精神科Q&A

 【1297】死にたいといい続けている18歳の息子はうつ病か統合失調症か


Q: 18歳の息子の事でご相談します。

 発端は、昨年夏、4年にわたる片思いに終止符を打つべく、自殺を決意したことでした。
 それからは、入水、飛び降りなど考えたものの実行できず、首吊りを図るが紐が切れて未遂。
 その後不登校となり、卒業式後の3/1に死ぬと予告。精神科の受診は拒否、親の説得には一切応じないまま、一日中PCゲームをして過ごす日が続きました。

予告の日が近づき、止むを得ず保健福祉課の方の手を借りて、2月末に入院を想定し強制的に受診しました。
しかし、「うつ病や統合失調ではなく、青年期特有の観念的でニヒリスティックな状態」との診断で、通院治療となりました。
処方は、ドグマチールなどでした。

治療前は、死にたい気持ちは強いものの、睡眠時間の問題はなく、兄弟とも普通に接し、特に異常な言動もなく、彼女の話題に触れない限り生活に支障はありませんでした。ところが、服薬を始めてから感情の起伏が激しくなり、自分ではコントロールできず、毎日「死ぬ」としか言わなくなってしまいました。薬による強烈な眠気のために、15時ごろには眠ってしまい、夜中の2時ごろ目覚めるリズムが定着してしまい、夕食・夕薬・眠剤は本人には意識のない状態です。あれほど好きだった読書もできなくなりました。そのころ、欠時過多による高校留年(休学)が決定しました。
日に日に希死念慮が増し、また自殺を予告したため、通院開始3週間後に入院となりました。
反応性のうつ状態で、SSRIを使うとのDr.の説明でした。入院中の処方内容は不明です。
ろれつが回らない・三白眼で無表情・食べ物をこぼす・動きが超スロー・ひじを直角に曲げたままロボットのように歩く・日中は眠ってばかりいて、夜中は1時間半おきに起き出す・指の動きが不自由になり、字が書けない・・・など、薬の副作用だと自分に言い聞かせても、あまりに精神病然とした様子になってしまった姿を見ると、不憫でなりません。

それでも、Dr.の診察時には「死にたい気持ちは消失した」と話す事が多くなり、時々将来の事など前向きな話をするようにはなったのですが、私には毎日のように「死にたい」「退屈で死にそうだ」「退院できないなら死ぬ」「彼女に会えなければ死ぬ」「寂しいから毎日来て」などと泣いて電話してきて、一向に改善がみられませんでした。
 ある時は、将来医者になりたいとDr.に話したところ、無理だろうと言われ、病院を抜け出す騒ぎを起こしたり、食事を拒絶したり、彼女の事で絶望感をつのらせて病室から飛び出そうとすることが続いたため、医療保護入院扱いとなり、4日間閉鎖病棟にも移動しました。開放病棟に戻ったものの、「自分が死ぬことが彼女のためになる」の一点張りで、薬の増減が繰り返されたようです。
 死にたい気持ちは消失したり強くなったりを繰り返していましたが、「退院できないから死にたい」と毎日訴え続けるため、入院自体のストレスが強すぎるとの判断で、賭けともいえる退院となりました。(50日入院)

 退院後は、医学書をはじめ、本を大量に購入し、部屋にとじこもって読み漁っていたようです。他にも何か、失った時間を取り戻そうとするかのように、多くのことをしていたようですが、具体的な内容はよくわかりません。
 しかし、やはり睡眠のリズムは服薬開始から変わらず15時には眠ってしまい、夜中2時頃には目覚めてしまいます。
 1週間後処方変更。しかし、うつ状態がひどくなり、走行中車のドアを開けようとするなど希死念慮が強くなったため、24時間目が離せなくなりました。

それからも次第に激しく落ち込む日が増え、処方変更となりました。

体力が極端に低下していて、長い道のりを歩く事が困難ですが、特に単調な一本道ではまっすぐに歩いていく事が耐えられず、奇妙にジグザクな歩き方をします。同じ景色が連続して目に入って来るのが耐えられないのだというのが本人の主張です。そういう日は決まって「もう僕はダメだ、生きてる価値がない。死にたい。」と泣き、一度頓服を飲ませました。ところが、30h位眠り続けたため、怖くてそれ以後服用していません。

