精神科Q&A

 【1251】リタリンで脳萎縮になりますか


Q:  30代の独身女性です。宜しくお願い申し上げます。

苦労をしてある難関国家資格をとったものの、見落としなどミスが多く、記銘力が悪いため仕事の手続きをすぐに理解できず、また手際が悪いため仕事も遅く、何度か解雇に追い込まれました。5年ほど前にADHDと診断され、リタリンを処方され、飲む時期は毎日2.5錠未満を服用しております。

リタリンを飲むと確かに症状は軽くなり、仕事は解雇されない状況になります。飲まないと解雇されてしまう状況です。薬物を投与し続けるというのは不安が大きく、できれば飲みたくありませんが、せっかくとった資格を活かして仕事を続けていくにはどうしても飲まざるをえない状況です。解雇されてやはり飲めばよかったと後悔することもあります。

しかし、あるサイト(下記)によると、精神刺激薬(リタリン)を服用し続けると脳が萎縮すると記載されております。

 「1998年のNIHのADHDコンセンサス学会で,SwansonとCastellanosは,ADHD者の脳イメージ研究により,健常コントロールよりも10%の脳萎縮の存在を発表したが,彼らは全てのADHD者が精神刺激薬を内服していたと述べた.この場合も,ADHDではなく精神刺激薬療法が脳萎縮の原因であることが考えられる.」

これは事実なのでしょうか?
20代に3年ほど抗鬱剤(デパスやトフラニール)とアモバン半錠を飲んでおりました。もともと記銘力が悪くノートがうまくとれなかったですが、以前よりも頭の反応が鈍く、電源が切れている気がします。無職で鬱気味ということもあるかもしれません。脳が萎縮してしまうのなら薬を止めたいので、せっかくとった資格を無駄にしてでも仕事を変えようと思います。

以上、宜しくお願い申し上げます。


林:  精神刺激薬(リタリン)で脳が萎縮することはありません。
あなたの引用されているサイト(URLは林の判断で削除しました)の内容はかなり正確なものですが、あなたはその中の一部だけに着目し、しかも誤解しておられます。
しかしそれは無理もないことだと思います。
このような医学論文を、専門的知識のない方がお読みになっても、多くは誤読に終わるものです。それを承知したうえで論文を検索したり読んだりされるのなら悪いこととは思われませんが、この【1251】の質問者のように、誤読の結果不安が生まれるのであれば(それも、根拠のない不安です)、むしろ何も調べないほうがいいでしょう。

結論を先に書いてしまいましたが、引用内容について説明しますと、この文章は

Baughman: Dopamine-transporter density in patients with ADHD
Lancet 355: 1460-1461 (2000 April 22)

の一部です。このBaughmanの文章は、前年に発表された論文、

Doughtery DD et al: Dopamine transporter density in patients with attention deficit hyperactivity disorder
Lancet 354: 2132-2133 (1999)

への意見として書かれたものです。
ですからまずここで「意見にすぎない」という点がひとつ重要です。

そして、この「意見」に対しては、元の論文の著者のDoughteryが、上記Baughmanの文章の同じページに反論を書いており、そこには「萎縮が精神刺激薬によるという意見には科学的根拠はない」と明記されています。(そして、これは【1251】の質問者が引用しているサイトにも明記されています)

実際には、長年にわたり薬を飲んでいる人に脳の萎縮などの所見が認められた場合、それが元々の病気によるものか、それとも薬によるものかという判断は難しいものがあります。だからこそBaughmanは薬が原因ではないかという意見を示したのですが、現在ではそれは否定され、ADHDの方に認められる脳萎縮は、病気そのものによるというのが定説です。たとえば以下の論文に示されています:

Caastellanos et al: Developmental trajectories of brain volume abnormalities in children and adolescents with attention-deficit/hyperactivity disorder. 
JAMA 288: 1740-1748 (2002 October 9)

Swanson et al: Etiologic subtypes of attention-deficit/hyperactivity disorder: brain imaging, molecular genetic and environmental factors and the dopamine hypothesis. 
Neuropsychological Review 17: 39-59 (2007)

以上が回答です。
あえていくつもの専門的な論文をご紹介したのは、このような問題を理解しようとするならば、一つや二つの論文を読んだだけでは全く不十分であることをお示しするためもあります。

【1251】の質問者の方に強くお伝えしたいのは、ご自分でよく理解できない医学論文の、しかもごく一部の記述を読んだだけで、

脳が萎縮してしまうのなら薬を止めたいので、せっかくとった資格を無駄にしてでも仕事を変えようと思います。

このような決断をしようとされるのは全く不合理だということです。むしろ何の医学情報も知らないほうがましかもしれません。一知半解は知らぬに劣るのです。


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