまったくわからなくなってしまいました。今では大学病院の担当医の先生に質問しても「とりあえずこのまま様子を見ましょうか」としか言われなくなっています。これは結局、うつ病などではなく、単なる怠け病なだけなのでしょうか? ※ちなみにこんな事をしていてはいけないとは思いつつ、以前の心療内科にて、現在時々通院してはベタナミンを1日に25mgx6を処方されており、それを毎日ではなく時々(1週間に1回程度、25mgを3か4錠ほど)使用しています(大学病院ではベタナミンの処方は断られたためです)。これを服用した時のみは、その日一日は活発に行動できるようになります(無気力感はなくなります)。要するに今までに効果を感じられた薬は、リタリン、ベタナミンのみです。 長文・蛇足が続き申し訳ありません、ぜひご回答頂けたら嬉しく思います。


林: 
ここまで全く薬が効かず、電気けいれん療法も効果がなかった私はうつではなく、擬態うつ病なのでしょうか?

難しいケースです。擬態うつ病、本物のうつ病、両方の可能性が考えられ、決め手がありません。ただしそれは、「全く薬が効かず、電気けいれん療法も効果がなかった」からではなく、経過全体からそのようにいえるということです。発症のころにさかのぼって、振り返ってみましょう。

朝起き上がれないこと、不眠、無気力感、倦怠感、加えて仕事の激化で疎遠になってしまっていた彼女と別れたことによると思われる喪失感や虚無感などを訴えたところ、

仕事のストレス。私生活のストレス。これらが重なって不調になった。これは、擬態うつ病の典型的なパターンです。人が生きていくうえで当然出会うストレス、そのストレスによって落ち込んだ場合、それは正常な反応であって、うつ病ではありません。そのようなものをうつ病と呼べば、世の中はうつ病ばかりになってしまいます。「それは、「うつ病」ではありません!」のケース5で解説した通りです。
 けれども、ストレスは本物のうつ病発症のきっかけになることもあります。このことが、うつ病と擬態うつ病の区別を難しくしていることの大きな要因の一つです。ですからこの【1689】のケースも、発症の仕方がいくら擬態うつ病らしくても、だからといって擬態うつ病であると単純にいうことは出来ません。区別するためには、医師が症状をよく観察し、加えて、そのストレスがその人にとってどの程度のものであったか、そのストレスとは不釣り合いに強い落ち込みが生じていないかを見極めるなど、時間をかけた診察が必要です。この【1689】の方のストレスは、仕事面だけをみても、心身に不調が生じて当然ですので、ただ落ち込んだとか不眠だとかの症状だけでは、人間としての正常な反応(=擬態うつ病)なのか、ストレスによって誘発された病気(=うつ病)なのか、わかりません。メールの記載されている症状だけでは、それは到底判断できません。しかし少なくとも、本当に抗うつ薬が必要かどうかは、慎重な判断を要するところで、できれば薬なしで様子をみたいところです。実際にはすぐに薬物療法が開始されていますが、薬を処方された心療内科の先生が、どこまで詳しく診察をされたかが不明ですので、その方針の是非はなんともいえません。その後の、処方を次々に変更していくという方針についても、なんともいえません。ただ、もし擬態うつ病であれば、これは薬漬けであって、その後の経過にむしろ多大な悪影響をおよぼすおそれが大きいといえます。「それは、「うつ病」ではありません!」のケース14をご参照ください。ケース14は、自分にあう薬を追い求めるうちに、人生をどんどん浪費しています。
 この【1689】は、あるいは本物のうつ病で、しかし薬が効きにくいタイプなのかもしれません。(但し、これまでに処方された薬が、十分な量、十分な期間投与されたかどうかが問題です。「抗うつ薬が効かない」という場合の二大原因は、そもそもうつ病でないのに抗うつ薬を飲んでいる場合と、十分な量、十分な期間飲み続けることなく、次々に処方が変更されている場合です)
本物のうつ病でないとしたら、リタリンを処方されたあたりではすでに、上記のケース14と似た状況に陥っているといえるでしょう。しかも、

次第に行動や言動がおかしくなっていき、覚えのない電話をかけ続けたり、気が付くと見覚えのない場所にいたり、1人で車を運転しているにも関わらず後部座席に友人たちが座っている幻覚を見たり、「飼っていた猫が逃げ出してあの家に入っていった」と思い込んで見ず知らずの家に押し入り警察を呼ばれたり

このような状態でありながら3年間もリタリンを続けているというのは、すでにリタリン依存症になっているといえます。
そして、リタリンを飲み続けたというのは、医師がそれを処方したということですので、それが初診の心療内科の医師だったとすると、治療方針全体に疑問を持たざるを得ず、さかのぼって、最初の薬物療法の方針がどうだったかということになります。
(但し、リタリン依存症の場合、複数の医師を受診し、嘘を述べてリタリンを処方してもらっているケースも多いものです。このメールにはリタリン入手経路が書かれていませんが、症状からみて、そのような不正な手段を取っていた可能性も考えたいところです)

入院後の激しい自殺企図、そしてその後の意外ともいえる著明な軽快は、長年のんでいたリタリンの中断による反応として十分理解できますので、これらをもって、うつ病の症状であるとはいえません。

その後、抑うつの色彩ある症状が続いていますが、リタリンの後遺症の可能性も否定できず、もはや診断は不可能とまではいわないまでも、きわめて困難です。つまり、もともとうつ病で、難治性だったのかもしれませんし、擬態うつ病で、いわば怠け癖がついてしまったのかもしれませんし、リタリンの後遺症という要因が大きいのかもしれません。

それから、いま飲んでおられるベタナミンは、おそらく質問者は認識されていると思われますが、リタリン類似の薬であって、現在はベタナミン依存症といってもいいかもしれません。そしてそれを処方しているのは初診のときと同じ心療内科医とのこと、結論として、この医師は全く信用できないと思います。これはあくまでも可能性ですが、この【1689】の質問者は、元々は擬態うつ病で、本来は薬など飲む必要がなかったのにもかかわらず、長年薬漬けにされ、しかもリタリン依存症、ベタナミン依存症にされてしまったというストーリーも考えられます。だとすれば、擬態うつ病にかかわる代表的な問題のひとつです。しかし、この回答の冒頭にもお書きしたとおり、本物のうつ病の可能性も否定できず、診断については結論としてなんともいえません。但し、今かかっておられる心療内科医が信用できないことは確かだと思います。質問者は、それを半ば承知で、しかしベタナミンを処方してもらえるので、通い続けているのでしょう。このままでは薬で破滅します。別の病院を受診し、治療をやり直すべきです。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る