精神科Q&A

【1511】10年前からうつ病で休職を繰り返しており、今度休むと戦力外通告をされそうなのですが、医師からは休むことを勧められています


Q私は51歳の会社員です。心療内科を受診しうつ病と診断されて約10年がたちます。現在でも強い抑うつ症状に襲われることがあり、今年3月に単身赴任になってからは死にたい気持ちが強くなり、そんなときは年休を取って会社を休み、一人住まいのマンションのベッドで、ふとんをかぶって寝ています。

現在の処方は以下の通りです。

アモキサン 25mg × 2カプセル (朝・夕)
トレドミン 25mg × 4錠 (朝・夕)
パキシル 20mg × 2錠 (夕)
セニラン 2mg × 3錠 (朝・昼・夕)
リスパダール 1mg × 1錠 (夕)トレドミンとの併用で効果があると先生は言われます。

少し長くなりますがうつ病に至った経緯をお話します。

私は39歳のときに課長になりました。部署の異動もあり、まったく知識も経験もない情報システム部の課長になったのです。上司はドイツ人で、毎日英語での会議がありました。仕事の知識もなく、英語も苦手な私にとっては毎日が針のむしろに座らされているようでした。1年後にドイツ人のボスから役に立たないやつであると言われて戦力外通告を受け、人事部の課長に異動しました。

人事部では当初、社員研修と採用の仕事を兼務しましたので、毎週のように3から4日間の出張があり、自宅に帰るのは週に3日ほどでした。このころから、夜眠れない、朝起きられない、死にたい、会社を辞めたいという気持ちが強くなり、会社に出ても、喫煙所に逃げ込んで1時間ほど過ごすことが増えてきました。

かかりつけの内科の先生に相談したところ、心療内科を紹介され、初診の日にうつ病という診断を受けました。 

最初にもらった抗うつ剤は
アモキサン25mg×3カプセル
抗不安薬のセニラン2mg×3錠
睡眠導入剤のハルシオン 0.25mg×1錠
睡眠剤ロヒプノール2mg×1錠でした。

それから1年と少したったころ、給与の仕事に異動したのですが、出張こそなくなったものの、毎晩深夜まで仕事が終わらず、帰宅するのは12時過ぎ、6月から9月の人件費予算の時期は、土日も返上して、3ヶ月間休みなく働きました。給与課の仕事が1年過ぎ、年があらたまった時、初出の日から深夜に及ぶ会議がありました。この会議のさなか、心臓が早鐘のように打ちだし、座っていることもしんどくなり、離人感といいますか、自分が今どこにいるのかわからないような状態になり、会議を退席し帰宅しました。翌日には出社しましたが、仕事がまったく手につかず、主治医に相談した結果、会社を休んだほうがいいと言われ診断書を書いてもらい、休職に入りました。

結果、休職は1年間に及び、ようやく先生から復職を許可されました。このときは人事の配慮で課長へ昇進する前に10年間働いていた部署に戻してもらい、課長職からもはずしてもらったのです。当初は担当を持たされず、部長からの特命で仕事をしていたのですが、8ヵ月後に担当を任せられるようになりました。担当を持ってからは、1年間休ませてもらったという負い目から、残業を繰り返し、その年の10月に再び抑うつ感、希死念慮がひどくなり主治医から再度休職を勧められ、このときは2ヶ月間会社を休むことになったのです。

再度復職後は定時勤務を自分に言い聞かせ、部長からも、調子が悪いとき、2〜3日休むことは許すが、もう一度長期の休職を取るようなことがあれば、部に置いておけないと言われました。その後は抑うつ感がひどくなると年休を使って会社を休みながら定時勤務を続けていましたが、3か月に一度はひどい抑うつ感、希死念慮に襲われ、抗不安薬を増やしてもらったりしながら仕事を続けていました。

私の会社の本社は関西にあったのですが、今年3月、本社が東京に移転しました。子供たちの教育問題、同居する両親の介護の問題などがあり、私は単身赴任で東京に来ました。移転後の4月はモーレツな忙しさで、5月の連休に帰省し、連休明けに東京に戻ったころから、ひどい抑うつ感に襲われるようになりました。うつ病が悪化し自殺するのではないか、そこにいたらなくても会社を辞めさせられ、将来的に路頭に迷うのではないか、生きていても仕方がない、どこかに逃げたいなどなど悲観的なことばかり考えてしまいます。ひどいときは休暇を取り、東京のマンションでふとんをかぶって寝ていました。結果的にとびとびに5日ほど休みました。しかし休んでいるといっても、会社のPCを持って帰り、東京のマンションから会社のサーバーにアクセスし、メールをチェックし、段取りを後輩に指示して、半分は仕事をしているようなものです。

