精神科Q&A

【1653】交通事故後の息子の症状は、今の治療でよくなるのでしょうか


Q: 25歳の息子は、かつては軽度のパニック障害で精神科に通院していましたが、18歳の時、交通事故による頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血の重傷で入院。その後失語や暴力行為の多発、書字障害などの症状が続き、脳波やMRIの検査結果から同じ精神科で高次脳機能障害、器質性精神障害(反復性うつ病性障害及び器質性人格変化)と診断されました。現在精神障害二級の認定を受けています。怒りが爆発する頻度はだいぶ少なくなり、食事やトイレ、日常会話はできるようになったので、アルバイトしようとしたのですが、上司の説明が理解できない、レジの操作が覚えられない、客と喧嘩するなどのトラブルのため、どこも1日でクビになりました。服用している薬は、コンスタン0.4mg×1、パキシル10mg×3,デパス0.5mg×2、リボトリール0.5mg×2、アナフラニール10mg×3,レンドルミン0.25mg×1などです。2年前にはストレスからくる胃潰瘍で胃に穴が空いていると言われ、一応治療しましたが、まだ毎日嘔吐を数回繰り返しており、その原因は分かっていません。また親との同居が我慢できないと言うので、自立のための訓練と思って2年前から別居させていますが、薬を飲んでいても強烈なうつに襲われ、動けなくなって食事もせずに一日中寝ていることがよくあります。ストレスを紛らわすために喫煙(1日2箱)もやめられず、毎日嘔吐する割には肥満なのは薬のせいだと本人は悩んでいます。また高次脳機能障害のリハビリのため通院していた大学病院も効果がないと自己判断し、現在は休んでいる状態です。お金のやりくりもできず不必要な出費が多いため、親にとっても大変な負担です。主治医は「長い目で見るしかない」と言われますが、今の状態を続けていてよくなるのか、薬の副作用はないのか不安です。よろしくお願い致します。


林: 経過と症状から、器質性人格変化であることは間違いありません。

高次脳機能障害、器質性精神障害(反復性うつ病性障害及び器質性人格変化)と診断されました。

とありますが、反復性うつ病性障害というのは誤りです。うつの症状はあるようですが、それは脳の損傷によるものであって、反復性うつ病性障害ではありません。

器質性人格変化についてお答えする場合には、本来ならMRIや脳波などの所見を見なければ何ともいえないのですが、現在の症状からみて、脳はかなり広汎に損傷されていると推測できます。そして、脳の神経細胞は、いったん損傷されると回復しないか、回復するとしてもごくわずかです。(かつて、神経細胞というものは一切回復しないというのが定説になっていました。現在ではこの定説は覆されています。そのように言われると、当事者の方は大きな希望をお持ちになるものですが、実際には回復するとしてもその程度はわずかです。そしてこの【1653】のような症状を引き起こすほどの脳損傷は、事実上は回復しないとみるべきです)
また、脳は損傷されると、その損傷された部位の機能を、脳の他の部位が代償するという働きがあります。
以上のふたつ、すなわち、脳の神経細胞の損傷は、わずかとはいえ回復すること、また、損傷部位の機能を他の部位が代償すること から、器質性人格障害も、ある程度の回復は期待できます。しかしこの【1653】のようなレベルから、元のレベルまで回復することはまず期待できません。

したがって回答は以下になります:

主治医は「長い目で見るしかない」と言われます

異論はありません。

今の状態を続けていてよくなるのか、

あまり期待できません。しかし、他に手段はありません。

薬の副作用はないのか不安です。

薬の副作用はあると思います。しかし、薬を使わないことによるマイナス、すなわち、このケースでいえば、衝動性の亢進やうつの症状の方が、ご本人の生活を大きく障害するでしょう。ですから、副作用があっても、薬は飲み続ける以外にありません。



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