精神科Q&A

【0988】退院してからも良いきざしがない母はうつ病か認知症か(【0961】の続き)


Q: 【0961】退院してからも良いきざしがない母で回答していただきましてありがとうございました。回答の中でご指摘いただきました情報不足の部分を補足させていただきます。

(1) 診断が正確に行われているのか

総合病院(神経精神科)に入院した際に、MRIなどほとんどの検査はしてもらいました。
結果は初老期うつ病+妄想と診断されました。(小さな梗塞があるが、年齢的なもので別に気にしなくて良いと)

退院前に認知症の検査をしました。(SPECT検査などではなく、質問形式のもの)
結果は、母親の経験・学力レベルより少し点数が足らない→軽い認知症にかかっているとのことでした。
母親は焦って、質問に答えるような状態ではなかったのですが…。

余談になりますが、前から、このまま病院にいても刺激がなく、病状は横ばいで劇的には良くならないと退院を勧められていました。
当時母親は62歳で介護保険を申請できる年齢ではありませんでした。
しかし認知症と診断されれば申請ができます。
「認知症→介護保険の認定→退院しても看病がちょっとは楽になる」というような事で先生が誘導してくれたような気がします。

そういう経緯もあったので、前回の質問で、認知症を併発する可能性はあるのでしょうか?とお尋ねしてしまいました。


(2) 適切な薬物療法が行われているのか

最初のうちは何回か薬がかわりましたが、最終的には三環系の薬が効果が認められるということでした。

・2004.5(入院)〜
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール25mg×1錠
レキソタン2mg×1錠
ピーゼットシー糖衣錠4mg×1錠
酸化マグネシウム1g×1袋
(就寝前)
トリプタノール25mg×2錠
マイスリー10mg×1錠

・2005.3(退院)

・2005.6〜
家でふらふらしてよく転倒したので、先生に相談すると薬が少しかわりました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール25mg×1錠
デパス1mg×1錠
ピーゼットシー糖衣錠4mg×1錠
酸化マグネシウム1g×1袋
(就寝前)
トリプタノール25mg×1錠
マイスリー10mg×1錠

・2005.7〜
のどの詰まり感を訴えて食事をしなくなったので、先生に相談すると薬が少しかわりました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール25mg×1錠
デパス1mg×1錠
ピーゼットシー糖衣錠4mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム1g×1袋
エンシュア・H250ml×2缶/1日
(就寝前)
トリプタノール25mg×2錠
マイスリー10mg×1錠

・2005.8〜
新しく替わった先生より薬を少し変えてみますと言われました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール25mg×1錠
デパス1mg×1錠
セロクエル25mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム0.5g×1袋
エンシュア・H250ml×2缶/1日
(就寝前)
トリプタノール25mg×2錠
マイスリー10mg×1錠

・2005.9〜
きつい薬を少し減らしますと言われました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール10mg×1錠
デパス1mg×1錠
セロクエル25mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム0.5g×1袋
エンシュア・H250ml×2缶/1日
(就寝前)
トリプタノール25mg×2錠
マイスリー10mg×1錠

・2005.10
食事ができるようになったので、エンシュア・Hをなくしました。

・2006.12〜
血圧が高いのでその薬を追加されました。就寝前のトリプタノールが1錠になりました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール10mg×1錠
デパス1mg×1錠
セロクエル25mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム0.5g×1袋
(就寝前)
トリプタノール25mg×1錠
マイスリー10mg×1錠
(朝食後)
アダラートCR10mg×1錠

・2006.1〜
血圧が高いのでその薬を追加されました。就寝前のトリプタノールがなくなりました。
(朝・昼・夕 各)
トリプタノール10mg×1錠
デパス1mg×1錠
セロクエル25mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム0.5g×1袋
(就寝前)
マイスリー10mg×1錠
(朝食後)
アダラートCR10mg×1錠
※週に2度ほど血圧の下が100を超えることがあります。

・2006.2〜
血圧が高いのが治らないので、薬の調整をされました。
(朝・昼・夕 各)
デパス1mg×1錠
セロクエル25mg×1錠
ドグマチール50mg×1錠
酸化マグネシウム0.5g×1袋
(就寝前)
マイスリー10mg×1錠
ノリトレン10mg×1錠
(朝食後)
アダラートCR20mg×1錠

