精神科Q&A

 【1293】ペースメーカーの手術をしたのですが、それでも動悸がします


Q: 20代後半の女性です。入院(後述)前に他の事情もあって退職し、現在は無職です。 

一昨年の年末、深夜に仕事を終えて駅の階段をのぼったときに突然話もできないほど呼吸が苦しくなり手足のしびれも出て、急患で運ばれました。そのときは 「ストレス性の過呼吸」と言われました。そのときは1時間程度で快復したのですが、その数日後、友人とごく軽い運動をしているときにまた極端に呼吸が苦 しくなり、少し休んでから電車で帰る途中に今度は激しい動悸がして恐怖感に襲われ、別の病院に運ばれました。そのときも医師にストレス性の症状ではないかと言われ、数時間で快復して帰りました。名前は失念しましたが、漢方薬を処方されました。 

考えてみると、その数か月前からたまに、息がしづらいと感じることがありました。自分で調べてパニック障害に近いとも思ったのですが、私自身は比較的コ ンプレックスが強い性格ですが職場・友人・家族には恵まれていると感じており、強いストレスの自覚はありませんでした。 

翌日から、ふつうに階段をのぼる程度の運動に伴って、必ず激しい動悸・不整脈・呼吸の乱れを感じるようになりました。運動に伴って起こるのだから心因性ではない、との素人判断で、循環器科にかかり直しました(私は先天性の心疾患(幼児期に手術し、完治したといわれた)も持っていたため)。心電図・ホルター心電図・トレッドミル検査を行いました。そのときは、不整脈が少しあるものの大きな問題はないとのことで、不整脈が心配ならば薬も出せると言われ、インデラルを処方されました。 

薬が効いたのかどうかよく分かりませんが、運動による激しい動悸は数週間でおさまりました。その後、たまに瞬間的に大きな心拍を感じたり、めまいや頭がフワフワするような感覚になることがありましたが、日常生活には問題ない程度でした。循環器科の医師にめまいを訴えると、インデラルの量を半分程度に減らされました。その後も特に体調の変化はなく、運動もできました。 

ところが昨年の冬になり、また階段をのぼる程度の運動で大きな拍動を感じるようになりました。この時は明らかに徐脈で、運動をすると心拍が40程度に下がって非常に苦しい状態になりました。循環器科の先生からは「インデラルをやめて様子を見ましょう」としか言われませんでした。不安が強かったので、循環器科の先生にも了承をとって心療内科も受けてみたのですが、「やはり循環器科の範囲ではないか」と言われ、不安があるならとソラナックスを処方されました。 

その日ソラナックスを飲んで、気のせいか少し苦しさが薄れた気がしたのですが、その日の外食中に突然また息が吸えない感覚になり、息苦しくて歩くのもやっとの状態で家に帰りました。薬が関係あったかどうかは不明ですが、怖くなってソラナックスを勝手に中止してしまい、全く薬のない状態でしばらく過ごしました。ふつうに歩くくらいなら日常生活はどうにかなりましたが、坂や階段をのぼる程度の運動で異常に息が切れ心臓が破裂するような恐怖に襲われるのは治りませんでした。次第に、運動以外の時にも不規則に徐脈が現れ、ふつうに歩くのも辛いほどになりました。 

循環器科の先生に今までの症状を訴えたところ検査入院となり(その流れで心療内科には行かなくなってしまいました)、二度房室ブロックで徐脈の症状が見られるということでした。担当医は最初はペースメーカーを埋め込むのを「まだ若いから」という理由で躊躇していましたが、私は「このままではまともに働けもしないから、ペースメーカーで治るのなら入れてほしい」と相談し、今年初頭に埋め込みの手術をしました。 

手術後、平常時の脈拍はもちろん正常となり、担当医からは「登山でも水泳でも、何でもして良い」と言われたのですが、退院後数か月が経った今でもごく軽い運動(小走りなど)で息が吸いづらい感覚があり、何もしていないときでも時々どう呼吸をしたらいいのか分からなくなって息が苦しくなります。特に物を食べたり人としゃべったりするときは、「食べて、吸って、話して、吸って」と妙にいちいち意識しないとうまく呼吸ができません。ほかにも、たまに頭が ボーっとして体がフワフワした感覚がしたり、不整脈を感じたりします。これらの症状は、ペースメーカー埋め込み前の状態とあまり変わらないです。 

循環器科の先生に相談したところ、 
・ペースメーカーが入っているし、心電図やレントゲンの検査結果からも心肺機能に問題はない 
・ペースメーカーが入っていても運動に伴って不整脈が起こることはあり得るし、それは大きな問題ではない 
・息の吸い方が分からなくなるというのは循環器科外の問題で、心因性のものもあるかもしれない 
と言われました。とりあえず不整脈への対応ということで、デパス0.5mgを1日3錠飲むことになりました。デパスというのは精神系の薬というイメージだったので、ちょっと意外でした。 

