精神科Q&A

【1559】解離性と言われているけいれん発作


Q:  私は20代の女性で、障害者デイサービスの職員をしています。今回は、デイサービスに併設の障害者福祉作業所の利用者に、たびたび起こる発作についてお伺いしたく、メールいたしました。 本人(以下Aさん)は、軽度知的障害の20代男性です。大まかな特徴ですが、うちの利用者の中では知的レベルのかなり高い方で、読み書きもそれなりにできます。緊張しやすく、初めての作業や、注意を受けた作業などに取り組む際は、手をこわばらせ、汗をかいています。自分の考え方に合わない人や、異なる意見を極端に苦手とし、はたから見ると正義感の強い人です。例として、犯罪を犯した人(時事問題やニュースに興味があります)に対して、今の法律は甘い、江戸時代なら火あぶりだとか、現代でも死刑にすべきだ、というように、勧善懲悪的な考えを好みます。考え方に融通が利かないという感じです(障害の特性だと思います)。 本題です。Aさんは、時々、身体のけいれん発作を起こします。全身発作に至る時もあれば、部分的な軽い発作で終わることもあります。初めは手が震えます。始まりは片方です。やがて、肩がピクピク動き始めます。そして両肩が上下するように痙攣して、顔つきがこわばります。この辺りまでは、言葉によるコミュニケーションが取れます。そして徐々に足も痙攣をはじめ、姿勢を保てなくなります。全身発作中は、寝たり起きたり左右に転がったり、急に立ち上がったりと、ドタンバタンと音を立てております。筋肉が勝手に動く、といった様子で、かなりの発汗があります。全身発作でバタバタする時間は20分〜40分程度、序盤の小さな痙攣から、発作後に落ち着くまでにかかる時間は、長い時で2〜3時間です(多めに休んでいますので)。全身発作がおさまると、本人はケロリとしていますが、翌日は、筋肉痛のためか、あちこちの打撲のためか、体が痛いのでと言って必ず欠席します。翌日には、格別どこかが痛そうな様子もなく出てきます(作業所では自分を善い人だと思ってほしいため、あまり我儘はいいませんが、家庭では思い通りにならないと母親に暴力をふるうようで、母親はほぼ本人の訴え通り欠席を認めているのだと思います)。精神科に通院しており、パキシル(寝る前のみ、量は不明です)を処方されています。毎年健康診断をして頂いているのですが、診断書には解離症状と書かれております。

発作のタイミングですが、昨年までと比べ、今年は特に増えました。週明けの月曜日と、外部の清掃作業(請負の仕事です)の日に多いようです。今年の4月から、彼の苦手な利用者が入りまして、彼はその人の言動が気になり許せなく思っているようです(他の利用者はあまり気にしていないような程度のことなのですが)。ところが、清掃作業で彼はその利用者と組んで行わなければならず、午前中に清掃作業をすると、午後に発作を起こすことが多いように思われます(実際は分かりません。なにぶん、勤務部署が違うので、勝手にあれこれアプローチできない立場なのです)。余談ですが、以前、全身発作を起こした際に、ちょうど昼休みでテレビをつけており、彼の好きな時代劇がついておりますと、徐々に発作が治まり、テレビを集中して見ておりました。その後テレビが終わってしまうと、思い出したように発作が始り、全身発作になりました。 なお、てんかんの既往歴を含め、身体的な原因は見つかっておりません。
解離症状と言うからには、心因的なことで発作が起こるのではということで、発作のおこりやすい状況等を把握するべく、本人にメモをつけてもらっています。毎日、その日にあったこと、気分などを記録しています。しかしながら、彼の能力的な限界もありますので、気分はたいてい「普通」であり、その日にあったとことと言っても、うまくポイントを拾い出すことができず、あまり目安にならないようです(この辺も私は担当外ですので、ミーティング等の報告からの情報です)。作業所での対応は、休憩室にて一人で休んでもらうという程度で、特別に働きかけを行っていません。発作を気にして頻繁に様子を見たり声をかけたりすると、発作によって特別扱いしてもらえるという動機づけが起こるため、おさまるまで安全を確保して見守るという、施設ではよくある対応方法です。
さて、長々と失礼いたしました。先生にお伺いしたいのは以下の点です。1.彼の発作に当てはまる病名がありましたらお教え下さい。2.発作の回数を減らす働きかけ(施設職員や家族にできること)がありましたらお教え下さい(痙攣の軽いうちに、本人の興味のある物や話題などで気をそらせないかと思うのですが、現段階では試しておりません。気をそらすだけで発作がおさまるものなのかも不明です)。 本来ならば主治医に問い合わせれば良いことなのですが、個人情報の関係もあり、難しいようですので、セカンドオピニオンとして、不躾な質問で大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。


