精神科Q&A

 【1218】手術後せん妄状態が3週間続いています。正常にもどるのか心配です。


Q私の父79歳は3週間前に心臓の弁と冠動脈のバイパス手術を受けました。手術は無事成功し、2日間のICU期間を終え、個室に戻されました。そのころ、マスクや点滴をはずそうとするせん妄症状が現れ、同時に感染症を発症していることが判明、抗生物質の投与が始まりました。医者からは危険な状態だと告げられたのですが、少しずつ熱が下がり、今日、細菌がまったく見られなくなったことを伺うことができました。

ただ、認知症(痴呆)がかなり進んでしまったというのです。父は入院前は普通に話をし、異常なところはまったくなかったのです。私はせん妄だからきっと体調が良くなれば回復すると思っていたのですが、感染症で食事はとれず、体力も奪われ、また、暴れないようにということで精神科の強い薬も投与されていて、いまや廃人のようになってしまいました。

 先日からやっと栄養を鼻から入れてもらうようになりましたし、リハビリでも少し効果が見られてはいます。夜中はずっと起きているらしく、お金のことをずっと心配しているなどとは聞いています。昼間は眠いらしいのですが、時々起きると、ずっと天井を見上げて、何かを追って見ているしぐさをします。
 医者からはこのままになってしまう可能性もあるといわれ、不安でいっぱいです。
先月の今頃は「元気になるんだ」と笑っていた父だったのに、こんなことになるなんて悲しくてたまりません。
 私は今、一人で寝たきりで認知症(痴呆)の母の介護をしています。それでも父に元気になって欲しくてここから往復5時間もかかる病院に父を入院させ、毎日5時間かけて父に会いに行っています。いま、病院では父のせん妄状態で話もできないのを励まし、帰っては母の介護で、私自身もう限界に近い状態なのです。

そういうときに、父のせん妄状態は治らないかもしれないなどといわれたもので、もう死にたい心境なんです。本当によくならないのでしょうか。
先生は来週から食事の訓練をはじめるし、リハビリなどでできるだけのことはやってみるとおっしゃっていましたが・・・・。


林: 現在のお父様の症状は、術後せん妄にほぼ間違いなく、完全に治るものです。心臓の手術はせん妄を起こしやすいものであることに加え、ご高齢、感染症の併発、鎮静剤の投与、さらに食事が摂れないなどの因子が重なり、せん妄が長引いていると考えられます。このような場合、ひとつひとつの因子を改善していくことが、回復への手順となります。ですから、

先日からやっと栄養を鼻から入れてもらうようになりましたし、

こうして栄養状態が改善することが第一歩になるといえます。逆にいえば、栄養が摂れない状態では回復しないのはむしろ当然です。

少しずつ熱が下がり、今日、細菌がまったく見られなくなったことを伺うことができました。

これももちろん極めて明るい材料です。ここでも逆にいえば、感染症が続いている間はせん妄が回復しないのはむしろ当然です。

ただ、認知症(痴呆)がかなり進んでしまったというのです。

認知症(痴呆)とせん妄は別のものです。いかに症状が似ていても別のものですから、「認知症(痴呆)がかなり進んでしまった」という説明はナンセンスです。

 医者からはこのままになってしまう可能性もあるといわれ、不安でいっぱいです。

主治医としては最悪の経過も説明しておく必要があるということから、そのようにおっしゃったのだと思います。「このままになってしまう可能性」は、ゼロとは言えませんが、ゼロに限りなく近いと理解すべきです。

そういうときに、父のせん妄状態は治らないかもしれないなどといわれたもので、もう死にたい心境なんです。本当によくならないのでしょうか。

「治らないかもしれない」という説明に対し、「本当によくならないのでしょうか」という反応は矛盾です。お父様の状態をご覧になって取り乱しておられるのはよくわかりますが、冷静に考えれば、主治医の説明からも、またせん妄という病態からみても、よくなる可能性の方がはるかに高いと考えるのが自然です。

先月の今頃は「元気になるんだ」と笑っていた父だったのに、こんなことになるなんて悲しくてたまりません。

お父様は元気になられると思います。ただ、もう少し日数はかかるかもしれません。その間に、あなた自身がまいってしまわないことが最も大切です。

その後の経過(2007.8.5.)


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