精神科Q&A

【1572】うつ病と診断されている母の頑固な妄想


Q:  私は35歳独身女性、今回は、母60歳の事でメールさせて頂きました。

今年に入り、弟33歳(独身)の結婚や転職の件で色々あり、母は4ヶ月ほど前から「色々考えて眠れない、眠ってもすぐに(2〜3時間)目が覚める」と言い出しました。
 もともと心配性で頑固な部分もあり、眠りは浅いほうだったのですが、このころの睡眠状態は今までと違うようで、自ら内科に行って睡眠状況を話し薬をもらってきました。
 薬をもらうと、その日は寝れたようなんですが、2〜3日するとまた眠れなくなり、1週間ごとに様子を伝えながら内科で薬をもらってきたようです。(薬の名前が分らずに申し訳ありません)
 しかし、この頃から体重も減り、食欲も落ちてきたので、約二週間後には心療内科(精神科もあり)にかかる事にし、そこでの診断は仮面うつ病というものでした。脳のMRIや内臓のCT、血液検査も異常なしとの事でした。
 本人も結果を納得したようで、薬をきちんと飲み治そうとしていたのですが(度々申し訳ありません。一緒に住んでいないもので、薬の詳細が分りません)どうしても思うように眠る事ができず、先生より「環境を変えるためにも1週間程入院して投薬すれば良くなりますよ」と言われたので、入院することにしました。
 このころは、弟の転職の件で決まるか決まらないかをとても心配し、それさえ決まれば私は楽になれると母はいっていました。(しかし結局一ヵ月後に就職が決まっても症状は変わりませんでした。)
 しかし、1週間で楽になる様子はなく、入院中に下腹部に痛みと排尿障害を感じ、それが子宮癌ではないかと思い込むようになってしまったのです。そこで、総合病院の婦人科で検査を受けたところ、異常なしとの事で本人に伝えました。しかし「こんなに痛みがあるのに癌じゃないわけない、もうすぐ死んでしまうけどお葬式は小さくやってね」などと、泣きながらの妄想が始まってしまいました。
 とりあえず一度退院し、家で安静にして薬をきちんと飲み様子をみようという事になりました。二ヶ月前のことです。
・デシプール1mg(朝・昼・夕)・デジレル25mg(朝・昼・夕)・パルギン0.5mg(朝・昼・夕)
・ ウブレチド1錠(朝)・グッドミン0.25mg×2(就寝時)・リスミー2mg×2(就寝時)
 睡眠は適度に取れていたようですが、結局家に居ても自分が死んでしまうという恐怖から、落ち着かずに家のなかをウロウロしたり、扉を何度も開け閉めしたり、私達がつい癌の事を否定してしまった事により、興奮して目を開き、歯をガクガクさせながら大声で叫んだりした事もありました。傍にいて抱きしめると、少しずつ落ち着いてきたのです。ただ私が家に居るときに、お料理を教えてなどと言うと、落ち着かないながらも教えてくれたり、大好きなレース編みも以前では考えられない程雑ですが何品か作ったりしていました。そんな時はとても嬉しかったです。
 しかし、毎日続くこの状況にはさすがにおかしいと思い、父と相談し入院準備をして病院に向かいました。先生の所見は「心気妄想(癌ノイローゼ)のあるうつ」という事で、家での状況から入院したほうが良いとの事で、その日より現在まで、約一ヵ月半の入院生活を送っております。

前回と違い、今回は閉鎖病棟だったので「変な人と一緒にされてる」と嫌がっていたので不安でしたが、次第にその事には触れなくなってきたので安心しました。やはり癌という妄想と、この頃から少し興奮(話し方や点滴の際に嫌がったりなど)が目立ってきました。1週間程で興奮が少し落ち着いてきたので、先生の方から開放病棟の方が本人も良いだろうと移動しました。

しかし今度は自由になったからか、毎日のように自宅や叔母(母の妹)の所へ、「死んでしまうから早く会いに来て」電話を掛けてくるようになり、やはり目が届くようにと、同病棟の個室(ナースステーションと繋がっている)に移りました。すると今度は「個室はお金がかかる、何億と支払わないといけない、ホームレスになってしまう」と言うようになりました。癌同様、無理と思いながらも支払い明細を見せて「大丈夫だよ、安心して」と言っても信じられません。「支払いができないと、裸になって病院から追い出されるんだよ。だからその前にココの荷物全部持って帰って」と裸になろうとしたりと、どんどんエスカレートしていき、一週間前のある日、ほとんど眠れなかったらしく(それまでは睡眠剤で眠れていたようです)ナースステーションで興奮してしまったようなのです。(主に大声で話す、歩き回る)

