精神科Q&A

 【1012】 医者からは薬にあまり頼らずただ休めと言われていますが、休んでいるだけでうつ病が良くなるのでしょうか 


Q:私は26歳の女性です。SEをしています。3ヶ月前から心療内科に通い始め、現在は夕食後にパキシル20mg、寝る前にマイスリー10mgを服用しています。詳しい診断名を聞いたことはありませんが、うつ病を疑い通院を始めました。

パキシルは1ヶ月ほど前に10mg、3週間ほど前から20mgを飲んでいます。
その前はルボックス125mgを処方されていましたが、仕事のプレッシャーがきっかけで、不安感がひどくなったことを伝えると、ルボックスからパキシルに変更となりました。

通院を始める前にくらべ、悲観的な考えはしなくなり心理的には楽になりました。
職場の上司に理解してもらえたこともあり、仕事もかなり軽減してもらい、ほぼ毎日定時に業務を終了することができ、マイスリーの力も借りてですが、よく眠れるようになりました。また、気分がいい時は同僚と笑って話をすることもできます。

ただ、私が抜けた穴をカバーするべく同僚がより多忙に走り回っているのを見ると、自分がいることが申し訳ないとか、いなくなった方がみんなが楽になるのではないか、という考えが浮かんで、非常に苦しくなります。そういう時は動悸や息苦しさを伴い、職場にいることが辛く、申し訳なくなり、消えてしまいたくなります。
また、体力が非常に落ちており、毎日会社に行って帰ってくるのがやっとで、仕事もしていないのに等しいのに昼休みはぐったり眠ってしまう。午後もとにかくぐったりとしながら、業務終了のベルが鳴るのを待つ日々を送っています。歩くスピードも遅くなり、元気な頃は10分で歩けた距離が15分以上かかるようになっています。

私としては薬を飲み始めて、心理的症状が軽くなったこともあり、もっと薬を増量して欲しいと頼みましたが、心療内科の先生は「あんまり薬に頼るのは良くない。あとはあなたがどれだけ仕事をうまくサボって休むことができるか、です。表情もだいぶ良くなっているし、今の処方で問題ないでしょう。本当に辛いかどうかは表情に出ますから。」とおっしゃって薬は増量してくれません。
毎日22時過ぎから7時くらいまで寝て、会社での仕事もほとんどせず、休日も一日中寝ている状態です。また、先生によると「休職した場合、復職が大変なので、あなたくらいの症状では会社に通いながら治療した方がいいでしょう」と言われ、これ以上どう休んでいいのか自分では分からなくなってしまいました。

私はこのままの処方で、このままの生活を続けていけばよくなるのでしょうか?
私の病気が長引くことで同僚にしわ寄せがいってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいで辛いです。

私の症状を以下にまとめます。

1年半前:仕事に全く興味がなくなりました。全ての仕事が面倒に感じ、やっつけ的に日々の業務を行うようになりました。

1年前:動悸や目の周りがピクピクする症状が1ヶ月ほど続きました。仕事のストレスや、栄養の偏りが原因と漠然と思っていました。1ヶ月ほどでいつのまにかおさまりました。

8ヶ月前:背中のこりがひどくなりました。マッサージに通ってもあまり改善されずいつも背中の痛みがありました。毎週楽しみに通っていた習い事(語学)が全く楽しくなくなり、欠かさず続けていた予習・復習ができなくなりました。授業も頭に全く入らなくなり単語も覚えられなくなりました。授業が毎週金曜の夜だったこともあり、疲れが溜まっているんだな、くらいに考えていました。
また、以前は積極的に取り入れようとしていた、仕事関係のニュースなども聞くのが苦痛になりました。

5ヶ月前:心理的にひどく落ち込み始めました。会社に行っても自分のいる場所がない。いる意味がないと思う。仕事が全く手につかない。人と会うのがつらい。(打合せが特に苦痛でした。)
とにかく生きていることが辛く、申し訳なく涙が溢れてきてとまらない。(1日に何度もトイレにこもって涙がおさまるのを待っていました。)
常に死を考えている。例えば、ここに紐をつるせば、首吊りできるかな?ビルの窓が開くからいつでも飛び降りられるな。電車に飛び込むにはどのタイミングが良いだろう?とかいつもどうやって自殺するかを考えていました。でも、家族が悲しむから、とか電車に飛び込んだら人に迷惑がかかるからなど理由をつけて、自殺はできないだろうなと漠然と思っていました。

