精神科Q&A

【1530】嘘の多い12歳の娘、幻聴もあるようです


Q:  私は30代の主婦です。
主人・私・長女・長男の4人で暮らしています。
今回は、娘のことをお話したいと思います。出来るだけ順序だてて簡潔にお話したいと思っておりますがこれまでの経緯を話す手段は記憶を辿るより他ないのでまとまりのない文章かつ長文になってしまうかも知れません。あらかじめご容赦下さい。

娘は、現在、小学校6年生です。
幼稚園に入ってから現在に至るまで、欠席が多い傾向にあります。
欠席の理由は対人関係の悩み(虐め)・体調不良のいずれかです。
体調不良の場合は学校に欠席の連絡を入れて間もなく治ってしまうので単なる仮病でないかと叱ったこともありました。
昨年の秋に同級生や先生からの虐めを訴え約2ヶ月不登校になりましたが臨床心理士の先生のカウンセリング・先生方の支援のおかげで少し気持ちが前向きになり1ヶ月余りの保健室登校を経て進級前に学級に戻ることが出来ました。
不登校・保健室登校をしていた頃は学校や学級に行っていないことを咎められたりするのではないかと人の目を気にして、あまり外へ出たがりませんでした。
事実か判りませんが、当時熱中していたゲームをしに学区外のスーパーへ連れて行ったときには見知らぬおばさんに「学校は?」と訊かれたと何度か言っていました。
家族・友人・先生など周りの人達への評価の変化が激しく特に、新しく知り合った人については、最初は褒めちぎり1か月も経つと、性格だけでなく容姿に至るまで、こきおろします。
学校では孤立しているのではないかと思いきや時折、学校で目にする娘は友達と普通に話したり遊んだりしているようで、とても虐めに遭っているようには見えず、また担任の先生からも同級生から虐めを受けるどころか明るくて人気がある方だと言われています。
そんな状態だったので、娘の不登校への対処法が分からず公共の育児相談にすがるような思いで電話をかけたこともあります。
学校へ行かないと言い張る娘に登校するよう話しているとき、私に対する不満を爆発させることが何度かありました。
しかし、大抵は、そのときの態度や話の内容に対してではなく驚くほど時間を遡った話を蒸し返していました。

私が最も鮮明に憶えているのは5年生の夏に娘が話していた幼稚園の頃の事です。
園内で熱を出したとき、担任の先生が迎えに来て貰うよう家に電話したら
「うちの子なんか放っておいて、他のお子さんの面倒をみて上げてください。迎えには行きません。」と私が答えたというのです。
そして担任の先生にも「お母さん、○○ちゃんのことなんか、どうでも良いんだね。」と意地悪そうに言われたと泣きながら私に物を投げつけました。
もちろん、娘の話していたような事実はありません。
幼稚園から早退を勧める電話が来た時は、必ず迎えに行っておりました。
ただ、その頃、未熟児で生まれた弟のために娘が我慢を強いられる場面もあったようで自分への愛情が不足していると感じていたのかも知れない、そのせいで、このような思い込み(!?)をしているのではないかと思いました。
とにかく、それ以降は毎日娘の話を聞いてあげることにしていたのですが。 

学校の話題においても「これは事実ではない」と感じることが幾つかありました。
「弟が乱暴だから、私は全校生徒に知られているし、全校生徒に嫌われている」などということも時折話していました。
小学校は、児童数1,000人を超えるマンモス校なので、これもまたあり得ない話だと思われます。
クラスの皆が「叩いてくる・蹴ってくる・文具を投げてくる」の他に「机を投げてくる」という言葉が聞かれたとき、初めて病気を意識しました。
机を投げるというのは先生に気付かれずに出来る行為ではありませんし、子供の腕力などを考えても無理があります。
また、幻視体験のようなことも話し、天井を見上げて「来るな!」と怒鳴ることもありました。

さすがに心配になり娘を病院に連れて行くことにしました。
本人には「体調がなかなか良くならないのは悩みやストレスのせいかも知れないから」と言いました。
実際、日々あちこちの不調を訴える娘の病院通いは家計を圧迫する程のものでしたし、何処の医者にかかっても「治らない」と不満を訴えては薬の服用を中止しては溜め込む状態だったのであっさり病院へ行くことに同意してくれました。
そのときから現在に至るまで約10か月、大学病院の精神科に通っています。
娘が自分の体調や悩み事を先生に話した後、娘を別室に移動させて貰い娘の訴えが事実でないと思われること、また生活面で気になる点についても加えて話しました。
その頃は眠れないと言っては深夜まで起きていて床に就かせてからも度々トイレに通うため朝は起きられず半ば昼夜逆転の生活パターンになっていました。

