精神科Q&A

【1427】妹の20歳の誕生日のプレゼントは「自由」すなわち「死」


Q:  私は22歳女です。 今日は妹のことでメールします。 妹は私の3つ下で今19歳です。短大に通うため、今は二人とも祖母の家で暮らしています。 

先日警察から、私も住む実家に連絡があり、聞けば、妹が詐欺をしたと言うのです。 今年の春先、妹はゲームセンターで財布を落としました。その財布は当時付き合っていた彼からもらったもので、なんとかみつからないかとお店の方に防犯カメラをみせてもらうと妹のバックから財布が落ちたところ、その財布を拾った男性の姿がうつっていました。でもその財布はゲームセンターのほうには届けられず、お店の方はそのときに、店の方にも落ち度があると言ってくれたらしく、書類を提出してもらえれば保証金をだしてくれると言ったそうです。 次の日、祖母の家に財布を持った男性が現れました。その男性はおそらくゲームセンターの防犯カメラに映っていた方で、拾った財布の中にあった学生証から住所を知り、自宅が近くだったらしくわざわざ届けてくれたそうです。 
ところがその1週間後、妹はゲームセンターに電話をかけたのです。「保証金をくれると言っていたが、どうなってるのか」と。ゲームセンターの方は、財布は見つからなかった、ということで保証金3万円を妹に手渡しました。 そして後日、その届けてくれた男性が来店したところをお店の人が見つけ(その店の常連客だったのですぐわかったらしい)、この間拾った財布はどうしたか、と聞き、すでにその男性が妹に届けたことが判明したのです。
となれば、妹が店の人をだましたのは誰が見ても明らかです。そこで妹は詐欺をした、ということで警察から事情を聞かれていました。昼過ぎから警察に行きずっと「していない」と言って泣いていたそうです。そしてようやく口をわったかと思えば「別の人格がやった。」そう言いました。夜の9時を過ぎていました。警察はしびれを切らして、引受人となる祖母ではなく、親のいる実家のほうへ連絡をしたそうです。 次の日私は、母とふたりで祖母の家へ向かいました。 そして妹から、自分は実は病気だと明かされました。でももう治った、私は今本当の私になった、というのです。
聞けば、妹の中にはたくさんの人格がいて、ものごころついたころからそのこたちが妹に代わって表に出ていたといいます。妹の中にはそれぞれに部屋があってそこで妹はほかの人格がしてきたことをビデオの様に見るんだといいました。だから他の子たちが外でしていること、好きな食べ物や嫌いなもの出てくるときにはすべてつじつまが合うようにしていたそうです。 そして彼女は「治った」といった日までに何人もの人格を殺してきたといいました。首を絞めた時の感触が手には残っていて”殺す”とほかの人格は泡となって消えていくんだそうです。私の手は人を殺した手だからとても汚いんだ誰のことも愛せないし、愛されないと泣きます。 その中でも最後まで取り込めなかった「ルリ」という存在がいて、他の人格は消してはまた別の人格があらわれたりしたようですが、妹は小さいころからそのルリとずっと一緒だったそうです。ルリは双子のような存在で、でも妹の知らないところでルリは表に出て妹の大切な人たちを傷つけました。妹がふと戻ったとき知らない人が自分を知っていたり大好きな人に冷たい目を向けられたりしたそうです。 朝起きるとずたずたになったぬいぐるみが目の前に転がっている。妹の筆跡とは違う殴り書きのような字「コロセ、シネ」などの暴力的な言葉が多く「あいつを切った(縁を)時はうまくやれた」などと書かれていたこともあったそうです。それは私も実際に見せてもらいました。 そして自傷行為。 妹はいつ自分が死んでもいいように実家の部屋の壁に遺書をのこしてあるといいました。 ある日私が、仕事の休み時間に自宅に戻ったとき家中がシンナーの匂いだったことがありました。理由を聞いても妹は笑っていて「壁にヒントがあるよ」といいました。そして私は壁にかけてあるパズルのしたに何か字をかいて、その後スプレーでそれを消した痕がありました。「ママには内緒。」ふたりの秘密でした。私は妹のことが大好きだったので… 妹は遺書を書いたけどそれもまたすぐに消されてしまったといいました。あのとき笑ってたのは妹ではない誰かだったんだ。そう思いました。 でも私や両親が今まで見てきた妹はどの妹も妹でした。でも今妹にあれ覚えてる?などと聞いても記憶があいまいだったり覚えていないことがとても多くあります。

