精神科Q&A

【1031】私は境界型人格障害でしょうか


Q私は40代の主婦です。結婚10年、子供はいません。
幼少時から人間関係を作るのがとてもヘタで今でも友人が一人もいません。誇張ではなく、学生時代や結婚前までの職場、趣味のサークルに至るまでたくさんのきっかけがあったにも関わらず、そこで知り合った誰とも今や連絡を取ることはありません。

質問したいのは、私が境界型人格障害ではないか、ということです。

私の父は5人兄弟の中に生まれ、親から何故か疎まれて育ったため親の愛情を知りません。結果、子供に対しても愛し方がわからないのか感情の起伏をそのままぶつけるので長女だった私はそれに対して常に顔色を窺うような育ち方をしました。
それが原因の全てかどうかはわかりません。
でも、40歳を過ぎた今でも自分というものが全くなく、好きな色、好きな食べ物、好きな曲…そういったものを自分自身で決めることができないのです。
父にしていたように他人の顔色も無意識に窺ってしまい、結果信頼を得ることができないのではないか、そうわかっていてもどうにもできません。また、母も私を手放しで甘えさせてくれるような人ではなく、子供を傷つけるような言葉をさらりと口にしてしまうタイプでした。

気になる点は3つあります。

まず、現実感を抱けない、ということ。
常に夢の中にいるような気分になり、「目が覚めたら違う場所で違う生活をしている」などと思うことがしばしばあります。
現実逃避をしたがり、自分の理想であるようなことを妄想しては現実を忘れようとしてしまうこともしばしばです。

もう1つは他者に愛情を抱けないこと。
これは肉親でも同じです。父はもちろん、母や妹に対しても利害関係でしかその絆を信じることができません。
弱いものに対しては優しくなれますが、それは従属関係をつくるためだけの優しさであり、実際少しでも反抗的な態度をとられるとすぐに突き放してしまいます。

そして最後の1つは感情の起伏が最近特に激しく、全く関係ないはずのニュースを見ただけで、そこに登場する犯人を殺してやりたいほど憎く感じたり、些細なことで腹立たしさが収まらなくなるのです。

ただ、自傷行動に出ることはなく(痛みなどが怖い)、破壊的な衝動を感じることはままありますが、それを実行に移すとしても、「これを壊すと後で片付けるのが面倒だ」などと冷静な自分がいるのです。

現在、近隣に精神科のクリニックはありません。
でも今のまま誰一人として顧みてくれない状態で生きていくことはあまりに辛く、もし私が境界型人格障害であるなら、治療を受けることによって少しでも改善がなされるのなら、多少遠隔地にある病院にでも通ってみたいと思っています。
非常にまとまりのない質問で申し訳ありませんが、ご回答いただければ幸いです。


林: あなたは境界型人格障害ではありません。
 確かに、ここに書かれている内容は、境界型人格障害の色彩があるものではあります。
しかし、どれもあなたの内面にとどまっており、それ以上のものではありません。人格障害というからには、現実に何らかの問題(本人が社会生活をうまくおくれない、というようなものも含め)が生じていなければなりません。診断基準にもそれが明記されています。人格障害自体がある意味で曖昧な概念ですので、この点は線引きをしておかなければならないところです。

以上が、「境界型人格障害か否か」という問いに対する答です。

けれども、あなたのご質問のポイントは、診断基準を満たすとか満たさないということよりも、(1)あなたが境界型人格障害的であるか、(2)そしてそれは治療を受けることで改善できるか、ということだと思います。
(1) に対する答は、まず、上に「境界型人格障害の色彩がある」と表現をしたとおりで、イエスであるといえます。
おそらくこのメールに書かれているように、幼少期の経験も影響して、境界型人格障害に近い人格構造が形成されているのだと思われます。こういう場合、境界型人格構造(Borderline Personality Organization = BPO)と呼ぶこともあります。(境界型人格障害はBorderline Personality Disorder = BPD です)
(2) に対する答は、イエスかノーかといわれれば、イエスといえるでしょう。しかし、BPOの治療は、BPDの治療以上に専門性が必要です。普通の精神科医では手に負えないレベルといえます。さらにいえば、BPOの専門家であっても、はたして本人のためになる治療がどこまで出来るかは疑問ともいえます。したがって、

近隣に精神科のクリニックはありません。・・・治療を受けることによって少しでも改善がなされるのなら、多少遠隔地にある病院にでも通ってみたいと思っています。

という気持ちは理解できますが、現実にはきわめて困難だと思います。
精神科的治療に期待するよりもむしろ、日々の生活そのものの中で自己の成長に努めることのほうが勧められると思います(平凡なアドバイスですが、人生に目標を見つける、生き甲斐を見出していくなどのことです)。期待外れの答かもしれませんが、現実を受け入れて、その中で最善の方策を求めていくことだと思います。

 

その後の経過(2009.4.5.)



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