精神科Q&A

【1577】精神科で治療を受けてもよくならない私は人格障害でしょうか


Q:  私は30歳女です。よろしくお願い致します。中学の時、拒食で入院したのを皮切りに不調が続いています。入院の数年前から便通にこだわったり、風邪の嘔吐が怖くてうがい魔になったりしていました。意識がボーっと頭上から見下ろしているようで、手が自分のものでない気がしたこともありました。 拒食後、嘔吐なし過食に転向してみるみる太り、中学・高校とも欠席ばかり。こんこんと眠れて、起き出すと食べる、満ちると眠る…を繰り返しました。戸締まり・ガス水道の元栓・洗剤のすすぎ・物をしまった後…など、入念に確認しても大丈夫と思えませんでした。
 19歳の時、一人暮らしを試みました。アパートの造りが安普請で、2階や隣室の生活音が丸聞こえだったため、こちらの出す音にも気を遣いました。フライパンで炒めるのも、トイレを流すのも(うるさいと思われやしないか…)戦々恐々で、相手と窺い合っているようでした。リスパダールを処方され、のんでいたものの楽にならなかったと言うか……薬の名前も怖く暗くなってゆきました。じゅうたんのどこも汚れている気がして、泣きながら母に訴えました。過食も収まることなく、食べた後テーブルの下を拭きまくって、次に服の汚れを落とすために、外に出て振るったり走ったりしました。服を洗濯するのが不安(ほつれとか)で同じ服ばかり着ていました。 
 20歳を過ぎ、奮起して遠方のフリースクール?に入寮しました。寮を出た後、就職すると共に一人暮らしに再チャレンジ。X県にいるのに実家近辺だと思い込んだり、車間距離がとれなくなったりしました。買い物の途中、急に何をしているかわからなくなったり、普段買わない商品を選ばないといけないような強制を感じたりしました。困惑感が強かった。 その一方で高揚感・爽快感があり、「この箱、斜めに置かれているのが一番ぴったりだよ!」と喋ったり、子どもの指を見て直感し「ピアノ習ってるでしょ?!」と言い当てたりしました。気分が殺伐として、車で走ると街の人々みな知り合いに思え、抱きつきたいような…敵のような、紙一重の油断できない感じがしました。ぐるぐる回るようで絶叫してしまい、危うく交通事故を起こすところで逃げ帰りました。 
 家にこもっていては変われないと思い、大学へ…。人目が怖くて、電車に乗ると針のむしろでした。慣れが生じることはなく、耳栓と帽子では防ぎきれず、視界にいる人各々から「なに気取ってんの?」とか思われる印象を受けました。家で勉強していると、講義中の先生の声が再生されてうるさかったり、レポートを書く作業が止まなくて、入浴中などに頭の中で文章が流れっぱなしだったり…(耳で聞こえるのとは違います)。
 25歳、落ち込んで「ただいま」と言う気力すら失せ、疲れ切って重だるく、むくんで着込みたくなりました。朝早く目が覚め、息苦しいしわびしかった。耳栓してもなお物音が気になり、足音・咳払い・走行音・空調・椅子の音・プリント類のカサカサ音…など全部にイライラした。授業中、一人でも私語する人がいると気が散ってしまい、集中力を消耗しました。視界に入るものも気になり、近くの学生がノートに筆記するのすら意識してしまって…。学生が騒ぐと、はらわたが煮え返るくらい耐えられなかったです。担当医に話しても、窮地にあることが伝わらないようだったし、のみ続けていたセロクエルの効果も感じられませんでした。 
 中学から今まで、転居先も含め7ヶ所の精神科にかかりました。いずれも物理的に通いきれなくなるとか、気まずくなるとかで途絶…。いっとき自分が何病なのか執着していて、医師に訊ねると「統合失調症のリスクはある」程度に言われたり、気分が落ち込むことも多いので…その方を採用されて「双極性と精神病性の間」と言われたり、「統合失調症型人格障害」だったりもしました。 私は人格的におかしいと思っています。その理由は、
1)診察の前、血の気が引いて震えるまで緊張し、先生に会うと苛立っている様子を受けて、何か喋っても(その話は聞く価値ない)みたいな素振りに取れてしまいます。先生が、時計や積まれたカルテに目をやるのは(早く帰れ)という意味だと感じます。
2)加えて先生に、「困っているように見えない」「何を求めているのかわからない」とか言われました。私が煮え切らないからだと思います。「何が一番辛いのか?」「…どうしたい?」とよく訊かれました…苦手な質問。薬のうけがよくないのなら対応しようがないよ、と言われたも同然だと思いました。服薬も有意義に思えなくなって…、もう1年以上かかっていません。 
3)家でも「うまくいかない」「これ以上どうしたらいいのかわからない」とか、うだうだ泣き言を並べて何時間も母を巻き添えにすることが、昔から度々あるし、
