精神科Q&A

 【1242】胆管の手術4週間後の母の精神状態がまだ元に戻らない


Q:   79歳の母が4週間前に胆管がんの手術のため開腹したところ胆管の肝臓側と肝臓にもう一箇所がんの転移があり、胆のうと胆管だけを摘出しました。
その2日後に胆のう動脈の結合部がはずれかなりの出血があり、再度開腹手術が行われました。その9日後に一般病棟に戻りましたが肝機能が低下していて未だに食事も出来ない状態です。

【1218】と重複するかと思いますが手術後4週間経過しますが意識はあるように思いますが人の認識が出来ていないのです。また、右手右足を動かせないように思います。

看護師からは「せん妄では無いと思います。」と言われました。

かなりの出血や血圧(上50〜60)の低下等で脳に障害があったのではないか?または、何らかの原因で突然に痴呆症になってしまったのか?と考え心配しています。
担当医師ははっきりとその原因や現在の症状を説明して頂けません。どうかご回答、アドバイス頂ければと思いメールさせて頂きました。よろしくお願いします。 


林: 「手術後に精神状態が正常に戻らない」という点では、【1218】と似ているともいえますが、この【1242】は【1218】のようにせん妄かどうかは、書かれている情報が【1218】に比べて乏しいため、判断しかねます。けれども、書かれている情報だけから判断すると、単なるせん妄とは思えず、残念ながら【1218】とは違って、完全に回復する見込みは薄いと思います。

まず、「書かれている情報が乏しい」というのは、

手術後4週間経過しますが意識はあるように思いますが人の認識が出来ていないのです。

上記が今の状態の描写ですが、これをぜひ【1218】の描写と比べてみてください。【1218】には、

「昼間は眠いらしいのですが、時々起きると、ずっと天井を見上げて、何かを追って見ているしぐさをします。」

と書かれています。非常に具体的です。このように書いていただければ、メールからもかなり判断をすることが出来ます。
それに対しこの【1242】の記載は、

意識はあるように思います

これは事実の具体的描写ではなく、質問者の判断の記載です。このように書かれると、残念ながら、この時点で私には(あるいは、これを読んだいかなる医師にも)、判断はしかねるのです。事実が具体的にどうであったかの情報が、回答のためにはぜひとも必要なのです。さらに、

人の認識が出来ていないのです。

これも、事実の記載ではなく、質問者の判断の記載です。どのような言動をもとに、「認識が出来ていない」と質問者が判断されたのか。その記載がなければ、何も回答することはできません。

それでも、このメールの情報から私が、「単なるせん妄ではない」と判断した理由は、

また、右手右足を動かせないように思います。

この一文です。もちろんここでも、「ように思います」と質問者が判断された理由が必要なのですが、おそらく実際に右手右足が動かされていないのを観察されてこのように判断されたと推定できるので、それをもとに考えますと、これは脳の左半球の、少なくとも前方部分に何らかの損傷があることによる症状であるといえます。
このことと、

かなりの出血や血圧(上50〜60)の低下等

があったことをあわせますと、著しい低血圧によって脳の虚血から脳梗塞が発生し、左半球に損傷を被ったと推定するのが合理的です。

そうしますと、この事実だけからも、単なるせん妄ではないと言うことができます。
したがって、この【1242】は【1218】とは大きく事情が異なります。そして残念ながら、脳に非可逆的な(つまり、完全には元に戻らない)損傷が生じているということですので、今後、【1218】【1239】のような良好な経過は期待できないということになります。

何らかの原因で突然に痴呆症になってしまったのか?と考え心配しています。

脳の損傷の範囲が大きければ、そのような事態も考えられます。

なお、この脳の損傷の程度は、CTやMRIを撮れば容易にわかります。

また、この【1242】では、問題は脳の損傷だけにとどまりません。

再度開腹手術が行われました。その9日後に一般病棟に戻りましたが肝機能が低下していて未だに食事も出来ない状態です。

これは、身体的にもかなり重篤な状態であると思われます。79歳というご高齢でもあり、今後の経過は生命を含め予断を許さず、ご家族は正確な情報を把握される必要があるでしょう。したがいまして、

担当医師ははっきりとその原因や現在の症状を説明して頂けません。

これは不可解なことです。担当医師に説明を求めるべきです。ネットの私などに質問をしている場合ではありません。担当医師は、私のこの回答よりはるかに正確な回答を持っておられるはずです。


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