精神科Q&A

 【1270】30年以上前に統合失調症になり、今はうつ病の治療をしている夫


Q:  54歳の主人は15年ぐらい前までは派遣会社でSEをしており、毎日やっと着替えに帰ってくるというような状態で仕事をしていました。過労から朝は起きられず、毎日のように上司から、会社に出たかどうかとういう確認の電話がかかっていました。 

ある日の夜中に急に息ができなくなり、死んでしまうかと思うくらい苦しんで目が覚めたそうです。その夜から恐怖で眠れなくなり、イライラして家庭内暴力も何度もありました。余りの状態に私が初めて心療内科に行き、状態を話しお薬をもらい、眠れるようになるからと言って飲ませたら段々と落ち着いて来ました。先生は私の話しから躁うつ病ではないかとおっしゃっていました。 

実は結婚し子供ができてからわかったことですが、主人は19歳の時に大学受験に失敗し浪人をしていたそうですが、その頃に統合失調症(精神分裂病)だったのだそうです。細かい状態は余り言いたくないようで、姑に聞いてもはっきりと言いませんでした。 

そんなこともあり、再発を疑い私が先に病院にいきました。 
後に主人も病院に行きましたが、通院する時間がなかなかとれず私が代わりに行く事が多かったです。 
その後、バブルの崩壊もありSEとしての仕事にはつけず、様々な職種に転職を繰り返し、今まで3年以上続いた仕事は1ヶ所であとは1年から数ヶ月でクビになりまた就職・・・を繰り替えしてきました。 

10年位前に別な病院にかえてからは、主に本人が診察にいくようになりました。そこではうつ病とのことでしたが、過去に統合失調症(精神分裂病)をしているので再発予防のためにも薬は続けるように言われ、10年以上服用しています。(現在の薬は、ドグマチール100mg・サイレース錠2mg・ハルシオン0.25・グットミン錠0.25です) 

2つ目の病院で治療を受けるなかで、はじめは集中力も気力も無く新聞や好きな本も読めなかったのが読めるようになってきました。人と話すことも煩わしく家族としか話さなかったのが段々と他人とも話すようになってはきました。 

しかし、昔から多少はあった独り言を、最近では一日中言っています。 
「いちいち・・うるさいっていうんだ!」と顔をしかめて言います。何か物を取ろうとしたときに取れなかったりする時。新聞がうまくめくれない。何かにつまずいただけで「やめろよ!やめろよ!」と相手もいないのに、なんとも言えない嫌な顔をして言います。 

テレビの音がうるさいと言って、子供が見ているのにもかかわらず急に消し、今度は自分が好きなクラッシクのCDを大音量で聞こうとします。家族の迷惑など考えていないようです。子供達も主人の行動が理解できず関係もギクシャクしてきています。 

CDの件ではゆっくり話を聞けるときがあり、なぜそうするのか聞くと、「15年前から、ずっとSEをしていた頃の上司の罵声が聞こえているから、音楽を聴くと気にならなくなる」毎日お気に入りのCDだけを繰り返して聞きます。「あの会社からはいじめられたなぁ。あの会社で体がボロボロになった・・・。」と一日に何度も聞かされます。調子が悪いと頭がハッキリしないといいます。 

先日は主人が取ってあったフリーペーパーを、私が知らないで片付けて捨ててしまったことを知ると、盗んだ!!と言って怒ります。 
何か注意をすると自分をいじめると言います。自分が思うように行かないことはすべて回りのせいで、いじめられているととります。更に最近は身勝手な行動が目立ちます。家族といても自分の世界に入っているように見えます。 

最近は病院に行っても待ち時間が長いといって診察を受けずに薬だけをもらってきます。先生に幻聴のことは言っているのかと聞くと話してないようです。主人は本当にうつ病なのでしょうか? 統合失調症の再発ではないのでしょうか? 慢性化しているということはないのでしょうか? 


林: ご主人様は、うつ病ではありません。統合失調症です。再発ではなく、慢性的に症状が続いています。統合失調症の治療が必要です。

15年前から、ずっとSEをしていた頃の上司の罵声が聞こえている

この幻聴ひとつをとってみても、統合失調症の症状が慢性的に続いていることは明らかです。それに加えて、独り言や、不可解な言動もあり、19歳の発症以後、客観的にはわずかな症状が、ずっと続いていたものと思われます。

会社員として、また家庭人として特に問題なく過ごしていたのだから、統合失調症とは思えないとおっしゃるかもしれません。
けれども、統合失調症であっても、このように特に問題なく生活も仕事もできている方はたくさんいらっしゃいますので、全く矛盾はありません。

また、

15年前から、ずっとSEをしていた頃の上司の罵声が聞こえているから、音楽を聴くと気にならなくなる

このように、症状に対して、ご自分で何らかの工夫をすることにより対処することをコーピング coping といい、コーピングによって、うまく症状とつきあっている統合失調症の方も少なからずいらっしゃいます。精神療法の一貫として、コーピングの実際のやり方を身につけていただくようにするということもよく行われています。

とはいえ、今の【1270】の方の症状をみますと、コーピングだけで対処できない段階にきていると思います。薬物療法が必要です。いまの薬では不十分です。

最近は病院に行っても待ち時間が長いといって診察を受けずに薬だけをもらってきます。

それでは駄目です。診察を定期的に受けなければなりません。

先生に幻聴のことは言っているのかと聞くと話してないようです。

それでは駄目です。まずはご家族からでも、幻聴をはじめとする症状や経過を先生にお伝えしなければなりません。

統合失調症の治療を一日も早く開始しなければ、症状はどんどん悪化し、取り返しのつかない事態に陥る可能性も否定できません。




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