4)母がよその女性や子どもの容姿などをほめそやすと嫉妬して、「ならばその○○の親になればいいじゃないか」「あれが子供だったらよかったのにって思ってるんだろ!」と憎まれ口をたたいてしまいます。 
5)子どもの闘病などの痛々しいドキュメンタリーを、母が私の前で見ることに耐えられず、「その番組やめて」と替えさせてしまいます。見ると、まず私がその痛々しい子どもを忘れられなくなり、後々ずっと頭の中を支配され、あれこれ想像が及んで辛くなるからです。その上、母に(必死で頑張る子がいるのにひきかえお前は…)と思われるのが嫌なのです。 朝、TV欄でその類が放映されると知るだけで、子どもが吐いたり痛み苦しんだりする激烈な画を想起してしまいます。放映時間帯には見ずとも、いたいけな子どものことで頭を占領されてしまい、気が気でありません。児童虐待の報道などに接すると、その子がどんな仕打ちを受け傷つけられたか…詳細に考えてしまい、がんじがらめになって逃れられません。
6)とにかく、衝撃的なことを見聞きして打ちのめされると、自分の元に戻れなくなり、何日も頭の中で衝撃を反芻してしまいます。“極限状況を生きている人々”の一方で、私は援助職に就けなかったし(挫折)、ごくつぶしだし…と嫌悪感も募ってしまいます。  一昨年くらいまでは、社会に馴染もうと自分にむち打っていましたが、現在バイトは月40数時間、関わりはほぼ家族限定…という弛緩ぶりです。
7)打ち解けられるのは母親だけ。母に、「人前でいい人ぶってる」と言われます。確かに、自分を実寸大以上に見せようとしがちだし、無根拠なうぬぼれがあります。 外出すると、知人に会うんじゃないかとひやひやし、周囲の視線に「みっともない」とか思われているようでリラックスできません。楽しみな買い物中も、「お前に似合うと思ってるのか?」「買わないくせに見るな」「菓子ばっかり買いやがる」とか…いちいち何を思われているか気になります。店員に「またあいつ来た」「…まだウロウロしてる」とチェックされている気がします。緊張時の運転では、後続車から「さっさと走れや!」という苛立ちを感じ、信号で停止すると、周りの人が私を見て笑っているようで居たたまらないです。 それでも外出できる時期はマシで、落ち込む時期には寝っぱなし&気晴らし食いで、仕事も買い物も行かなくなります。落ちるきっかけは、バイト先での(気が利かない奴と思われた…どうしよう)というような出来事だったり、生理周期の都合だったり、疲れ?だったり。全然、忙しくも何ともないのに、異様にすぐだるくなります。 
 家へ入る前は、服を振るいはたきますが、髪の毛・背中・足裏が汚れているようで気持ち悪いです。服などに菌やウイルスが付着していると思うと怖い…。服が汚れるのも洗濯するのも不安なため、着替えに勇気が要ります。事務処理の際は、書き写した数字に間違いがないか、計算額が正しいか…いくら確認してもよし!と思えず、頭が焼き付きそうになります。容器のフタが閉まっているか倒れていないか、電源が切れているか…とめどなく確かめてまだ心配です。…例えば、こういった確認を長らく続けているのは、社会とか…向き合うべき厳しさを回避した代わりで、かつ、こじつけの安心を得るためのような気がして……本当はこんなんじゃダメだと自覚しているのに…と焦りもあります。 
 少量の抗精神病薬をのみ続けてもあまり、楽にならなかったです。逆に、柄になく無遠慮になってしまい、どう振る舞っていいかわからなく、わざとらしくなったこともあります。過眠傾向のある私に抗精神病薬を出されるのが、ずっと不審でした。デパケンと併せたこともあります。またルボックスを続けたことも…。 結局、1年以上精神科にかからずやってこられたのは、自分なりの社会向きの努力をやめてしまって……母の勧めに沿い、知人の事業所で軽いバイトをするのみで、人との交流を減らしたからだと思います。母は「調子が悪い日は寝てればいい」と寛容ですが、両親は高齢、このままいられるわけないので、先を考えるとぞっとします。  ディスチミア親和型うつ病とかの記事を読むと、自分の中の傾向を指摘されている気がします。抗精神病薬をのんでいまいちぱっとしないということは、まともな病気ではないし…と考えてしまいます。今となっては、治るとか治らないとかの次元ではないのですが、人格障害的でしょうか?……普通の、薬が効くような感じではないのはなぜでしょうか。双極性ないし非定型寄りでしょうか。過食+過眠と来れば“非定型うつ病”ということもありますか?病院を変えすぎだったでしょうか? 今、嫌悪感を抱く以外しようがないのですが、もう少し前向きになるために、どういった自己規定を持てばいいでしょうか。どういう心持で過ごせばいいでしょうか? 


