精神科Q&A

 【1305】5年間うつ病闘病中の妹は擬態うつ病でしょうか


Q実家の近くに住んでいる、36歳の主婦です。
両親と暮らしている34歳の妹について、擬態うつ病、統合失調症では・・・と思い、ご相談させていただきます。

1、妹の性格は、うつ病になりやすいというものから まったく反対の性格をしています。
 
2、実家の父はかなりキツイ性格で、30歳を過ぎたら家を出て行け と妹はいつも言われていました。私たち姉妹が子供のころから、母も私も妹も父から暴力をうけてきました。

3、妹は、何を言われようが 暴力を振るわれようが、お金がかかるのと母のそばを離れるのが嫌で家を出る気はないようです。

4、母は、父の理不尽な暴力を補うに余りある愛情をそそいで、働きながら必死で私たち姉妹弟を育ててくれました。

5、私と弟(27歳)は妹の自分勝手さと何でも病気のせいにする妹にうんざりして、妹とはまったく口を利きません。

妹は5〜6年前に、プロポーズまで受けていた男性に振られ、さらに仕事がハードになるという事が重なり、会社で倒れ、うつ病と診断されました。
その時は、数ヶ月 会社を休職しました。
その後、元気になったので、今までより家から近い会社の支社に移り 月に1度心療内科に通いながら今まで通りの生活に戻りました。
ただ、うつ病と診断されてからは、母や私、弟に何かきつく言われると「うつ病だから、そんなこと言わないで」「うつ病の人にそんな事を言っては、病気が良くならない」など泣いて訴えたりして、すべてをうつ病のせいにするようになりました。

恥ずかしい話ですが、職場復帰してから 1度万引きで捕まったことがあったのですが お店の人に「私は病気だから・・」と、万引き自体をうつ病のせいにした事もありました。そのときは、弟が迎えに行き 母には言わないでという妹に従い私と弟しか万引きの事は知りません。

それが、今年になり近かった職場が電車で1時間ほどかかる場所に移ることになり、その引越し作業や大量の仕事で、また 会社で倒れてしまいました。 

結局、有給もたくさん残っていたので有給消化という形で会社を休むことになりました。

最初の10日ほどは父も黙っていたそうですが、昼寝て夜はパソコンばかりしている妹にキレてしまい、母がいないときに 妹は包丁を振り回し父は椅子などを投げたり振り回したりして、家の中をめちゃくちゃにしてしまいました。

母は、医師に家には置いていては治るものも治らないので入院させてほしいとお願いしていたのですが、妹は入院するのが嫌で友達を使って「お母さんのそばから離してはいけない。入院させたら余計に鬱が悪くなる」と電話で言ってもらい、母も悩んでしまっていました。

母が妹とずっと一緒にいるということは、父に見つからないように何もかも捨てて家を出るしかないからです。

妹は、今では自分のうつ病は子供のころに虐待を受けたせいだ と母を責めるそうです。
そうかと思うと、泣きながらごめん、ごめんと謝ったり・・・

一昨日 私が実家で夕食を食べた日の夜、母が寝ていると泣き声が聞こえてくるので起きてみると、妹が「虫がたくさんいる。恐い。お姉ちゃんと弟が私の悪口を言っている。」と言い出したそうです。
母が、「お姉ちゃんは何も行っていない。心配している」というと 妹は「虫がお姉ちゃんがこんなこと言ってた。て教えてくれた。」恐い恐いと部屋の片隅で丸くなって泣き続けていたそうです。
私が、気になったことは 虫の話をした後に ブログを更新していたことです。
普段とまったく変わった様子もなく、バストUPや美容について絵文字をたくさん使い書いていました。
それで、「うつ病のふり」と検索してこちらのサイトにたどり着きました。
擬態うつの症例はまさに妹にぴったり当てはまるように感じたのですが、まさか 虫の話を母にかまって欲しいからといって、するとは思えませんし その時の妹の様子を泣きながら話す母を見ると、嘘とも思えません。
幻覚、幻聴を見たのは今回が初めてです。
朝になると、そのときの事は覚えていないように見えた と母は言っています。

