精神科Q&A

 【1234】母を殺したい


Q:  私は高校三年生です。
先日(2007年)起きた『会津若松の頭部切断事件』を見て、大変不安になりました。
というのは、私には以前から《母を殺すか、自分が死ぬしかない》という思いが胸にあるからです。
中学三年生の頃からですから、もう三年もそんな風に思い続けています。
殺すほどの理由というのは、自分でもよくわかりません。
しかし、母の言動を見ていると、無性に殺したくなるのです。
あえて、理由を探すとするならば、母のその性格、でしょうか。

母は……なんと言いましょうか、思いついたことをすぐに口にしてしまうような性格で、言うことがころころと変わります。
例えば、私に大学進学のために進学科に進ませたくせに、私の成績が思わしくないと、すぐに「専門学校でも行けばいいじゃないか」と言いはじめました。
中学当初、私は普通科に進学希望していたにもかかわらず、無理やり担任も丸め込んでまでして進学させたくせに、今更そんなことを言われても困ります。
まして、上記のことが引き金となり、重度の偏頭痛が頻発するようになり、高校も休みがちになると、今度は『辞めろ』と言います。
私は今まで二年間、必死に頑張ってきたのに、母はその努力を認めてくれません。
いえ、認める以前に、私が今までどれだけのことをしてきたのか、彼女は知らないのです。
二年生の終わりの頃、三者面談で担任と話をしたとき、あの人は偏差値の意味も、国公立大の入試が二段階であることも知りませんでした。
あの時ほどショックだったことはありません。
国公立大に行け、と言うにもかかわらず、母は入試について何一つ知らなかったのです。

他にも、許せないことはたくさんあります。
母は、訪問販売には引っかかる、マルチ商法、アポイントメントセールス、ネット詐欺・・・そのどれにも騙され、多大なお金をつぎ込んでいました。
母は仕事をしていないので、総て父が毎晩遅くまで働いて稼いだお金です。
何もしていない母が、騙される度に何十万、何百万もの父の苦労を無駄にしていきます。
止めようと思っても、一度思い込むと他の言葉も耳に入らない性格なので、無駄でした。
そんな母の愚かな行動を、父は知りません。
そして、何より許せなかったのが、亡くなった祖父母が私の高校の入学祝にとくれた五十万円もの大金を、それにつぎ込んでしまったのです。
祖父母が、農作業だけでこつこつ貯めたお金と、わずかな年金とでくれたお金でした。
私が勉強をがんばっているからと、大学進学後の生活の足しになればと、くれたお金でした。
それを、母は私に言いもせずに使ってしまったのです。
詐欺に騙されるたびに母は『儲かると思った』と口にします。
一度二度ならまだしも、何度となく繰り返す母を私は許すことが出来ません。

もっと家事をし、掃除もきちんとする専業主婦ならば、私はきっとここまで思いはしなかったでしょう。
しかし母は堕落的な生活しかせず、父が夜遅くに帰って来ても、食事の用意さえしていません。
そんな母を誰が許せるでしょうか。
以前、それを指摘したことがあります。
その時母は『休んでばかりいるお前に言われたくは無い』『なら、お前がすればいい』とヒステリックに言いました。
ヒステリックになることはいつものことですが、思い込んだら一直線の彼女とはまともな会話さえ出来ません。
それが、悔しいのです。
言い返せる言葉も、母の間違いを指摘する言葉も持っていたのですが、母が聞く耳を持たないのでは、意味がありません。
いつも逆ギレをするばかりで、私たちの言葉になんて耳を傾けようともしないのです。

話は戻りますが、私は母をこの上なく憎らしく思っています。
よく、自分の腹を痛めて産んでくれたのだから、と聞きますが、その腹を痛めた母親が『死ねぇや』と言うでしょうか。

母を最初に殺したいと思ったのは、遠い過去のことなので思い出せません。
初めの頃はその気持ちも反抗期なのだと、思いました。
そんな風に思う自分にも嫌悪しました。
しかし、今でもその思いが消えることはありません。
むしろ強くなるばかりです。

私を殺せば、きっと私は楽になります。
殺人罪で刑に服す間、刑に服し社会復帰した後、そこに母はいないのです。
こんなに魅力的なことはないと思いました。
殺人を犯すことで、母の引いたレールから外れることが出来る。
そんな甘美な響きは何度となく私を誘惑しました。
でも、私がそれを実行に移すことはありません。
確かに母は憎い。
けれど、私が母を殺せば、私の家族は殺人者の身内として、肩身の狭い思いをしなければなりません。
父は間違いなく職を失うでしょう。
母方の祖父母は娘を亡くすと同時に、孫までそんな風になってしまったと嘆くでしょう。
何より自分も監獄の中で偽善という名の良心の呵責に苦しむでしょう。
だから、私は行動に移しません。

母を殺せないならと、自分を殺そうかとも考えました。
もしも、私が死んだとしても、やはり家族は嘆くでしょう。
母を殺したい、と打ち明けたことのある祖母は、その時と同様、泣いてしまうでしょう。
だから、私は自殺することも出来ません。

でも、苦しくて苦しくてしょうがないのです。
そんな時、件の事件が起きました。
私が見たニュースで評論家の方が『母親の強いたレールから外れるのに、これ以上の方法はなかったのでしょう。少年の精神は異常だったのではなく、彼は自由になるためにああする他なかったんだと思います』と言っていました。
それが、自分と重なり怖くなりました。
いつか私も彼のように母を殺してしまうのでしょうか。
そうなってしまってからでは、遅いのです。

上記のことのために偏頭痛のみならず、恐らく自律神経失調症も併発してしまっています。
最近、気が付けば呼吸をしていないことがあるので、パニック障害の類もあるかもしれません。


林: お母様に少なからず問題があることはよくわかりました。
けれども、だからといってあなたがお母様を殺すことは正当化できません。
あなた自身が自殺することも正当化できません。

殺人を犯すことで、母の引いたレールから外れることが出来る。
そんな甘美な響きは何度となく私を誘惑しました。


「母の引いたレールから外れる」ための最善の方法は、殺人ではなく、あなたが大人になることです。そうすれば自然に外れることが出来ます。
 それからもう一つ:

私が見たニュースで評論家の方が『母親の強いたレールから外れるのに、これ以上の方法はなかったのでしょう。少年の精神は異常だったのではなく、彼は自由になるためにああする他なかったんだと思います』と言っていました。
それが、自分と重なり怖くなりました。


このような評論家(と称する人)の発言は、事件そのものの詳細を全く知らずになされている放言(というよりデタラメ)です。一顧だにする価値もないものです。そのようなものに惑わされない大人になってください。そうすれば今の苦しみからは逃れられます。その時にまたメールを頂ければ嬉しく思います。




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