精神科Q&A

 【1362】化学物質過敏症と診断され、治療に困窮しています


Q:  40代後半の男性です。30歳のとき職場のストレスからパニック発作を起こし、うつ症状も出たため、精神科に通院しました。薬物治療で、だいたい2年ほどで完治まで至らないまでも症状は安定しました。
ただ病気になって以降、ストレスに弱くなり、睡眠状態も不安定になったりすることもあるため、4、5ヶ月に一度の頻度で通院し、頓服としてデパス、ハルシオンなどを服用していました。

4年前、結婚・同居・引越しをしたのですが、直後から両足の膝下からが痛み、歩行に支障をきたすようになったため、整形外科を受診しましたが、異常なし。神経科、血管科、ペインクリニックを受診し、バージャー、動脈硬化症、膠原病などの検査をしましたが、異常が認められず、メチコバール、ユベラ、アンプラーグ、リボトリールなどを処方されました。
が、効果がなく、仙骨へのブロック注射の治療を受けましたが、注射時の痛みが激しいだけで、これもまるで効果がない状態でした。

そのうち、喘息症状が出たうえ、唾が出にくくなり、口腔内乾燥(ドライマウス)、のどの痛み・異物感を感じて、呼吸器科、口腔内科、耳鼻咽喉科を受診し、喘息の診断はつきましたが、シェーングレン症候群などの検査をしたものの、まったく異常なしでした。
ドライマウスとのどの痛みのため、口臭がひどくなり、声も出しにくくなりました。一向に原因の分からない状態のまま、治療法もなく、ストレスから十二指腸潰瘍、眼精疲労、そしてうつ状態になりました。

漢方薬を試そうとして、漢方を扱う大学病院を受診したところ、結婚・同居・引越し直後の発症ということから、シックハウスの疑いがあるかもしれないので、その専門のZ病院を受診してみたらどうかと言われました。
予約から半年待ちという状態でしたが、そこでの検査の結果、「化学物質過敏症」と診断されました。
医師の指示にしたがって、転居した家を保健所と業者に調べてもらいましたが、そもそも築10年ほど経っていることもあり、ホルムアルデヒドなどの有害物質が検出されるはずもなく、また電磁波については現在の科学では調査できないとのことでした。つまり過去に有害科学物質に曝露したかもしれないが、現在の住居には、可能な検査では異常がないとの結果でした。

しかしながら、「化学物質過敏症」という診断はついたわけですから(厚生労働省がこの病気の存在を認めていないのみならず、一部の医師も「そういう病気はない」との立場をとっているそうですね。したがって健康保険はききません)、原因は不明であっても、一応の病名がついたです。

この病気には治療法がないとのことで、ひたすら反応する有害物質を避けることと、解毒のため発汗と排尿を促すしかないそうです。

その後、さらに1年が経ち、まるで症状の改善はみられないため、どんどんうつ症状が強くなって、さらに暗いところ(映画館等)、狭いところ(エレベーター等)では、めまい、息切れを感じるようになりました。

前述した30歳ころより通院している精神科の主治医は、心身症の一種でヒステリーのようなものと説明し、疼痛性障害という診断をしました。
当初はジプレキサを処方されましたが、効果がないため、以前、処方されたことのある薬を、順次処方されました。
デパス、ハルシオンを基本にして、ルボックス、パキシル、トフラニール、アラフラニール、ドグマチールなどを、順次様子を見て、試していくという治療でした。

ちなみにその主治医は「化学物質過敏症」なる病気はない、という立場です。結婚・同居・引越し後に発症という点から「伴侶へのストレス」ではないだろうかという説ですが、思いあたるフシもあります。
一方でZ病院の主治医の診断や関連書物では、「化学物質過敏症」は、うつ症状や多様な身体症状が出るとあります。

いずれにせよ、精神科で処方された薬は一向に効き目がなく、副作用ばかり強く、とくにSSRI、SNRIは吐き気が耐えがたく、口腔内乾燥を助長するので、デパスとハルシオンを除いて、中断しました。

