精神科Q&A

 【1194】プロ野球選手と恋愛関係にあると言い張る友人


Q私は30代の女性です。

私はプロ野球が好きでよく観戦するのですが、そこで知り合った童話作家Jとのトラブルで悩んでいます。Jは40代前半で、結婚していましたが、去年、離婚されています。

Jはある有名な選手の熱心なファンなのです。何度か首位打者になったような有名な選手です。
Jは、彼を観るために、東京での試合はすべて観戦していますし、地方の試合も選手と同じ宿舎に泊まったりして観ています。
つまりいわゆる追っかけをしている方なのですが、私は、それに関しては、『異常』とか、『やめたら・・』とかは、特に思いませんでした。離婚で悩んでいる人がストレス解消で、逃避しているのだろうと考えていたからです。

しかし、ある日、Jは少しトロンとした顔つきで言ったのです。
『彼ね・・。瞳でワタシに語りかけてくるの』と・・。
あの人、ああ見えて、いろんなことを愚痴ってるのよ・・。しんどいようとか・・いろいろ。
私は、その時は、『ああ、そうですか』と答えました。
二人は、そういう仲なのかと解釈していたからです。
『いろんなファンがいるけど、あの人は、女の人からのいろんな気を集めているの。その中でいちばんの女はワタシだけど・・』とか言っていました。
童話作家のJは、自分のサイトの日記でも、『彼に気を送る』とか、『流れを使う』という表現をよく使っていました。

しかし、時折、爆発したように癇癪を起こした内容の日記を書くこともありました。
誰かに、あなたは統合失調症(精神分裂病)なのでは・・と言われたけれど、自分は違うと日記で主張していました。同業者が自分を非難すると相手を責めていました。自分は、人に迷惑をかけることなくいつも立派にやっていると・・。Jの日記は自分への誉め言葉がやたらと多いのです。

正直、狂ってるとは思いませんが、ヘンな人だなぁとはいつも漠然と思っていました。

そして、ある日、見たのです。Jが、その選手と実際に接触している時に、選手は、ものすごい勢いで逃げていました。
Jは、『チッ。逃げられた!』と、舌打ちしていました。

その日のJの日記では、『これじゃ、ほんとに追っかけだわ・・。どうしたの? 何かあったの?』と、彼を心配するような内容でした。何かがズレていると思いました。
本当に、好ましい相手なら、ああいう逃げ方はしないだろうと思ったからです。

そして、本当に親しいのかどうか・・。聞いてみたところ・・。
その選手と一度も口で会話したことはないそうなのです!
でも、『瞳では語っている』と言います。
私は、他のファンの方に聞いてみました。
『あの二人は、ほんとに目で語ってるのですか?』と・・。
すると、何人かは吹き出して笑い転げました。あんなオバはん、何で選手が相手にするんだよう・・という感じで。
まぁ、笑うのはいささか失礼ですが・・。
実際に見た印象は、男性から好かれるような類いの容姿ではありません。美人作家・・という表現をする人もいますが、目鼻立ちがクリッしているという感じはあるものの、美人といえるかどうか・・・。
それに、やはり・・。年齢的に・・オバさんだなぁと感じます。

しかし、まぁ、Jの言っていることが嘘と決め付けるのは失礼なので、私も、実際にJがバスに乗り込む選手を見送っているのを、こっそり見ました。
その時、思ったのです。選手は、Jを見ようともしてないじゃないかと・・。

いや、妄想というか・・。ファンの思いこみで、『自分は好かれている』と思うことは、よくあることですし、『こっちを見て彼が笑った!』と、勘違いするのは、特にヘンだとは思いません。

しかし、『あたし、奥さんに嫉妬されるのはイヤだから一塁側には座らない』などと言うのは、妄想だと思うのです。

Jは、奥さんより自分の方が美しく人として魅力的だと思い込んでいます。
彼のために顔を見せなくては・・。と、常に思っています。
その妄執はコワイと思いました・・。

でも、その選手に関する熱烈な思い込み以外は、別に、普通なんです。私にはとてもとても親切でした。
描く童話も、特に優れている訳ではありませんが、それなりに良いお話です。作品のファンの人もいるようです。

だから、私は、Jの頭がおかしい・・とは思いたくなかった。
きっと、ちょっと思い込みが激しいだけなんだろうと思って言いました。
だから、そのことに気付いて欲しくて言いました。『選手が瞳で語りかけるというのは信じられません』と・・。それは、事実と違うと思いますよ・・と。
しかし、Jはヒドイことを言ったと・・感じたようです。
今後一切、メールも送らないで欲しいと言われました。

のちに日記で、『偽善者の魔女』というタイトルで、私は非難されました。
私という人間が怖いとまで書かれました。

私には、妄想でしょ? と、問いかけた際には、『妄想です』と、言いました。しかし、その後の日記ではこう書かれていました。あの時は、妄想ですと、自分が嘘をついていたことにしたけど、悔しかったと・・。一番大切にしていたことを踏みにじられた・・という怒りを書かれておられました。