強迫のような行動も見られました。
ゲームの電源を自分でOFFにした後、きちんと切れているか私に確認させていました。
漢字だけでなく平仮名やカタカナでさえも、とにかく字を書く度、これで正しいのかと訊きに来ました。
手を1日に何十回も洗っては、その都度「私、手を洗った?」と私に確認していました。
対照的な(不潔な)面も同居しており入浴を嫌がり1日置きに渋々入るという感じでした。

医師の説明は、「まだ診断は出来かねる。可能性のある病気の名前はいくつかあるがもしかしたら、精神病ではなく、これがこの子の成長のプロセスなのかも知れずこのような症状も時間の経過と共に無くなって行くかもしれない。」といったものでした。
ちなみに、問診の間、娘は医師の顔を見ることはなく、ずっと俯いてゲームをしていました。注意しても、やめませんでした。

とりあえず、本人が不眠を訴えていること、そして私が幻視や強迫について心配していることからリントン0.75mg(就寝前1錠)が処方されました。
元々、小児への投与は慎重にするべき薬である上、主治医はいわゆる小児精神科ではないので普段小児を診ておられないこともあり、「投薬は、おっかなびっくりだ。」と話しておられます。幸い、服用を開始して1週間程で本人の不眠の訴え、幻視、強迫ともに軽くなって行きました。
後に軽いパーキンソニズムが出て来たようなのでアキネトン1mg(就寝前1錠)が追加されました。
幻視や強迫が治まって来て、2週間毎の受診が4週間に延ばされました。現在も受診間隔は4週間です。
その後、1度、不眠を訴えて就寝前のデパス0.5mgとリスミー1mgが追加されましたが薬が効き過ぎたのか起きられなくなり、主治医に相談の上その2つの服用は中止しました。
症状が安定してくると、娘は薬を飲むことを嫌がるようになりました。
「病気と断定しての投薬ではなかったので不眠が出なければ1日くらい飲まなくても良いけれど、2日3日と続けてしまうと、また眠れなくなるかも知れないので注意が必要」と主治医に言われ時々、薬を飲まずに寝るようになりました。
それでも症状は安定しており、また、本人が不眠・頭痛・腹痛などといった体調不良を訴えることもなくなっていたので、娘に話していた薬を飲ませる「口実」がなくなってしまいました。
再度主治医に相談した結果、様子を見ながら薬物治療を打ち切ることになりました。
2ヶ月ほど、薬を殆ど飲まずに過ごしました。
あと数ヶ月様子を見て何もなければ一旦通院も打ち切りにしようか、との主治医の言葉に
安堵している反面、同時に漠然とした不安も感じていました。

薬を飲まなくなった頃から、通院の為に学校を休んだり遅刻したりすることを嫌がるようになったので私1人が病院へ出向き、娘の状態を話しています。
クラスメイトが病院通いのことを知りたがるから学校を遅刻してまで病院には行きたくない、というのです。
娘も6年生になり、クラス替えはないものの、たまたま担任が変わったためか少し情緒不安定(イライラ)になって来ましたが、強迫は見られず、幻視も訴えていませんでした。
ちょうどこの頃、毎日、私の元に駆け寄って来ては「学校、楽しいよ。」と言っていましたが、その言い方から本心から出た言葉ではないように感じました。
ただ、何故そう言っていたのかは未だに分かりません。