ところが中断したら、足の痛み、喘息、ドライマウス、のどの痛みに加え、ますますうつ状態が強くなり、映画館などはつらくていけなくなってしまいました。
主治医は、こういった症状には薬物治療よりもカウンセリグが効果があるといいますが、カウンセリング治療は治療費が高く、効果も疑問があるので、躊躇しているところです。

現在、Z病院にて処方される煎じ薬漢方(健康保険きかず)、鍼灸治療(保険きかず)、ほか呼吸器科での喘息治療、口腔科で指導された市販の保湿ジェルの使用、整形外科で作成した靴のインソール、それとジム通いで汗を流し、サウナに入ることで、しのいでいますが、焼け石に水状態です(うつ症状が強いときはジム通いもままなりません)。

ほかにも「慢性疲労症候群」ではないか、とか診断もされたりするので、病名は便宜上のものなのでいいとして、さて今後どのような病院でどのような治療を受けていくか迷うばかりです。「化学物質過敏症」「慢性疲労症候群」では専門医がなかなかおらず、有効な治療法もないばかりでなく、保険もきかず、専門医はなかなか予約をとれない状態で、限界があります。
また足の痛みをはじめとして、体の痛みや不快症状は、少しでも軽減させないと、痛みの記憶として固定化されるので、インソール業者を何軒もハシゴしていろいろ作ってもらっているのですが、1足1〜5万円と高額で、それも今まで5つほど試しましたが、やや楽になる程度で、完全には楽になりません。

この3年間で癌の治療より高額な医療費を使い、医者もたらい回し状態。ある病院の耳鼻咽喉科では若いドクターに異常がないのに何度も痛みを訴えて来院するので、侮辱的な言葉を投げかけられました。
ますますうつ状態も悪化します。

以上、林先生のご意見をお聞かせください。


林: あなたは化学物質過敏症だと思います。それもかなり典型的なものです。
もっとも、このメールに書かれているような症状は、身体表現性障害としても典型的ですし、また、

前述した30歳ころより通院している精神科の主治医は、心身症の一種でヒステリーのようなものと説明し、疼痛性障害という診断をしました。

この先生のおっしゃるように、「心身症の一種でヒステリーのようなもの」としても典型的です。
したがって、通常ならこのような問いに対しては、「メールの情報からは、診断名まではわからない」とお答えするところですが、にもかかわらずこの【1362】について私が化学物質過敏症と判断する理由は、実に単純に、

その専門のZ病院を受診してみたらどうかと言われました。
予約から半年待ちという状態でしたが、そこでの検査の結果、「化学物質過敏症」と診断されました。


という診断がすでにくだされているという事実によります。
ではそれは林の診断ではないではないかと言われるでしょうが、そのとおりです、私の判断はZ病院の医師という専門家の診断を追認したものにすぎません。
その理由も単純なもので、化学物質過敏症は、専門医が直接診察して初めて診断できる(あるいは、「化学物質過敏症の疑い」と診断できる)ものだからです。

林先生のご意見をお聞かせください。

とのことですが、直接診察されている専門医のご意見を超えるものを私が提示することは不可能です。また、【1362】の質問者の方はご自身で文献等も調べておられるようですので、私からそれ以上の情報を提供することは残念ながら期待しにくいかと思います。

以上を前提のうえで、質問者以外の方々への情報という意味でいくつかお話しますと、まず対策としては転地以外にないと思います。

この病気には治療法がないとのことで、ひたすら反応する有害物質を避けることと、解毒のため発汗と排尿を促すしかないそうです。

その通りです。しかし、「発汗と排尿」が、どれだけ効果があるかは疑問だと思います。やはりここは「有害物質を避ける」のが最善です。

さらにいえば、たとえ専門医の診断だとしても、化学物質過敏症の診断には現在のところ決め手がありませんので、転地によって症状が改善するかどうかをまず確認することが勧められます。その時点ではじめて診断は「ほぼ」確定といえるでしょう。

