精神科Q&A

 【1346】再発したうつ病がなかなか治らず苦しんでいます


Q:  再発したうつ病で投薬治療を受けている46歳妻のことで相談します。
私は48歳会社員で、中学生の小学生の子供がおります。
うつ病を再発してから12ケ月過ぎております。

発病の状況

1.4年半前の発症
そのときの原因は、私が当時勤めていた会社で、ある事業を廃止するに当たり事業部員の大半がリストラされることになり、私も対象者となったことから、妻は将来を悲観してのことであったと思います。現在も通院している心療内科クリニックで約9ケ月の投薬治療を受け回復しました。

2.今回の再発
 最初の病気が回復してから約半年後に7年ぶりで週3日ほどのパート勤務を始め、今回再発するまで勤めていました。妻の元勤務先は数人規模の職場で、転任してきた正社員があまり働かず自分の仕事までパート社員に回し始めたところ、妻はそれを真正面から受け止め正社員同様のスタンスで5ケ月ほどがんばり過ぎてしまったようです。さらに、他のパート社員からねたみも買ってしまったようで、そのストレスが重なり再発したものと思われます。妻が働かねば生計が成り立たないということはないので仕事は即刻辞めてもらいました。

現在の病状
ゆううつ、ちょっとしたことでも悲観的に考えてしまう、中途・早朝覚醒、食欲減退(体重約5kg減少で現在40kg)、疲れやすい、何に対してもあまり興味が湧かない・手がつかない、歩行時にふらつく等で通院及び庭に洗濯物を干すことを除けばほぼ引きこもりの状態です。

この二週間ほどは、「昼間、横になってばかりでは、起きたときにふらついて脚がもたれるので、午前、午後の其々1〜2時間程度しか横にならない。」と言って少し無理をしているようですが、本人のやる気を尊重してそのまま見守っているところです。

このように少し良くなったなあと感じていると、時折「良くなっていく感じが全くない。」、「お腹の周りがもやもやする。」と言って落ち込んだりの、一歩進んで二歩下がるような状況です。妻には「薬を飲み続ければ必ず回復するので、あせらずに行こう。」とそのたびに応えています。 

実は、約1ケ月前、昼間私が会社へ行っている間に死のうとして近くのマンションの踊場まで行き、飛び降りる寸前で我に返ったそうで、夕方私が帰宅後泣きじゃくりながら「ごめんね、ごめんね。」と報告してくれました。その前日には、自転車で買い物へ無理をして30分くらい行ったそうですが、気分は思ったように上向きにならずあせってしまったようです。

私は「よくがんばってるよ!思いとどまってくれてありがとう。」と言い、決して妻を責め気はしませんでした。なぜなら、こんなにも病気に苦しんでいる妻を非難することなんて私にはできませんでした。ただ、それ以来「これからも、ずっーと一緒だよ。」と妻には折りに触れて私の想いを伝えています。

 発病6ケ月目頃、自転車で歯医者に通っていましたが、その歯医者から「歯槽膿漏が悪化するのは歯磨きの仕方が悪い。口腔が気になるのなら一日中歯を磨いてなさい。」と言われたそうで(妻からの伝聞なので、こんなことを本当におっしゃったのか判りませんが本人はそう受け取ったそうです。)、この頃から歯磨きの時間が長くなり、最近では1日3回各40分ほど磨いている状況です。今は、歯医者に通う気力も無いので行っておりません。クリニックの主治医の先生は、特にこのことに対しては何もおっしゃりません。

現在の状況  
自殺未遂の翌日から、私は5連休を取って妻を見守ることにし、現在も可能な限り有休を取り見守るようにしています。

 家事に関しては約10ケ月前から、夕食作りは私が行っています。(大部分は惣菜屋のものですが)洗濯だけは妻が自分でやると言っておりますので任せています。

 昼間は妻が一人きりなので、休み時間を利用して、できるだけ携帯メールで妻とやりとりし、さびしくならないようにしていますが、自殺未遂以来心配で心配で仕方がないというところが私の正直な気持ちです。お互いの両親は80半ばで夫々持病を持っているので心労をかけさせたくないため、この件に付いては話しをしておりません。また、妻の面倒を見てもらうことも不可能です。

