精神科Q&A

 【1341】夫の重いうつ病が電気けいれん療法で劇的に回復しました


Q: 30代女性です。主人は5歳上、子供はおりません。

質問ではないのですが、こちらのHPを見て、重いうつ病の夫が電気けいれん療法を受けることを決意し、結果として劇的に回復したので、この治療法を受けるかどうか迷っておられる方の参考になればと思い、メールさせていただきました。
少し長くなりますが、読んでいただけると幸いです。

治療の開始が8年ほど前のことなので、当時の薬の量などは覚えている限り書きますが、間違いもあるかと思いますので、ご了承願います。

主人は結婚後間もなく、疲労感、倦怠感、無気力、動悸、不眠などを訴えるようになりました。
幸い、当時の仕事は在宅でしたので、仕事にはさほど影響は出ませんでしたが、不眠が特にひどく、朝日が昇ってからようやく眠り、夕方に起きる、という状態でした。
同時に、少々ハイになることも時々ありました(突然普段連絡していない友人に長電話をかけてしゃべりまくる、運転中にキレて猛スピード前の車を追いかける、など)。

まずは知り合いでもあるかかりつけの内科医に診ていただき、うつ病(躁うつ病の可能性もある)ということで、
ルボックス 25mg×3
デパス(不安時) 0.5mg×1
レンドルミン 0.25mg×1
を飲み始めました。

医師からはできるだけ早く専門医に行くよう勧められておりましたが、もともと病院嫌いの主人は、なかなか精神科へ行く気持ちになれず、2年ほどずるずるとその内科医に診ていただいておりました。その間、トレドミン15mg×3を追加したように記憶しております。

その間うつの症状は一進一退を繰り返していましたが、3月いっぱいで当時の職場をリストラされることになり、友人のいる会社に転職するため、引っ越しを余儀なくされました。
それで、これを機に思い切って移転先の古くからある評判のいい精神科にかかることを決め、紹介状を書いていただきました。

うつ病患者にとって転職や引っ越しがマイナスになることはわかっていましたが、生活がかかっていたことと、また仕事ができないほど重症ではなかったこともあり、踏み切らざるを得ませんでした。

転院先の医師も、やはり躁うつ病の可能性があるという診断でした。
ルボックスは中止、トレドミンは引き続き処方されたのか中止したのか記憶が曖昧ですが、
炭酸リチウム(量は失念。定期的に血液検査していました)
パキシル 20mg×3
アモキサン 25mg×3
リスミー 1mg×1
が追加されました。

新しい仕事は、ほぼ在宅ではありながら、以前の職場よりも大変仕事量が多く、納期が迫ると徹夜を余儀なくされることもあり、出張もありました。
そのため、仕事以外の時間は疲れ切って寝ていることが多く、ストレスのせいか普段食べない甘い物を食べるようになり、体重も徐々に増加していきました。

アモキサンとパキシルを飲むようになってから便秘がひどくなり、2ヵ月後下剤が4錠追加されました。

さらに、症状が回復しないため、アモキサンを1回2錠×3に増加、動悸がするということで、安定剤(リーゼ)を1錠追加。
またリスミーでは眠れないということで、サイレース2mgに変更しました。

同じ年の12月に2ヶ月の出張に行ったのですが、薬の副作用による眠気がひどく、会議中に居眠りが出て、取引先の上司から説明を求められ、実はうつ病の治療中で薬を飲んでおり、その副作用で眠気が出てしまったことを伝えたそうです。すると、このプロジェクトは健康な人でも大変な仕事なので、悪いけれど君には降りてもらうと言われ、1ヶ月で帰ってきました。

プロジェクト途中で外されたため、働いた1か月分の給料も出せないと言われ、その月から突然無収入となってしまい、絶望と悔しさであふれた年越しとなりました。正社員ではなく請負だったため、失業保険もなく、病院に相談してかろうじて小額の傷病手当がもらえることがわかり、足りない分はわたしがパートに出ることになりました。

