精神科Q&A

【1656】夜中に聞こえるかん高い声、その中に「助けて」「殺してやる」などの声がまじるようになった


Q: 男性、20歳、製造系の会社員です。何とも文面に書いて表し辛い症状に悩まされています。

一番初めに自分の身体に異変を感じたのは9カ月ほど前でした。
朝、自分の部屋で、自分のベッドの上で目覚めた時に、自分が一体何故こんな所にいるのかわからず、また、どこへ行けばいいのか、何をしなければならないのか全く解らず、不安になるという事が月に数回程、起きるようになりました。
これは朝目覚めてから1時間程経つと、パッと全て思い出します。

その時は「寝ぼけてたんだ」「最近疲れてるしな」と、ただそれだけの事だと思い、大して気に留めておりませんでした。

そしてそれから2カ月後、今度は先程に述べた症状に加え、自分が誰なのか思い出そうとしている時に耳元で訳の解らない言語の声が頻繁に聴こえる様になりました。
その声は、何を言っているのかは全く解らないのですが、何だか怒っているもしくは恨んでいる様な声で、聴こえる時は男女様々で大抵が低い声なのです。

更に、昔から数ヶ月に一回ほどの割合で起きていた金縛りが頻繁に起きるようになりました。

その金縛りはそれがおきる前、つまり寝る直前に感知することができるのです。
「ピ――――――――」という、とても高い音が耳元で鳴り始め、寝ようとして目を閉じ、眠りに着きそうになるとこの音がだんだん大きくなっていき、最後には「アアアアアアアアア」という(ア、というよりアに濁点をつけたような濁った声)恐ろしい声になって(女性の声なのです)、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほど大きな音になり、ピークを過ぎるとまた小さくなっていきます。
この音のピークを迎えると瞬時に金縛りの状態になります。
手足が無くなった様な、初めから身体の動かし方を知らない様な、とりあえず動く事はできない状態になります。
そしてこの声にさえ耐えていれば、数分(私には数分に感じるのですが)程で金縛りが解けて、身体が動くようになります。
ですが、また寝ようとすると必ずまたその音が聴こえるのです。
一度その音が鳴ってしまうと、その日は寝れたものではありません。
テレビで、横になって寝ると金縛りは起きないと言ったのを見て、横になってみたのですが何故かおきます。訳が解りません。私は霊的なものだと、正直思っています。
寝ずに過ごして、その日の夜にまたその音が聴こえないことを祈るしかありません。
そんな金縛りが、6年以上前からありました。

その金縛りなのですが、以前とただ一つだけ違うところがあり、アアアアという声の音量のピーク辺りで「助けて」「死ね」「殺してやる」などというはっきりと聞き取れる言葉、日本語が同じ女性の声で含まれているのです。

私は何だか、それが聞こえるようになってから、物事を悪いほうへ悪いほうへと考える癖が出てきたような気がします。
朝起きて、天井を見ながら「俺は死ななければならない、生きていては申し訳が無い」「もう御仕舞いだ、何をどうやっても、どうすることもできない」など、何に対してなのかわからないのですが、気が付くとそんなことばかりを考えている事が多々起きるようになりました。

ふっとそんな考えをしている自分から覚めた時に「何を考えているんだ、俺はまだまだやりたいことがあるじゃないか」と自分に喝をいれて、励ましてやるのですが、どうしてもすぐに「でも・・・」や「だって・・・」「どうせ・・・」といった、具体的では無いのですが悲観的なものの考え方をするようになってしまいました。

その頃に、上記の内容の不具合が起きて、流石に自分の身体がおかしいのではないのかという事に気づき始めてきたのですが、医者へ行く、という選択肢はその時にはまだ私にありませんでした。

恥ずかしい話なのですが、私は幽霊というものの存在を信じていて、上記の事柄は全て私が呪われたのだとその時、思っていたのです。
文献で調べて、自分の家の有る場所は昔、関所で、何人もの人々が殺され、墓も立てられず成仏できずにいるような場所だということなどを知ってからは特にそうでした。
自分がおかしいのではなく、全て幽霊の呪いなのだと思いました。

それから二月程の時間を経て、今年の三月頃に、仕事中に急に熱が冷めるという不具合が起きました。頭の中で仕事の段取りを組んで、その通りに時間厳守で仕事をしていると突然全てがどうでもよくなって全く手に付かなくなってしまうのです。
正直こんなことは初めてで、とても焦りました。
心では早くやらなきゃならないのにと思っているのにどうしても、全部どうでもいいや、と思い手をつけられなくなってしますのです。

さらに、急に手先がブルブルと震えたり、一番初めに書いた、なにがなんだか解らなくなってしまう症状も表れました。ひとつ仕事を済ますと「俺はどうしてこの製品をこのように加工したのだろう」や「どうしてこの機械の前にいるのだろう」と、ふと思ってしまい、中空の一点をじっと眺めていることがあるようです。(私はただ考えているだけだと思っていたのですが、仕事仲間から見ると、急に上の方を向いて一点を見ている時があり、その時は話をかけても全く反応しない、らしいです)

