精神科Q&A

【1522】統合失調症の息子が父親に従わない(【1136】のその後)


Q: 【1136】失踪を繰り返す統合失調症の息子はただの駄目人間ではないでしょうか で回答をいただいたものです。息子のその後を説明させていただきます。

【1136】のメールを差し上げた後も、息子は失踪が絶えませんでした。息子が失踪しては私が心配になって息子の銀行口座へお金を振り込むと、その金を使って家へ帰ってきたりしていました。
どうやら、息子の心に、
「失踪しても、親父が金を振り込んでくれるからいいや!」
という甘えを植えつけてしまい、ますます息子を駄目人間にしたようで、後悔しています。
息子は、
「絶対に自立したいんだ!」
「『いつまでもあると思うな、親と金』というだろ!事実、お前ら(私たち親)もそういってきただろ!」
「お前ら(私たち親)が死んだら、俺はどうするんだ!」
の一点張りです。

しかし、ここまで息子が駄目人間になったことや、病院の精神科PSWからも、就職は控えるように言われていることから、
「自立できなくても、障害年金で食っていければ十分だ。」
「なあに、俺たちが死んでも、グループホームに入ればいい。」
と言って、力ずくで、息子の就職活動を止めにかかりました。

しかし、それも空しく、(今から2年前の)11月、障害年金の手続きが進んでいる中、息子は就職してしまいました。障害年金の審査を、主治医の判断で通らないと言うことで、手続きを中止してしまいました。

その後、羽振りがよかったようですが、約1年後(今から1年前です)の9月末で、やはりやめてしまいました。

仕事をやめてから、息子は自分で実家から離れた会社から内定を貰いましたが、また息子が仕事上のことで自殺を決行してしまう可能性が高いことや、前にも一人暮らしをして私たち親に泣きついてきたこともあり、意地で辞めさせました。

それから息子が、上記のようなことを言い出して、また不機嫌になったのです。

その2週間後、某運送会社へ昼夜反転の夜勤で就職してしまいました。
そこの会社は、
「馬鹿!!」
「分かってんだろうな!!この野郎!!」
と言うような声が日常茶飯事で飛び交う職場で、心が弱い息子が耐えられるかと、毎日毎日心配していました。

案の定、息子は、今年の1月、会社に行ったフリをして、どこかへ行ってしまいました。
今度も、きちんと書置きを残してありました。
以下のようなことが書かれていました。

「私は駄目な人間なんだと言うことを、貴方がたの私の扱い方で分かりました。こんな扱い方をされたら、生きていていやになります。また、会社で、店長が駄目な人間だと言うことを証明してくれました。こんな駄目な人間がこの世に生息していていいんでしょうか?いいわけないですよね。それでは、携帯もおいていきます。仮に思いとどまったとしても、車の燃料が、家に帰るまでありません。それでは、今までありがとうございました」

その日の2時ころ、息子は帰ってきました。首の皮一枚、思い直し、家へ帰ってくるまでの燃料が持ったらしいのです。

夜が明けて、息子を病院へ連れて行きました。
当然と言うか、息子は閉鎖病棟へ入院となりました。

それから約半年がたって現在、息子は週に一度、自宅へ外泊していますが、まるで自殺未遂を図ったあの時とは別人であるかのように、非常に元気です。

しかし、まだ息子が素直でないのです。
私「お前の車を売ってしまうぞ、お前の入院費馬鹿にならないから。」
息子「俺愛用の車だぞ!それに、今よくても、今後バス代とかかかるだろ!」
私「今後よりも、今のことが肝心だろ!それに、お前の運転危なっかしくて心配!」
息子「そんな扱い方されるんだったら、一生入院か、死んだほうがましだ!!」

また、外泊で家へ帰ってきたときに、私が
「手伝って」
といっても、息子は
「俺は疲れるために帰ってきたんじゃない!」
と言って、部屋に閉じこもってばかりなのです。

以上のことを病院の主治医や、息子の受け持ち看護士に話していますが、主治医は
「もう少し様子を見ましょう」
で終わりです。

長くなりましたが、

1)息子は、どうすれば私に素直に従ってくれるのでしょうか?

2)このままでは、仮に息子が退院したとしても、また自殺未遂を繰り返すことが予想されます。絶対に自殺行為をしないようにするには、どうすればよいでしょうか?


林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。【1136】でもそうでしたが、この質問者(父親)の方は、ご本人(統合失調症に罹患している息子さん)の言動が、病気の症状という側面が大きいことを十分に認識しておられないように思います。もちろん、ある言動が、病気の症状か、それとも環境などの影響の範囲として解釈できるものかは、多くの場合難しい問題です。たとえばこの質問者の方は、


どうやら、息子の心に、
「失踪しても、親父が金を振り込んでくれるからいいや!」
という甘えを植えつけてしまい、


と言っておられます。そのような解釈はもちろん可能で、そのような側面がゼロとはもちろんいえませんが、【1136】、【1522】の全体を通してみれば、このケースの言動の大部分は、統合失調症による人格変化(人格水準の低下、という表現もあります)の表れであると認めるべきでしょう。つまり端的に言えば、「すべては病気がそうさせている」と解釈する以外ないということです。したがって、

1)息子は、どうすれば私に素直に従ってくれるのでしょうか?

このケースに見られる「素直でない」点は、病気の症状ですから、治療の成果に期待する以外にありません。統合失調症の人格変化への治療の効果は残念ながら小さなものですが、たとえそうであっても、これが病気である限り、治療に光明を求める以外にありません。ここでいう治療とは、薬ももちろんですが、病気を理解したうえでの症状への対処法も含まれています。主治医の先生によくご相談されることが勧められます。

2)このままでは、仮に息子が退院したとしても、また自殺未遂を繰り返すことが予想されます。絶対に自殺行為をしないようにするには、どうすればよいでしょうか?

そんな方法はありません。非現実的な期待を持つことは控えるべきです。そのような期待を持つことは、現実的な対応を阻むことにつながります。


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