 主治医の先生は「また、自殺を考えるようなら、入院することも考えましょう。」
とおしゃっています。

今までの病状と服薬の経過

1.4年半前の初回発病
発病後4ケ月ほどの服薬で気分が上向きになり、その後5ケ月で薬の量を減らしながら服薬し回復しました。発病後4ケ月目は、丁度私の再就職先が決まった時期でした。なお、このときの薬の記録は取ってなく判らない状況です。

 このときクリニックに行くきっかけは、過換気症状で救急車のお世話になり、緊急病院の医師からメンタル的な病気の可能性があるとの指摘を受けてのことでした。

2.今回の再発
 妻から「なかなか入眠できないので、一緒にクリニックに行って欲しい。」と言われ、前
回お世話になったクリニックを受診したところ、うつ病と診断されました。

(1)初診時投薬
病状:現在の病状とほぼ同じですが、まだこの頃はふらつきもなく体力もあったようで自転車には乗れる状態でした。

抗うつ薬      デプロメール  25mg×2
           ドグマチール  50mg×2
精神安定剤    レスタス        ×1
睡眠薬       アモバン    10mg×1
           ロヒプノール   1mg×1

(2)発病後4ケ月目の投薬
病状:発病後2ケ月目頃から食材も決められないほどに悪化し、食材等の買い物は全て私が行くようにしました。自転車にも乗れなくなりました。初回発病のときと比べて症状は重く、なかなか気分は上向きにならない状況でした。

抗うつ薬      デプロメール  75mg×2まで3ケ月の間で増量
           ドグマチール  50mg×2
           ノリトレン    25mg×2   4ケ月目から処方される

精神安定剤    レスタス     量変らず
睡眠薬       アモバン     量変らず
           ロヒプノール   量変らず

(3)発病後8ケ月目の投薬
病状:6〜7ケ月目 気分が上向きになり、食欲も出るようになり外食に一緒に行くこともありましたし、スーパーへの買い物も一緒に行くようになってきました。

抗うつ薬     デプロメール   25mg×2へ1ケ月の間に減量(8〜9月目)
           ドグマチール   50mg×2
          ノリトレン    25mg×2 
精神安定剤    レスタス     量変らず
睡眠薬       アモバン     量変らず
           ロヒプノール   量変らず

(4)発病後11ケ目の投薬
病状:8〜9ケ月目 今から省みれば、この頃少しずつ気分が下降気味だったようです。
9ケ月目以降は買い物等で外出することが億劫になってきました。
11ケ月目の自殺未遂後一週間ほどは、昼間も起きているのがつらくほとんど横になっていました。自殺未遂の一件及び本人からの「目がかすむ、もやもやして落ち着かない、中途覚醒が以前よりつらくなってきた。」との訴えから処方が新たになりました。

また、主治医の先生からは自殺未遂以降、診察の度に「死にたいと言う気持ちはありますか?」と単刀直入に尋ねられています。妻はその度に「死にたい気持ちはありません。目のかすみ等の方がつらい。」と応じています。

抗うつ薬      デプロメール   25mg×2 
           ドグマチール   50mg×2
           ノリトレン      25mg×2⇒0
トレドミン     0⇒25mg×2

精神安定剤    レスタス     量変らず
睡眠薬       アモバン     量変らず
           ロヒプノール   1mg⇒2mg×1
副作用止め    アキネトン    0⇒1mg×1

(6)12月目の投薬
病状:私から主治医の先生に、午前、午後の其々1〜2時間程度しか横にならない、最近、テレビのお笑い番組の特番では短時間だが見る気力が少し出て、面白い場面では微笑むこともあります・・とお話ししたところ、「少し上向きになってきていますね。」とはおしゃってくれましたが、私も疲れているのかそのままに受け止められず、上向きになっているとういう実感が本人ともどもわかない状況です。

抗うつ薬      デプロメール   25mg×2⇒0へ1ケ月の間で減量・中止 
           ドグマチール   50mg×2
           トレドミン     25mg×3⇒50mg×2へ1ケ月の間で増量

