精神科Q&A

【1022】統合失調症の兄を転院させるべきか


Q: 42歳になる兄のことで相談いたします。 
兄は高校生のときに軽度の心身症ということで精神科に通院しはじめ (後に執拗な校内暴力・いじめを受けていたことが明らかになりまし た)、そのうち家庭内暴力を頻繁にふるうようになり統合失調症との診断で措置入院し、そのまま現在まで入退院を繰り返してきました。その兄が、先日入院病院先で転倒し後頭部を強く打ち意識不明の重体に陥りましたが、その後の血腫除去手術により命はとりとめ、今は食事を自分で摂れるまで回復してきました。 

現在は、今まで入院していた精神病院ではなく一般の病院で入院治療を受けていますが、この先は再び元の精神病院に戻って外科治療を続行することになっています。しかし、私達家族は、兄を元の精神病院に戻すべきかどうか悩んでいます。と言いますのは、兄が重傷を負ったにもかかわらず、事故が発生してから2、3日経ってもその精神病院の主治医 からは何の連絡・説明もなく、こちらから事情を尋ねて初めて対応するという残念な医療従事態度でありました。また、事故当時、当直勤務していたという看護師の説明態度も、なにかしら差別的意識でもあるのか、非常にふてぶてしいものでありました。そして、兄の精神症状は年月とともに悪化の一途をたどる一方であるばかりか、身体までもこの2、3年で急激にやせ細ってきています。キツい抗精神病薬を慢性的に投与され、意識が朦朧としているうえに痩せ細った足元では、いつ転倒してもおかしくない状態だったと思います。そのあたりのケアを病院はきちんと行っていたのか、兄を収容するのではなくきちんと治療を行ってくれていたのか、私達家族は不安にかられています。今の一般病院では、抗精神病薬の投与量は減らされており、兄の表情は以前より豊かになっていることから、精神科主治医の治療方法は間違っているのではないか、と素人ながら考えてしまいます。 

兄が入院してから四半世紀の月日が経過しています。その病院でずっとお世話になってきましたので今後も同じ病院に入院させるべきという考え方と、あるいは、セカンドオピニオンを別の病院に求めるべきという考え方の間で揺れ動いています。特に後者の場合、今の主治医に後ろめたい気持ちがあるのは否めません。 

私達家族の取るべき方向性に何かアドバイスをいただけましたら、非常に嬉しく存じます。 
どうぞ宜しくお願い申し上げます。 


林: 
兄が重傷を負ったにもかかわらず、事故が発生してから2、3日経ってもその精神病院の主治医 からは何の連絡・説明もなく、こちらから事情を尋ねて初めて対応するという残念な医療従事態度でありました。

頭部打撲〜血腫除去術ということは、生命にかかわる重大な事故ですから、上記のような病院の対応は残念どころか信じ難いともいえます。(「残念な医療従事態度」というのはあなたが婉曲表現をとられているのだと思いますが)
 したがいまして、「そんな病院からは早く転院させたほうがいい」と反射的にお答えしたくなりますが、その前にメールの内容を冷静に検討してみましょう。

兄を収容するのではなくきちんと治療を行ってくれていたのか、私達家族は不安にかられています。

この文章はつい自然に読み流してしまいそうですが、どうでしょうか。かなり長い期間にわたり入院を続けておられるわけですね。それなのにご家族が今になって「収容するのではなくきちんと治療を行ってくれていたのか」という疑問を持たれるのはややおかしいように思います。これまでは治療内容に無関心でおられたのでしょうか。お兄様のことを案じておられるのであれば、もっと前の段階で、適切な治療が行われているのかどうかを把握しておくべきではなかったのでしょうか。
 もちろん、適切な治療を行うのは病院の義務であり、ご家族からすれば、病院を信頼してお任せしていたのだ、とおっしゃりたくなるかもしれません。それはもっともなのですが、私があえて上のようなことを言うのは、精神科病院で慢性の入院患者を主治医として受け持っていると、治療内容に無関心なご家族、さらにいえば患者との関係を断とうとしているとしか思えないご家族にしばしば遭遇するためです。そのような場合、患者の社会復帰はほぼ絶望的になります。そして、もうひとつだけさらにいえば、そのようなご家族はしばしば、何らかの事故が発生した時の苦情だけは熱心なことが多いものです。そうなれば病院側の態度も硬化しがちです。

事故当時、当直勤務していたという看護師の説明態度も、なにかしら差別的意識でもあるのか、非常にふてぶてしいものでありました。

この文章を読んで私には、上のようなことが思い浮かびました。
もちろんこの【1022】のケースがそれにあたるかどうかは全くわからないことですが。

キツい抗精神病薬を慢性的に投与され、意識が朦朧としているうえに痩せ細った足元では、いつ転倒してもおかしくない状態だったと思います。

これが適切な治療か不適切な治療かは難しいところです。重症で慢性化した統合失調症(精神分裂病)では、大量の抗精神病薬を投与することで初めて安定した生活を送れることもあります。その場合、当然副作用も出現しますが、投与しなかった場合の症状を考えればやむを得ないこともあるものです(【0510】もご参照ください)。
しかしその一方で、管理を容易にするために不必要に大量の抗精神病薬を投与している精神科病院も残念ながら存在します。その場合は当然不適切な治療ということになります。この【1022】の病院がどうであるかはわかりません。メールの印象からは不適切な治療を行っているようにも思えますが、慎重な判断を要するところでしょう。

今の一般病院では、抗精神病薬の投与量は減らされており、兄の表情は以前より豊かになっていることから、精神科主治医の治療方法は間違っているのではないか、と素人ながら考えてしまいます。

これは残念ながら素人考えと言わざるを得ません。抗精神病薬を減らせば、副作用が消えますので、当初は症状が改善したように見えるのは当然です(【0741】もご参照ください)。しかしその後になって激しい精神病症状が再燃することがしばしばです。【1022】のケースで抗精神病薬を減らしたことが適切かどうかは、少し日にちがたたないと判断できません。

兄が入院してから四半世紀の月日が経過しています。その病院でずっとお世話になってきましたので今後も同じ病院に入院させるべきという考え方と、あるいは、セカンドオピニオンを別の病院に求めるべきという考え方の間で揺れ動いています。

結論としては、どちらがいいかはなかなか難しいところだと思います。これまでの治療や、今後の見通しなどを、主治医の先生にお聞きし、そのうえで判断されることをお勧めします。ただ、このような経緯の場合、説明を求められた病院側としては、事故についての苦情を言われていると取りがちです。そうしますと説明全体がどこかゆがんだものになるおそれがありますので、苦情ではなく、純粋にこれからの最善の処遇を考えていることが伝わる姿勢が必要だと思います。難しいですが、正確な情報を得るためにはこれはぜひ必要なことです。



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