このショックも重なって、主人は寝込んでしまい、1日中布団にいることが多くなりました。2週間に1回の通院すら難しく、わたしが代わりに診察を受けて薬をもらうことも多々ありました。
薬の増量や変更は本人が来たときにしかできないため、治療にもずいぶん余計な時間がかかりました。
それでも、まだ時々は起きてパソコンを立ち上げメールを開いたり、ちょっとテレビを見たりすることはできていました。

その間、サイレースでも眠れないと言うと、「眠くなるタイプの抗うつ剤です」ということで、ルジオミール25mgを寝る前に3錠、ミンザイン0.25mg1錠を追加されました。

ところが7月ごろ、主人は風邪を引いてしまい、38度の熱が4日ほど続き、それをきっかけに(風邪が治ってからも)本当に布団から出られない状態になりました。
唯一食事とトイレの時に布団から出ますが、立ち上がることすらできず、這って歩く状態でした。

パソコンを立ち上げる(つまりスイッチを入れる)こともできず、テレビも見ないどころか、わたしが小さい音でテレビを見ていても「うるさい」と言って戸をスーッと閉めてしまう状態でした。
真夏の暑い日でもカーテンを閉め切り、ひたすら布団の中で過ごしていました(眠っているのではなく、目を閉じて時間が過ぎるのをひたすら待っているという感じです)。

喜怒哀楽といった感情も全くなくなり、まさに廃人同然でした。

それで、薬がさらに追加になり、「これでアモキサン最大量です」と言われました。実に1日二十数錠の服薬です。
今考えると、これだけ飲んでいればだれでも副作用で具合悪くなるのでは、と思いますが、医学の知識などありませんから、医師を信頼して言われるとおり飲んでいました。

実際、出張を途中で帰された後から入院するまでの記憶はほとんどないようです。今の主治医によると、それはうつの症状というよりは薬による健忘と思われる、とのことでした。

その翌月、この医師が別の病院へ異動となり、別の医師(今の主治医)に替わりました。

ここで、「これは明らかに薬が多すぎですね」と言われました。
この医師は、決して前の医師を批判しませんでしたが、「これだけ飲んでいて症状が全く改善されず、かえって悪くなっているということは、薬が合っておらず、ただ副作用だけが出ている状態です」と言われました。
それで、いっぺんに中止することはできないので、少しずつ減らして様子を見ていきましょう、ということになりました。

この間、今のアパートでは経済的にやっていけなくなったため、家賃の安い市内の公営住宅に引っ越しました(わたしの両親と友人の手伝いでなんとか引っ越し作業を行いました)。

アモキサンを中心に、2ヶ月かけて徐々に減らしましたが、症状の改善は見られず、これまで様々な薬を試しても効かなかったことと、病歴の長さ・重さから見て、薬が効きにくいタイプと思われるので、電気けいれん療法を試してみませんか、と言われました。

初めて聞く治療法で、恐ろしい名前だったため大変不安になりましたが、主治医によると、「これまでわたしは100人ほどにこの治療を行ってきました。中にはあまり効果が見られなかった人も何人かいますが、ほとんどは劇的に回復しています。前より悪くなった人は一人もいません」と言ってくださいました。
記憶障害については、治療期間中の記憶がなくなることはありますが、これまでの人生の記憶がなくなるのではない、という説明も受けました。

そして、他の人の意見も知りたいと思い、とにかくいろいろ調べてみようとネットをしていてたどり着いたのが、この林先生のサイトでした。すべてのQ&Aを読み、主人の主治医と全く同じ見解であることに安心しました。
ネットの情報だけを鵜呑みにしないように、とのアドバイスもありましたので、書店にも行って調べてみましたが、やはり安心して受けられる治療法だと確信し、ベッドが空いた9月末に入院しました。