林: 解離性と診断されているとのことですが、発作の症状からは、てんかんも完全には否定し難いと思います。

初めは手が震えます。始まりは片方です。やがて、肩がピクピク動き始めます。そして両肩が上下するように痙攣して、顔つきがこわばります。この辺りまでは、言葉によるコミュニケーションが取れます。そして徐々に足も痙攣をはじめ、姿勢を保てなくなります。

このように、体の一部から痙攣が始まるのは、てんかん発作にはよくあります。「始まりは片方です」とのことですが、右か左か、いつも決まっているのでしょうか。決まっていれば、てんかんの可能性は高まります。(決まっていれば、てんかんと確定されるわけではありません。また逆に、決まっていなければてんかんは否定されるというわけでもありません)
しかし、この後の症状、すなわち、

全身発作中は、寝たり起きたり左右に転がったり、急に立ち上がったりと、ドタンバタンと音を立てております。筋肉が勝手に動く、といった様子で、かなりの発汗があります。全身発作でバタバタする時間は20分〜40分程度、序盤の小さな痙攣から、発作後に落ち着くまでにかかる時間は、長い時で2〜3時間です(多めに休んでいますので)。

↑これはあまりてんかんらしくない発作です。
「寝たり起きたり左右に転がったり、急に立ち上がったりと、ドタンバタンと音を立てております。」という様子は、やはり解離性であるという可能性を高めます。(おそらくこのケースでは、精神科医が発作を一度でも見れば、解離性かてんかんかの区別ははっきりつくと思います。文章による描写からははっきり言い切ることは難しいですが、やはり解離性の可能性のほうが高いでしょう)

ご質問の件に関しては、

1.彼の発作に当てはまる病名がありましたらお教え下さい。

上記の通り、解離性けいれんだと思います。

2.発作の回数を減らす働きかけ(施設職員や家族にできること)がありましたらお教え下さい

メールにも書かれているとおり、

解離症状と言うからには、心因的なことで発作が起こる

という解釈ができます。何らかの心因があることが強く推定されます。したがって、

発作のおこりやすい状況等を把握するべく、本人にメモをつけてもらっています。毎日、その日にあったこと、気分などを記録しています。

↑これは一般的には有効な方法ですが、このケースのように知的障害の方では、

しかしながら、彼の能力的な限界もありますので、気分はたいてい「普通」であり、その日にあったとことと言っても、うまくポイントを拾い出すことができず、あまり目安にならないようです

このような結果になるのは多々あることです。
もちろん知的障害の程度にもよりますが、言語によって心因を表現していただくことは困難なことが多いものです。
 したがいまして、本人に表現していただくことを期待するよりむしろ、スタッフの方々の観察によって、発作の起こりやすいきっかけを見出すことが有効であると思います。

週明けの月曜日と、外部の清掃作業(請負の仕事です)の日に多いようです。

というようなパターンも、ヒントになるでしょう。

但し、

てんかんの既往歴を含め、身体的な原因は見つかっておりません。

見つかっていないからといって、てんかんが完全に否定できるというわけではありませんので、てんかんの可能性もわずかに残っていることには留意すべきと思います。


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