林: あなたは統合失調症だと思います。その他の病名はあまり考えられません。あなたが挙げておられる、「人格障害」「非定型うつ病」その他は、いずれもあなたには該当しません。

おそらく19歳で初めて精神科を受診されたとき、統合失調症の症状が出ていたのでしょう。当時の症状の記載を見ますと、

19歳の時、一人暮らしを試みました。アパートの造りが安普請で、2階や隣室の生活音が丸聞こえだったため、こちらの出す音にも気を遣いました。フライパンで炒めるのも、トイレを流すのも(うるさいと思われやしないか…)戦々恐々で、相手と窺い合っているようでした。

これだけでの記載では何とも言えませんが、このときに精神科医から抗精神病薬のリスパダールを処方されたという事実とこの記載を合わせますと、統合失調症にかなり典型的な被害妄想が現れていたものと思われます。おそらくこの時、直接の問診によってそれが明らかにされたのでしょう。
 そしてこの直後の記載、

じゅうたんのどこも汚れている気がして、泣きながら母に訴えました。過食も収まることなく、食べた後テーブルの下を拭きまくって、次に服の汚れを落とすために、外に出て振るったり走ったりしました。

これは症状としては強迫ですが、統合失調症の初期に強迫症状が見られることは決して稀ではありません。また、ひとことで強迫といっても、その中にはいわば統合失調症らしい強迫というものがあり、それも直接の問診によって明らかにできることがあるのですが、この「服の汚れを落とすために、外に出て振るったり走ったりしました」という記載だけを見ても、統合失調症らしさを感じ取ることが出来ます。

その後に書かれている症状も統合失調症によるものとして矛盾はありません。いくつか例を挙げますと、

気分が殺伐として、車で走ると街の人々みな知り合いに思え、抱きつきたいような…敵のような、紙一重の油断できない感じがしました。ぐるぐる回るようで絶叫してしまい、危うく交通事故を起こすところで逃げ帰りました。 

これは妄想気分にほぼあたります。

耳栓と帽子では防ぎきれず、視界にいる人各々から「なに気取ってんの?」とか思われる印象を受けました。

これはやや曖昧な記載ですが、外部からのもの(ここで「もの」とは、いわば自己とは違ったものという意味です。それは声であったり、観念であったりします)が自分に侵入してくるという色彩が読み取れる記載で、統合失調症に典型的と言えます。

家で勉強していると、講義中の先生の声が再生されてうるさかったり、レポートを書く作業が止まなくて、入浴中などに頭の中で文章が流れっぱなしだったり…(耳で聞こえるのとは違います)。

幻聴の初期として、このような体験は稀ではありません。

耳栓してもなお物音が気になり、足音・咳払い・走行音・空調・椅子の音・プリント類のカサカサ音…など全部にイライラした。

音に敏感になるというのも、統合失調症の初期症状としてよくあるものです。幻聴との関連性も深い症状です。(「音に敏感になる」ことと「幻聴」の関係については、こちらをご参照ください)

診察の前、血の気が引いて震えるまで緊張し、先生に会うと苛立っている様子を受けて、何か喋っても(その話は聞く価値ない)みたいな素振りに取れてしまいます。先生が、時計や積まれたカルテに目をやるのは(早く帰れ)という意味だと感じます。

これも統合失調症に非常によくある症状です。被害妄想ということもでき、病的な関係づけということもでき、あるいは妄想知覚ということもできます。

楽しみな買い物中も、「お前に似合うと思ってるのか?」「買わないくせに見るな」「菓子ばっかり買いやがる」とか…いちいち何を思われているか気になります。店員に「またあいつ来た」「…まだウロウロしてる」とチェックされている気がします。緊張時の運転では、後続車から「さっさと走れや!」という苛立ちを感じ、信号で停止すると、周りの人が私を見て笑っているようで居たたまらないです。

統合失調症に典型的な症状です。

以上、および、メールに記載されているその他の症状を総合的にみて、診断は統合失調症に間違いないと思います。これまで抗精神病薬で効果が認められなかったとのことですが、記載されているのは薬の名前だけで、飲んでおられた量も期間も不明ですので、本当に薬の効果が認められないのか否か、判断できません。

もうひとつ付け加えますと、質問文の最初のほうに書かれている中学生の時の症状、すなわち、

意識がボーっと頭上から見下ろしているようで、手が自分のものでない気がしたこともありました。 

これがこの【1577】のケースの統合失調症の初期症状であったと言っていいと思います。
 これはいわゆる離人と呼ばれる症状で、統合失調症の最初期にしばしば認められるものです。実際には離人は統合失調症以外でも認められるうえ、そもそもその症状が離人かどうかの診断もかなり難しいことが多いので、残念ながらこの時点で統合失調症の発症を予測することは困難だったと思います。しかし、今から振り返って経過を総合的に見れば、この離人症状も統合失調症の表れであったと判断することが出来ます。


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