現在、あいかわらず布団に入ったままです。
ヘルパーさんが来る1時間だけ、体操したり散歩に外出します。(終われば布団に直行です。)
挨拶や返事もほとんどしません。ただ、お菓子や果物をテーブルに置いておくと、誰もいない時に食べています。
意欲が出てきたのか、それとも本当にボケてきたのか。

うつ病なら時間がかかっても治してあげたい。
認知症にかかり始めているのなら、なんとか食い止めてあげたい。
長くなって申し訳ありません。よろしくお願いいたします。


: 状況を詳しくご連絡いただきありがとうございました。

(1) 診断が正確に行われているのか

総合病院(神経精神科)に入院した際に、MRIなどほとんどの検査はしてもらいました。
結果は初老期うつ病+妄想と診断されました。(小さな梗塞があるが、年齢的なもので別に気にしなくて良いと)


この結果からは、認知症よりうつ病の可能性の方が高いことは言うまでもないと思います。MRIなどの検査で問題がなく、そして現にうつ病と診断されているわけですから。
 ただし、決して確定的なことが言えるわけではなく、「うつ病の可能性の方が高い」という相対的な判断にとどまります。認知症の初期にはMRIなどの検査で異常が認められないことはよくあるからです。文面からするとSPECTは行われていないようですが、このような場合にはSPECTは是非行うべきです。MRIで異常が見られない時期にも、SPECTでは所見があることもしばしばあるからです。また、MRIなどほとんどの検査はしてもらいました と書かれていますが、「ほとんどの検査」の具体的な内容が本当は情報として必要です。「ほとんど」が何を指すかが重要だからです。

退院前に認知症の検査をしました。(SPECT検査などではなく、質問形式のもの)
結果は、母親の経験・学力レベルより少し点数が足らない→軽い認知症にかかっているとのことでした。
母親は焦って、質問に答えるような状態ではなかったのですが…。


この検査はこの【0988】のケースではほとんど意味がありません。うつ病の症状が出ている時期に質問形式の認知症の検査をすれば、成績は悪いのが普通だからです。ですから「少し点数が足らない」のは、うつ病の症状か、認知症の初期なのか、判断は不可能です。したがって、

母親の経験・学力レベルより少し点数が足らない→軽い認知症にかかっている

この判断は不合理です。もっとも、あなたが書かれているように、

当時母親は62歳で介護保険を申請できる年齢ではありませんでした。
しかし認知症と診断されれば申請ができます。
「認知症→介護保険の認定→退院しても看病がちょっとは楽になる」というような事で先生が誘導してくれたような気がします。


このような事情を先生が考えてくださって、あえて認知症と診断をつけられたのかもしれません。

(2) 適切な薬物療法が行われているのか

詳しく処方をお書きいただきありがとうございました。
年齢と症状からみて、ほぼ適切な薬物療法であると思います。
とはいっても、10ヶ月以上治療を続けて効果が出ていないわけですから、治療法の見直しが必要でしょう。
 もちろんそのためには確定診断が必要ではありますが、高齢の方ではうつ病と認知症の鑑別は難しいという一般論のとおり、このケースではどちらとも確定できません。が、現時点ではうつ病として治療を考えるべきでしょう。理由は二つあります。一つは上にお書きしたように、どちらかというとうつ病の可能性の方が高いこと。二つ目は、うつ病であれば治療による回復が期待でき、また仮に認知症であったとしても、うつ病の治療を行うことにより認知症が悪化することはまずあり得ないからです。
 この【0988】がうつ病であるとすると、これから検討すべき治療法は2つあります。
 一つはより強力な薬物療法です。
 けれども、これは副作用の危険が伴います。すでにふらつきなどの副作用が出ているようですので、さらに薬を強くすれば、それはもっと強くなるでしょう。そうなると転倒・骨折などの危険性が出てきます。それを最小限にするためには(ゼロには出来ませんが)、入院してから薬を強くすることが望ましいと思います。
 もう一つは電気けいれん療法です。
 【0865】などにお書きしたように、高齢の方のうつ病が長引いた場合、身体の衰弱も合併してきて、どんどん治療が困難になっていくことがあります。この【0988】のケースは身体的にはそれほど問題は出ていないようですが、今後、食事があまり摂れないなどの状況になった場合には、電気けいれん療法は必須であると私は考えます。(食事が摂れているうちは様子をみていていいという意味ではありません)

いずれにせよ、まずはうつ病であると考え、積極的な治療を試みるべきだと思います。


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