そして、6月と7月には、各1回(私に報告した回数)ですが幻聴があったようです。
刺激し過ぎるのも良くないと思い、深く詮索はしませんでした。
内容は、授業中に背後から名前を呼ばれたと言うので、誰が呼んだのか周りの子供たちに訊いてみたところ実際は誰も呼んでいなかった、というもの(本人だけでなく担任からも聞きました)と、
耳の痛みを訴えて耳鼻科に行く途中(診察の結果、耳は異常ありませんでした)
「また何か言ってるね。」と言うので何のことかと訊き返したら無線のような感じで声が聞こえて来ており「右だよ。」等と方向を指示されたと答えた、というものです。
ただ、自分が行こうとしている方向とは別の方へ行けというので自分に向けられた言葉ではないと理解していたようです。
ただ、「また」という言葉から、それ以前にも似たような幻聴を感じていたと思います。
また、私が何も話しかけていないのに急に質問に答えるようなことが何度かあったので今になって思えばそれも幻聴に答えたものなのかも知れません。
幻聴の訴えがあったので心配になり、主治医に報告して、投薬を再開しました。
これまで不眠や体調不良の為に薬を飲んでいると思って来た娘に「イライラのせいで、また前みたいに眠れなくなるかも知れないから薬を飲みなさいって先生が言ってたよ。」と言って薬を飲ませ始めました。
耳鼻科で出された薬は嫌がらずに飲むのに、精神科の薬は嫌々という感じでした。
理由を尋ねると、精神科の薬は喉に引っ掛かるから嫌だと言っていましたが薬の大きさ(ともに錠剤です)は、精神科の薬の方が小さい位なので喉に引っ掛かるというのは言い訳だと思われます。
必ず飲むように指示されているから、と言い聞かせたところ、渋々ではありますが欠かさず飲んでいます。

1ヶ月間の夏休みが明けた初日は、奇妙なくらいにお洒落をして学校へ出かけました。
そして、帰宅してからは、ずっと寝ているのです。
部屋の片付けや宿題等、やるべきことはたくさんあるのに気がつくと、お気に入りのタオルの匂いを嗅ぎながら寝ています。
夏休み中も寝ていることが多く、下の子に比べて1日の活動時間がとても短かいように思います。
そして、夜になってから「やらなくちゃいけないことがある」と言い出しては居間のテーブルに勉強道具を広げるのです。
勉強をしている間、しょっちゅう手を止めては関係ない話を始めます。
もちろん、楽しげな話もありますが、不満の割合の方が多いです。
「学校に行きたくない。」「私は先生に目をつけられている。」「原因は、他の誰かが私に関する嘘の情報(悪いもの)を先生に流していることだ。」「私がクラスに入ると、皆が"○○(娘の名前)来ぁ・・よ"と話すのでザワザワする。」
と、周りに虐められているような話をすることが多いのですが、そうかと思うと、「男子が私に謝ってくる、通りかかっただけで謝ってくる。私は恐れられているようだ。」等ということも言います。
また、目つきが悪いなどと思わせるような外見ではないのに
「私は目つきが悪いって言われている。」と訴えたこともありました。
それは当時娘が読んでいた漫画の主人公が同級生に言われていたもので漫画の中のことを自分に当てはめる行為にどういう意図があるのか、それとも無意識にしているものなのか判りません。
勉強を教えて欲しいと言うので教えていると、普通に説明しているだけなのに急に受けつけなくなり「わからない」と何度も言いながら耳を塞いでうずくまる事もあります。

私は、娘は統合失調症か、または何らかの人格障害なのかと思っています。
しかし、娘はそういった報告や相談を主人にはしないので特定の人の注意を引いたり振り回したりしたい気持ちから出る嘘なのではないかと主人は言います。

自分が訴えたことに対して賛同が得られなかったり否定的なことを言われるとあの手この手、といった感じで全く別の話を持ち出して来ます。
自分の気が進まない事に関しては何度注意や催促をされても動きませんし、最近では、私に小言を言われている最中にクスクス笑い出し、仕舞いには大げさな身振り手振りを伴った高笑いになります。笑い転げることもあります。
「5分したらお風呂に入る。」等と言い出しておいて30分以上経っても一向に風呂場へ行く様子が見られないなど、自ら言った事を実行に移しません。
自分の部屋は乱雑です。酷く散らかっているので注意すると「散らかっていないと思う」と言います。
再三注意すると、拳を強く握ったりしてイライラしている素振りをします。
自分の部屋で過ごすことは殆どなく、使うものを居間などの共有スペースの彼方此方に置いて家中を散らかしています。
共有スペースに放置した自分の物に弟が触ると「汚い手で触るな!」と物凄い剣幕で怒ります。食べるものに関して、1つの物が気に入ると、異常なくらいにそれだけを食べます。(例えば味付け海苔を1缶等)

