精神科Q&A

 【1241】統合失調症と診断された彼と結婚するにあたって


Q:  私は20代の女です。
6年お付き合いして、結婚しようと約束した彼(30代)が、私の両親への報告前日(このメールを書いた日から約4か月前です)に、統合失調症と診断されました。

彼の仕事は成果が数字で現れる仕事で、ちょうど成績の上がるエリアを任され、忙しくなった矢先のことで、数日前から「かるく頭痛がする」と言い、微熱が続ており、その前から、疲れやすいこともあったので、結婚の報告の前に、病院へ行くことをお願いしたのでした。

私に見える症状としては、その、「頭痛」と「疲れ」程度で、風邪か何かかと思っていましたし、病気の知識など、素人もいいところなので、診断を受けて帰ってきた彼から、「脳の病気だった」と言われたときは、わけがわかりませんでした。

しかし、実は本人には、「精神的なものかもしれない」という自覚があったようで、
・ 部屋で暴れた
・ 時々記憶が飛ぶ
・ ありえないほど怒鳴ってしまう。
・ お客様の前で舌打ちする
・ 説明されたことが覚えられない
等、自分らしくない行動がでていたと、後から聞かされました。この、ありえないほど怒鳴ってしまう、というのは、20代前半のころにもあった、ということでした。
特に困ったのは記憶が飛んでしまうことで、忙しい時にとった自分の行動を覚えておらず、お客様からのクレームが多発し、仕事は続けられなくなりました。
私の前では、一切そういった行動は出ることがなく、いつも明るくやさしい、温厚な人なのですが・・・。彼自身は、それらの行動をとるときは、決まって忙しすぎるとき、と考えていたようですが、ストレスによって記憶が飛んだりするものなのでしょうか?

また、統合失調症の典型的な症状といわれる、「幻聴」や「妄想」はないようで、話はよく脱線しますが、支離滅裂というほどでもないように感じます。
それは、症状が“軽い”ということなのでしょうか?

彼が病院へ行くたびに、詳しい病状や、これからどうしていくのがよいのか、病院ではどのように説明されているのか、きこうと思うのですが、病気のせいなのか、私に隠そうとしているのか、話がまとまらず要領を得ません。
ただ、「完治するって言われたから。大丈夫だから。」の一点張りです。
病院に付いていきたいのですが、次回ね、次回ね、とはぐらかされてしまっています。

そこで、こちらにメールさせていただきました。
昨日、本屋で手に取った、林先生の 統合失調症 患者・家族を支えた実例集 の本を今読み終え、サイトを拝見しました。
皆様のお話を拝見すると、とても重大と思われる症状がたくさん出てきて、それに比べると、彼は非常に症状が軽く感じられます。これでもやはり、統合失調症なのか?と思ってしまいます。
でも、先生が本で強調されているように、「願望と現実を混同してはいけない」ですよね。

彼は、初診から今までずっと、病院には週に1度行くか行かないかで(4ヶ月で10回程度)、1日2回、カプセルの薬を1錠と粉の薬を2包ずつ飲んでいます。そのほかに、調子の悪いとき(頭が痛いとき)飲む錠剤が1種類あるといっていました。
仕事をしながらの通院で良いとお医者様から言われたそうで、以前よりも多少楽な仕事をしながら、元気に生活していました。本当に、見た感じはごく普通でした。

本当に病気なのかと思うくらいです。彼の言ったとおりだった。治るんだ。こうやって完治していくものなのか・・・と思っていました。

しかし。最近また、「すぐ疲れるんだよねー」と言い始め、「仕事が頭に入らない」とこぼしていた直後、運転免許証を紛失して、困ってしまったことをきっかけに(だと思うのですが)、激しい頭痛が再発し、仕事を休まざるをえなくなりました。
これは“再発”なのでしょうか?

私は、病院へ通う頻度が少なすぎたのではないかと思うのですが、いかがなものなのでしょうか?
でも今度も「幻聴」「妄想」の様子は見受けられません。
また、彼の家族は遠方のお兄様と、30年ぶりに1度再会しただけの実のお母様の2人で、頼る人がいないことも気になっています。

4ヶ月程、私なりに調べたり、考えたりしつつ過ごしてきました。
結婚には両親(50歳代)は反対のようです。理由はおおまかに、
・ 遺伝する
・ 統合失調症=気がおかしくなっている(ひどい言い方で申し訳ありません)
・ 苦労が目に見えている
ということですが、3番目以外は偏見だと解りました。両親は、統合失調症を“悲惨な病気”と捉えているのだと思います。

私は、私のできる限りのことをしようと思います。
なんとか彼を支えていきたいと思っています。
一度病院へ行ったほうが良いですよね。婚約者でもない者がひとりで主治医の先生を訪れて、お話を聞けるものなのでしょうか?


林: やはり、あなたが主治医の先生からお話をお聞きするのが第一だと思います。

メールの記載から読み取れる限りでは、この男性の統合失調症は軽度に見えます。けれども、状況からみて、あなたはこの方の症状を軽度に見積もっていて、それがメールの文面に反映されている可能性は否定できません。

「幻聴」や「妄想」はないようで、

それはあなたには判断できないと思います。
もちろん、誰からみてもはっきりと幻聴や妄想があることがわかる場合もあります。本などの実例は、当然ながらそういうものが多くなりますが、実際には精神科医が診なければわからない例もたくさんあるものです。

話はよく脱線しますが、支離滅裂というほどでもないように感じます。

統合失調症でも支離滅裂にまでなるのはごく一部です。
問題は「よく脱線します」という点で、これが通常の脱線の範囲なのか、それとも病的なものなのか。統合失調症の症状として連合弛緩というものがあります。話の論理のつながりが緊密でないという意味ですが、これと通常の脱線の区別は時に難しいものです。そして長く付き合っている身近な人からみると、多少の病的な脱線も、病的でないと判断してしまう傾向は否めません。ですから、

それは、症状が“軽い”ということなのでしょうか?

これらを持って「軽い」ということはできません。
しかし、その他メールの記載からは、総合的にみて重いとは到底思えませんので、軽いという判断も一理あるところです。

また、「記憶がとぶ」というのは、統合失調症ではあまりない症状ですので、診断の根拠を含め、先生に確認する必要があるでしょう。

婚約者でもない者がひとりで主治医の先生を訪れて、お話を聞けるものなのでしょうか?

それはわかりません。
しかし、ここはどうしてもご本人の了解を得て、彼とご一緒、または単独で、主治医の先生のお話を聞くことは必ずしなければならないとお考えください。

私は、私のできる限りのことをしようと思います。
なんとか彼を支えていきたいと思っています。


そのお気持ちを彼に伝えて、彼から了承を得て、主治医のお話を聞いてください。これは必須事項とお考えください。
なぜなら、いくらあなたに彼を支えようという気持ちがあっても、彼のほうが病気の真実をあなたに伏せておこうとするのであれば、残念ながら結婚生活の継続は望めないからです。


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