精神科Q&A

【1002】私の記憶は何なのでしょう


Q私は33歳女性です。現在、躁うつ病と診断されていて、通院中です。
小学生と保育園児の二人の子供がいて、夫と、4人暮らしです 
結婚を境に、転勤族の主人に合わせてどこででも仕事が出来るよう、フリーになり、10年ほど翻訳の仕事を続けています。幸い、仕事はいたって順調で収入も良く、特に問題はなくストレスも感じていません。また、結婚後の家族関係は良好です。 
夫は勤勉で優しい人ですし、子供たちも良い方向へ育ってくれていると思います。 
(生まれ育った家には、家庭内暴力や父の蒸発があったので問題があったと思っています) 

躁うつ病の診断は転勤の前後で二人の医師からそう診断されているので、間違いないと思います。しかしながら、幸い、躁うつ病でよく見られるといわれる 他人に迷惑をかける問題行動もとらず、はちゃめちゃな金銭感覚に陥って家のお金を使い込むことも無く、結婚以来、順調に暮らせています。 
親戚関係、友達関係、ご近所関係等も無難にこなしているので、多分、精神科に通っているということも躁うつ病であることも周囲には気付かれていないと思います。 
通院してからは、不安感やイライラに悩むことも少なくなり病気を受け入れようという覚悟もして開き直りができ、症状が安定している、と思っています 

本題はここからです。
数日前「夜中に起きて、仕事していたんだね〜、大変だね」と家族に言われて、ギョッとしました。 
覚えがありません。ぐっすり寝ていたはずです。 
しかし、パソコンには日時の記録も残るので見てみると、確かに深夜、翻訳作業が進んでいます。 
パソコンは自分専用のもので、 主に仕事用ということもあって家族は無断で触りませんし、 
家族に(少なくとも仕事で使えるレベルで)外国語が出来る人間はいません。 
読んで、自分の訳と分かりました。誤字も誤訳もありませんでした。 
でも、該当個所は私にとっては「初読」で、訳した覚えがないのです。というより起きて動いた覚えが無いのです。 

振り返ると、高校に入ってすぐ、こんなことがありました。 
バス停で親しげに声をかけてきた女の子がいました、「ひさしぶり!」と。 
その子がどんどん話しをするのですが、誰だか分かりません。 
彼女がしている思い出話や中学校での出来事を私は知りません。 
人違いしているんだなあ、早く言ってあげなくちゃと思ったとき「○○ちゃんは高校どう?」と私の名前を彼女が言ったので心底焦りました。 
この子は私の友達らしい、共通の思い出もあるらしい。 
でも、分からない。 
この頃は、一度は蒸発したものの、結局愛人との生活も破綻して、行くところが無く帰ってきた父親の家庭内暴力がひどかった頃で、意識的に 「こうだったらいいのになあ」と想像したり本を読んだりすることで、 現実逃避していた部分もあったんですが。。。 

進学後は塾講師のアルバイトをしました。 
またコンビニエンスストアで店員のバイトもしました。 
親を頼れなかったので、学校の授業料などは全てバイト代でまかなっていました・・・ので意地でも辞められませんでした、実際、卒業まで続けました。 
バイトを始めたことや学校で人間関係が広がったことで、大学の同級生や先輩、塾の生徒さん、生徒さんの親御さん、同じ職場の人など私を知る人が増えました 
そして、かなりの頻度でこんなことを言われるようになりました 
「昨日、***(←地名)歩いてた?」 
「先生にそっくりな人がいるんだよ!でも人違いだったんだよ!」 
「駅でみかけて声かけたけど、きょとーんとしているから、あれ?と思ったら、話し方が全然違って〜!  でもそっくりなんだよ〜、ホント似てたよ〜、声もそっくり!」 
「昨日、学食にいたよね??気付いてくれなかったでしょ〜」 
それいつ?とたずねると、 
いつも体調不良などで家で寝ていた時間でした。 

この頃は、すでに再び父が蒸発していたので暴力には脅えずに済んだし、バイトと学校の両立は結構ハードだったので、疲れたらすぐ寝ていました。 
「あー、その時間は家にいたよ〜、人違いだね〜」 
「そんなに似てるの?でも昨日は家から出てない〜、体調悪かったんだ〜」 
「ん〜?昨日は学校きてないなあ??」 
正直、余りにも回数が多いので、そんなに似ているなら、学校まで同じなら会って話してみたいなあ、と思っていたくらいでしたが、私自身は「そっくりさん」とは会ったことがありません。 ひょっとして、そのそっくりさんは私自身だったのは、と今では強く思っています。 

