精神科Q&A

 【1112】祖母は認知症でしょうか性格の問題でしょうか


Q: 84才の祖母のことです。祖母は数年前に脳梗塞で入院し、退院してしばらくは独居しておりました。薬(ワーファリン)の飲み忘れがあったり、身の回りのことがおぼつかないため、母と叔母が交代で毎日泊まりに行き、世話をしていたのですが、突然「死にたい」「眠れない」「もやもやする」等の言動が増えてきたため母が神経内科の主治医の外来へつれていったところ、うつ病でしょうということで、ドグマチールを処方されました。服用当日に急に攻撃的になり、電車に飛び込んでやるとか、包丁で刺せ、と大声で言ったりあきらかに様子がおかしくなったため服用を中止し、再度受診したところパキシルに変更になりました。
二週間ほどパキシル、リスミー、ワーファリンを服用しておりましたが、デイセンターにてめまいで倒れ、低Na血症で入院となりました。主治医が精神科に対診を依頼された折「おそらくうつ病は否定的、脳梗塞の後遺症で、認知症もある」と言う説明が精神科のドクターよりあり、現在はワーファリンとリスミーのみ服用しています。

 自宅に戻り、現在は叔母が同居していますが、些細なことでトラブルになるようで、その都度母が仲裁に行ったり様子を見に行ったりします。母が駄目な時は私が見に行くこともあります。
 叔母の言動で気に入らないことがあるとすぐに「帰れ」と言ったり、外へとびだしたり、母や主治医に「娘に蹴られた」「自分のお金をあてにしているし、私はあの子の世話になどなっていない」と嘘をつきます。(若い頃から虚言傾向があります。同情を引く目的、注目されたいとき、保身のため、色んな場面で都合良く話を作り替えていました。)
その度にまた叔母が腹を立てるので、度々対立してしまいます。

 もちろん叔母は手を挙げたこともないと言っていますし、祖母はお金に細かい人ですので、叔母と祖母は別会計で生活していますが、それが原因で役所から虐待の調査がはいったこともありました。
そのときは、母や叔母がなぜそんな嘘をつくのか、そんなこと言いふらしたら誤解を招くし、私たちも面倒見るのが難しくなるではないか、と諭しましたが、自分が責められると、「おぼえていない」「私は、知らん」「ごちゃごちゃ言ったらまた病気になる。死にたい」「子供など生むんじゃなかった」「今はヘルパーだって来させることができる、子供はいらない」などと言いだします。

 「ひとりで住むのは不安だから」と叔母夫婦に同居をたのんでおきながら、今では「ひとりで大丈夫なのに、勝手に住んでいる」と近所のひとにまで言いふらすので、端で見ていても気の毒です。なら独りで住むのがよいか聞くと、「冷たい娘だ。見捨てるのか」といった反応です。

 すべてが自分の思い通りになっていて、人が自分の望み通りに動くと満足なのですが、思い通りにならないと万事この調子で、感謝どころかあることないこと第三者に吹聴したり、身の回りの世話に対して感謝どころか文句ばかり言うので、叔母も母も疲れ切っています。
母は、「認知症だし、仕方ない」と言います。(長谷川式で精神科にて診断された軽度とのことです。)
しかし、祖母の言動を端で見ていると、都合のいいことは覚えていて、悪いことは全て忘れていますし、相手によって要求水準を変えていて、とても認知症のせいだけとは思えません。
 叔父から電話がかかるとたまの電話にさえ感謝のことばを述べています。裏で「顔も出さない息子」と文句は言いますが、本人に言わない理性はあります。母には、「親がこんな状態なのに仕事を辞めない。あんたは、親より他人が大事(母は医療機関の勤務です)なんだ」と詰めよります。

 ただ、認知症、といっても昔から祖母の性格と変わっていないというのが私の印象です。
プライドが高く、人の助けを受けるのが嫌いで、お金があれば何でも何とかなる、などとい頃もよく口にしていたので、ちょっと物忘れがひどくなったけど、あまりかわっていないように見えます。
 嫌な面が強調された感じですので、周囲の対応もその時々でいきあたりばったり、混乱気味です。
母は、「認知症だし残りの余生が満足できるよう好きにさせて上げたらよいと考えているものの、ときどき頭に来るし、もう最近はあまりに世話のしがいがなさすぎて疲れてくる」と言います。
見返りを期待しているわけではないとはいえ、善意が悉く「当然のこと」に変わっていくのは辛いと思います。
巷に介護関係の書はあふれていて、模範的な心のありようが例示されていますが、難しいことです、実際には。
そもそも祖母の希望をどこまでも受け入れるのは不可能だと思います。-すでに「言わなくても希望を酌んで欲しい、察してくれて当たり前、気持ちが分からないなんて酷い」というレベルにきていて、言わなくてもやって欲しい事がされていないと「気がきかない」と機嫌が悪くなるくらいです。

 しかし、認知症の祖母に対して諭したり怒ってみたりすることに意味があるのかどうか、事態を好転させることができるのか、がさっぱり読めないのです。
もし、認知症でなかったら、境界型人格障害のページを参考にしたと思うのですが、年も年で、認知症ともなると、その対応で適切か、悪い影響がないか、判断しかねます。

 ずいぶん長くなって、わかりにくい文章になってしまい、申し訳ありません。良い対応というのに答えがないにしても、認知症の祖母に対し、周囲の言動・行動などで気をつけるべき事や、禁忌などありましたらご教示頂ければ幸いです。
 

林: お祖母さまの状態は、実際に診察された精神科の先生のおっしゃるとおりで、

「おそらくうつ病は否定的、脳梗塞の後遺症で、認知症もある」

この説明の通りだと思います。もっとも、

若い頃から虚言傾向があります。同情を引く目的、注目されたいとき、保身のため、色んな場面で都合良く話を作り替えていました。

とのことですので、元々の性格の影響ももちろんあります。
元々の性格が、脳梗塞などの脳器質疾患(認知症も含まれます)によって強まることはとてもよくあることです。あなたが書いておられるように、

嫌な面が強調された感じ

というのがあてはまると思います。この状態は、「人格の尖鋭化」「性格の尖鋭化」などと呼ばれることもあります。

このような状態であっても、程度によっては、周囲の対応によって状態が改善することがかなり期待できることはありますが、このメールに書かれているようなレベルになりますと、それはなかなか難しいと思います。むしろ、お祖母さまの言動に周囲が振り回されないようにすることを目標にしたほうがいいかもしれません。

また、鎮静の目的で薬を飲んでいただくという方法も考えられます。ただし、84歳という年齢を考えますと、副作用に十分注意しないと、ふらつき → 転倒 → 骨折という事故もかなりの高い確率で予想されますので慎重さが求められます。また、いま服用しておられるワーファリンの作用が、他の併用薬によって増強され、出血しやすくなることにも注意する必要があります(ワーファリンと併用した場合、どの薬が安全でどの薬が危険かは、完全にはわかっていません)。


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