精神科Q&A

 【1290】声ではなく気持ちがわいてくると言う10歳の息子は統合失調症でしょうか


Q:  現在10歳の息子は、昨年11月頃より、手を繰り返して洗う、ドアの前後を確認する動作を繰り返すようになりました。理由を聞いてみても秘密といっていましたが、今年1月大学病院の精神科で診察を受けたところ、医師に対して「自分が殺されないように、自分が人を殺さないようにするためのおまじない」と答え、強迫性障害と診断され、デプロメール錠を処方され、その後1週間に一回通院するようになりました。薬は最初は25を1錠、5月初めには50を3錠となりました。

  1月から5月にかけての様子ですが以下のような状態でした。
1、手を繰り返し洗う動作はなくなった。
2、ドアの前後を確認する動作については多いときもあるが、ほとんどない日もあった。
3、道路を歩いていて、マンホールがあると戻ってもう一度その上を通るときがある。理由を聞いてみると、そのようにしろという声が聞こえてくるということでした。。
4、「お父さんを殺せ、お母さんを殺せと自分の心の中の悪いやつが言っている」と時々言うようになりました。
5、家では穏やかに過ごすときが多く、5月初めに担任の先生に学校での様子を聞いたときも、特にトラブルはないということでした。
  ただし、上記3,4について最近もう一度話を聞いたところ、第三者の声が聞こえてくるときもあるが、ほとんどはそのような気持ちがわいてくるような感じということでした。

 5月に入り、医師から「デプロメールは効いていないようだ。薬を変えていく。」といわれ、以下の薬を処方されました。
・5月初めよりリスパダール(最初は内用液、0.2ml、8月の終わりには錠剤で7mg)
・6月初めよりパキシル(最初は10mg1錠、7月初めには10mg4錠となりましたが、その後徐々に減らし、現在は飲んでいません。)
・7月初めよりアキネトン錠1錠

 6月以降の様子ですが
1、6月中頃、「学校で他の生徒を怒鳴りつけてきた。最近毎日怒鳴っている、怒鳴ることはやめられない」、理由を聞くと「悪口を言っているに違いない」、「いやな気持ちがした」などでした。家でも兄弟や親に対して怒鳴ることが多くなる。
2、7月中頃、医師に「統合失調症です。しばらく学校に行かないように」
3、8月の初め頃より、不安な気持ちが強くなり、「自分は人を殺さないだろうか、殺されないだろうか」等を言いながら、父に抱きついて寝るようになる。日中も以前は一人でパソコンに夢中になっている事が多かったが、ほとんど何もせず、ボーっとしていることが多くなる。さびしいさびしいと言って一人で部屋にいることができない。
4、8月の初め頃より、体重の急激な増加。頭痛。頭痛については担当医に伝えたところ、この病気や薬とは関係ないので小児科に行くようにといわれました。
5、強迫行為は少なくなったが、「心の中の悪いやつが・・・・・と言っている」と言うことが増えてきた。ただし、これは前に書いたように第三者の声が聞こえてくるときもあるが、ほとんどはそのような気持ちがわいてくるような感じということでした。
6、夏休み中、週2・3回、塾(個別指導)には自分から行っていた。塾に行くことは楽しみにしていた。

 9月に入り、医師より「リスパダールは効いていない。薬を変える。リスパダールは減らしていく」といわれ、今はリスパダール5mg、エビリファイ6mg、アキネトン1錠です。
 また現在学校は休んでいますが、「そろそろ学校に行きたい。遠足にも参加したい」と言い出したので、医師と学校に相談して、9月下旬より、一日数時間、週数回、個別指導、親が送り迎えして登校を再開する予定です。

質問です
1、息子は統合失調症でしょうか。デプロメールだけを処方されているときは、学校で他の生徒を怒鳴りつけるようなことはありませんでした。「心の中の悪いやつが・・・」ということもあまりありませんでした。
2、統合失調症だとした場合、10歳の子供にこれらの薬の種類、量は適切なのでしょうか。8月中の不安な気持ちなどは副作用ではないでしょうか。また、私の母は糖尿病で、親族にも複数の糖尿病の人がいます。医師にもそのことは伝えてありますが、息子に今の薬は適切なのでしょうか。
 

林:                                             
1、息子は統合失調症でしょうか。

統合失調症にほぼ間違いないと思います。主治医の先生から「統合失調症です」と告知されていることがある意味ではもっとも信頼できる根拠といえるかもしれませんが、仮にそれがなかったとしても、このメールの内容からは、診断は統合失調症以外はほとんど考えられません。理由をいくつか挙げますと、

昨年11月頃より、手を繰り返して洗う、ドアの前後を確認する動作を繰り返すようになりました。

統合失調症の初発症状、特に小児の統合失調症の初発症状が、強迫性障害に似た形を取ることがしばしばあることは、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のp.154から、さらには【1165】などに記した通りです。
もっとも、この時点ではもちろん統合失調症ではなく強迫性障害の可能性も十分にあるわけですが、

理由を聞いてみても秘密といっていましたが、今年1月大学病院の精神科で診察を受けたところ、医師に対して「自分が殺されないように、自分が人を殺さないようにするためのおまじない」と答え、

強迫についてのこのような本人の説明は、それだけでも統合失調症の発症の色彩があると言えます。この「色彩」はなかなか具体的には説明しにくいのですが、あえて言葉にするとすれば、このような形で「殺す・殺さない」が表明されるのは、それ自体現実離れした、一種独特の不気味な感じとでもいうことになるかと思います。
 とは言うものの、この段階で統合失調症と診断するのはあくまで医師の直感に頼ったものでありますし、またメールに文章で記述できないような、本人と直接話したときの雰囲気も重要な所見ですので、主治医から、