*** 
自分としては不思議だった出来事、はこれくらいです。 
特に誰かからクレームがくるわけでもなく、貴重品やお金がなくなるでもなく、逆に買った覚えが無い知らない物が増えているわけでもなく、 身に覚えの無い怪我をしているでもなく、また、それによって人間関係にヒビが入った、ということもなかったので、 
 #「バス停の女の子」には悪かったと思っていますが・・・ 
これまでは「なんか、変だなあ」と感じても、放っておきました 

今日の診察でこの話を聞いていただいたところ、 
「夜にデパスを飲むだけでもぐっすり眠れるはずなので飲んでみたら動き出さないと思うけど・・・。  誰かに害を与える問題行動でもないみたいだから、ちょっと様子をみましょうか」と言われました。 

記憶が無い(眠っている時?現実感がない時?意識的あるいは無意識に気持ちが逃げている時??)のに、友達と話したり出歩いたり仕事をしたりと、活動しているらしい自分が不安になってしまったのです。 
なにか、致命的なことをしでかすんじゃないか?と。誰かを傷つけないか?と。 
今は守らなくちゃいけない、子供がいるので・・・。 

こういった「記憶が無い」「分からない」というのは、躁うつ病によくある症状なのでしょうか。 
症状に効く有効な治療法は、眠れる薬を飲む以外に、あるのでしょうか。 
また、「あるはずの記憶」は何時か思い出せるものなのでしょうか。 
 #とりあえず現在、書いてきた出来事の「空白部分」は分からないままです。 
放っておく以外に、有効な対策があればご教示いただきたくお願いいたします。 
 #とりあえず、主人には「何かおかしい」と思ったら指摘して、夜中に外に出ようとしたりしたら、止めて、とお願いしたのですが・・・。 


: 解離性健忘の可能性がもっとも高いと思います。

「記憶が無い」「分からない」というのは、躁うつ病によくある症状なのでしょうか。

躁うつ病でこのような症状が出ることはまずありません。

一般には、(脳に外傷などの問題がない限り)、あなたがお書きになっているような健忘をきたす原因としては、解離の他に、薬の副作用てんかんが考えられます。薬の副作用による健忘の例としては【0931】がありますが、この【1002】のケースでは、薬を飲んでいない時期にも症状が出ていますので、薬を原因と考えることはできません。また、てんかんの例としては【0175】【0373】がありますが、この【1002】の症状は解離の可能性の方がはるかに高そうです。【0354】【0810】【0995】などをご参照ください。

そして、解離性障害は、幼少時に外傷体験をされた方に出やすい傾向があります(関連として【0995】もご参照ください)。この【1002】のケースでは、

生まれ育った家には、家庭内暴力や父の蒸発があったので問題があったと思っています

一度は蒸発したものの、結局愛人との生活も破綻して、行くところが無く帰ってきた父親の家庭内暴力がひどかった頃で、意識的に 「こうだったらいいのになあ」と想像したり本を読んだりすることで、 現実逃避していた部分もあったんですが。。。

このような過去の体験と、現在の症状の関連が疑われるところです。
そして、ここには書かれていない虐待、あるいはあなた自身の記憶にもない虐待があった可能性も否定できないと思います。
上記の家庭的な問題が、殊更つらかったこととしてではなく、どちらかというとさらっと書かれていることが、実はかえってとても苦しい体験だったことを暗示していると読むことも出来ます。もちろんこれは深読みのしすぎかもしれません。しかし深読みしすぎのついでにもう一ついいますと、あなたの診断の躁うつ病についても見直す必要があるかもしれません。そもそも躁うつ病の症状が何ひとつ書かれていませんので判断はできないのですが、解離性障害の方にありがちな気分の波が躁うつとみなされている可能性も否定できないようにも思えます。

放っておく以外に、有効な対策があればご教示いただきたくお願いいたします。

あなたの病歴については不明な点も多いので何ともいえませんが、総合的にみて、あなたの健忘の治療はかなり困難だと思います。上にお書きした、幼少期の体験を掘り下げることが治療になる可能性はありますが、逆に悪化させる可能性もかなりあります。(たとえば、仮に幼少期の記憶の中に欠損している部分があった場合、それを復活させることは今の状態を悪化させる可能性も強いということです)
したがいまして、健忘によって実質的にお困りのことがない限りは、あえて治療に踏み切らないほうがいいと思います。逆に実害がかなり出て来るような場合には、信頼できる治療者による長期にわたる精神療法が必要になるでしょう。



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