いま妹は病院へ通っています。医師には統合失調症と言われていて脳波の乱れがあるから、とその乱れを治す薬、あとは安定剤をもらって飲んでいます。 私は妹の病気が何なのかいろいろなサイトを調べました。そして私は妹は統合失調症ではなく、解離性同一性障害あるいは解離性の人格障害のどれかにあてはまるのではないかと思っています。統合失調症では説明がつかない部分が多すぎるというか…脳波の乱れ、っていうのはわかるのですが。。 本人は「治った」と言っています。でも、まだ妹の中にはルリの部屋と自分の部屋が残っているそうです。病院にもかからず、自分の力だけで「治る」とは思えなくて…今まで眠っていた妹が何をきっかけに表へ出てきたのかもわかりません。本人も今まだルリの部屋が残っていることで治ってないんじゃないかという不安があるみたいです。
私はそのことを知ってから妹と交換日記を始めました。妹は一番初めにほかに人格に出会ったときのことを教えてくれました。 保育園に行っていたころ母親参観みたいのがあってそこで妹は何かをうまくできなかったそうです。それが何だったかはもう覚えていなくてその日の夜、母とお風呂に入ったとき「どうしてそんなこともできないの」というような言葉で母は妹を叱ったそうです。妹は幼いながらにも母親をがっかりさせてしまった。呆れさせてしまった。私はもう2度と期待はずれにはならないそう誓ったんだそうです。 そしてその日から妹の中には別の子達が。 
解離性障害というのは小さいころの虐待が原因だと書かれているところがとても多くてそこがひっかかっていた私は妹の話を聞いて少し納得しました。きっと妹にとってはすごく悲しくて辛くて小さかったけどあの日一番死にたくなったんだと教えてくれました。 妹はルリと約束を交わしていたそうです。親には絶対言わない、と。だから私や両親の見てきた妹はどれをどう思い起こしてみても妹だったのかもしれません。 そしてもうひとつ、19歳が終わって大人になったら、つまり20歳の誕生日には、自由をプレゼントすると。妹の望む自由は=死 でした。すべてから開放されてひとりぼっちで誰にも気づかれないように死ぬつもりだったと。だからルリは20歳の誕生日までは何が何でも死なせない、と言ったそうです。

妹は、でも、母親にすべてを打ち明けてしまいました。だから20歳の誕生日がくるのを恐れています。ルリとの約束を破ってしまったと。妹はルリがいつも守ってくれた。そういいます。ルリが妹の変わりに表に出て妹の友達を遠ざけたり大事にしていたものを捨ててしまったりしても妹はルリを決して恨んではいません。今はルリの部屋は残っているけど姿だけがない。でもあの子が幸せであってほしい。妹はそういいました。

去年の秋ころから妹には付き合っている彼がいました。妹に初めての本気の恋だったみたいでいつもとても幸せそうでした。でも今年の夏彼とはだめになってしまったみたいで妹は泣きながら私に電話をかけてきました。何をしても気は紛れなかったようでふと妹の顔を見れば泣いてばかり。 死にたい消えたいといつも言っていました。 でも今の妹にその彼の記憶はありません。名前を知っているだけ。顔をみてもわからないのです。あんなにぼろぼろになる程好きだったのに。 私は解離性障害の治療は"統合”を目的とすると書かれているのを見ました。その中で医師が他の人格に”自殺をさせる”と書いてあったのを見ました。妹の本体が残ったまま自殺をする、と考えるなら精神上の自殺、ということですよね? 私はそのとき表に出ていたのはルリでショックのあまりルリは自殺してしまったんじゃないか… そう思うようになりました。だから部屋だけが残っていて姿がないんだと。 でももうこの先ルリや他の人格が現れない保障はどこにもない。