自分の成績はクラスで1番良いと言ったりもします。(もちろん実際は違います。)
そうかと思うと宿題のドリルの答えを丸写ししながら「自分は何1つ人並みに出来ない、こんなに努力をしているのに出来ないのは頭が悪いからだ。」と言ったりします。
「(自分と違って)健康そうで羨ましいと思っていると、その人が病気になる。」とか
「嫌いだ、罰が当たると良いと思っていると、その人が先生に叱られたり怪我をしたりする。私が呪ったのかな。」等といったことも言います。
8月後半から、また入浴を渋るようになって来ました。
幻聴は、ときどき、学校で聞こえると言います(授業中に呼ばれる)。
以前は、小言を言われてイライラを爆発させた後、暫く経ってクールダウン出来ると自分から謝って来たのですが最近は全く謝ることはせず、それどころか反論や「死んだ方がマシ」等といったことを書いた置手紙をするようになりました。

病気と断定されていない状態なので、娘の言動にどう対処したら良いのか毎日、頭を抱えています。
生活のリズムや学習、身の回りの整理整頓などに関して、どのように注意したら良いのか
もしかしたら注意や小言は言ってはならないものなのか
この年齢に見合った行動を期待するのは間違っているのか…
病気なのか否か、病気だとしたら何なのか、それがハッキリしていたらこういう迷いや戸惑いはなくなるのかも知れません。
昨日がちょうど受診日だったので、主治医に現状をお話して来たのですが、
「このような病態は今まで診たことがない。統合失調症のようなところもあるが断定は出来ない。とりあえず、このまま薬を飲ませて様子を見ましょう。」と言われました。
小児精神科では、娘のようなケースも見受けられるのでしょうか。

また何か変化が見られたら、メールを送らせて戴くと思います。
お忙しい中、拙い話を最後まで読んで下さって有難うございます。


林: これはかなり難しいケースで、質問者のご指摘のとおり、また、主治医の先生のおっしゃるとおり、統合失調症の可能性はあると思います。小児の統合失調症の診断が難しいことは、精神科Q&Aの他のケースにもあるとおり、また、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のp.156にもお書きしたとおりです。小児では、症状そのものが未分化であることも多いことに加え、自分の症状を説明する言葉も発達の途中であることなどが理由です。精神症状というものは、大部分が主観的なものなので、本人の言葉による説明を聞いて初めてわかるものです。したがって、言葉での表現力が不十分な小児では、大人と同じようには診断できないのです。
 しかしこの【1530】のケースは、そうした困難さを考慮しても、統合失調症らしい点はいくつもあり(幻聴、被害妄想、それから、全体のまとまりのなさなど)、さらに、

薬を飲まなくなった頃から、通院の為に学校を休んだり遅刻したりすることを嫌がるようになったので

これは薬に効果があったと判断できますので、今後も常に統合失調症の可能性を頭におきつつみていくことが大切です。一方で、小児に薬を投与し続けることには複雑な問題がありますので(【0496】などをご参照ください)、結論としては今の主治医の先生の診療方法が適切だと思います。統合失調症ではない可能性、すなわち、

医師の説明は、「まだ診断は出来かねる。可能性のある病気の名前はいくつかあるがもしかしたら、精神病ではなく、これがこの子の成長のプロセスなのかも知れずこのような症状も時間の経過と共に無くなって行くかもしれない。」といったものでした。

も、現時点では否定できません。
但し、これに関連して注意すべき点は、「わが子が精神病であってほしくない」という願望を、判断や事実と混同することです。お父様の見解、すなわち、

しかし、娘はそういった報告や相談を主人にはしないので特定の人の注意を引いたり振り回したりしたい気持ちから出る嘘なのではないかと主人は言います。

このような解釈は、もちろん正しい可能性もありますが、実のところは根拠のない解釈であり、誤りの可能性もあります。(私はどちらかというと誤りだと判断します。つまり、病気の可能性のほうが高いと思います)
どちらが高いかはともかく、この両方の可能性を常に意識されていればいいのですが、このようなケースの親御さんはしばしば、「精神病であってほしくない」という願望を、事実と混同してしまい、「精神病であるはずがない」、さらには「精神病という医師の診断はとんでもない誤診」と根拠なく信じこみ、通院を中止し、ついには取り返しのつかない結果を招くということもありがちです。
病気か病気でないか、現時点ではわからないという現実を受け入れ、慎重に経過をみていくことを強くお勧めします。


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