精神科Q&A

 【1367】2度の「うつ」体験。1度目は擬態うつ病だったのでしょうか。


Q:  50歳代男性です。うつ病を発症してから2年程たちます。現在は、気分はフラットで落ち着いておりますが、睡眠障害が残っております。以下、経過をご報告申し上げます。アドバイスいただければ幸いです。

1.第一回目のうつ体験

私は、大学を卒業して、就職したのは、A社の某事業所で、そこでは巨大なプラントである製品を大量生産している所でした。私はそこで8年程努めて技術に関する仕事は熟知し、自分がこの巨大プラントを動かしでいるのだと考えると、仕事にやりがいを感じ、残業もいとわず仕事に熱中をしておりました。しかしそんな中、私に転勤辞令がでて研究所にいくことになりました。最初に配属された某事業所は、年間200億円は売り上げをあげていましたが、新しく配属された研究所では市場規模数億円の研究ばかりやっており、これでは会社の将来は成り立たないのではと、会社の経営に疑問をいだきました。しかしサラリーマンですから、仕事を選ぶわけにもいかず、研究職に身を投じたのです。
私の研究テーマは、既に世の中で隠れたところにたくさん使われている材料でしたが、その上をゆく特殊な特性を持たせ、用途を広げ売り出そうというものでした。しかし前の職場の巨大プラントを動かす仕事とからビーカ、フラスコ、天秤等を使う研究所のへの転身にものすごいギャプを感じたものでした。そしてなにしろ知識もなにもない、一からの出発で、本、文献を取り寄せ実験を開始し、試行錯誤の上一応当時の既に市場している材料の特性は出せるところまではこぎ着けました。しかしその上を行く特性を持たせるところになると、なかなかうまくいかず、夜遅くまで実験をするという毎日でした。

そんなおり、上司から経営計画の資料として私の研究テーマの製品が将来どのように売り上げか伸びていくのかと言う経営計画書を提出せよという指示が出て、種々の業界紙を基に経営計画書作成し提出しましたところ、上司はそれを見て納得せず、研究者としての意気込みを見せろと、再提出となりました。そして提出するたびに、なにやこれやと言われて、10回ほど再提出しましたが、いっこうに計画書を受領してくれず、1ヶ月程時が過ぎました。私はこのままでは、実験も出来ず精神的にも限界だと思い、上司に私は、あなたのリクエストに答えることが出来ないので経営計画書は作成するのはやめます、ときっぱり断りました。上司も私の様子をみてしょうがないということで、許してもらいました。

私はほっとし、これで通常業務ができると安心したところ、数日後夜、眠れない、食事が出来ない、ちょっとしたきっかけで泣き出す、言いようのない不快な感情が常にある、等の状態になりました。それを酒でごまかそうと帰宅したら酒を飲むようになりましたが、1週間で10本程の一升瓶が空になっていることに気づきました。このままではアル中になってしまうと思い、当時新婚だった妻と一緒に大学病院の精神科に迷わず受診しました。私は30歳でした。当時の私の精神科の認識は、催眠術でもかけてもらって、深層心理をさぐり原因を突き止めてくれるくれるものだ、というように考えていました。しかし医師が言うには、原因は考えない方がよい、この薬を飲めば治りますと、ドグマチールとワイパックスを処方されただけでした。私はあっけにとられ人間の心が、薬でコントロール出来るのだろうかと疑問をいだきましたが、その日処方された薬を昼に服薬したところ、なんと夕方にはすっかり元の自分に戻ったのです。それは今から約20年前の事でした。

それ以来私は、病状があまりに苦しかったため、薬は欠かさず、飲み続けていました。
そして半年後会社は私が精神科に通って、服薬していることを理由に、職場場の所長がゆっくり仕事の出来る職場に転属させてあげるよ言ってくれ、私も、原因は仕事の疲れだったのだろうと思い、あっさり転属を承諾し、2度目の転勤をしました。転勤先でも病気の再発をおそれ服薬を続けておりましたが、転勤先の仕事は、遅れず、休まず、仕事せずを地でいった様な職場だったのです。私は、常々最初に入社した職場のような、やりがいのある職場を求めていたのにと思っていたのに正反対の職場です。
そしてそのうちに、何事にも興味がわかない、何をやっても楽しくないという症状が出始め、医師の診断は、うつ病とされ、休職することになりました。休職すると症状もさらに悪化し、寝たきりの状態になりました、処方もトリプタノール、精神安定剤、睡眠薬に変わりました。そのころ妻は妊娠しておりましたので、妻は実家での里帰り出産私も実家での療養とすることにしました。実家での療養で転院しましたが、転院先の主治医は、私の様子に精神病患者ではないかと疑い、実のなる木の絵を描きなさい、この心理テストをしなさいと検査されましたが、精神病患者ではなくうつ病と診断し、トリプタノール、アモキサン、パートフランと色々と処方を変え治療してくれましたが、まったく症状の改善はありませんでした。(当時はSSRI,SNRIは無かった時代です)そこで、医師の診断は、うつ病から、うつ状態に変わり、さらに抑うつ神経症と病名が変わっていきました。処方も抗うつ剤は無くなり、精神安定剤のみになりました。