6月はなんとか2日休んだだけでしたが、ここ一週間ほど、夜になると涙が出てくるほどつらいのです。自分はだめなやつだ。生きていても仕方がないと考えてしまいます。心療内科の先生は、一度ゆっくり会社を休んだほうがいいとアドバイスしてくださっています。PCを持って帰ることなどせず、1か月休みを取って、関西の自宅に戻りなさいと言ってくださいます。

私は先生の指示に従って、1か月ほどの休みをとるべきなのでしょうか。休みをとるとずるずると長引き、復帰できないような気がして怖いのです。また、長期に休みを取ると、会社を辞めさせられ、収入が途絶えて一家が路頭に迷うというイメージが頭の中に渦巻いて苦しくなります。

なにとぞ林先生のアドバイスをお願いいたします。


林: まず、診断は、うつ病です。うつ病だということは、治るということです。適切な治療を受ければ、うつ病は治ります。
 しかしこの【1511】のケースでは、うつ病が長引いています。なぜでしょうか。

治療が適切だったかどうか。特に、抗うつ薬の治療が適切だったかどうか。それはよくわかりません。初診の時の処方と、現在の処方以外の情報がありませんので、わかりません。現在の処方は、多種類の薬が出ており、これだけを見るとあまりよくないようにも見えますが、うつ病が長引くと、結果的にこのような多種類の薬で治療せざるを得なくなることもありますので、現在の処方についての評価は困難です。また、現在の処方に至るまでの処方が適切だったかどうかもわかりません。

薬以外の治療はどうだったか。これも、記載がないのでよくわかりません。しかし仮に記載があったとしても、うつ病の精神療法の適否をメールの文章から判断するのは通常困難です。(精神科Q&Aの、うつ病の治療についての回答の中心が薬に関することになりがちなのはそれが大きな理由です)

広い意味での治療の一環としての、仕事の休み方はどうだったか。これも何とも言えません。結果的に見れば、一年間の休職が、職場でのその後の立場を苦しいものにしてしまったので、一年間は長すぎたと言えないこともありません。しかし、当時のうつ病の症状が重く、どうしても一年間休む必要があったのかもしれない。だとすればやむを得ないことだったと言わざるを得ません。

以上まとめますと、この【1511】でうつ病が長引いている理由は、よくわからないという結論になります。これ以上の検討は限られた情報からは無理ですので、今後のことを考えることにしましょう。

心療内科の先生は、一度ゆっくり会社を休んだほうがいいとアドバイスしてくださっています。PCを持って帰ることなどせず、1か月休みを取って、関西の自宅に戻りなさいと言ってくださいます。
私は先生の指示に従って、1か月ほどの休みをとるべきなのでしょうか。


ご質問の要点は↑これですね。
【1511】の方のような状況では、この判断は非常に難しいものになります。というのは、端的に言えば、
・うつ病そのものの回復のためには、休んだほうが望ましい
・ 会社での立場のためには、休まないほうが望ましい
というジレンマがあるからです。

このジレンマは、このケースに限らず、うつ病では常に、いや、場合によっては、どんな病気でも常にあることです。しかし、この【1511】のように、うつ病が長引き、すでに休職までしたという過去がある場合、大きくクローズアップされることになります。つまり、すでに休職までしたということは、病気としては軽いということはありませんので、なおさら休むことが望ましいということになりますが、すでに休職までしたというまさにその同じ事実が、職場の視点から見れば、休みを繰り返すようでは戦力としてどうかという疑問を投げかけられることになるからです。このことは、

休みをとるとずるずると長引き、復帰できないような気がして怖いのです。また、長期に休みを取ると、会社を辞めさせられ、収入が途絶えて一家が路頭に迷うというイメージが頭の中に渦巻いて苦しくなります。

という不安につながります。この不安は、それ自体がうつ病の症状という解釈もできますし、他方、現実的な不安という見方も出来ます。
このように、うつ病が長引いた場合、いわばその結果としての二次的な抑うつ(つまり、うつ病が長引いたことによる立場の悪化に対する自然な反応としての抑うつ)が生まれることが多く、悪循環に陥ることもままあるものです。

こうして分析してみると、この【1511】では明るい材料に乏しいと思えるかもしれません。確かに予断を許さないことは否定できません。回復のために第一に考えなければならないことは、これ以上の悪循環を避けるということです。いま休むか休まないか。そこにジレンマがあることは先ほど申し上げたとおりですが、今の症状からみて、やはり休まなければ回復は望めないでしょう。悪循環から脱するためには、ここで休んで、集中的に治療をすることだと思います。これまでの治療を見直すことも必要でしょう。充分な薬物療法を行なってきたうえで、それでもなお今の状態になっているとすれば、ここは電気けいれん療法を考慮する時期だと思います。いや、むしろ、電気けいれん療法を前提として休みに入ることが最善かもしれません。主治医の先生とよくご相談のうえ、休みを最大限有効に活用してください。


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