更にという言葉に重ねるように更になのですが、そういった症状がおき始めた頃あたりからとても清清しい気分の日というのもあるようになりました。なにか特別にいいことがあったわけではないのですが、今までの悩みがウソのように感じられてからだが軽いのです。
それはその日(気分のいい日)には全く気づかなかったのですが、後々になってみると今日はこんなに悩んでいるのに何故あの時はあんなに気分が良かったのか、と思い少し不審に思い、書きました。

その事を仕事仲間に話すと、「入社して1年以上たつから、どうせ仕事に飽きてきたんだろう」というような返事しか貰えず、話したことで私はやる気の無いやつなのではないかと思われているような気がして、今度は上司に言いました。

すると、「何かの病気かもしれないから一度いってみるといい」と言われ、精神科専門の病院への地図を頂き、何が何だかわからないうちに、とにかく病院に行かなきゃと思いました。

しかし、時間の都合が合わず、また会社もその時とても忙しく、休みもとれずに、どんどん日が過ぎていきました。

その頃には、私は夜眠れない、とにかく眠れない、なにかダウナーな感じに物事をずっと考えて体育座りの様な感じでベッドに座って全く眠らず、朝を迎えるようになったり、朝が来ると、泣きたくなる位、会社に行きたくないと思うようになりました。
会社自体がとても嫌いだという訳ではないのですが、私は会社の中では、人見知りする性格上、愛想が無いと思われているようで、嫌われてるという程ではないのでしょうがあまりいい人間関係は築けていませんでしたので、それはちょっと行きたくない理由の一つには当てはまりました。
ですが、身体自体が行くのを拒んでいるかのように動けず、そのおかげで会社を休み、病院にも全く行く気が起きず、一日中家にいることも増えました。

そして2カ月前、ようやくその病院に行き、その病院の院長さんに診断をしてもらったのですが、その時、上記の文面で書いたような事を、口下手ながらも伝えました。
(自分では正直全部しっかり言えたかどうかの自信はないのですが・・・)

その結果、私は「躁うつ病」と診断されました。
正直その時、躁うつ病の話を聞いた時、本当にその病気なのだろうか?
と少し疑ったのですが、お医者さんの言うことなのだから私の様な素人には解らないのだろうな、と思い、とりあえず薬を貰い帰りました。

貰った薬は、名前が、パキシル、ジアゼパム、セロクエルというものでした。

それを服用すると、悪いほうに考えるような癖はあまりなくなるのですが、なんだかボーっとしてしまい考えること事態をやめるような状態になりました。

そのかわりに仕事にも精が出せなく、結局、薬を飲んでも飲まなくても効率上はあまり変わりが無い状態です。飲んでも手の震えはあります。

私はお医者さんの言ったことを信じていないわけではないのですが、なんだか自分が病気だということがどうにも実感が湧かず、ただ薬を飲んで通院していればいいのかどうか、なんだかよくわかりません。

正直言って、私はこれからどうしたらいいのかわかりません。
このこと一つでもう人生どうにでもなってしまえばいいと思ってしまいます。
これを書いている今でも、もう自分になにがおきているのか解らずどうにでもなればいいと思います。そう、思います。

幽霊の話など、精神科の先生にしてしまっても困るだけなのではないかとも思ったのですが、とりあえず自分の覚えていることを解る範囲内で伝えようとした結果、あのような話になってしまいました。
文章が苦手なのでわかりづらい箇所が随分あるのではないかと思いますがどうかご勘弁願います。


林: まず考えられる病名は、ナルコレプシーか、てんかんです。

私は「躁うつ病」と診断されました。

とのこと、この時あなたが先生にどのように症状をお話されたか、詳細が不明ですので、なぜこのような診断となったかはわかりません。受診の時点で、うつ状態は確かに認められていたようですが、うつ状態は、色々な病気の症状として、また、病気の結果として(つまり、自らの不調に対する心理的な反応として)、起こり得るものですので、うつ状態が著しくても、他の病気でないことが確認されなければ、うつ病や躁うつ病の診断を下すことは出来ません。

説明が前後しましたが、この【1656】のケースの経過をふりかえりながら、ナルコレプシーまたはてんかんという診断の根拠をご説明します。

一番初めに自分の身体に異変を感じたのは9カ月ほど前でした。
朝、自分の部屋で、自分のベッドの上で目覚めた時に、自分が一体何故こんな所にいるのかわからず、また、どこへ行けばいいのか、何をしなければならないのか全く解らず、不安になるという事が月に数回程、起きるようになりました。
これは朝目覚めてから1時間程経つと、パッと全て思い出します。
その時は「寝ぼけてたんだ」「最近疲れてるしな」と、ただそれだけの事だと思い、大して気に留めておりませんでした。