そして主治医はあなたには、仕事が一番の薬だ、森田療法(症状を抱えたままで健常人と同じに振る舞う)がふさわしいとして、無理矢理復職可能の診断書を出し復職しました。(休職して7ヶ月たっていました)
妻は、無事長男を出産してくれ、同居を再開し復職しました。
復職先は、会社も最初の職場がよいだろうということで、そこに復職しました。最初の半年は死ぬ思いで勤務しました。途中もうダメだと思い主治医に休職の診断書を求めましたが許してもらえず、精神安定剤の点滴をうたれ、ソラナックス0.4mg 100錠、ハルシオン100錠処方されました。ハルシオン100錠全部いっぺんにのみ死んでやると訴えましたが、いまの睡眠薬にはそんな事しても死ねないようになっているといわれ、薬の使い方はあなたに任せる。薬が無くなったら又取りに来ればよいと言われ、ソラナックス1日8錠、ハルシオン1日2錠で、我慢に我慢を重ね出勤しました。出勤を始めて半年後ぐらいから、パソコンが1課に1,2台しか無い時代にパソコンの使い方をマスターしたのを契機に仕事の範囲も広がり症状も次第によくなっていき、薬も飲み忘れるようになり、係長にも昇進し平成4年になって、薬も飲むことなく完治しました。

その後いくつかの職場転勤がありましたが、いずれもやりがいのある職場で再発することなく、十数年がたちました。
(私か31歳〜34歳ぐらいの時でした)
この時の私のうつは擬態うつ病だったのでしょうか?

2.2度目のうつ体験

2度目のうつ体験は、今も続いていますが、きっかけは次の通りです。
1度目のうつ体験から十数年が経ち、自分でもうつ病というものを忘れかけていました。
仕事も順調で同期の人と比べると出世も数年は遅れたものの、課長にも昇進し、ハリバリと夜遅くまで仕事をしておりました。社長からも業績優秀ということで表彰を2度受けていました。しかし入社したA社は、経営が苦しくなり私のいる部毎、B社に移りました。B社でも引き続き同じ仕事を任され同様に仕事を続けていました。しかしある時大きな問題にぶつかり、その解決に上司に相談したり、他部署と連絡を取りあったりと非常に神経を使う出来事がありました。そして1が月ぐらいしてやっと問題を解決しました。そしてその2,3日後1度目と同じ症状に見舞われたのです。すぐ前の主治医の所に行き、ドグマチール200mg/日と軽い精神安定剤が処方されました。そして1度目と同様昼に服薬したら夕方にはよくなりました。医師は、3ヶ月様子を見て変化がなければ薬をやめてもよいだろうととの事でした。

そして2ヶ月経ったころ、営業の成績が落ち込み、私の仕事も激減しました。そしたらうつ症状が再発したのです。一度目と同じパターンです。私は、1度めと同様忙しくなれば、よくなるだろうと思い休まず出勤を続けました。今度医師はあなたはうつ病だから休みなさいと言われたのですが、私は、これは、抑うつ神経症だと思い、抗うつ剤ルジオミール120mg/日、リタリン朝2錠、昼1錠、眠剤でハルシオン0.25mg×2錠、フルニトラゼパム4mgで1年程頑張って出勤を続けました。医師にうつ状態に改善が無いのでもっと強力な薬をとリクエストしましたがそれは無いとの回答で、病院を変えました。そしてそこの医師は、トレドミン150mg/日、アナフラニール150mg/日、アモキサン225mg/日と色々と処方を変えて頂きましたがいずれも効果が無く、言われたことは、風邪をひいて、プールで泳ぎながら風邪薬を飲むようなもので、休養しなければよくならないということでした。

1年間頑張って仕事を続けましたが私もこれで限界だと思い休職することにしました。そして通っていた病院は、入院施設のない病院でしたので、うつ病専門の病棟があるという病院に入院しました。入院中の処方はアナフラニール125mg/日で、以前アナフラニール150mg/日試した事をその病院の主治医に伝えましたが、休んで飲む薬と、仕事をしながらの薬では条件が違うということでその処方でいくことになりました。そして5が月間処方も変わることなく、症状も改善することなく5ヶ月経って、1日5千円の差額ベッド代が家計を圧迫することに気付き、退院して、色々と処方を試みて下さった前の先生の所に行きました。そして試されたのが、アナフラニール150mg/日、トレドミン150mg/日の併用でした。症状は1週間程でみるみるうちに改善し、7ヶ月の休職を終え復職し、また元気に元の職場へ戻る事が出来ました。そのころは仕事もそこそこありバリバリとではありませんが、それなりに無理することなくやりがいを持って仕事をし、1年程経過しました。そしてまた会社から言われたことは、精神科に通って服薬しているからさほどバリバリ仕事をしないですむ職場への転属命令でした。私は、以前の経験からそのことをガンとして断りましたが、辞令はむなしくだされ、現在にいたっております。今の職場は、やはり忙しいことはなく、いつうつ病が再発してもおかしくないと思うのですが、服薬しているせいか、フラットな状態でおります。
なぜ精神科に通って服薬することで、ことさら別扱いされなければならないのでしょうか?高血圧の人が高血圧の薬を飲むのと同じで、また胃の悪い人が胃薬を飲むのと同じではありませんか。その点、今憤慨しているところです。


林: あなたはうつ病だと思います。「第一回のうつ体験」とお書きになっているエピソードが初発でしょう。したがって、

この時の私のうつは擬態うつ病だったのでしょうか?

違います。これがうつ病の初発です。

その後の経過をみますと、うつ病相の繰り返しが認められることから、あなたはかなり典型的なうつ病であると言えます。現代の診断基準に従えば、反復性うつ病性障害ということになるでしょう。
 職場の理解が乏しく、苦しんでおられることが読み取れます。あなたの憤慨はもっともですが、それによって病状が改善するわけではありません。治療をしっかりと受け続け、病状の改善・安定を第一とすることをお勧めします。


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