精神科Q&A

 【1173】早朝や夜になるとはじまる祖父の幻覚・妄想


Q私は10代の女性です。祖父母と3人で暮らしています。
4か月ほど前に母が亡くなってから、77歳の祖父の様子がおかしくなりました。
早朝に突然起きて「誰か人がいる」と言ったり、夜になると急に「車で事故を起こした」と言いだして落ち着かなくなり、外に出て行こうとします。退職したのに仕事に行こうとしているときもあります。実際に出ていったこともあり、数時間で帰って来たのですが、通った道ははっきり覚えているのに自分が「事故を起こした」と言ったことは覚えていないようでした。本人は「悪い夢を見ていた」と言っていました。急に興奮しだしたと思えば、眠りだしてしばらく起きなくなったりします。

このような幻覚や妄想が1〜2週間に1回くらい起こります。だいたい早朝や夜に急に始まって、数分から数日でおさまります。妄想は被害妄想が多いようです。夜になるにつれて症状はひどくなります。ときどき自分が妄想状態にあることを覚えているときもあります。アルコールを飲むとひどくなるようです。症状が出ている間は、いつもよりも人の顔や名前、日付などを間違えやすくなっています。ひどいと自分が誰か、ここはどこかもわからなくなる時もあるようです。

症状のないときは少し忘れたりすることがあるくらいで(本人も自覚しています)、人との約束もきちんと守り、日課も忘れずに行い、性格も温厚です。
祖父はずっと前から睡眠薬としてリスミーを飲んでいて、その他にも血圧を下げる薬やH2ブロッカーなど薬をたくさん服用しています。薬は毎日欠かさずに飲みます。しかし、なかなか眠れないようで、睡眠薬の量を増やしているときがあります。寝付けないと夜中に飲んでいるようです。
祖父はいつも人を励ます性格で、自分の本音をなかなか話しません。母が亡くなったときも何も弱音を吐いたりしませんでした。普段は普通にしていますが相当ストレスがたまっているような気もします。
祖父の症状について詳しいことを教えていただけるとありがたいです。


林: この症状はせん妄です。せん妄についてのQ&Aの内容をお読みいただくのが最もわかりやすいかと思いますが、せん妄は定義としては「軽い意識変容で、多くは幻覚や妄想を伴う」ということになります。高熱にうなされている時を思い浮かべていただくと実感しやすいかと思います(高熱による場合、熱性せん妄といいます)。実際に問題となるのは高齢者のケースが多く、身体の病気や手術の後に発症することがしばしばあります。

せん妄は、昼よりも夜に起こりやすいものです。この【1173】のケースでは、起こる時期も症状もせん妄に一致しています。つまり、この問いのタイトルである「早朝や夜になるとはじまる祖父の幻覚・妄想」を読んだ瞬間、最も考えられる診断名はせん妄になるということです。症状としては、

いつもよりも人の顔や名前、日付などを間違えやすくなっています。ひどいと自分が誰か、ここはどこかもわからなくなる時もあるようです。

これは見当識障害と呼ばれる症状で、軽い意識障害にあたります。また、記憶が部分的に欠損しているのも、せん妄ではよくあることです。

対策については【1053】などをご参照ください。ただし、この【1173】のケースでは、薬の影響がかなり大きいと思われます。せん妄の原因は多くは複合的なもので、ひとつに定められないのが普通です。この【1173】では、高齢であること、家族の喪失の二つが、いずれも要因ではありますが、それよりもまず薬の影響を取ることが必要でしょう。【1053】にもお書きしたように、また【0192】にも実例があるように、特に高齢の方の場合、睡眠薬や抗不安薬が、せん妄を悪化させているケースが多々あります。この【1173】では、もともと飲んでいる薬が多いうえ、最近その量を増やしているようですので、薬が悪影響をおよぼしたため、せん妄が悪化していると考えられます。またアルコールも飲んでいるとのこと、これもやめなければなりません。
もっとも、これまで飲んでいた薬をすぐに全部中止すると、かえって症状は悪化する可能性が強いです。今かかっておられる先生に相談して、徐々に薬を減らすことをお勧めします。それによって今の症状は改善に向うはずです。

また、せん妄は認知症に重なって起こることもあります。つまり、ベースとして認知症があって、そこに何らかの因子が加わってせん妄になるという形です。
この【1173】のケースでは、

症状のないときは少し忘れたりすることがあるくらいで(本人も自覚しています)、人との約束もきちんと守り、日課も忘れずに行い、性格も温厚です。

この状況からは、認知症ではなさそうに見えますが、「少し忘れたりする」の「少し」がどの程度のものかが不明ですので、認知症か否かの判断はメールからは出来ません。しかしMRIなどの検査は受けたほうがいいでしょう。


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