精神科Q&A

【1668】頭の中でしゃべりながら考えるのは統合失調症ということなのでしょうか


Q: 29歳女性(会社員・既婚)です。精神科Q&Aの、特に統合失調症に関するものについて興味深く拝見いたしました。 他のサイトなどでもいろいろと調べて疑問に思ったことなのですが、「思考化声」があれば即、統合失調症だと診断されるものなのでしょうか? 私は子供の頃から(詳しい年齢は覚えていません)なにかものを考えるときには、「頭の中でしゃべりながら」考えることが普通だと思って過ごしてきました。それは独り言の形式であることもあれば、文字通り「自問自答」の形で、「これはこういうことなのだろうか?」「いやちょっと待って、それは違うんじゃないか」「なるほど、そうだね」のように自分同士での会話の形式になることもあります。もちろん、これが自分自身で考えている内容だという自覚ははっきりとあります。 また、文章を読むときは頭の中で朗読しながら読んでいます。 集中してTVなどの外部からの音声を聞いているときは、自分の頭の中の声が聞いている音声と同調して、同時にそれを復唱しているような感じになります。外部からの音声に集中していないときでも必ず頭の中で何かしらのことは考えていますので、頭の中では自分の声が常に何かしらしゃべっているのが普通の状態になっています。 こういったことが統合失調症の症状としてあるということを知り、他の人たちに「どうやってものを考えているのか」を尋ねてみたところ、「自分がその状況になった様子を想像して、どう判断するかをシミュレーションしている」「行動や作業などをチャート式に並べて(ビジュアル的に)段取りを考える」などといった答えが返ってきて、その考える方法の違いに驚きました。そして、「言葉で論じながら考える」ことは無いとも言われて、さらに驚きました。 そういわれて良く考えてみると、自分もとても小さい頃には「自分がその状況になった様子を想像して、どう判断するかをシミュレーションする」といった考え方をしていたような記憶もあります。が、今は言葉で考える方が当たり前になっています。 みんながみんな、言葉によらない考え方をしているものなのでしょうか? 統合失調症では無い人たちで、このような言葉による考え方をする人というのは他に居ないのでしょうか。 そしてこのような症状がある場合、精神科を受診すれば統合失調症だと診断されてしまうのでしょうか。 ご多忙とは存じますが、ご回答いただければ幸いに存じます。どうぞよろしくお願いいたします。


林: 
頭の中でしゃべりながら考えるのは統合失調症ということなのでしょうか

いいえ違います。
考想化声(思考化声ともいいます)は、確かに統合失調症の代表的かつ重要な症状ではあります。これは実は深い意味を持つ症状なのですが、この症状が病的なのは、端的に言えば、「自分の本来の意志とは離れて、自分の考えが声になる」という点です。これに対し、この【1668】のケースの体験は、あくまでも自分の意志のコントロール下で、「頭の中でしゃべりながら考える」という形ですので、統合失調症の考想化声とは異なります。

考想化声が統合失調症の症状として重要な理由の一つは、これが幻聴の萌芽といえる症状だからです。すなわち、統合失調症の典型的な発症パターンの一つは、はじめは「自分の考えが声になる」という体験であったものが(つまり、この時点では、「頭の中の声」が「自分の考え」であることを認識できている)、「他人の声が聴こえる」という体験に変化していく形です。幻聴の本質は、自分の考えている内容であることは疑いないはずですが(もしそうではないとすれば、文字通りテレパシーのような超自然的なものを仮定しなければ説明がつきません)、その自分の考えている内容から、「自分」という性質が失われ、それを「他者」のものであると認識されるようになった時、主観的には「幻聴」として体験されます。この意味で、統合失調症の他の症状である思考吹入 (たとえば【0575】) や自生思考 (たとえば【1290】【1496】【1549】) も、本質的には同じものと考えられます。

この【1668】に戻りますと、「頭の中でしゃべりながら考える」という体験自体が、自分の意志のコントロールを外れていたり、あるいはさらに、その「考える」内容が、自分の考えではないと感じられたりした場合には、統合失調症の発症である可能性が濃厚になります。しかし【1668】の内容からは、そのようなものは読み取れませんので、統合失調症性のものではないと判断できます。


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