精神科Q&A

 【1132】両親の怒りに満ちた恐ろしい顔が、よみがえるのです


Q: 34歳独身、女性です。 
職業は英語教師ですが、普段は派遣の形で営業事務をこなし週末は英語教室を開いています。 

私は自分がPTSDに起因する「パニック障害」ではないかと疑っています。 
先日、2日間にわたり派遣先の職場でパニックに陥った時、服薬の必要性を感じましたが、とても自分で判断することはおろか、何が起こっているかを伝える状態にすらなく、数日経って冷静になるのを待ち、ようやくネットで通院先や対処法を探り始めたところ、先生のホームページを発見しメールをさせて頂くことにしました。 

5年前にも職場で一度パニックになったことがありましたが、精神面でのダメージだけで2時間もすれば落ち着き、平静に戻りました。 
しかし今回は、両こめかみの後ろ辺りの猛烈な頭痛、喉の奥に熱さを感じる痛み、 気管が詰まるような息苦しさと胸を縛り付けられたような激しい痛みなどの症状が出ました。 

目の前で激しい怒鳴り声に遭遇した時、このような状態が起こります。 
多分、伏線として一定期間無意識の内にその状況に耐えていたこと (パニックになった時にひどく我慢していた自分に気付きます)、その環境下でありえない大きな物音、ガラスや陶器の激しく割れる音などはあります。 
勿論、パニックとまではいかないものの、そういうものに対して弱いなという自覚はありました。 

今の職場で怒鳴り声や暴れる様子、大きな物音、罵倒などの状況が繰り返された時、嫌悪感と共に「あぶないな!」というような意識は平素からあったよう に思います。 
パニックになった1日目、激しい罵倒と暴れる社員を見た時、すぐに感覚がひどく鈍磨して外のあらゆるものが自分の中に入って来な いような感覚になりました。 
身体が震えて表情が強張り、何も考えられなくなります。 
この日はそこまでで終わりました。平常心に戻るのに2時間位は掛かり ました。 
その後自分でも「明日また同じような状況になったら、ヤバイな」という予感があり、派遣会社の担当と派遣先の職場の一人に、どうも一緒に働きにくい人がいる、と説明しました。 

そして翌日、朝早々職場でその同じ社員が怒鳴り、暴れ始め、 私は気が付いたら仕事を放り出して更衣室に逃げ込んでいました。 
しばらく放心して、ひどく頭が重くて感覚が鈍くなっているのを感じました。 
そこから動けなくて徐々に涙が溢れてきて1時間程泣き続けたと思います。 
更衣室に逃げ込んでから1時間半位経った頃、社員の一人に促されて職場に戻りましたが、 ひどく全身が強張り緊張していてとてもいい気分ではありませんでした。 
目の前にはその元凶の社員がうろうろしていて、突然身体の痛みが襲い掛かって来ました。 
その後は夜眠るまで落ち着かない不安な状態でした。 
今でも、症状について説明を求められると緊張が走り、全身がこわばって涙が溢れます。 

同じ光景がいつも思い出されます。 
まだ保育園に上がる前の幼い時に見た、父親がガラスの引き戸越しに小学低学年だった兄の背中を縦笛で殴りつける姿と兄の泣く姿、母の気が狂ったように叫び兄をなだめる姿、 砕けたガラスのかけらとその時に感じた怯えた感覚です。 
たくさんあったはずの「音」は一切聞こえてこず、情景だけが浮かびます。 
そうすると次々に色んな情景が矢継ぎ早に浮かびました。 
父親の暴れる姿、母の甲高い声、お茶碗などの激しく割れる音、両親の怒りに満ちた恐ろしい顔。 
両親の姿だけではなく親類や近所に住む人達のそのような光景が溢れて来て、私はただ泣くことしか出来なくなります。 

また何でもないときに、職場で食器棚を開けたら陶器のコップが落ちて 来て割れた時に 凍りついて動けなくなった時もありました。 
いきなり怒鳴られると、頭は理知的に動くけれども感情が麻痺して何も感じなくなることもあります。 
このようなことが続くと、ひどく疲れてしまうので服薬をしたいです。 
怯えて高ぶる感情をコントロールしたいのです。 
明日からお盆休みが開けて仕事が始まるので何とかしたいのですが、どこに行けばいいのかがわかりません。 


林: あなたの今の症状と、幼少時の体験。この二つの因果関係を証明することは出来ませんが、関係があると考えるのが自然でしょう。けれども、

私は自分がPTSDに起因する「パニック障害」ではないかと疑っています。

これは違います。
まず、あなたの症状はパニック障害とは異なります。あなたの症状は、

目の前で激しい怒鳴り声に遭遇した時

に限られているとのことですので、これは医学的にはパニック発作とは呼べません。特定の状況に対する反応ということになります。

また、あなたの症状の原因が、幼少時のトラウマ的な体験であると仮定しても、PTSDという診断にはあたりません。PTSDの原因となるトラウマとは、PTSDのページにお書きしたとおり、危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事に限ります。それ以外のトラウマによるものまでPTSDと呼ぶと、世の中はPTSDだらけになってしまうことは【1034】などにもお書きした通りです。

以上が精神医学的事実ですが、しかしあなたにとって、診断がパニック障害やPTSDであるかないかはあまり本質的な問題ではないでしょう。診断基準は満たさなくとも、パニック発作に似た症状と、PTSDに似た発症メカニズムがあるのは確かですから、その事実のほうが重要なことです。

治療法としては、認知行動療法の効果が期待できます。
けれども、その効果はすぐに出るものではありません。あなたのメールからは、目前の仕事中に、この症状が出ないようにする必要があることが読み取れます。だとすると、まずは抗不安薬で症状を抑えることが現実的でしょう。それだけで十分に症状が抑えられれば、それでよしとする考え方もあります。あるいは薬物療法と並行して、認知行動療法を行っていくという考え方もあります。いずれにせよ、

明日からお盆休みが開けて仕事が始まるので何とかしたいのですが、どこに行けばいいのかがわかりません。

受診するのは精神科ということになります。

怯えて高ぶる感情をコントロールしたいのです。

適切な治療によって、コントロール可能になることは十分に期待できると思います。


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