精神科Q&A

 【1248】情緒不安定性人格障害とは


Q:  22歳の女です。 
幼い頃より、母から度々暴力を受けてきました。母に逆らうと、「お前なんか死ね」 「人間のクズ」「出て行け」「生きてるだけで迷惑や」などと繰り返し怒鳴られ、瓶で殴る、包丁で脅す、手足を噛むなどの暴行を受けました。母は普段は暴力的ではないのですが、怒るとこのような状態になりました。このような状態が、小学校から高校まで続きました。父は単身赴任でほとんど家に帰らない状態でした。 

その後高校を卒業し、看護学校へ進学しました。そのころには父も戻ってきて、母の暴力も治まっていました。しばらくは何もなく、楽しい学生生活を送っていました。 

しかし、実習が始まりストレスを感じる毎日の中で、教員からも友人からも嫌われているのではないかと思い、「私が死んだ方がみんなのためになる」と思うようになり、さらに過呼吸とリストカットが癖になり、友人の勧めで心療内科を受診しました。受診中もリストカットはやめられず、希死念慮、薬の大量服薬、「声」のようなものに追いかけられる(母の声で、「お前なんか死ね」と頭の中で響く)、友人たちと一緒にいても心の中で虚しさを感じる、毎日の生活に現実感を感じない(夢を見ているような感覚)、時々自分は誰かの体を借りて生きている気がする、などの症状が出始め、入院することになりました。 

二ヶ月ほど入院しました。入院中、ベッドで寝ていると、何度か枕元で数人の話し声や男の人の声が聞こえたことがあります。主治医に話すと、「環境が変わったから緊張しているせいだ」と言われました。退院が決まったとき、入院先の主治医に診断名を聞いたところ、情緒不安定性人格障害、適応障害とのことでした。 

退院後、母から「二ヶ月も遊んできたんやからまじめに勉強して早く卒業しなさい」 と言われました。また、「入院費が無駄やった」「留年したから学費が余計にかかって迷惑や」とも言われました。 

再び症状が出始めるまでにそれほど時間はかかりませんでした。 
誰も信じられなくなり、友人や彼に対して、「私のこと本当は嫌いでしょ」と言ったり、わざと相手が怒るようなことを言ってみたりとかなり困らせました。また、街を歩いていても、周りの人達が私に対して「死ね」と言っているような気がしたり、身近な人に「死にたい」と繰り返し言うようになりました。 
母の声が頭の中で響き、耐えられなくなると壁に頭を打ちつけたり、大暴れをしました。 
母はそんな私に対し、「死にたいのなら勝手にどうぞ」と言いました。母は、私のことを「病気ではなくただのわがまま」と言います。 

友人や彼は、こんな私でも見捨てずそばにいてくれます。私は、最近ようやく少しずつですが自分を振り返ることができるようになり、改善してきたのではと自分では思っています。 

いろいろな症状に苦しみながらも学校は何とか卒業しましたが、国家試験に失敗してしまいました。発表前は、母に「落ちてもまた来年がある」と言われていたので安心していたのですが、落ちたことが分かった途端に憎しみのこもった目で睨みつけられ、「あんたがサボった結果や」「ほとんどの人が受かるような試験で落ちるなんて」と言われました。 

そして後日、些細なことで母と口論になったとき、母が包丁を持ち出し、「養ってもらってるんやから私の言うことを聞け」と脅すのです。「お前なんか死ね」と再び言われました。包丁を持って近づいてこようとしたので、父が母から包丁を力ずくで取り上げました。 

今は、母と話すのも、顔を見るのも怖いです。しばらく治まっていたリストカットと希死念慮、母の声に追いかけられるといった症状が出てきました。母には金銭面でお世話になったので、感謝はしています。でも、これ以上一緒に暮らしていくのは私自身が限界です。 
母が近くにいる限り、症状の改善は難しいと思います。 

[先生にお聞きしたいこと] 
1,情緒不安定性人格障害と境界性人格障害はどう違うのか? 
2,母は、私のことを「病気ではなくただのわがまま」と言いますが、そうなのでしょうか? 
3,母と離れて暮らした方がよいのでしょうか? 
4,頭の中で響く母の声は、幻聴ではないですよね? 
5,街を歩いていて、周りの人達が私に対して「死ね」と言っているような気がするというのは、ただの思いこみでしょうか? 

拙い文章で申し訳ありません。よろしければ回答お願いします。


林: 
1,情緒不安定性人格障害と境界性人格障害はどう違うのか? 

ほとんど同じと考えていただいて差し支えありません。
この二つの名前は、用いる診断基準の違いによるものです。
精神科で一般的に用いられる診断基準には、WHO (世界保健機構) が作成したICD (2007年現在、その第10版であるICD-10が用いられています) と、米国精神医学会が作成したDSM (2007年現在、その第4版の改訂版であるDSM-W-TRが用いられています) の二つがあります。
「境界性人格障害」は、DSMにある診断名です。
「情緒不安定性人格障害」は、ICDにある診断名で、これは「衝動型」と「境界型」に分けられています。
ICDとDSMの違いはかなり専門的な説明になるので省略しますが、実地上はほぼ同じと考えていただいて差し支えありません。つまり、「情緒不安定性人格障害」と診断されても、「境界性人格障害」と診断されても、違いはないということです。 

2,母は、私のことを「病気ではなくただのわがまま」と言いますが、そうなのでしょうか? 

人格障害は性格の著しい偏りです。これを「病気」とみなすか否かについては様々な考え方があります。人によっては「ただのわがまま」ということもありますが、それは一般的な考え方ではありません。

3,母と離れて暮らした方がよいのでしょうか? 

わかりません。
メールの内容からは、お母様との同居がかなりストレスになっていることが読み取れます。
けれども、では別居したほうがいいかどうかとなると、別居してどのような生活を送ることになるのか(たとえば、あなたをサポートしてくれる人がいるかなど)によって、判断は違ってきます。
しかし、一時的に離れてみることに意義はあると思います。

4,頭の中で響く母の声は、幻聴ではないですよね? 

統合失調症の幻聴とは性質が違うと思います。
しかし、実際にはない声が聞こえる体験が「幻聴」ですから、それも幻聴の一種です。

5,街を歩いていて、周りの人達が私に対して「死ね」と言っているような気がするというのは、ただの思いこみでしょうか? 

「ただの思いこみ」という言葉であなたが何を意味しているか、それによって答えは違ってきます。「妄想なのか、思いこみにすぎないのか」という問いだとすると、「言っているような気がする」の「気がする」の程度によります。それは直接問診してみないとなかなか判断できません。メールでは無理だと思います。


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