強迫性障害と診断され、デプロメール錠を処方され、その後1週間に一回通院するようになりました。

というのも理解できるところです。この時点で主治医の先生は、統合失調症の可能性は強いが断定できないのでさしあたっては今でている症状を重視して強迫性障害として治療を開始されたのか、あるいはこの時点では強迫性障害であると診断されたのか、それはわかりません。どちらも一理あるところです。さらには、この時点で実は統合失調症に間違いないと診断されていて、それに対してデプロメールを処方されたということも考えられます(それも一理あることは【1190】をご参照ください)。

デプロメールだけを処方されているときは、学校で他の生徒を怒鳴りつけるようなことはありませんでした。「心の中の悪いやつが・・・」ということもあまりありませんでした。

この一文からは、その後の症状が薬の副作用でないかと暗に質問者が疑っておられることが読み取れますが、副作用という可能性はほぼゼロです。そう判断できる理由は、以下に順に説明する通り、その後の症状は統合失調症として典型的なものだからです。
ですから、経過と症状は、デプロメールやその他の薬とは無関係で、単に時間の経過にしたがって統合失調症の症状が徐々にはっきりしてきたとみるべきです。
服薬を開始してから出てきた症状については、ご家族はそれは副作用であると判断されることは非常に多いものです。しかしこのケースのような場合、その判断は願望にすぎません。つまり、精神の病気ではなく、薬という外的な物質によって害が出たのだと思いたいという願望にすぎません。そういう願望が現われることはよく理解できますが、病気であるという事実から目をそむけても得られるものは何もありません。

そして、6月以後(デプロメールを中止し、リスパダール、パキシル等を開始してから)の症状ですが、その中には特に統合失調症に典型的なものがあります。この【1290】の題「声ではなく気持ちがわいてくると言う・・・」がまさにされですが

強迫行為は少なくなったが、「心の中の悪いやつが・・・・・と言っている」と言うことが増えてきた。ただし、これは前に書いたように第三者の声が聞こえてくるときもあるが、ほとんどはそのような気持ちがわいてくるような感じということでした。

おそらくこのご質問の主旨は、「声が聞こえてくるのではないのだから、幻聴ではないのではないか。幻聴ではないのだから、統合失調症ではないのではないか」ということかと思われます。
「幻聴」というからには、声が聞こえる(あるいは、とにかく聴覚的なもの)という形を取るのが確かに定義です。ですから、このような「そのような気持ちがわいてくる」は、定義的には幻聴とはいえないでしょう。
けれどもこのように「気持ちがわいてくる」は、自生思考と呼ばれる、それ自体重要な統合失調症の症状です。統合失調症では、しばしば幻聴の前の段階として、このように、「気持ちや考えが自然にわいてくる」という体験があります。それが幻聴に発展するというのが有力な考え方です。
つまり、自生思考にしても幻聴にしても、本来は自分の考えであり、したがって自分でコントロールできるはずのものが、そのコントロールが失われ、わいてきたり(それが自生思考です)、外から聞こえてくると感じられたり(それが幻聴です)、あるいは外から考えが伝わってきたり吹き込まれたり(それが思考伝播です)するという共通点があります。そしてこれは、自我の境界が崩れているということが出来ます。統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のp.160, p.164にもお書きしたとおり、この自我の境界のくずれこそが、統合失調症の症状に共通する本質だというのが有力な説になっています。
 そしてさらに、統合失調症の幻聴も、本人にどういう体験であるかよくお聞きすると、はっきりと「聞こえる」という聴覚の形を取ることももちろんありますが、そうではなくて曖昧であることも非常に多くあるものです。
ですから、この【1290】の「声ではなく気持ちがわいてくる」という症状は、それ自体が統合失調症の典型的なものであるといえるのです。このことと、強迫症状で初発したこと、さらには

「学校で他の生徒を怒鳴りつけてきた。最近毎日怒鳴っている、怒鳴ることはやめられない」、理由を聞くと「悪口を言っているに違いない」、「いやな気持ちがした」などでした。

という、被害妄想に伴うと思われる攻撃性もあわせると、統合失調症の診断がほぼ確定します。

2、統合失調症だとした場合、10歳の子供にこれらの薬の種類、量は適切なのでしょうか。

子どもへの薬の投与については、【0496】にお書きしたとおり、単純に適否は決められません。但しこの【1290】は統合失調症ですので、たとえ副作用があっても、薬物療法は必須です。今の量が適切かどうかは難しい問題ですが、子どもへの投与量については定説がないのが現状ですので、著しく不適切な量でない限りは、適切と考える以外なく、それは医師の裁量の範囲内であるといえます。そうした意味では、この【1290】の薬の種類、量は適切といえると思います。

8月中の不安な気持ちなどは副作用ではないでしょうか。

不安な気持ちなどの精神状態は、副作用ではありません。上にお書きした通り、統合失調症の症状です。
但し、体重増加は副作用の可能性があります。

また、私の母は糖尿病で、親族にも複数の糖尿病の人がいます。医師にもそのことは伝えてありますが、息子に今の薬は適切なのでしょうか。

糖尿病の家系の人にリスパダールを投与すること自体は問題ではありませんが、慎重を要することは確かです。
けれども、端的に申し上げますと、この【1290】は、副作用の心配をするより、統合失調症の症状の心配のほうがはるかに(何倍も)大きいケースです。メール全体のトーンは副作用のほうを心配しておられるようですが、10歳で発症した統合失調症という現実を一刻も早く受け入れ、多少のリスクはあっても強力な治療を継続することが、ご本人のためには何より必要です。



精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る