精神安定剤    レスタス     量変らず

睡眠薬       アモバン     量変らず
           ロヒプノール   量変らず

副作用止め    アキネトン    量変らず

主治医の先生には良くしていただいていますので、こんな考えを持ってはいけないのでしょうが、林先生の“説明等がうまい医者ではなく、治してくれる医者がいい医者である。”
とのご意見を拝見して、今の主治医の先生のおっしゃるとおり、そして投薬とおりで妻は回復するのかどうかを確認したいという想いが強くなり、メールを書きました。長文になってしまい申しわけありません。

そこで、林先生にお尋ねします。

1.主治医の先生からは「再発後の回復は少々長い時間を要します。」と言われております。再発後からの回復は、初回発病と比べて症状が重く、かつ回復するまでの道のりはこんなにも苦しく長いものなのでしょうか?

 うつ病と言われていても、それ以外の病気も発症しているのではと勝手に想い込むときがあります。

2.“病状と服薬の経過”をうまく書けませんでしたが、この投薬で回復することを期待していてよいでしょうか?

3.書籍などに、回復過程では自殺を図るときがあると書かれていますが、妻は逆説的に言えば回復過程にある・・・と言えるのでしょうか?

4.主治医の先生は「また、自殺を考えるようなら、入院することも考えましょう。」とおしゃっています。ただ、1ケ月前の自殺未遂も我に返るのが数秒遅ければ実行していたことになりますし、このときも特に「死にたい。」「がまんできない。」等の前兆は無く、家族に取っては突然のことでした。あるいは、前兆はあったのか知れませんが、読み取ることができなかったことになります。「考えるようなら・・・・」と待っていればよいのでしょうか?
 クリニックには入院設備は無いので、その際は紹介状を書いていただけるそうです。

今後、メンタル的に問題にならないように早めに診察、カウセリングを受けたほうがよいでしょうか?


林: 症状、経過ともに、典型的なうつ病とみていいと思います。ということは、適切に治療すれば治るということです。
そこで処方内容をみてみますと(処方内容のみから、治療が適切か否かは本当は言えないのですが、メールでのQ&Aでは、処方内容がほとんど唯一の確実な情報ですし、かつ、うつ病の治療は抗うつ薬が中心ですから、薬についての回答が前面に出るとご理解ください)、明らかに抗うつ薬の減量が性急にすぎており、それがうつ病を長引かせている最大の原因と思われます。具体的には、

(3)発病後8ケ月目の投薬
病状:6〜7ケ月目 気分が上向きになり、食欲も出るようになり外食に一緒に行くこともありましたし、スーパーへの買い物も一緒に行くようになってきました。

抗うつ薬     デプロメール   25mg×2へ1ケ月の間に減量(8〜9月目)


この時点で、ようやく改善の傾向が見えてきたと判断できますが、まだ寛解といえるほどではなかったと思われますのにもかかわらず、デプロメールを減らすのは、副作用などのよほどの問題がない限り、うつ病の治療としては不適切といえます。(さらに言えば、寛解に至ってからも、一定の期間は同量の抗うつ薬を続けるのが再発予防のためには必要というのが常識です)
 さらには、

(4)発病後11ケ目の投薬
病状:8〜9ケ月目 今から省みれば、この頃少しずつ気分が下降気味だったようです。


この時点で、

ノリトン      25mg×2⇒0
トレドミン     0⇒25mg×2


というように、ノリトレンをトレドミンに置き換えていますが、これは根拠不明の薬物療法です。当然、前に有効だったデプロメールを増量するところでしょう。

それ以後もトレドミン中心の処方に向かっていますが、これも同様に根拠不明です。

結論としては、この【1346】のケースでは、抗うつ薬による治療が不適切なために、うつ病が長引いていると判断せざるを得ません。
その他のご質問については、あえてお答えしないことといたします。今の状態では、何よりまず、うつ病を適切に治療することを第一に考えるべきであることがその理由です。そして、残念ながら、いま受けておられる薬物療法は不適切で、このままでうつ病は長引く一方になると予想されます。


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