薬を飲んで数か月ですが、症状が特に改善されたとは感じず、今でも小走り程度の運動で(手術前ほどひどくはないのですが)息がうまく吸えなくなって苦しくなり、怖くて運動ができません。人と話していても、時々息をするのを忘れて苦しくなり、会話が中断してしまいます。動悸(不整脈ではない)を感じて寝られないこともあります。 

場合によってはまるで専門外のことかもしれず恐縮ですが、 
(1)私は実際に心臓が悪くて動悸などが起きていたわけですが、手術後もある程度の不調があるということは、心機能の問題と心因性の問題がたまたま同時に発症したということなのでしょうか? このまま循環器科にかかっているだけでいいのでしょうか? 
(2)「意識的にしないと呼吸がしにくい」という心因性の病気はありますか? 調べたところパニック障害に近いように感じますが、私の場合ストレスのかかったときではなく運動や身体的な疲労に伴って起こるというのに違和感があります。 
(3)私自身は一昨年の発症時に大きなストレスは感じていず、友人も多く比較的楽しく生活しているつもりでしたが、本人に強いストレスの自覚がなくても 無意識のうちに何らかのストレスがたまって、ストレス性の症状が現れることがあるのでしょうか? 最初に「ストレス性」と言われたときにピンと来なかったのです。 

非常に長くなって恐縮ですが、実際に病気であったことが問題をややこしくしていて、困っています。循環器科の先生は大きな問題はないと考えているよう で、3か月に一度程度の診断です。今後フルタイムで働けるかどうかも不安ですし、軽い運動くらいは楽しめるようになりたいのです。回答していただけると 幸いです。 


林:
(1)私は実際に心臓が悪くて動悸などが起きていたわけですが、手術後もある程度の不調があるということは、心機能の問題と心因性の問題がたまたま同時に発症したということなのでしょうか? このまま循環器科にかかっているだけでいいのでしょうか?

あなたのおっしゃる通り、心機能の問題と心因性の問題がたまたま同時に発症したということだと思います。
ペースメーカーの手術前の症状をみますと、徐脈については二度房室ブロック、及び、インデラールの副作用(というより、インデラールが効きすぎた)のために間違いないでしょう。ですからこれは心機能の問題です。インデラールの中止とペースメーカー手術によって治すことが出来ますので、その意味では手術は適切な選択肢だったと言えます。
一方、「息が吸えない感覚」は、心因性の症状として比較的よくあるものです。この【1293】のケースでは、症状からも、経過からも、心因性と考えて間違いないでしょう。
ですから、二種類の問題がたまたま同時に発症していたということになります。もっとも、心因性の問題の発症の要因の一つとして、心機能の問題があった可能性はあります。つまり、実際に心臓の症状があったために、心臓のことを気にすることが、心因性の症状を生む一つの要因になったということです。さらに、小児期に心臓手術を受けたということも、心臓のことを気にする要因になっているかもしれません。もっともこれらは推定にすぎず、「たまたま同時」とするほうが無理のない解釈だと思います。治療としては、循環器科だけでなく、精神科でも並行して受ける必要があるでしょう。


(2)「意識的にしないと呼吸がしにくい」という心因性の病気はありますか? 調べたところパニック障害に近いように感じますが、私の場合ストレスのかかったときではなく運動や身体的な疲労に伴って起こるというのに違和感があります。 

心因でそういうことがよく起きるのは上記の通りです。運動や疲労に伴って起こるというのは、一種の条件づけが起きてしまっているのかもしれません。

(3)私自身は一昨年の発症時に大きなストレスは感じていず、友人も多く比較的楽しく生活しているつもりでしたが、本人に強いストレスの自覚がなくても 無意識のうちに何らかのストレスがたまって、ストレス性の症状が現れることがあるのでしょうか? 最初に「ストレス性」と言われたときにピンと来なかったのです。 

ストレスで体に症状が出る場合、むしろストレスが意識されていないことが多いこともよくあります。意識されれば精神症状として現れるが、意識されないと潜行して体の症状として現れる。ごく大雑把に言えばそういうことです。【1147】にお書きしましたが、そのようにストレスが体に出やすい傾向のことをアレキシチミアといいます。
ですから、

本人に強いストレスの自覚がなくても 無意識のうちに何らかのストレスがたまって、ストレス性の症状が現れることがあるのでしょうか? 

そうです、「ことがある」というより、それがむしろ普通だという考え方もあります。

最初に「ストレス性」と言われたときにピンと来なかったのです。

アレキシチミアでは、ストレス性と言われても本人はピンと来ないのが普通です。


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