妹は今の病院に通い続けて問題ありませんか? 20歳の誕生日に自殺してしまうおそれはありませんか? 私には医師が統合失調症と決めつけたいんじゃないかとそれが心配です。 あと、もうひとつは母親です。妹はすべてを明かしたときに一番最初の”原因”かもしれなかったことについても母に打ち明けたそうです。私は母が妹のことで話をしてくれば黙ってそれを聞くようにしています。 母は気の弱いひとです。私が想像する以上に自分のことを責めていないか心配です。 病気のことを調べていくなかで家族の接し方家族自身のケアについてかかれてありました。私はいちど母にも病院にいくことを勧めましたが特に返事もなかったのでそれきりです。 私自身も小さいころからずっと一緒だったのに何も気づいてあげられなかったこと誰にも打ち明けることができなくて… やっとここをみつけました。 母親を心配する自分と母親をどこか恨んでいる自分が今はいます。 確かに母は厳しい人でした。わたしはそれがいやで思春期を迎えるころには反発していました。 でも妹はそれができなかった。母の薦めは妹にとっては=強制こうしたいといえなくて嫌といえなくてそれに誰も気づけなかった。 悔やんでもしょうがないけれど… 私が今知りたいことは
(1)わたしたち家族はこれからどうすべきか。
(2)本当に統合失調症といえるのか。 
長くなってしまい、すみません。聞いてくれてどうもありがとうございます。



林: 
そして私は妹は統合失調症ではなく、解離性同一性障害あるいは解離性の人格障害のどれかにあてはまるのではないかと思っています。

確かにメールの内容からは、解離性障害に見えます。
ただし、大変失礼ではありますが、二つの疑問と一つの問題があります。
疑問の第一は、あなたは妹さんを解離性障害であるとかなり確信していることが読み取れるということです。ということは、メールの文面は偏っていると予想されます。つまり、解離性障害らしい点が強調されている可能性が否めません。
第二の疑問はあなたの知識に関することです。脳波異常のことが書かれていますが、統合失調症では脳波異常はないのが普通です。ですから、

統合失調症では説明がつかない部分が多すぎるというか…脳波の乱れ、っていうのはわかるのですが。。

この一文は、統合失調症などについてのあなたの知識が不正確であることを示しています。その原因は、

私は妹の病気が何なのかいろいろなサイトを調べました。

ここにあると思います。妹さんの病気という重大事について調べる場合、サイトに頼るのは間違っています。本を調べるか、医師に直接聞くべきです。インターネットを信用した時点で、あなたの方針は間違っているといえます。

というような疑問はありますが、少なくともメールに書かれている内容そのものは事実だとすれば、やはり妹さんは統合失調症より解離性障害の可能性のほうがはるかに高いと思います。
 そこで、先にお書きした「一つの問題」を指摘しなければなりません。
 それは、あなたは、ご家族としては、あれこれ考え過ぎだということです。
 妹さんのことを心からご心配され、いろいろご自分で調べ、妹さんにご自分でできることをしてあげたいというお気持ちはよくわかります。
 けれども、一家族として出来ることと出来ないことを認識しなければなりません。ネットに頼りすぎていると思われることを含め、あなたは、あれこれ考え過ぎていると思います。それは結果的に妹さんのためにはならないことです。

私は解離性障害の治療は"統合”を目的とすると書かれているのを見ました。その中で医師が他の人格に”自殺をさせる”と書いてあったのを見ました。

そんなものを信用して、一人で心配するのは、はっきり言って馬鹿げています。上のようなこと(自殺にかかわること)は、確かにないとは言えませんが、標準的な治療からはほど遠いものです。もう一度いいます。インターネットを信用した時点で、あなたの方針は間違っているといえます。

そもそも、直接診ていただいている主治医がいらっしゃるのに、その主治医の診断を信用せず、ネットで私などの意見を求めることはかなり奇妙な行動ではないでしょうか。ネットが発達し、そのような行動を取る方はとても多くなっていますが、一歩下がって考えてみれば、全く不合理であることにお気づきになるはずです。

最後にご質問への答えをまとめておきます。

(1)わたしたち家族はこれからどうすべきか。

主治医にお聞きください。

(2)本当に統合失調症といえるのか。

主治医にお聞きください。


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