精神科Q&A

通常認められていない独自の治療法を推し進めた医師が提訴され、賠償を命ぜられた判例
判例タイムズ No.1058 (2001.7.1.) p.204-p.213


「自然医学療法」と称する治療法を提唱しているY医師が、癌の治療にこれを用いた結果、患者が死亡したというケースです。
 Y医師は、癌を含めて全ての病気は血液が原因で、血液は腸で作られると考えられることから、ほとんど全ての病気は自然食と薬草茶で血液を浄化すれば治るという独自の荒唐無稽な論を主張し、それにそった著書も出版していました。
 そのような方法で癌が治るはずもなく、治療を受けた患者が死亡したのは当然です。
 したがってY医師が賠償を命ぜられたのも当然と言えます。

 が、話はそう単純ではありません。
 裁判で被告側(Y医師の側)は、この患者が治療法を選択するのは本人の自由であり、その自由に従ってY医師の自然医学療法を選択したのであるから、それは本人の責任であると主張したのです。
 対して裁判所は、しかしY医師は、自分の主張する自然医学療法の内容や治療成績などを患者に説明する義務があったのに、それを怠ったところに過失があるとして、Y医師に賠償を命じたのです。

 これに照らして【1533】を見ると、どうでしょうか。
 【1533】の質問者が今後、その医師の説明を聞き、自ら納得してその医師の治療を受け、病状が悪化したら? その場合、Y医師は説明義務をはたしたという解釈もあり得ますので、この判例とは事情が違ってくるかもしれません。
 もちろん、【1533】の医師の主張内容、つまり、この医師が「統合失調症の90%が自分の治療法で治った」が、客観的に正しい説明であるとは到底思えません。しかし、説明というものは言い方によって解釈にはかなりの幅がありますから、嘘とは言えない程度の微妙な説明で統合失調症の患者さんを騙し、高額な治療費を得た場合、提訴してもはたして賠償が得られるかどうかは、何とも言えないでしょう。(賠償が得られる・得られないということより、正しい治療を続ければ改善する期待が持てるところを、デタラメな治療を受けることで、その機会が失われることのダメージのほうが大きいでしょう)

 かつて私は【0057】で、完全に治ると言われて大金を払ったが治らなかった、騙された、と訴える質問者に対し、それは自分の責任であるとお答えしました。その答えは今でも変わりません。
 しかしこの【1533】の質問者は統合失調症ですので、話は違ってきます。統合失調症という病気には、適切な薬物療法を受けていれば健康な人と全く変わらない人から、きわめて重い状態になる人まで、様々な幅がありますが、判断力が低下する人が一定以上いらっしゃることも確かです。そういう人々を対象にした【1533】の質問にあるような詐欺は、厳しく対処されるべきと私は考えます。


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