精神科Q&A

 【1301】私はうつ病と診断されましたが、同僚を見ると「うつ病 = 甘え」としか思えず、自分の診断を受け入れられません( 【1266】のその後)


Q:  【1266】で質問させていただいた30代前半の女性です。林先生の回答が、「うつ病かどうかわからない。主治医にもう一度確認することが必要」だったこともあり、精神科の主治医に『私は本当にうつ病なのか』と聞いてみました。
 主治医の説明は、林先生のおっしゃられる通り睡眠だけではなく、それまで毎日読んでいた本を読まなくなったり、テレビを全く見なくなったり、休みの日には必ず外出していたのが外出する気力さえなくなってしまったり、しないと言うよりは気持ちはあっても体がついていかない状態からうつ病と診断したという事でした。

血糖値はその後すぐに落ち着き、グリコランを飲んでいるだけで特に食事療法もしていませんが、入院1ヶ月半ぐらいで正常値になり、退院となりました。

退院後も服薬に変わりはありません。内科の方はかなり落ち着いてきたので、通院回数も減り一か月に1回だけで、精神科だけ一か月に2回通院しています。仕事は入院前と同じように出勤しています。
仕事は以前通り行えるものの、時々集中力を欠く時があり、精神科の医師に相談したところ、薬の副作用との事でした。精神科の処方は少し変わり、1日の処分はトレドミン50mg、リーマス400mg、ジェイゾロフト75mg、それと眠剤です。

相変わらず気分の落込みというのはありません。何においてもヤル気はあるものの、疲労感があり体がついていかないという感じです。このメールも文章を作りはじめてから1ヶ月以上もかかってしまいました。

こういった状況を考えると明らかに今までの自分と違うと思うのですが、まだ自分がうつ病であると受け入れられない自分がいます。というのも、これまで自分が出会ったうつ病の人達は祖父を除き、全て職場の人で、全て退職していっているのですが、私の目には単なる甘えにしか見えなかったためです。ハ―ドな職場ではあり、入れ替りは激しいですが、叱られた翌日から来なくなったり、注意を受けた頃から休みがちになったり、休憩時間や飲み会の席では楽しそうにしているものの、退職や欠勤の時にはうつ病を理由にします。私は医師ではないですし、職場だけの付き合いなので、単なる私の目から見て勝手に私が思いこんでいるだけではありますが、彼らを見ているうちに『うつ病=甘え』というレッテルが出来上ってしまっていて、自分がうつ病と言われても『彼らとは違う=私はうつ病ではない』という思いが離れません。
その点も主治医に確認してみた所、『それ(私の職場で鬱を理由に退職した人達の状態)はうつ病じゃないから』と言われました。逆に私がうつ病だと肯定されてしまいました。

祖父は、もともとは毎日、午前も午後もパークゴルフに行き、老人とは思えない程の日焼けをして、健康そのものに見えていた人が、パタリと行かなくなり、本人曰く『頭がぼんやりして何をするのも億劫』と言い、うつ病と診断されていました。退職し何年も経って自由にのんびりと好きな事をして過ごせる状況だったので、ストレスとも考えにくく、主治医と林先生のおっしゃられる通り、ストレスが原因ではないんだなぁと納得出来ます。

でも、いざ自分の事となると自分がうつ病だと受け入れられない自分がいます。

病気によっては受け入れる事で、回復力が違ってくるのではないか?うつ病はそうであるのか?など疑問ばかり浮かんできます。

そろそろ内科の通院をしなくても良くなりそうです。そうなると同じ病院の精神科への通院が億劫になりそうです。今までは内科のついでに精神科の受診という感じだったので特に考えずにいましたが、内科に通わなくなると精神科の受診はどうしようかと迷っています。睡眠は薬の効果を感じるので、薬がなくなるとどうなってしまうのか?という不安もありますが、うつ病の薬を半年飲んでいるのにあまり変わらないじゃないかという不信感もあります。

前回と同じ質問になってしまいますが、やはり私はうつ病なのでしょうか?
うつ病と受け入れる事で治療効果は変わってくるものでしょうか?

もちろん、主治医にも同じ質問をしてみるつもりです。別の精神科の受診をするつもりがないので、複数の意見が聞きたく、このサイトで質問させて頂きました。
 うつ病の方のサイトなども見てみたのですが、どの方もご自身がうつ病であると認めているというか、認識されているものばかりで、同じようにうつ病という認識がないのにうつ病と診断されたというものがなく、参考にならなかったので是非ご意見を伺いたく再度メールさせて頂きました。


林: 
やはり私はうつ病なのでしょうか?