また、とにかく身体(とくに足)がだるく、座っていることさえしんどい。不定期に動悸・息苦しさがおこる。また、電車に乗ると息苦しくなる。背中のこりはよりひどくなり、肩、首も痛むようになりました。(いつも下を向いているせいで、姿勢が悪くなったからかもしれません。)

また、全体的な食欲は減っているのに、甘いものがとにかく欲しくなりました。これまではなかったのに昼食を甘いもので代用したり、それでも甘いものが欲しくなって仕事中にチョコレートを食べたりしていました。(これまでは、どちらかというと、塩辛い食べ物が好きで、ケーキも1つ食べればたくさんだったのに、今では1つではとても足りないということがあります。)

3ヶ月前:いつものように会社から帰る際、駅のホームに進入してくる電車をボーっと見ながら、「このまま飛び込んだらどうなるだろう…。」と考えていました。直後に「はっ!」として我に返りました。その時の心理がいつも死を考えている時と何かが違っていて、私の中でより現実味を帯びていたような気がしたからです。(うまく説明できませんが、とにかくいつもと違っていたのです。)
このとき初めて、「このままだと本当に死んでしまうかもしれない」と思い、以前から通おうと思っていたけど、中々足が向かなかった心療内科に行くことを決意しました。

また、いつからかは覚えていませんが、夜寝付けない、暗闇で色々考えるのが辛いという理由でお酒を飲んでから眠るようになっていました。もともとお酒は弱いほうなので、ワインをグラス1杯とか、350ml缶の酎ハイを1本程度でしたが、家族が寝静まってからこっそり台所に行き、お酒を一気飲みする自分はやはり普通ではないと当時から思っていました。

現在:薬は最初のルボックスからパキシル20mgになり、マイスリーのおかげで、お酒にも頼ることなく眠れるようになりました。しかし、現在は以下の症状が残っています。
・背中・首・肩のこりがひどい。
・相変わらず甘いものが食べたくて仕方ない。
・とにかく疲れやすい。(毎日会社から帰るとぐったりしています。)
・全く仕事の意欲がわかない。(期日が迫っている仕事なのに、全く手につかない状態です。)
・よく寝る。(休日は11時まで寝ているのに、3-4時間昼寝をして、夜は遅くても23時には寝る生活です。)
・以前より頻度は減りましたが、とにかく申し訳ない、生きているのが辛い、という気分になり、死ぬ方法を考える。
・頭の回転が遅く、もの覚えが悪い。(やらなきゃいけない仕事がいくつかあったような気がするが、具体的に何だか思い出せない。思い出す気力がない。)

このままの状態が続くのは自分としても辛く、同僚にも迷惑をかけてしまいます。
私としては薬の増量などで少しでも早く以前のようにテキパキと動ける自分になりたいのですが、このままの治療で大丈夫なのでしょうか?
やはり先生が言うようにあとは自分の休み方、気の持ちようなのでしょうか?
それとも、先生が増量したがらないのは私がうつ病を装っている(擬態うつ病? 自称うつ病?)と考えているからなのでしょうか?

確かに、回復して以前と同じように動けるようになったとしても、自分の生活をある程度変えないとすぐに今の状態に戻ることは必至でしょう。(結局は、元の生活に多かれ少なかれ無理があったから発病したのでしょうね。)
でも、そのコントロールができれば、最初からこんな状態に陥ってはいませんよね。やはり、私の考え方や生活の仕方を今変えなくては回復できないのでしょうか?林先生のご意見を聞きたくぜひご回答をお願いします。


林: あなたはうつ病だと思います。したがって、適切な治療を続ければ治ります。
あなたがメールに書かれている症状がまさに典型的なうつ病で、しかもわかりやすい文章で的確に表現されていますので、診断根拠をあえてこの回答で繰り返すことは控えますが、ひとつだけ解説しますと、