これだけですと、寝ぼけの一種であると自然に解釈できます。【1655】の解説もご参照ください。

そしてそれから2カ月後、今度は先程に述べた症状に加え、自分が誰なのか思い出そうとしている時に耳元で訳の解らない言語の声が頻繁に聴こえる様になりました。
その声は、何を言っているのかは全く解らないのですが、何だか怒っているもしくは恨んでいる様な声で、聴こえる時は男女様々で大抵が低い声なのです。


睡眠と覚醒の移行期には、幻聴があっても、まだそれだけでは病的とはいえません。

更に、昔から数ヶ月に一回ほどの割合で起きていた金縛りが頻繁に起きるようになりました。

睡眠から覚醒への移行期の幻覚に、金縛りが加わりますと、この金縛りは、睡眠麻痺と呼ばれる、ナルコレプシーの症状である可能性が強くなります。

その金縛りはそれがおきる前、つまり寝る直前に感知することができるのです。
「ピ――――――――」という、とても高い音が耳元で鳴り始め、寝ようとして目を閉じ、眠りに着きそうになるとこの音がだんだん大きくなっていき、最後には「アアアアアアアアア」という(ア、というよりアに濁点をつけたような濁った声)恐ろしい声になって(女性の声なのです)、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほど大きな音になり、ピークを過ぎるとまた小さくなっていきます。
この音のピークを迎えると瞬時に金縛りの状態になります。
手足が無くなった様な、初めから身体の動かし方を知らない様な、とりあえず動く事はできない状態になります。
そしてこの声にさえ耐えていれば、数分(私には数分に感じるのですが)程で金縛りが解けて、身体が動くようになります。
ですが、また寝ようとすると必ずまたその音が聴こえるのです。


このような体験は、ナルコレプシーの一症状として矛盾はありません。しかし、だからといってナルコレプシーであると診断するのはまだ無理があります。日中の眠気という、ナルコレプシーの最も重要な症状がないので、むしろ正常範囲の睡眠麻痺と入眠時幻覚の可能性のほうが高いといえるでしょう。【1655】にお書きしたように、確定診断のためには検査を受ける必要であります。

テレビで、横になって寝ると金縛りは起きないと言ったのを見て、横になってみたのですが何故かおきます。

テレビを信じるのは誤りです。

訳が解りません。私は霊的なものだと、正直思っています。

睡眠麻痺の体験は、健康な人でも、特に若い人にはかなりあるものです。そして、【1410】にもお書きしましたが、その中のかなり人が、その体験を霊的なものだと信じているという調査結果があります。あなたも典型的なその一人ということになると思います。

ここまでですと、ナルコレプシーの可能性はあるものの、むしろ健康な範囲といえそうです。しかし、次の症状を見ますと、病的であり、受診の必要を認めるといえます:

さらに、急に手先がブルブルと震えたり、一番初めに書いた、なにがなんだか解らなくなってしまう症状も表れました。ひとつ仕事を済ますと「俺はどうしてこの製品をこのように加工したのだろう」や「どうしてこの機械の前にいるのだろう」と、ふと思ってしまい、中空の一点をじっと眺めていることがあるようです。(私はただ考えているだけだと思っていたのですが、仕事仲間から見ると、急に上の方を向いて一点を見ている時があり、その時は話をかけても全く反応しない、らしいです)

「震える」という症状は、その震え方が、診断の有力な手がかりになるのですが、「急に手先がブルブルと震えたり」だけではわからず、また、具体的な震え方を文章で表現するのはかなり難しいことですので、ここでは震えについてはあまり検討しないことにします。
 そこで、上記の症状のうち、震え以外の部分を見てみますと、これはてんかんによる一過性の意識喪失ないし減損とも考えられますし、眠気の著しいものとも考えられなくもありません。眠気の著しいものであれば、睡眠麻痺や入眠時幻覚とあわせ、ナルコレプシーの可能性が高いということになります。ナルコレプシーだとしても、てんかんだとしても、まずは脳波の検査が必要です。

貰った薬は、名前が、パキシル、ジアゼパム、セロクエルというものでした。

薬を飲むより前に、検査を受けて診断を確定することが先決です。

このこと一つでもう人生どうにでもなってしまえばいいと思ってしまいます。
これを書いている今でも、もう自分になにがおきているのか解らずどうにでもなればいいと思います。そう、思います。


そんなふうに思う必要はありません。てんかんだとしても、ナルコレプシーだとしても、治療可能な病気です。まず確実な診断を受けてください。

幽霊の話など、精神科の先生にしてしまっても困るだけなのではないかとも思ったのですが、とりあえず自分の覚えていることを解る範囲内で伝えようとした結果、あのような話になってしまいました。

ご自分の症状をどのように捉えているかは、診断上重要です。幽霊の話も、ですから、重要な情報でした。

文章が苦手なのでわかりづらい箇所が随分あるのではないかと思いますがどうかご勘弁願います。

あなたの体験されているのは複雑な症状ですので、文章にするのは難しいと思います。複雑で難しい内容を、かなりわかりやすく描写していただいていると思います。そして結論は、繰り返しになりますが、まず検査を受けて診断を確定することが必要だということです。


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