次の日、病院より来て欲しいとの連絡があり、父と私とで伺いました。先生曰く「どうしても妄想が取れない。妄想の内容的にも年齢的な事を考えても、うつ病が一番考えられるのですが、もしかしたら躁うつ病、統合失調症も考えられるので、妄想をとることを先ず最初の課題とし、主に統合失調症に使われるリスパダール1mg液を朝と夜に投薬してみます。落ち着けば、朝昼晩にして様子をみます」との事でした。

私は、母の調子が悪くなってきてからこちらのサイトを拝見させていただいて、薬の処方が大事と知りましたので、「先生、正直今までの薬は随分弱いもの使っていたのでしょうか」というと「そうですね、やはり難しい所なので慎重に処方していました」との事でした。詳しくは説明してもらえなかったのですが、これまでにもう少し良くなる可能性はあったのではないかと、身勝手と思いつつも感じてしまった瞬間でした。

そして、投薬から1週間後、また病院から連絡が入り、血液検査の結果(CK↑↑1925以上、LDH546↑、GOT67↑、GPT52)※手書きの経過報告書の写しを見たので、間違っている箇所があるかもしれません。
以上の結果から「悪性症候群」の疑いがある事。
実際リスパダール以外の投薬も併せてしていたようで、その影響だと思うとのことでした。
1週間点滴(ダントリウム)をして様子を見てから神経治療を再開しますとの事です。
 母の状態としましては、高熱が出る訳でもなく連絡が入った日の朝も食事を済ましたとの事で、ほんの少し安心しました。ただし、ふらつきなどが多く父が面会した際には顔にも転んで痣があったそうです。点滴の際には、父が付き添いをするか、つなぎの服を着て車椅子に拘束して行うとの事。やはり少し興奮するようです。
 病室も、個室で畳にマットレス(これはふらついても怪我をしないようにとの事)になりました。
 しっかりしなくてはと思いながらも、4ヶ月前の発症から今日まで、どんどん症状が悪化していく一方です。
 眠れないと言ってから、今の病院に掛かるまで半月程度でしたので、比較的早く治療が開始されたと思うのですが・・・。
 必ず良くなる!と信じていますが、さすがに苦しいです。定年になり、家に居て母の心配をしている父の事も気がかりです。
私も実家に戻り、父の事もサポートしていくつもりです。

現在、金銭的な妄想を口にすることは少なくなったようなのですが(ゼロではない)、癌であるという事と、今度は尿や便で汚れているとか、トイレの水を流してはいけない、自分の臭いとかが気になり、陰部を触るようになってしまったそうです。おむつをしても、中の部分の繊維をとってしまったりと、やはり落ち着かない状況が続いております。ろれつもまわっておりません。衛生上からも、ファスナーに鍵の付いているつなぎの服を着ることになりました。徘徊や危険とみなされる場合は拘束もしますとの事。

ただ、父が「1週間点滴に付き合うよ」と言うと、表情が明るくなり「来てくれるの?」と喜んでいたそうで、それを聞くとまた胸が締め付けらます。

長々となってしまい申し訳ございません。

まずお詫び致します。服用している薬の情報がなく申し訳ございません。

当初は、正直すぐに良くなると考えており、また入院中は病院に任せておりました。
本当はきちんと調べてからこちらに投稿しようと思ったのですが、居てもたってもいられず漠然とした内容のまま今回は投稿してしまいました。

林先生にお伺い致します
状況だけで分りづらいと思いますが

1、母の病名として考えられるのは、うつ病でしょうか、統合失調症でしょうか。
2、悪性症候群になっても、今後の投薬治療は可能でしょうか。
3、きちんと投薬治療を受ければ(薬が限られても)、母にも良くなる見込みはあるでしょうか。(自宅で日常生活を過ごせる程度)

お忙しいと存じますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。


林: これは妄想のあるうつ病として比較的典型的な症状といえます。このようなケースは精神病性うつ病と呼ばれることもあります。妄想という点では統合失調症と似ているので、

1、母の病名として考えられるのは、うつ病でしょうか、統合失調症でしょうか。

この疑問が生まれることは理解できます。
実はこの【1572】のようなケースの診断をどう考えるかは、今でも議論のある難問なのですが(たとえば、統合失調症圏内とみなして、遅発性緊張病という病名がつけられることもあります)、現代の精神医学の主流の考え方に従えば、うつ病という診断が正しいということになります。

2、悪性症候群になっても、今後の投薬治療は可能でしょうか。

悪性症候群だとすれば、その原因となった薬は今後は飲むことはできないと考えるべきです。それ以外の薬は慎重に飲むということになります。ですから結論としては、今後も投薬治療は可能です。
ただし、この【1572】のようなケースでは、薬物療法よりも電気けいれん療法の効果のほうが期待できますので、治療法の変更を検討すべきでしょう。

3、きちんと投薬治療を受ければ(薬が限られても)、母にも良くなる見込みはあるでしょうか。(自宅で日常生活を過ごせる程度)

その見込みはあります。けれども、電気けいれん療法を考えたほうがいいでしょう。


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