精神科Q&A

【1565】人格障害で治療中でしたが、通院を中断してしまいました


Q: 20代の主婦です。少し前まで、境界性人格障害 (境界性パーソナリティ障害) と解離性障害と診断されて精神科に通っていたのですが、理由があって通えなくなりました。 元々人と接するのが苦手で、精神科に行っても長い間(2時間程です)椅子に座っていられず体調不良を起こす為、その度にベッド(カーテンで仕切ってます)で休ませてもらいました。ある日、いつもと同じように精神科に行って休ませてもらったのですが、休んでいる時に突然見も知らずの男性がカーテンを開け、声をかけてきたのです。内容は容姿に関して褒める言葉(べっぴんさんだね)、プライバシー(恋人は?子供は居るの?等)に関わるものでした。どちらも自分にとっては苦痛の言葉です。容姿が原因でセクハラやいやがらせをされた事がありますので…その時逃げるという選択肢が思い浮かばず、とても怖い思いをしました。時間も長く感じられました。
それをかかりつけの医者や受付の人に話し、その方々には謝られたのですが、恐怖が全然取れません。その為、診察を受ける日は家で暴れてしまい、とうとう病院でも暴れてしまって、自分の携帯を破壊する、近寄ってきた看護婦の方に怒声を浴びさせる等してしまいました。その事は後で謝ったのですが、その後も診察までの時間は動悸が早くなり、以前より脈拍数が上がり、息苦しい、足の感覚が無くなる(歩くことは出来る)という身体的症状、怖い、視線が怖い、誰にも見られたくない、自分が居ちゃ駄目なんだ等の精神的症状が出てきてしまい、段々行く日の前日まで暴れるようになってしまったので、行かなくなってしまいました。行かない日や何も考えない日は、いつも通りに暮らせます(普通?とまではいきませんが)。
そもそも最初に精神科に通うようになった理由は、夫の転勤があって、その引越し先で暴れる、自殺未遂(二階から駐車場に飛び降りそうになる、薬を大量に飲んでしまう程度)をする等危険な状態に陥ったためです。だから、本当は病院に通わなければならないのですが、カウンセリングを時々受けていたのですが、過去の事を思い出して夜に暴れてしまい…悪い方向に物事を考える、悪い事を引きずる、だるい、体が痛い、周りが怖い等、症状が酷くなりつつあるので、どうすればいいか悩んでおります。医者に境界性人格障害によるうつ症状も出ていると言われている時に通院を止めてしまったので… この場合はもう他の病院をかかったほうが良いのでしょうか? その場合、既に自立支援医療を受けており、その変更はどうすればいいのでしょうか? それと、今の病院へどう伝えればいいか(近くに他の精神科、心療内科はありません。あっても作業所です)教えてください。今の場所で通ったほうが良い場合も、どうすれば落ち着いて通えるか教えてください(常に人がおり、午前中だけの診断、午後は予約のみだが予約は中々取れない、医者は二人、後看護師とカウンセラーの方。カウンセリングは完全予約制) 一度、社会保険事務所に相談しているのですが、そこにも今の医者が関わっているのであまり役所等に相談したくないのです。お願いします。


林: 今の病院への通院を続けることをお勧めします。
境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集 のp.76 境界性パーソナリティの治療 の冒頭、そして本文中でも何回も強調したとおり、境界性パーソナリティの治療でもっとも重要なことは、「治療を続けること」です。病院をかえた場合、それは治療を続けていることには必ずしもなりません。境界性パーソナリティ障害では、次々に主治医をかえることがよく見られます。それは「断続的な受診を繰り返している」にすぎず、「治療を続けている」とはいえません。

この【1565】のケースを見ますと、病院での不幸な出来事があったために受診が続けられなくなったのであり、このような事情がある場合は病院をかえるのもやむを得ない、と思われるかもしれません。しかしそれは大部分の場合誤りです。境界性パーソナリティ障害の人が病院をかえるのは、決して理由なくかえるのではなく、それなりの理由があってかえるのが常です。しかしこの「それなりの理由」は、客観的には病院をかえなければならないほどの理由ではないことが大部分です。それほどの理由でないにもかかわらず病院をかえること、それ自体が境界性パーソナリティ障害に特徴的な対人不信感の表れと見るべきです。ですから、その度に病院をかえていては、いつまでたっても治療をしたことにならず、したがって、いつまでたってもよくならないということになります。

そして、実は、この【1565】に書かれているようなエピソード、すなわち、治療を続けることが危ぶまれるようなエピソードは、逆に境界性パーソナリティ障害の治療に生かすことができます。同じような種類のエピソードは、この【1565】の方の日常生活でたくさん起きていることが推定され、それにうまく対処できるようになることが、境界性パーソナリティ障害の重要な治療目標ですから、病院や診察室という場面で同種のエピソードが発生した時こそが、それについてともに考えていくチャンスなのです。これは境界性パーソナリティ障害の精神療法の基礎に属することです。

ここであなたが病院をかえることは、このせっかくのチャンスを自分から見送ることに等しいと言えます。このメールを見ますと、すでにあなたは病院をかえることをほぼ決定しているように読めます。今の病院に通い続けることがあなたにとって苦しいことはよくわかります。しかしそれを乗り越えなければ、境界性パーソナリティ障害の治療にはならないことを認識し、今の病院での治療を続けるべきです。





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