精神科Q&A

【1551】バス停で泥棒よばわりされ怖い思いをしました


Q:  30歳代女性です。先日、夕方(5時半頃)の駅バスターミナルでのことです。目的のバスは行ったばかりとみえ、バス停には待ち人が2名ほど、近くのベンチの一番前に男性(60歳代?)が座っていました。私は荷物もあったことから(左手にケーキの入った白いビニール手提げ、右手に緑色の布製の手提げ)、ベンチを利用することにしましたが、その男性は煙草をくゆらせておりましたので一人分あけて座ることにしました。煙草の煙が気になり、ほどなくバス停に並ぶことにしましたが、この時点でその男性とは目をあわせておりません。 いつの間にか私の横にその男性が立ち、4〜5分ほど経過したところ、「友人から預かった黒いかばんをとっただろう?みんなの前で言うぞ」と予告めいたことを告げられました。その時、なんのことやらとっさにわからなかった記憶があります。軽く否定をしたか、言葉は交わさなかったかもしれません。ようやくバスに乗り込もうとした時に、「かばんをかえせ。盗っただろう!」と大声を出し始めました。この時点では「認知症かもしれない」と思い、笑顔を作りながら否定をしつつ、とりあえず本人をバスに先に乗り込ませようと「お先にどうぞ」などと伝えていました。しばらく押し問答をしていましたが、私のかばんに手をかけようとしたこと、「逃がさない!」と言われたこと、怒鳴り声の大きさが増してきたことから身の危険を感じ、遠巻きに様子を見ていた周囲の方や運転手に警察を呼んでくれるよう頼むことにし、ことなきを得た次第です。 しばらくして到着した警官からうながされ、私のかばんの中身を本人の前で見せました。「黒いのは日傘じゃないか!(布製の手提げに突っ込んでいたもの)」と、警官が本人に声を荒げても、臆することなく「この女の味方するのか。この女が盗った!」の一点張りでした。一般的には証拠を見せられたら、勘違いを恥じるなどのそぶりを見せようものですが一切見られず、私が一足先に帰ろうとする様子を見るなり「あの女を信じるのか!早く捕まえろ」と大声で騒ぐばかりでした。 出来事は以上ですが、ご照会したいことは次の3点です。 (1) この男性は「妄想」状態だったのでしょうか。認知症や他の病気によるものでしょうか。(2) このような場合の適切な対応法についてご教示ください。凶器沙汰とならず安堵していますが、万一の場合も含めて教えてください。(3) この春より「精神保健福祉士」を目指し学んでいます。正直、恐怖心を覚えた出来事でしたが、仕事としてこのような方と関わっていく場合の心構えなどを教えてください。 


林:
(1) この男性は「妄想」状態だったのでしょうか。認知症や他の病気によるものでしょうか。

妄想が症状であることは明らかです。しかし、他の症状の有無がわかりませんので、診断名はわかりません。妄想の内容と、病気の発症率からいえば、統合失調症または認知症の確率が高いとまでは言えます。

(2) このような場合の適切な対応法についてご教示ください。凶器沙汰とならず安堵していますが、万一の場合も含めて教えてください。

最終的には逃げるしかありません。(非現実的なきれいごとを言っていられる場合ではありません)

(3) この春より「精神保健福祉士」を目指し学んでいます。正直、恐怖心を覚えた出来事でしたが、仕事としてこのような方と関わっていく場合の心構えなどを教えてください。

どんな仕事でも、その仕事に就くために一定の努力を重ねた結果始めるときは、それなりの希望を抱くのは自然です。精神保健福祉士も例外ではないでしょう。

仕事としてこのような方と関わっていく場合の心構えなど

特にこの【1551】のような方と関わる場合に限りませんが、精神疾患にかかわる仕事を始められる場合にひとつ大切なことは、

できることとできないことの区別をつける

ということが挙げられると思います。
 精神疾患に対しては一般には偏見がまだまだありますが、その一方で、非現実的な希望もしばしば語られています(【0075】などもご参照ください)。たとえばこの【1551】のような人 (60歳代の男性) に対し、その人の気持ちになって真摯にかかわればわかってもらえるというかの如きものです。そのような綺麗ごとは事実ではなく、事実は上の回答のとおり、「最終的には逃げるしかない」というものです。仕事としてかかわる場合も同じとお考えください。

医師でも精神保健福祉士でもあるいは他の職種でも同じですが、非常に真面目で意欲にあふれた新人の方が、努力が報われなかったり、それどころか手を差し伸べた相手に裏切られるような体験をし、疲弊したり失望したりして、結局は舞台を去って行くというのもありがちなことです。ぜひ現実を直視するとともに、できることとできないことの区別をつけるという姿勢を持ってください。それが結局は多くの患者さんのためになることです。


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