入院して2週間のうちに、抗うつ剤は炭酸リチウムのみとなり、その後電気けいれん療法を週に2回を5週間、計10回行いました。
全て終わる頃には顔にもだいぶ表情が戻ったように思えました。
記憶に関しては、やはり入院中面会に来てくれた人の記憶などはないようでした。

入院して約3ヵ月後、年を越して1月初めに退院しました。
家では、入院中の緊張から開放されたせいなのか、また布団で過ごすことが多くなり、テレビもやはりうるさいと言って戸を閉めてしまう状態でした。
悪くなってはいないものの、思ったほどの回復が見られないまま2ヶ月が過ぎ、夫はこの病気と一生付き合っていかなければならないんだ、と落胆のうちに覚悟しました。

ところが、4月の末辺りから、急に回復を見せ始めました。
布団から出られるようになり、パソコンも2年ぶりくらいに電源を入れ、テレビを見て楽しみ、外に出られるようになり、5月末までにみるみるうちに元気になっていきました。
その後も順調に回復し、10月には無事職場に復帰することができました。

薬は、今は
ハイセレニン細粒40% 0.75×2、
スローハイム 10mg、
ソラナックス(不安時) 0.8mg
を続けています。

薬をやめることについても考えましたが、「やめても大丈夫かもしれないが、月1回(今は2ヶ月に1回)の通院が負担でなく、薬も1種類だけなので、それをやめて再発のリスクを背負うよりは、もしものときの保険のような形で、もうしばらく続けてみてもいいんじゃないでしょうか」との主治医アドバイスに従っています。

このように、薬のみに頼らず、決して早急で軽率な発言をしない良識のある主治医に出会えたことも、ありがたいことでした。
実際、「頭痛がひどいので薬がほしい」という夫と「痛い痛いと思うからますます痛くなる、そういう考え方を変えなさい」という主治医の意見がぶつかり、火花が散ったこともあるほど(苦笑)、患者にとって本当にプラスとなる治療方針を持ってくださる先生でした。

社会復帰してから今年で丸3年になります。たまに少々疲労感や倦怠感を感じることもありますが、電気けいれん療法の効果と、今の適度な仕事量がほどよいリハビリになっているようで、順調に過ごしております。

林先生の情報から確信を得られたことが、わたしたちにとって大きな大きなプラスになりました。心より感謝申し上げます。

一つだけ問題だったのは、遠くに住む主人の両親が、「電気けいれん療法」という名称と、脳に電流を流すというその方法に拒否感を示したことです。

主人の両親はうつ病に対して偏見があり(うつ病は不幸な家庭の人がなるもの、うちの息子がどうして、という感じ)、しかも取り乱す傾向があるので、じっくり時間をかけて説明し、主治医も直接電話をかけて説明してくださったのですが、やはり受け入れられないようでした。

もともと、「そばにいる妻(わたし)が一番よくわかっていると思うから、治療の方針はわたしに任せる」と言っていたので、今回はなんとかなだめて治療を受ける事ができました。
結果オーライだったのでよかったのですが、いまだに当時のことを「あの時は本当に心配だった」とちくちく言われます。

もう少し誤解や偏見を与えないような名称にならないものかと、その点だけが残念ですが、でもそんなことはまぁいいかと思えるほど、決意してよかったと思える治療でした。
これからもほどよいペースで今の状態を保っていければと思っています。

どうもありがとうございました。


林: 貴重な体験をお知らせいただき深く感謝いたします。あなたのメールの記載にもあるとおり、電気けいれん療法は現代でも偏見がぬぐえない治療法です。けれども、この治療法で劇的に回復されるうつ病の人がたくさん存在します。また、この治療法以外では回復しないうつ病の人も存在します。偏見のためにこの治療法が受けられず、回復しない、さらには自殺という結果になったうつ病の人も存在します。偏見は理屈だけではどうしても消え去りませんが、この【1341】のような実体験の情報を重ねることによって、少しずつではありますが確実に消えていくはずです。このメールはうつ病に苦しむ多くの方々の恩寵になると思います。ありがとうございました。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る