うつ病にほぼ間違いないでしょう。
【1266】での私の回答の要旨は、
1. あなたがうつ病かどうかはわからない。
2. なぜなら、あなたがうつ病と診断された根拠が睡眠障害だけに基づくとメールには書かれているが、それだけを根拠にうつ病と診断するのは荒唐無稽である。したがって、この部分だけを読めば、うつ病とは考えにくい。
3. しかし、倦怠感や興味の喪失が認められるので、うつ病の疑いは残る。
というものでした。

けれども、今回の【1301】のメールから、あなたの主治医があなたをうつ病と診断したのは、決して睡眠障害だけを根拠としたのではないことがはっきりしました。したがって、「睡眠障害だけを根拠にうつ病と診断するのは荒唐無稽である」という私の回答は、内容自体は正しいものですが、あなたのケースには無関係な回答ということになります。

そして上記 3. の倦怠感や興味の喪失、これらが、主治医の精神科医からみて、うつ病の症状であると判断されたことから、あなたがうつ病であることはほぼ間違いないということになります。

さらには、あなたのお祖父様が、かなり典型的なうつ病であったことが大きな根拠ともなります。「かなり典型的」というのは、このメールにも書かれているように、特にストレスがないのに発症したということです。これは場合によってはうつ病と確定診断する何よりも強い根拠になります。あなたの主治医もおっしゃっているように、また私が【1266】などでも繰り返しているように、うつ病の原因はストレスではありません。「ストレスが原因でうつ病になる」というのは、マスコミなどが流している虚偽の情報です。本当のことよりも、もっともらしいことが受け入れられるのは人間社会の常です。

ところであなたのお祖父様のうつ病とあなたの関係です。うつ病は遺伝性疾患には含まれませんが、他のどんな病気とも同じように、遺伝の要因はあります。ですから、これだけはっきりしたうつ病が家系内にいらっしゃるということは、あなたがうつ病を発症する可能性はかなり高いといえます。

実は私は疑っています。
【1266】の質問メールを私に書かれた時点で、あなたは主治医から、うつ病診断の根拠として、睡眠障害以外のことを説明されていたのではないか。また、あなたはお祖父様のうつ病という事実を、重要な情報であると認識しながら、あえて【1266】の質問メールには書かなかったのではないか。
 決して私はあなたを責めているわけではありません。ただ、これらの事実をあなたは、意識的、あるいは無意識的に、隠しつつメールを書かれたのではないかと純粋に疑っているのです。
 そのように私が疑う根拠の一つは、あなたがうつ病だというまさにその事実です。うつ病の人は、自分が病気ではないと考えたがる傾向があり、そのためご自分の症状をはじめ、自分がうつ病と診断されそうな情報を隠す傾向があるのです。その結果、診断や治療が遅れるのは、うつ病の臨床では非常によくあることです。今「あなたへの疑い」として私が書いているのは、そのようなことを少しでも減らしたいと思うからです。ですからこれは、あなた、つまり【1301】の質問者ではなく、他の読者に向けて書かれているとご理解ください。
 そして、特にあなたがご自分をうつ病と診断されることに抵抗していることは、このメールから明らかです。
 さらにその理由も明らかです。あなたの職場の他の「うつ病」の方々のことです。

これまで自分が出会ったうつ病の人達は祖父を除き、全て職場の人で、全て退職していっているのですが、私の目には単なる甘えにしか見えなかったためです。ハ―ドな職場ではあり、入れ替りは激しいですが、叱られた翌日から来なくなったり、注意を受けた頃から休みがちになったり、休憩時間や飲み会の席では楽しそうにしているものの、退職や欠勤の時にはうつ病を理由にします。

このあなたの見方はかなり正しいと思います。あなたがこれまで出会った「うつ病」と称する人々のうち、本物のうつ病はあなたのお祖父様だけだと思います。それ以外の「うつ病」と称する人達は、「甘え」にあたると思われます。

彼らを見ているうちに『うつ病=甘え』というレッテルが出来上ってしまっていて、自分がうつ病と言われても『彼らとは違う=私はうつ病ではない』という思いが離れません。

このような人達と一緒にされたくない。あなたがそのようにお考えになるのは自然です。

その点も主治医に確認してみた所、『それ(私の職場で鬱を理由に退職した人達の状態)はうつ病じゃないから』と言われました。

その通りです。この人達はうつ病ではありません。擬態うつ病です。
 あなたには是非とも擬態うつ病をお読みいただきたいと思います。擬態うつ病は私の造語で、「うつ病ではないが、うつ病と称している人」のことです。(甘えとは限りません)
 私が擬態うつ病という本を書いたのは2001年です。それ以後、擬態うつ病は増え続けていると思われます。その結果、多くのうつ病の人々が迷惑しておられます。つまり、あなたの職場で「うつ病」と称していた人を見て、周囲の人は、これがうつ病なんだと思う。そうすれば、うつ病に対するネガティブな見方は強まるばかりです。その多くは、うつ病でない人からの見方ですが、この【1301】では、擬態うつ病をうつ病と思い込んだために、うつ病のかた本人が、自分の病気を受け入れらなくなっているという事態が発生しています。さらには、あなたに対する職場の方々の目も、本来のうつ病の方に対するものよりかなりネガティブになっていることも推定されます。
 【1301】の質問者の方には(それから、出来ればその職場の方々にも)、是非とも擬態うつ病とうつ病の区別を認識していただき、ご自分のうつ病の治療に、迷うことなく専念されることを、私は強く希望しています。

もうひとつ付け加えます。

 うつ病の方のサイトなども見てみたのですが、

とのことですが、自分が「うつ病」であるとしているサイトは、その多く(あるいは大部分)が、到底うつ病の人によるとは思えず、したがって擬態うつ病であることもよく認識しておく必要があると思います。ですから、うつ病のあなたにとっては、そのようなサイトの体験談などは参考にならないと考えるべきです。

 

その後の経過(2008.3.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る