いつものように会社から帰る際、駅のホームに進入してくる電車をボーっと見ながら、「このまま飛び込んだらどうなるだろう…。」と考えていました。直後に「はっ!」として我に返りました。その時の心理がいつも死を考えている時と何かが違っていて、私の中でより現実味を帯びていたような気がしたからです。(うまく説明できませんが、とにかくいつもと違っていたのです。)

これは、うつ病の方の自殺のパターンの一つです。うつ病の人の自殺には、大きく分けて、苦悩がどんどん深まっていき、考えに考えて自殺を実行する場合と、あなたのこの記載のように、それまでとは違った独特な感覚が生じて、ふと(としか表現のしようがないのですが、「ふと」という感じで)自殺してしまう場合があるようです。
 自殺の時の真の心理状態を知るのは非常に難しいのですが(自殺を実行してしまった人からの情報は得られないからです)、うつ病で自殺しようとしたものの非常に稀な偶然によって一命をとりとめた方からお聞きすると、大体はこのどちらかのパターンにあてはまるようです。(ここでいう「自殺しようとした」というのは、成功の確率がほぼ100パーセントの自殺方法、すなわち高い所からの飛び降りや、電車への飛び込みに限ります。過量服薬から回復した方はたくさんいますが、過量服薬という自殺方法では、本当に自殺の意図があったかどうかが常に疑問になります。)

ですからあなたがこの体験をきっかけに、

このとき初めて、「このままだと本当に死んでしまうかもしれない」と思い、以前から通おうと思っていたけど、中々足が向かなかった心療内科に行くことを決意しました。

このように決意し行動されたのは適切でした。

ところが、治療を続けているのに回復は十分でないようです。
そして今あなたに残っている症状は、やはりうつ病によるものと判断できますので、治療方法の見直しが求められる時期だと思います。あなた自身が考えておられるように、パキシルを増量することがまず考えられます。それでも不十分な場合には、他の薬への変更を試みるべきでしょう。

あなたの主治医が増量に消極的な理由として考えられるのは、(1) あなたがうつ病ではないと考えている(あなたも書いておられるように、先生が増量したがらないのは私がうつ病を装っている(擬態うつ病? 自称うつ病?)と考えている が考えられます) (2) あなたの症状が主治医によく把握されていない (3) 主治医のうつ病診療技術が不十分である などです。このどれが理由かは判断困難ですが、今のあなたにとっては薬物の増量が必要であることは確かだと思います。ですから、

やはり先生が言うようにあとは自分の休み方、気の持ちようなのでしょうか?

そういうことはありません。気の持ちようで治る性質のものではありません。

もうひとつ付け加えますと、

確かに、回復して以前と同じように動けるようになったとしても、自分の生活をある程度変えないとすぐに今の状態に戻ることは必至でしょう。(結局は、元の生活に多かれ少なかれ無理があったから発病したのでしょうね。)
でも、そのコントロールができれば、最初からこんな状態に陥ってはいませんよね。やはり、私の考え方や生活の仕方を今変えなくては回復できないのでしょうか?


これは認知療法の考え方です。うつ病に対する認知療法の有効性についてはまだまだ議論されている段階ですが、ケースによっては有効なことは確かです。しかし認知療法の有効性が最も期待できるのは、むしろうつ病の再発予防に関してであると私は考えます。うつ病の症状がある時にこの治療を行うのは、時には症状を悪化させることもありますので、適応については慎重な態度が必要です。

あなたのケースで今の段階で認知療法的なアプローチが必要かどうかはかなり微妙なところですが、どちらかというとまだ薬物療法中心を続けるべき(ただし、上で説明したように、薬の内容は変更すべき)だと思います。「考え方や生活の仕方を変える努力」のためのエネルギーが、まだ不十分であると、メールからは読み取れるからです。このエネルギーの状態を改善するためには、今は薬の力を借りることが必要です。そして、適切な治療を続けていけば、あなたの症状はきれいに治るでしょう。

その後の経過(2006.8.5.)

 


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