今「ほぼ」と言ったのは、転地には、「有害物質を避ける」だけでなく、「心理的なストレスから逃避する」という意味もあるからです。化学物質過敏症の厄介な点のひとつは、症状が心理的なストレスによってもかなり変動することです。だからこそ心身症であると思われたり、

ちなみにその主治医は「化学物質過敏症」なる病気はない、という立場です。結婚・同居・引越し後に発症という点から「伴侶へのストレス」ではないだろうかという説ですが、思いあたるフシもあります。

というような立場が生じることとなっています。(そして、この立場が誤りとも言い切れないところにさらに難しい問題があります)

すなわち、転地との関連でいえば、転地によって症状が改善した場合、それは、
1 有害な化学物質から逃れることによって改善したのか
あるいは
2 心理的なストレスから逃れることによって改善したのか
がわからないのです。(もちろん、1, 2 の両方が関与している可能性もあります)
そしてこの1, 2 のいずれであるかを検証する方法は事実上ありません。

もっとも、治療という観点からいえば、理由が1であろうと2であろうと、理屈はともかく治ることが第一ということも出来ます。そのように割り切って、転地が有効なら転地するというのも一つの有力な考え方です。

「化学物質過敏症」という診断はついたわけですから(厚生労働省がこの病気の存在を認めていないのみならず、一部の医師も「そういう病気はない」との立場をとっているそうですね。したがって健康保険はききません)

現状としては、おっしゃる通りです。
 しかし、厚生労働省が認めないのは、現時点ではやむを得ないと思います。
 なぜなら、化学物質過敏症の概念について、まだ医学的な統一見解があるとは言えないからです。文献は大量に出ていますが、たとえばいわゆるシックハウス症候群と呼ばれるものと化学物質過敏症の関係についても(つまり、ごく単純には、両者が同じものか違うものかという問題)、まだ議論が続いている状態です。
 それでも現にその疾患の疑いのある患者が発生しているのだから、存在くらいは認めよという主張も一理あるところです。
 しかし、行政というものは、もちろん最終的には一人ひとりを救うためのものであっても、やはり社会全体を視野に入れる使命があります。確実には診断できないものの存在を認めることを無制限に行なえば、その対策にかかる費用も無限になり、破綻するのは目に見えています。そうなれば、他の人々、端的にいえば、「確実に診断できている病気の人々」までもが救えなくなります。
 さらにいえば、化学物質過敏症のように、原因が想定されていると問題はさらに複雑になります。つまり、もしこれを認めれば、原因としての化学物質に責任があることになりますから、労災や補償などにまで問題が及ぶことになります。

というような現状では、化学物質過敏症の存在を国が認めないのもやむを得ないということになるでしょう。

けれでも、だから治療は自費で行なわなければならないかというと、必ずしもそうはいえません。実践的な医療としては、他の病名をつけることによって、健康保険で治療することが可能です。実際、世の中にはまだまだ本態不明の病気はたくさんあるわけですから、それらには便宜的な病名をつけて、保険医療を行なうというのが、実践の知ということになります。この【1362】のケースも、たとえば疼痛性障害、たとえば身体表現性障害等と病名をつけて治療することは、決して不当とはいえず、十分に容認されることだと思います。

また、

主治医は、こういった症状には薬物治療よりもカウンセリグが効果があるといいますが、カウンセリング治療は治療費が高く、効果も疑問があるので、躊躇しているところです。

私もあなたの意見に賛同します。費用対効果を考えますと、あなたの症状にカウンセリングで対処することはお勧めできません。

先にもお書きしたとおり、最善の対処法は転地でしょう。次善としては、他の病名をつけていただき、健康保険で治療を続けることです。
 そのほかの方法はお勧めできません。【1362】のようなケースでは、しばしば、怪しげな民間療法家の餌食となり、高額な治療費を巻き上げられるという事態もあるものです。この【1362】の質問者の方は、現実的な視点を持っておられることが読み取れますので、そのようなことはないとは思いますが、病状が長引くと、どんなものでも試してみようという心理が生まれ、判断力が揺らいでくることも多いので、その点には十分にお気をつけください。
 一日も早いご回復を願っています。


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