そしてある朝、突然道路へ飛び出し、追いかけると転倒し手指を骨折、取り押さえて救急車を呼び、また病院に医療保護入院となりました。
病院でも階段から落ちようとしたり、「ガラスを割って首を切る」と言うため、監獄の独房のような保護室に隔離されてしまいました。私が行くと「お母さん、僕はこんな部屋に入れられちゃったんだよ。出られないなら死ぬ。」と泣きます。「死ぬ」と言うこと以外は、話す内容は全く正常です。
 あまりに不憫なので、別の医院でセカンドオピニオンを受けたところ、「本人を診ないと確証はないが、これまでの経緯を聞く限りうつではない。統合失調症の可能性が高い。」「再入院の方法も間違っている。警察を通して(ハード救急)指定病院に行き、鑑定を受けて、今後の治療方針を決めるべきだった。」とも言われ、そのような予備知識がなかった私はショックを受けました。現在のDr.も看護師長もケースワーカーも、統合失調症ではないと確信を持っておられるようです。

その後、食事を拒否し、壁に頭を打ちつけたり、階段から転がり落ちるなどするため、ついに電気けいれん療法に同意する事になりました。いくら安全と言われても、恐怖はぬぐいきれません。親がDr.に対して不信感を抱いていては本人のためにも良くないと思い、顔には出さずにいます。しかし、本当にこの治療方法しかないのか、副作用ばかりが強く出ているように思えるのは気のせいなのか、本当にうつなのか、転院させるべきか、不安ばかりがつのります。
どうかアドバイスをお願いします。


林: 
別の医院でセカンドオピニオンを受けたところ、「本人を診ないと確証はないが、これまでの経緯を聞く限りうつではない。統合失調症の可能性が高い。」

私もそう思います。確かにこのメールからは、息子さんは統合失調症と思われます。死へのこだわりがあまりに強迫的で、死にたいという理由が客観的には共感しにくい(あるいは、共感できない)ことがその大きな理由です。もちろん「失恋がもとで自殺したくなる」ということ自体は、共感しにくいとは言えませんが、経過全体と、女性と自殺の結びつきがあまりに短絡的なことなどからは、「青年期特有の・・・」といったレベルとはいえず、また、うつ病とはかなりニュアンスが異なり、何が最も考えられかといえばやはり統合失調症ということになります。おそらくこの経緯を説明すれば、大部分の精神科医が統合失調症の可能性を第一に指摘するでしょう。

けれども、この医師のおっしゃるように、「本人を診ないと確証はないが、」というのも真実です。そして、本人を診た医師が「統合失調症ではない」と断言していることも、最大限重視する必要があるのはもちろんです。特にこのケースのように、統合失調症が考えられるものの、とはいっても幻聴や被害妄想などの典型的な症状がない段階では、直接診察した医師の判断のほうが、間接的に情報を得た医師の判断より重みがあるのは当然です。その意味では、主治医に再度見解を確かめる、あるいは可能なら別の医師に直接診察を受けるという方法も勧められるところです。もっとも、現在の症状からすると、いま別の医師の診察を受けるのは難しそうではありますが。

なお、今の主治医の先生の診断が仮に間違いであるとすれば、その原因は、発症時から継続して診ておられるということが挙げられます。
発症時から継続して診ていれば、逆に診断は正確に出来るはずではないか。そう思われるかもしれません。
それは一般的にはその通りなのですが、そうでないこともあります。それは、この【1297】のようなケースでは、最初の時点(片思いから自殺を決意した時点)では、「青年期特有の観念的でニヒリスティックな状態」の可能性のほうが高くみえたかもしれず、そうだとするとそれが先入観となって、なかなかそこから逃れられず、ついその後も正常な面を重視したくなり、徐々にはっきりしてきた病気の徴候を軽視してしまっているということが考えられるからです。これは、ご家族の判断についてもよくあることです。

以上、メールを読む限りではこの【1297】は統合失調症の可能性が高いと思われます。
したがって、他の医師の診察を受けることが可能なら、そうする意義はあるでしょう。
但し、今の症状に対しては、診断が何であれ、電気けいれん療法が最善でしょう。薬はすでに副作用が出すぎていること、かといって、何らかの積極的な治療を施さなければ、自傷・自殺を防止することは困難と判断されることがその理由です。それに比べれば電気けいれん療法に伴う危険性は無視し得るレベルです。


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