母は、何とか妹を救いたい、妹がこうなったのは夫婦仲が悪かったからだと思い、もう気が狂ったように父に何も言わずに妹を家に置いてやってと頼んだそうです。
妹には、今朝 「家に居れることになったから、ゆっくり家で休み」 と言ったそうです。
今日 母は、私が実家に帰って また 妹がおかしくなったら困るので しばらく帰ってこないように言いました。

ただ、擬態うつ病の話を母にしたとき、母は最初は泣きながら妹をそんな風に言って・・・と大泣きして私を責めましたが、落ち着かせて話をすると、確かに擬態うつ病に当てはまる所があると思ったようです。

今日、すべてが妹の思い通りになりました。
今は落ち着いているそうです。

その間も、妹は ハートなどの絵文字をたくさん使ったブログを毎日更新しています。
今日は、4度もブログを更新し 美容によいとされるサプリも購入していました。
私は、擬態うつだと思う一方で、虫の話の部分では、統合失調症では、と思っています。統合失調症でも、自分がうつ病だと言っていれば、やはり擬態うつ病に含まれるのですよね?
また、母のかまいすぎが 妹の擬態うつ病をさらに悪くしているようにも思います。

母は、ほとんど泣きっぱなしで限界のようです。
ぜひ、ご助言をよろしくお願いします。 


林: 妹さんはうつ病ではありません。そして、うつ病でない妹さんが、自分をうつ病であると言っていることから、あなたのご指摘通り、擬態うつ病であるといえます。

擬態うつ病は、「うつ病と称しているがうつ病でないもの」ですから、その中にはさまざまなものが含まれています。

統合失調症でも、自分がうつ病だと言っていれば、やはり擬態うつ病に含まれるのですよね?

定義上、その通りです。

けれども、この【1305】のケースは、統合失調症ではなく、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)がもっとも考えられます。(少なくとも、統合失調症の可能性は非常に低いです)

妹は、今では自分のうつ病は子供のころに虐待を受けたせいだ と母を責めるそうです。
そうかと思うと、泣きながらごめん、ごめんと謝ったり・・・


このように、親を責めたり、感情が不安定であることが、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)によくみられることは、境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集 のp.65などにお書きした通りです。

また、あなたが統合失調症ではないかと疑う理由となった幻覚症状、すなわち、

妹が「虫がたくさんいる。恐い。お姉ちゃんと弟が私の悪口を言っている。」と言い出したそうです。
母が、「お姉ちゃんは何も行っていない。心配している」というと 妹は「虫がお姉ちゃんがこんなこと言ってた。て教えてくれた。」恐い恐いと部屋の片隅で丸くなって泣き続けていたそうです。


これは、解離による幻視と考えられます。境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集 では、p.53の「一過性の「精神病」症状」にあたります。そして、

私が、気になったことは 虫の話をした後に ブログを更新していたことです。
普段とまったく変わった様子もなく、バストUPや美容について絵文字をたくさん使い書いていました。


このような行動も、先の幻覚症状が解離であったことを支持するものです。

朝になると、そのときの事は覚えていないように見えた

このように、解離の時の記憶はしばしば失われていることも、上記の本のp.53にお書きした通りです。

そして、

また、母のかまいすぎが 妹の擬態うつ病をさらに悪くしているようにも思います。

これもご指摘の通りです。
しかし、そのことでお母さまを責めるのではなく、お母さまに正しい知識を持っていただくことが、妹さんの回復への第一歩になると考えるべきです。

母は、何とか妹を救いたい、妹がこうなったのは夫婦仲が悪かったからだと思い、もう気が狂ったように父に何も言わずに妹を家に置いてやってと頼んだそうです。

このような対応が不適切であることは、上記の本のp.98 「見当違いの家族」にお書きした通りです。このままでは妹さんの病状はどんどん悪化に向かうばかりです。

母は、ほとんど泣きっぱなしで限界のようです。

いくら泣いても何も解決しません。ぜひお母さまに正しい知識をお伝えください。



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