私は、正直、『野球選手が自分を見て、瞳で語るかどうか・・』など、この際、どうでも良いことだと思っています。もちろん、好かれるのは嬉しいことでしょうけど・・。
むしろ、恋人でもない男に瞳で、『しんどいよう』などと、語られたら、気色悪いだろう・・とさえ感じます。

15歳くらいの女の子なら、空想と現実の境があやふやなことを言っていても可愛いなぁと思えますが、40代の女性がそんなことを心の糧にしているというのは、見ていて何かすごく痛ましい感じがしてイヤでした。

私の友人に相談したら、Jの日記を見てこう言いました。
『すごく酔った文を書いてるね。どこにいても彼は私に気付いてくれると思い込んでるね・・』

私の印象では、もしかしたら、最初は選手も『熱心な人』として好感を持っていたのかもしれません。
しかし、ホテルの宿舎に頻繁に顔を出したりするようになり、嫌われた・・というのが真相なのではないかなぁと思っています。単なる推測なので、本当のことはよく分かりませんけど・・。

とにかく、その選手とJはいっさい肉体関係もなく、人としての付き合いもなく、単なる会話さえもしたことがないというのは事実です。

私は、『瞳で語るのは妄想です』と言ったことが、人として魔女扱いされるほどムゴイことだったんだろうか・・と悩んでいます。
正しいと思って言いましたが・・。
本人がそこまで、激しく傷付くなら、何も言わずにほっておくのが、優しさだったんでしょうか・・。
『彼に愛されている』というのを否定されることは、何よりもツライそうですから・・。
それを心の支えにしている人のことを、とやかく言った私がいけなかった・・という考え方も、成り立つのだろうかと悩んでいます。
あと、万が一、Jの言っていることが本当なら・・。
その選手のことが・・信じられない・・という恐怖がありました。
いい年をして、おっかけをやっているような心の不安定な女性を惑わすような人なら、最悪だなぁと思いました。
そんな選手じゃないと思いたいという想いもあり、『瞳で語る。それは妄想ですよ』と、Jに言ったという側面もあります。
まぁ、確かに、他の人のようにテキトーに話を合わせておくべきだったのかもしれません。
だけど、それは逆に、Jに対して良くないような気もするのです。
とにかく、私は、何だか混乱しています。
こういう場合、どういうふうに接したら良かったんでしょうか・・。



林: J さんの症状は恋愛妄想です。おそらく統合失調症でしょう。妄想性障害も考えられますが、統合失調症の可能性の方が高いです。 (【1193】もある意味で似たケースですが、【1193】の診断はどちらかというと妄想性障害に傾きます。【1193】は、「メッセージ」はあるものの、比較的漠然としたものであるためです。対してこの【1194】では、恋愛妄想の対象とかなりはっきりと「交信」していることから、統合失調症であろうと判断されます)

Jさんのために出来ることは、精神科を受診していただくように持っていくこと以外にはありません。しかしそれはかなり難しいことは確かです。

妄想を持っている人に対し、それは妄想であるとはっきり告げるのは、多くの場合誤った対応です。

きっと、ちょっと思い込みが激しいだけなんだろうと思って言いました。
だから、そのことに気付いて欲しくて言いました。『選手が瞳で語りかけるというのは信じられません』と・・。それは、事実と違うと思いますよ・・と。


のちに日記で、『偽善者の魔女』というタイトルで、私は非難されました。
私という人間が怖いとまで書かれました。


妄想であると本人に告げると、このように攻撃を受けることもしばしばあります。真実を伝えられたときの怒りの反応の例としては【1141】などをご参照ください。
(しかしこのサイトでは真実を告げるという方針をとっています。理由は【1082】などにもお書きしましたが、ひとことで言えば、このサイトは医療相談を受け付けているのではないということです。事実を伝えるのが基本方針であり、ということは、極論すれば、質問者を助けることを第一の目的とはしていないということです。)

まぁ、確かに、他の人のようにテキトーに話を合わせておくべきだったのかもしれません。

妄想に対しては、否定も肯定もしない。一般にはそれが適切な対応であることは、【1193】などにもお書きした通りです。この【1194】の質問者の言葉を借りれば、「テキトーに話を合わせておく」ということになるかもしれません。しかしそれが適切といっても、

だけど、それは逆に、Jに対して良くないような気もするのです。

それもまたもっともです。ただ否定も肯定もしないだけでは、その場をおさめることはできても、治療にはなりません。

こういう場合、どういうふうに接したら良かったんでしょうか・・。

あなたが本当にJさんのことを心配されているのであれば、Jさんに精神科を受診していただく方法を考えるべきです。他方、心配といってもそれほどでもなく、他人事として扱うのであれば、「テキトーに話を合わせておく」べきでしょう。


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